ISと髑髏   作:ビッグ・アス

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鈍感と髑髏

空港というのは騒がしいところだ。

様々な言語が入り混じれ、ついでにアナウンスもある。

別れを惜しむ者や再開を喜ぶ者。 挙げ連ねるには様々な人種が空港にはいる。

しかし、小官はその中でも異端であろう。

たった一人でいるスキンヘッドにサングラスの男。 たった一人だろうがスキンヘッドだろうがサングラスを掛けていようが空港では目立たないが、もう一つの特徴が小官を目立たせていた。

そう、異常に血色の悪い肌色をしているのだ。

 

これはスカルズ全体の特徴だ。 まず、スカルズというのは体内に寄生虫を飼うことで人間を超える力を手に入れた生体兵器を指す。 そのスカルズには基本的に頭髪が無く、戦闘時以外瞳には色がなく、そして血色の悪い肌色をしている。

どんな色をしているのか、と聞かれると非常に答えにくい。 肌色と水色を混ぜた色だろうか? それとも灰色に少し青を足した色だろうか。 まあ、そこはご想像にお任せしよう。

 

スキンヘッドなぞザラにいるし、目はサングラスで隠せる。 しかし体色だけはどうにもできないのだ。

厚手のコートを着てフードを被ってしまうと、呼吸の五、六割を皮膚呼吸で行なっている小官はまるでマラソンを走っているかのような状態になる。 いや、小官はたとえフルマラソンを1ダース分走ろうが息は切れないし速度が落ちることもないが。

 

「お兄さん、すみません! お土産売ってるところってどこかわかりませんか!?」

 

さて、目の前のこの日本語で話しかけてくる荷物を背負った金髪の少女に対し、小官は反応すべきか否か。

いや、反応はすべきなのだろうが、あいにく小官は土産を売っている場所など知らない。 特に時間がないわけではないが出来るだけ目的地には早く到着したい。

 

「えー、と、あと… きゃ、Can you speak English?」

 

どもりながらも見事な発音で話しかけてくる少女。

おそらく英国圏の人間なのだろう。

 

「…日本語でも大丈夫ですが、英語とどちらがいいですか?」

 

「あ! やった! 通じた! 日本語でお願いします!」

 

「わかりました。」

 

多分見た目からして同年代だろうが、向こうが敬語を使うのならばこちらもそれで返した方がいいだろう。

 

「土産物の売り場ですか。 すみません、ちょっとわからないです。」

 

「あ、そうですか… すいません、ありがとうございます。 …どうしようかな、早く買わないとなのに…」

 

「なぜそんなにお急ぎで? この後すぐに出発でもするんですか?」

 

「あ、いえ、そうじゃ無くて… アメリカの友人にお土産を送って欲しいと言われたんです。 それで空港のお土産は人気ですぐに売り切れてしまうと聞いたので…」

 

不安そうに下を向く少女。

…そんなに人気なのだろうか。 さすがJapanese MIYAGE…

いや、さすがにそれはないだろう。

…気になるな。

 

「では一緒に探しますか。 小官も日本の土産に興味が出てきました。」

 

「え? ほんとですか!? ありがとうございます… あの、お名前は?」

 

「パラズィート・クワイエットです。 あなたは?」

 

「ティナ・ハミルトンです!」

 

 

「売り切れてなくてよかったですね。」

 

「はい! いやぁ… 大量です! …パラズィートさんの方が多く買ってますけど。」

 

土産売り場を見つけて、菓子類を買い込んだ小官たちは空港のベンチに腰掛けて、大量に買った土産達を鞄に押し込んでいた。

 

「特にお金を使う機会がなくて、貯金だけがたまっていくもので…」

 

「仕事は何をやっているんですか?」

 

「ああ、ドイツで軍人やってまして。 今回日本に来たのもその軍関係の仕事の為でしてね。」

 

「へえ、軍人さんですか!?」

 

大きく驚いてみせるティナさん。

…ああ、ラフに話せる相手がボーデヴィッヒ少佐だけだったからなぁ… 普通の人と話すのってこんなに楽なのか…

 

「ティナさんは何のために日本まで?」

 

「あ、実は私IS学園に入学するんです! 日本語の勉強もそのために頑張ってまして、おかしいところはありませんか?」

 

「問題ありませんよ。 だから今も日本語で?」

 

「あ、はい。 そうです。 パラズィートさんも日本語お上手ですね。」

 

「ハハ、職業柄日本語が必要になる場面もあるので。 ISが出て来てから必死に勉強したんですよ。」

 

先程から会話に出てくるIS、それは現行最強の兵器である… と小官は捉えている。

実際には競技用の機械だ。 日本人の科学者によって作られたマルチフォーム・スーツ。 元は宇宙空間での活動を想定してのものだが、兵器に転用したらとてつもない力を持つことが認められ、世界は大いにモメて最終的には競技に落ち着いた。

因みにこのIS、女性にしか動かせない。

圧倒的な戦闘力を持つISが女性にしか動かせないとなると、男女のパワーバランスが崩れ、現在は女尊男卑が世界の基本となりつつある。

 

「やっぱり軍人さんとなるとISを見る機会もあるんですか?」

 

「ああ、いろいろありますね。 特に開発中の… すみません、ここから先は機密でして。」

 

「中途半端に言うなんて気になりますよ… ですがまあ、機密なら仕方ないですか… あ、ひよ子美味しい。 ところで、仕事のために日本に来たと言ってましたけど、どんな仕事で?」

 

「ああ、ちょっとした要人警護でしてね。 申し訳ないですけど、これも詳細は機密です。」

 

「ふっふっふ、当ててあげましょう。」

 

腰に手を当てながら笑ったティナさんは、次に頭に手を当てて少し唸る。

 

「あ、あれですか。 織斑一夏の…」

 

「…ご明察、です。 IS学園の生徒さんですからいずれかは話しますし、今話しても大丈夫ですね。 少し声は潜めてもらいますが。」

 

「うっそ!? 当たった? もしかしてパラズィートさんすごい人?」

 

「…一応、大佐やってます。」

 

「凄い人だ!」

 

ひよ子を取り落としそうになりながら驚くティナさん。

…長らくやってて間隔麻痺してたけど、大佐って結構上かぁ… 道理で給料もデカいわけだ。

 

「それにしても、よくこんな奴に話しかけましたね。」

 

「ん? 何でですか?」

 

「いえ、よくティナさん程の年頃の女の子が、こんな怪しい肌色にサングラスしたスキンヘッドに話しかけられたな、と。」

 

「いやぁ、藁にもすがりたい気持ちでして… ところで何でそんな肌色なのか聞いてもいいですか? できればサングラスをなぜしているのかも。」

 

五つ目のひよ子を取り出しながら言うティナさん。

この子食いすぎじゃない?

 

「小官、実は生体兵器でして… 肌色は副作用、サングラスの下は常に白目なんですよ。」

 

「…え?」

 

「って言うジョークを言うためのサングラスです。 肌色は生まれつきでして。」

 

「なぁんだ! 騙されかけましたよ! いつも真面目な人がジョークを言うと本気か嘘かわからなくなるのって本当なんですね! …ところで、年齢を聞いてもいいですか?」

 

「ああ、それでしたら多分ティナさんと同年代ですよ。 五日後に16歳になります。」

 

「嘘!? 25位かと… あ、じゃあタメ口でもいい?」

 

「構いませんよ。 小官もいつもの口調でも?」

 

「いいよ。」

 

ティナさんが笑顔でサムズアップしたときに、小官は自分の腕時計に視線がいった。

そろそろ出た方がいい時間だ。

 

「ではティナさん。 小官はこれにて失礼する。 今度はIS学園で会うことになると推測する。」

 

「…わぁ! なんか古風でカッコいい!」

 

「…アメリカ人がサムライや忍者が好き、と言うのは本当らしいな。 では、また。」

 

♦︎

 

小官はある民家の前で立っていた。

織斑、と表札にある。 それは小官の恩師の名であり、同時に警護対象の名でもある。

表札の下にあるインターホンのボタンを押す。

 

『はい。』

 

インターホンの向こうから聞こえて来た声。

男のものだ。 おそらくこれが警護対象のものだろう。

 

「小官の名はパラズィート・クワイエット。 織斑一夏の警護の為ドイツから来た。 貴公が織斑一夏と推測する。」

 

『あ、はい。 そうです。 今開けますんでちょっと待ってくださいね。』

 

インターホンの音声が切れ、少しして玄関の戸が開いた。

中にいたのは同年代程の好少年。

 

「どうも、パラズィートさん。 織斑一夏です。」

 

「どうも。 小官は貴公と同年代の為、警護を使わないことを推奨する。」

 

「あ、じゃあよろしく。 パラズィート!」

 

「よろしく頼む。 織斑一夏。」

 

織斑教官から聞いた通り、快活そうな男だ。

織斑一夏は小官を家の中に招き入れて机に座らせると、茶を持って来た。

 

「口に合うかはわかんないけど。」

 

「問題ない。 緑茶は好物だ。」

 

机の上に置かれた湯呑みを取り、中の緑茶を口に含む。

…うん、美味だ。

 

「お茶菓子いるか?」

 

「…いや、不要だ。 そうだ、空港で幾つか土産を買って来た。」

 

バッグの中から土産を出して机の上に並べる。

 

「うお! かなり買ったな!」

 

「なに、世界で一人のISを動かせる男と、小官の恩師とお会いするのだ。 これでも足りまい。」

 

「いや、十分だよ! …にしても、そうかぁ… 世界で一人…」

 

妙に語気が弱くなる織斑一夏。

彼は男の身にしてISを動かした貴重な人材だ。

彼がISを起動したことに起因して、世界各地で男性のIS起動試験が行われているが、二人目が現れたと言う報告は未だに上がっていない。

おそらく、彼が世界で一人だけのISを動かせる男なのだ。

 

「孤独感を感じることはない。 寧ろ貴公は胸を張っているべきだ。」

 

「なんでだ?」

 

「女尊男卑の風潮を崩すための光と、貴公は多くの男にそう捉えられている。 女尊男卑の風潮を嫌うのならば、織斑一夏、貴公はそういるべきだと小官は推測し、推奨する。」

 

「…胸を張って、か。」

 

事実、彼をそのように捉えている人物は多々いる。

 

「勿論、それに値する行動は取らねばならなくなるが。」

 

「…そうだよなぁ… ああ、荷が重い… ところでパラズィート、その口調って素なのか?」

 

織斑一夏はガックリと肩を落とした後、顔を上げて疑問を口にした。

 

「その通りだ。 小官は生まれついてより軍属の為、このような口調が染み付いてしまった。 堅苦しいと言うのなら変えよう。」

 

「変える必要はないけど、俺のことは一夏って呼んでくれないか? 織斑一夏じゃ長いしむず痒い。」

 

「…了承した。 …教官がお帰りになったようだな。」

 

挨拶をするために立ち上がる、その次に玄関の鍵が開く音がした。

 

「………………………」

 

「お、おい。 パラズィート?」

 

「静かに。 教官がなにを仕掛けてくるか…」

 

身構えた瞬間、ドアが開いてその向こうから黒のレディーススーツを着た女性が走ってくる。

間違いない、教官だ。

 

「フンッ!」

 

「ガァァ!」

 

教官の繰り出した右の正拳突きを左手の甲で弾き、受け流す。

同時に、懐に潜り込んで来た教官に右足で膝蹴りを繰り出す。

 

「セイッ!」

 

「ッ!」

 

教官はそれに反応し、膝を左手一本で受け止め、小官の鳩尾に頭突きを叩き込む。

人体の急所への攻撃に、少し怯みながらも懐にいる教官を左右の手でガッチリと捕らえ、弧を描くように斜め後ろの地面に叩きつけた。

 

-ダァン!

 

途轍もない音、しかしこれは受け身をとった証だ。

実際、地面にぶつかった後数度転がって起き上がった教官には、傷はおろか痛みすら感じない。

 

「腕を上げたな、パラズィートよ。」

 

「そちらも、上々のようで何よりです。 織斑教官。」

 

「教官呼びはやめろ、私はすでに貴様らの教官では… ないッ!」

 

ノーモーションから繰り出される右足での上段回し蹴りを懐に潜り込んで避け、左腕での肘打ちを腹に向けて放つ。

それを察知した教官がわざと体制を崩すことで肘打ちを避け、同時に蹴りによって振り上げていた足を小官の首に巻きつける。

そしてそのまま倒れこみ、小官の頭を地面に叩きつけようとするが、左手を床について防ぎ、残った右手で力任せに教官を引き剥がす。

 

そしてそのまま投げ技を放とうとしたときに、小官と教官の間に一夏が入り込んだ。

 

「ストップ!! やるんなら頼むから家の外でやってくれ!」

 

「「…あ。」」


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