異世界食堂another またはエル君の異世界食堂メニュー制覇記   作:渋川雅史

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外伝2#女王と騎士、道行きの第一歩 後編

チリンチリン

「いらっしゃいませ、洋食のねこやへようこそ。」

「アレッタさんこんばんは、お久しぶりです。」

「キッドさんお久しぶりです!マスター!」

「おういらっしゃいキッド君。エル君達から事情は聞いていたが、そちらでも扉があったんだね?…という事はそちらの方はもしかして?…待てよ、確か一度…」

「はい、お久しぶりですご店主。」

 優雅にエレオノーラが一礼する。

「10年程前一度来店したエレオノーラ・ミランダ・クシェペルカです、あの時はお世話になりました。

 先代様がお亡くなりになった事はお聞きしました、謹んでお悔やみを申し上げます」

「ご丁寧な挨拶痛み入ります女王様、お国の事情はエル君達からお聞きしております。大変な中ようこそご来店下さいました、アレッタさんお席へご案内して」

「はい、こちらへどうぞ。すぐ冷水とメニューをお持ちいたします」

 席に着いた二人に早速冷水をアレッタが持って来た。続いてエル謹製フレメヴィーラ語訳付きメニューを持ってきた店主にキッドが質問する。

「今日エル達は来たんでしょうか?」

「いつもと同じくらいの時間にね。」

「やっぱり…さすがに時間を合わせるのは難しいな…」

「あのご店主、ウィルヘルム様はお亡くなりになったそうですが孫のアーデルハイド姫が来られているとお聞きしました、お会いしてお悔やみを申し上げるとともにあの方の事をお聞きしたいのですが…」

「アーデルハイドさんはやはり日暮れ前には帰る方ですから。」

「そうですか…」

「そう落胆せんでもよいよ」

「アルトリウスさん?」

「あなた様は…あの時もおられましたね?」

 残念そうな二人に笑顔でアルトリウスが声をかけた、

「この老人がその件については役にたてる。エルネスティ団長やアーデルハイド嬢にはわしから話を繋ごう。あの二人の使っている扉はあちらでの都合をつければ夜に来店できる場所にあるからな。」

「ありがとうございます!」

「私からもお礼を申し上げます。」

「礼には及ばんよエレオノーラ殿。思えば先代を知っている常連も少なくなってしまった。その頃の縁を忘れずに弔意を示してくれた事への返礼だ。」

 他人に喜んで礼を言ってもらえる…最近なかった経験にあたたかな思いの笑みを浮かべたエレオノーラの表情に胸が熱くなるキッドだったが彼には難問が立ちはだかる。

『何を注文すればいい?』

 自分だけならフライ盛り合わせやポークジンジャーが食べたい所なのだが精神的にリラックスして体調が回復基調とは言えエレオノーラに揚げ物や肉類は重過ぎる。さりとてお菓子類では体に力をつけるには物足りない…

「アーキッド様?」

 真剣なあるいは難しい顔のキッドにエレオノーラが怪訝な顔を向けるが本人は気付かない。

『考えろ、考えろアーキッド!美味いだけじゃなく重過ぎず、でもしっかりしていて、更にエレオノーラ様の心を弾ませてくれるような料理は?』

 今まで自分が食べただけでなく、ほかの常連たちの注文の記憶をめくっていたキッドはある常連の事を思い出した。その風貌になんだか似つかわしくないな…という感想を抱いていた人物(?)が常に注文している品を…

「アレッタさん、オムライスをお願いします!」

「承知しました。マスター、オムライス2人前注文はいりました!」

「了解!」

「アーキッド様?」

 少し驚いた顔のエレオノーラにキッドは『任せてください』という思いを込めて頷いた。

 

Menue-Z3:オムライス

「うわあ…なんて綺麗な!」

「でしょう!?」

 黄色い卵に赤いケチャップの鮮やかな色のコントラスト、そして甘酸っぱい香りにエレオノーラが目を輝かせる。その光景にキッドが心の中で『成功!よっしゃぁっ!』とガッツポーズをしたことは言うまでもない。

「で、でもアーキッド様、こんな綺麗なものをどうやって食べればよいのですか?」

「見ててくださいよエレオノーラ様!」

「!?」

 キッドは間髪入れずにスブーンでケチャップを全体に広げ塗った後、更に全体の1/4あたりにサク!とスプーンを入れた。

「ア、ア、アーキッド様っ!」

「ほら見てください。」

 叫ぶエレオノーラにキッドは笑いながら切り口を見せた、中にぎっしり詰まったこれまた真っ赤なチキンライスにエレオノーラは目と口を丸くして絶句する…そしてキッドに促されるままに彼が切り分けた部分を口にして…ほど良いケチャップの酸味・甘味・辛味のライスと中の鶏肉&タマネギの味とそれを包むふんわりとした卵の味に衝撃を受け…あとは言うまでもない。

「こ、こんな美味しいものがあったなんて!この中身の穀物は何なのですか?」

「ライスー米というこちらの国の主食だそうです、気に入っていただけましたか?」

「はい、もっと食べたいです!」

 目をキラキラさせるエレオノーラにキッドは笑顔で断言した

「駄目です。」

 エレオノーラがこけた。

「ア、 アーキッド様ぁ~!」

「今までほとんど食べていないのに大食いをすると危険です。エレオノーラ様は大事なお体なんですから気を付けないと…」

「誰の為に…ですか?」

 少し拗ねたようなエレオノーラの問いかけにキッドは顔を赤らめてしまう…そしてどきまぎしながら口を開いた。

「クシェペルカの邦民…それと俺の…為に。お願いします…」

「はい!」

「お熱いねえお二人さん!」

 満面の笑みをとともに頷くエレオノーラ、そこへ横合いからかかった野太い女声の方向に二人は目を向けた、声の主はオトラである。彼女だけではなくタツジがにんまり笑いながら、ロメオが笑顔で、ジュリエッタが頬を赤らめながらこちらを見ていた。流石に二人は赤面してしまう。

「今更照れるこたぁないだろぉ~」

「あの、お二人は恋仲なのですね?お似合いです…わ…」

「……」

 ここでジュリエッタは自分が口にした言葉を後悔した、二人の間に流れる微妙な雰囲気…女王とお付きの騎士…元人間で貴族の令嬢であった彼女はその意味する所をすぐ察する事ができたのだ。

「申し訳ありません、余計な事を申し上げてしまって」

「…いえ、お気になさらないでください…」

「かーっ!まったく人間てヤツは面倒くさいねぇ!」

「まったくだ、腹が減ったら人だろうが獣だろうが狩って食らう、惚れたら愛しあう、目障りなヤツは殺す、そして寝る。俺たち鬼(おうが)は気楽なもんさ。…おいおいそう引きなさんなよお二人さん」

「ここじゃそんなことはご法度なのはよく知ってるよ、入店拒否されたくはないしアルトリウスのダンナに退治されたくもないからねぇ~な、そうだろ吸血鬼のご両人?…おやそうか、あんたたちの世界には魔獣はうじゃうじゃいるが魔物はいなんだったね?」

「我々は人であれ獣であれ、その血を吸って生きる夜の眷属なのです」

 ここでロメオが自らの種族について語った。妙に顔色の悪い(青白い)二人の様子を疑問に思っていたキッドとエレオノーラは、特に吸血した者を自らの眷属とする事ができるという事に二人は衝撃を受けたのだった。

「で、ではジュリエッタさんは元人間だったんですね!?」

「でも人間である事を捨てた…ロメオさんとともに生きる為に…」

「はい」

 決然とした表情で手を取り合い、頷く吸血鬼の夫婦を呆然と見つめる二人。やがてエレオノーラがジュリエッタの手を取った。

「ジュリエッタさん、あなたは本当に重い決断をなさったのですね?尊敬しますわ、私にはできないことですから。」

「なんでだい?」

 オトラの質問にエレオノーラはしっかりとした、それでいてどこか寂し気な表情で答える

「私は女王ですから…私の女王としての最初の命令はジャロウデクとの開戦でした。

私は見たのです、見続けた。私の一声で軍勢が動き戦う有様を、敵味方の将兵たちが戦い、死んでいく光景―戦場を。すべて私の責なのです、私は一生あの光景から逃げることはできない、だからどれほど力及ばずとも立って前に進む事を決めたから…」

「俺は…俺にできることなんてそんなにないかもしれないけど、エレオノーラ様の役に立ちたい、いや立って見せる、そう誓いを立てたんです。」

「人それぞれの人生じゃのう…」

「全くです。」

 アルトリウスと店主がしみじみと呟いたのだった。

 

 手を繋いで見守るキッドとエレオノーラの前で扉が消えた、やがてキッドがエレオノーラの前に跪いた。

「アーキッド様、本当にありがとう。すごく元気が出ました!」

「お役に立ててうれしいです!」

 見つめ合う二人…やがてエレオノーラがキッドに手を差し出してキッドがその手を取る。そのままキッドは立ち上がり二人は口づける。触れるようなキスだったが思いは伝わった。

「アーキッド様、愛しております」

「愛してます、エレオノーラ様」

 ここで二人はくすりと笑いあった、そこで気恥ずかしさ半分でキッドが口を開く。

「そ、そうだ、早急にマルティナ様やイサドラ様、モデスト様を異世界食堂にお連れしないといけませんね?」

「ええ早急に!」

 今日は大過なく済んだが、夜な夜なこの二人が連れ立って何処かへ消えているなどということが噂になった日には『醜聞(スキャンダル)』となるのは必定である、そうなればキッドが色々な意味で危ないので、これを防ぐ為には実力者にあらかじめ話を通しておこうということ、微々たるものではあるがこの二人が政治人として成長しているという事だろう、よい傾向である。

 

 さて、それからは。

「…(絶句)」×3

「叔母様、これから私達は7日おきにこちらに来店しますのでご承知ください」

「僕たちもキッドと会いたいのでよろしくお願いします宰相閣下、内政総監閣下」

 まずエルやアディと久しぶりに再会し、マルティナ(宰相)&イサドラ(女王秘書官)&モデスト(内政総監)をシーフドフライ(カキフライ含む)と白ワインで丸め込み…

 

「オムライス ウマイ。アナタモサンセイシテクレル、ウレシイ」

「は、はい…その…今日はオムレツを注文してみようと思っています…」

「オムレツ ムラノミンナマッテル コレモウレシイ アナタモオイシイ シアワセニナッテホシイ」

「あ、ありがとうございます…」

 ガガンボと半分青くなったエレオノーラのオムライス&オムレツについての会話をキッド・エル・アディ他銀鳳の面々が半分苦笑しつつ暖かく見守ったり(笑)…

 

「エレオノーラ女王陛下、お会いできて光栄です。祖父への弔意にお礼申し上げます」

「私もお会いできて嬉しいですアーデルハイド殿下、どうか祖父様の事をお聞かせください。」

 チョコレートパフェを囲んで二人が故ウィルヘルムの事をしみじみと語り合ったり…とまあ面白くも幸せな日々をキッドとエレオノーラは過ごしていたのだが…

 

 その日の夜、エレオノーラとキッドはある決意を秘めて異世界食堂の扉をくぐった。

二人は珍しくそろってロースカツを注文して黙々と食べ、目で頷きあった後立ち上がるとそろってアルトリウスの席へと向かった。

「アルトリウス様、本日はお願いがあって参りました」

「ほう、どうやらお二人とも覚悟を決めたと見えるな?」

「お判りになりますか?」

「年の功というやつじゃよ」

「私は…ウィルヘルム様が教えてくださった事がようやくわかりました…日々の重圧に立ち向うための幸せとはこんなところにあったんですね?それを教えてくださったアーキッド様を私は…愛しています!アーキッド様にこれからも私の一番傍にいてほしいのです!」

「俺も…エレオノーラ様を愛しています!エレオノーラ様の横にいたい!誰よりも近くに!俺の力の限りエレオノーラ様の幸せの為に尽くしたいんです!

 でも、こんなことを相談できる人は誰もいなくて…」

 マルティナはエレオノーラとキッドの想いを承知してはいるが立場上支援できないし、生粋のクシェペルカ人貴族層にとってはキッドの西方戦役における貢献を認めつつ(認めざるを得ない、ヴィーヴィルにとどめを刺したのは彼だ)フレメヴィーラ出の彼に対しては隔意がある。つまるところこの二人の恋は孤立無援なのである。それでもこの想いを貫きたい!そう決意した二人が助言を求めるべき相手を考え抜いた末の頼みであった。

 しばらく髭を撫でつつ考えていたアルトリウスがおもむろに口を開いた。

「王というのは国の中で最も孤独なものよ…故に邦民に思いをはせ、その孤独と不幸を慰める事ができる心を持ち、その力を用いることができる。エレオノーラ殿、あなたはよき王になれる資質がありそうじゃ…」

「では!」

「うむ、じゃがわしよりも適任者がおるぞ。おいヴィクトリア!」

 アルトリウスは公国の公式行事の絡みで珍しく来店が遅かったヴィクトリアに声をかける。一心不乱にプリンアラモードを食していた彼女が怪訝な表情で視線をアルトリウスに向けた。

「何?師匠。」

「事情は聴いておったろう?この若い二人に助言をしてやれ。」

「師匠、私が政(まつりごと)に関わらない事はあなたが一番よく知っているはず。」

「じゃが『観察』はしておるじゃろう?」

「う…」

 口調こそ砕けているが鋭いアルトリウスの切込みにヴィクトリアが珍しく言葉を詰まらせた。アルトリウスの言は止まらない

「魔法自体の研究はもとより、それが世にどのような影響を与えるかまで突き詰めるのがお前さんの性分…ありきたりではつまらないと言っておったのを忘れてはおらんぞ…公国の政に口こそ出さんがその動きを、言動を、横眼で睨みつつ思考実験を繰り返しておるのだろうが?いよいよ実験の好機がやってきたのに逃すつもりかな?」

「…師匠…相変わらず人を乗せるのが上手い」

「人生経験の差じゃよ。この点はまだお前に負けん…わしがくたばるその日その時まではな。」

 アルトリウスの見え透いてはいるが効果抜群の扇動にヴィクトリアは乗った。やれやれという表情とともに…彼女は二人をすい、と手招きする。

 招かれるままにヴィクトリアの前に座ったキッドとエレオノーラは戦慄を覚えた、彼女の纏う空気とその表情…それはすべてを言葉と論理とで切り刻み、本質を抉り出しにかかる非情なまでの分析・研究者、『魔女姫』のそれだった事を二人は後で思い知ることになる。

「さてエレオノーラ女王、あなたの国の現状とあなたとキッドの置かれた状況は、エルネスティ団長の話他である程度把握しているので私の質問にいくつか答えてほしい」

 二人が脂汗と冷や汗を交互にかくようなヴィクトリアの質問が終わった…

「まず指摘しておこう、あなたたちは大きな勘違いをしている。二人の身分の差はあなた方がお互いを伴侶とするための最大の問題ではない」

「ええっ!?」

「それはどういうことです!?」

「対応は難しくないという事」

 驚愕する二人に一切頓着することなくヴィクトリアの語りは続く

「要はキッド、あなたがエレオノーラ女王の伴侶にふさわしい身分になればいいだけの事。あなたが父方の血でつながっているセラーティ家というのはフレメヴィーラで大貴族の部類に入る家、養子縁組でその家の嫡出子となれば文句はないはず。」

「そ、それは…」

「無理です!前セラーティ侯の正妻も現当主もアーキッド様の事を!」

「その前正妻は嫉妬深くて虚栄心の強い女性、現当主も母の資質を受け継いでいるのでしょう?…実に『扱いやすい』…」

「!?」

 二人の背筋が凍った!ヴィクトリアの笑顔―絶対零度の軽蔑と嘲弄を含んだ冷笑に!

「要はその虚栄を満足させてやればいい。一国、それも大国の王配の義母&義兄になれるという『エサ』を投げ与えてやるという形で…そういう人間はエサさえ旨ければ他の事など顧みない、たとえそれが乱杭の植わった落とし穴の上に置かれていたとしても…」

「最も心配しなくてはならないのはあなた方が結ばれた後の事、おそらく数年後には何らかの形で惹起するクシェペルカ人貴族や官僚達の反抗…今のクシェペルカはフレメヴィーラの影響が強すぎる。宰相はフレメヴィーラの王族、侵略者を退けた中核はフレメヴィーラからの援軍、その上王配がフレメヴィーラの貴族…いまは侵略者を退けた余波が効いているが年月が経つうちに必ず譜代の者たちの不満と反感が持ち上がる。

さらに論功行賞の不満が必ずこれに絡む、中央護府に従った者のペナルティに対する不満とあなたに従って戦った者の不満―功に見合った恩賞がなかった、あるいは中央護府に従った者に比して蔑ろにされているという不満が…」

「そんな!叔母さまもモデスト卿もそういった不満が出ないようにされて…」

「どれほど注意と配慮を払おうとこういう不満が生じるのは絶対に避けられない。そういう不満のターゲットは間違いなくキッド、あなたになる。事実はどうあれ『君側の奸』と呼ばれて…この件を上手く裁かねば起こるのは間違いなく内乱かクーデター…あなた達は必ず生木を裂くように引き離されて最悪キッドは処刑、エレオノーラ女王は傀儡として生かされるか退位させられて幽閉され、最終的には始末される」

 慄然としたヴィクトリアの未来予測に顔色をなくす二人!だがここでヴィクトリアはそんな二人に微笑んで見せた。

「譜代の者たちの不満には対処療法で臨むより仕方がない。でもその不満をキッドに向けさせない手段はある。」

「どんな手段ですか!?アーキッド様を守るためなら私はどんな手段でも講じます!」

「俺も!エレオノーラ様の足を引っ張らずに済む為なら何でも!」

ここで二人は息を呑んだ、ヴィクトリアの冷たく厳しい眼光に…

「『なんでも』と言った…その言葉に嘘はない?」

ヴィクトリアの視線に気おされつつ二人は頷いた、しっかりと手を握り合って…

「では覚悟を示しなさい、あなたたちが結ばれる事によって生じる危機に対抗するためにありとあらゆるものを『利用』して事に当たる覚悟を!」

 高山の吹雪以上に厳しく鋭い言葉の鞭が飛ぶ。二人は身じろぎもできずただ握り合う手に力を込めた!

「要はキッド、あなたが完全にクシェペルカ側の人間である事を譜代の者たちに示せばいい。ここであなたの義母と義兄の存在が役に立つ」

「?」

「これは主役を嵌める為の大芝居。適当な時期に二人あるいはどちらかでもよい、クシェペルカに招き入れた上で挑発してあなたあるいはエレオノーラ女王に無礼を働かせる、その事をもって彼女あるいは彼を抑留する…あなたが実家ではなくエレオノーラ女王に、クシェペルカ王国にこそ忠誠を示す王配であると国内に示す。二人はそのための『贄』」

「!?」

「そ…そんな!?」

「これが芝居であることはエルネスティ団長やエムリス王子あたりに『ここで』話を通して協力してもらえばいい。現当主がそういう人物であればフレメヴィーラの現国王もクシェペルカとの関係を秤にかけさせてこちら側に引き込む事は難しくない。

 さすがに命まで奪わない、フレメヴィーラ側の顔が立たないから。でも彼および彼女の政治的生命を抹殺することは必要、報復心すら抱くことのできないほど徹底的に。

クシェペルカの生命刑―死刑以外の刑罰は?…ちょうどいい、犯罪者の印として耳鼻を削ぎ、額に刺青を入れる刑があるならそうしてやればいい。そのあと憤死するなり自殺でもしてくれれば手間と問題が省けて助かる」

「…セラーティ家はどうなります?」

「あなたの父を復帰させ、いずれは義姉の子を養子に迎えるという形で存続させるよう取り計らうようフレメヴィーラの現王に働きかければいい…副産物だがあなた自身の復讐もこれで完成する。

 ああそうだ、いつも通りプリンアラモード4つ持ち帰りで」

「はい承りました!」

 そして何事もなかったかのようにプリンアラモードにとりかかり、アレッタに持ち帰りを注文するヴィクトリアに対し、さっきまで蒼白だった顔を真っ赤にしたエレオノーラが噛みついた!

「な、何もかも計算づくで運ぶのですか!?」

「『覚悟』とはそういう事。それがあなた方が踏み出し、生きる政治の世界…やらないのはあなた達の選択だがそうなれば再びクシェペルカは戦場となる、しかも同国民同士の」

 『戦場』の言葉にエレオノーラはわっ!と顔を覆ってしまった。

「それが運命…なのですか?」

「そんな運命なんて!?」

「運命は避けることも誤魔化す事もできない。どれほどの努力も手練手管も通用しないー人為の及ばない『壁』、それを人は運命と呼ぶ。運命とはそう呼ばざるを得ない物の事。変えられる物など運命ではない…だが人は変えられるものと変えられないものの境界を知ることはできない。自らの人生で試行錯誤していくしかない…誤った時の屍山血河を引き受ける覚悟があるならやってみるといい」

 ヴィクトリアの冷酷な託宣に顔を伏せ、歯を食いしばって苦悶していたキッドが決然と顔を上げる。そしてしっかりとエレオノーラの両手を握った!

「わかりました…やりましょうエレオノーラ様!そうなったときはあなただけに手は汚させません!」

「アーキッド…様…」

 

 キッドとエレオノーラを見送ったヴィクトリアとアルトリウスの会話は…

「羨ましい…」

「何がじゃね?」

「『取り換え子』の私には誰かと結ばれるという選択はあり得ないから…幸せになって欲しい。」

「そうじゃったな、真の運命の手ごわさを知っておるお前さんの忠告じゃ、きっとあの二人もわかってくれよう」

 

 ヴィクトリアの策を二人が発動させるのはこの後×年後の事である。それが正しかったのか否か確かめる術はどこにも存在しない。

 




 いかがだったでしょうか。今回はいささか苦い終わり方になりました。
これが「風の谷のナ〇シカ」のク〇ャナ殿下の言うところの「血塗られた道」を歩んでいく二人の道行きの第一歩です。

ヴィクトリアがあんな忠告はしないだろうとのご批判は承知の上、私がどうしても
「田村ゆかりVS田村ゆかり」がやりたくて書き上げました。ご容赦のほどを(^;

次回は
一飯の功徳、剣鬼へ

言わずと知れたあの人が来店します

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