初めましての方は初めまして。suryu-と申します。いつも見てくださる方はありがとうございます。
今回書いているものは異色なものながらありそうで無かったものにございます。
ゆっくり御覧になられることを、心待ちにしております。それではどうぞお楽しみください!
「どうしたものかしら、ね」
紅魔館の主。レミリア・スカーレットには悩みがある。
というのも、だ。自分の館には門番が居るものの、その門番という役目があるというのに昼寝をしてしまうのだ。とはいえ、持ち前の気を操る程度の能力を使ってギリギリで目を覚ますもののやはり門を突破されてしまう。まあ、低級妖怪等にはそんな事は無いのだが。
とはいえ、だ。人……ではないが、妖怪として一回り程成長して欲しいとは思ってしまうのは悪くないのだろうとメイドが出した紅茶を飲みながらゆっくりと思考する。
ただ、こんな事を考えているとそろそろあの女が来る頃ではなかろうか。と思った矢先にその彼女は空間の裂け目を作り出しそこから現れた。
「お困りかしら。紅魔の吸血鬼さん」
「予想通り来たわね。八雲紫」
八雲紫。幻想郷を管理する一人。正しくは、人間ではなく境界を操るスキマ妖怪と呼ばれる存在だ。
最も。スキマ妖怪というのは周りが付けた通称であり彼女以外に同じ力を持つ存在は誰も見たことがないのだが。
そんな彼女が何をしに来たか。レミリアは大体の予想が出来ている。故に溜め息を吐かずにはいられなかった。
「もしかして、現代にでも送る気かしら?」
「大正解。まあ、そうすれば少しは変わるんじゃないかしら?」
「まあ、貴女の言う事だし意味はあるんじゃないかとは思うけれども」
このスキマ妖怪は覚り妖怪でもないのに心を見透かしたような発言をする事から、胡散臭いというような気もするのだが、毎回彼女の言うことには一理ある故にどうにも拒む気にもならない。そんな相手だ。
ともあれ、スキマ妖怪。八雲紫についてはさておき現代に門番を移すという事には、自分も考えていた事から良い案だと認める。
門番には悪いがその方が面白そうだとも笑みを浮かべる。が、ふとそこで思った。
「あの美鈴が現代で一人で暮らせるのかしらね」
これである。現代は幻想郷とは勝手が違うということから門番一人では暮らせないのだ。
ああ、なんて素晴らしい案なのにそこが。そこだけが! と、大仰に残念がるが、紫はほくそ笑む。
「あらあら、何も一人ではありませんわ。現代の青年に任せるの」
「あら! それはなんて楽しそうなのかしら……早速お願い出来るかしら?」
「ええ、勿論!」
今回ばかりは紫に完全同意すると早速寝ている門番に目を向ける。
『さぁ、これから楽しませてもらいましょうか』
楽しそうに笑みを浮かべながら冷めた紅茶を飲む事で、これから起きる事についての想像を膨らませてゆく。紅茶は冷めてもやけに美味しく感じた。
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「ふぁあ……今日もよく寝ました」
珍しく昼寝を早めに切り上げた件の門番。紅美鈴は、あくびと共に空を見る。今日も良い天気だな。と感想を漏らすと目の前がいきなり真っ暗になる。
「え?」
次に感じるのは浮遊感。そして宙に浮く感覚は消えず気づけば落ちているということは焦りを覚える。確かなことは今、落ちているという事実のみ。その状態で出来る事は一つ。
「なんでこうなるんですかぁぁぁあああ!?」
美鈴の悲痛な叫びは、誰の耳に入ることも無かった。
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「ふう、今日の授業も終わった。まあ、こんなものかな」
現代日本。とある高校にて勉強を終えた一人の青年はゆっくりと顔を上げると、鞄を手に持ち帰宅の準備を終える。すると彼の友人が目の前に居た。
その友人である女性を見るや彼は要件を理解して苦笑いを浮かべた。
「ああ、暁雨。今日は僕は修練の日だから遊べないんだ。ごめんね」
「あー。そうだったなぁ。久しぶりに仁も揃うから一緒に遊びたかったんだけど」
友人の暁雨との問答は遊べるかということなのだが、生憎青年はやる事がある。という訳で丁重に断ることにした。
友人である暁雨も納得してくれている事から、良かったなぁと内心で呟けば、でも。と付け加える事にする。
「ごめんね。でも、暁雨も修練を怠ったら駄目だよ」
「分かってるよぉ。シャオだって仁と特訓してるもん! じゃあお疲れ様。羽麗!」
暁雨との会話が終われば今度こそ帰ろうと、青年。羽麗は立ち上がる。そういえば今日の夕飯は何にしよう。帰るついでに買い物していこうか。等と有り触れた事を考えながら彼は帰宅を始めた。
帰り道、である。買い物も終わり帰路をのんびりと羽麗は歩く。今の時期は八月。暑さは相当なものだが羽麗は暑さを気にしない。汗はかくものの動じないのは、おそらく慣れている。からなのであろう。
さて。もうそろそろ家だな。今日はどんな修練をしようか。そんな事が脳内を過ぎる。彼の日課である修練とは彼自身を鍛え上げるもので、羽麗はそれを欠かすことがない。
そしてとうとう家へと着くと買い物袋片手に家の鍵を開ける。すると、ふと違和感に気付く。中に気配を感じるのだ。
「泥棒? それにしては鍛えられた気配だけど……」
とはいえ、だ。泥棒であれば見逃す訳にはいかない。気を整えるとその気配へと向かう。その場所は 関家道場 だった。
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「いたた……ここは何処でしょうか?」
あれから。というものの。美鈴は自分の能力を使い自分は今何処に居るのかという事を探るが、一向に答えは出てこない。
結論としては幻想郷ではないというものだろう。落ちた事や空気や気そのものが違うのだから世界すら違うと考えるのは至極当然だった。
「ッ!?」
その時だった。自分の感じたことのない人間の気。いや、正しくは幻想郷ではあまり感じることのないタイプの気配。まさしく、格闘家のそれだ。
強い気配は自分へと向かってくる。まるでここに居る事が分かっているかのように。単なる強さに惹かれて来た訳でないことも分かることから、自分はどれ程説明出来るかという部分にも不安を感じる。
と、そこで美鈴自身の中に熱い何かが滾る感覚を覚える。
「……格闘家、か」
自身の中にある想いについては答えは出ていた。紅魔館の門番となってしばらく、格闘で戦ったことはもうかなりの事無いということだ。
熱く滾る物は、自分の中の格闘欲。幻想郷では感じる事の無かった無用の長物と化していたもの。だが、それは今の体を迸っている。
「久々に、気分が高揚してきましたね」
恐らくは来るであろう相手に対して久方振りに拳を鳴らし、美鈴は扉を見据える。
その先から現れたのは、一人の青年。だが、見るからにワイシャツと制服のズボンに隠された身体は鍛えられており、顔立ちは爽やかな優しげ物ながら闘志に満ちている。
求めていたのはこれだ。言葉も発さずに構えをとると、青年は納得がいった顔をした。
「泥棒……ではありませんね。ですが関係ありません。貴女は私と戦いを求めている。ならば拳で語るまでです」
青年は律儀に構える。美鈴は気付く。その立ち姿と動きから
刹那、青年は動いた。彼は一瞬にして自分との距離を詰めてきたと美鈴が感じた頃には青年は飛んでまず左足での蹴り。そこから右足で美鈴を踏み台にするように飛び蹴りをした後に左足でかかと落とし。
紛うことなきの連撃に、美鈴は腕でガードをするがその一撃の重さを感じて驚く。
「人間なのにこれですか……っ!」
だが、やられたままでいないのは美鈴だ。上にかち上げるように掌底を繰り出すと、その手を青年は足で踏むように飛ぶ。
その次の着地を見越した美鈴は双掌打を打ち込むと青年は後ろに吹っ飛ぶ。が、すぐに体制を立て直し起き上がる。
そこからの動きも青年は速い。おそらくは縮地法を巧みに使っているのだと、美鈴は気づいた。
”この青年、只者ではない! ”
妖怪である自分が一人の人間に対等な戦いをされている。格闘家としても。
その事実は、胸に宿していた遠い記憶を思い出すのに十分。次の蹴りを放とうとした時には青年は不可思議な動きを始めた。回転。そのままソバットかと思った時には既に遅し。駒のように回転しながら行われる蹴りは足元を救うように熾烈に攻める。
「っ、これで……!?」
「シッ!」
飛んで躱した事で避けきったと美鈴は確信する。だが、その油断が隙を生んだ。回転からのアッパー。思わぬ一撃をくらうと、体が宙に浮かぶ感覚で自分の認識が甘かったと痛感する。
久しく格闘から離れていた為鍛錬が足りないなという自嘲は胸の奥に一度仕舞った。自然と顔には笑みが宿る。
「はッ!」
「なんの!」
美鈴は最初にみた跆拳道の構えから繰り出された上段蹴りに乗ると、足を踏み台にしてかかと落とし。あまり考えたくはないが体重を乗せた一撃に、青年は腕で受けきる。
”これで折れないんですか!? ”
骨が折れるかもしれない一撃を放ったはずなのに、青年の腕は折れるどころか強靭な肉体ががっしりと足を受け止める。
その次には構えが変わり空中で一回転するサマーソルトキックを繰り出した青年に、これは
「これほどの相手、久しぶりだからこそ胸踊ります!」
「それは光栄ですね!」
先程の跆拳道とはうってかわり、截拳道の拳の連撃は正に見事。美鈴も躱しながら太極拳というスタイルを変えることにする。
八極拳。美鈴が覚える武術の一つにそれはある。曰く、極めて近距離で行う武術流派で、人間ながらに大砲の威力。もしくは大爆発を起こすと言われるものだ。
それを妖怪の彼女が行うということは、莫大な力を生むという事になる。八極拳に構えを変えた事により青年が一時離れたのはその為だ。
その瞬間を彼女は見過ごすはずかない。震脚を最小限までに動作を簡略化したその踏み込みは縮地法に劣らず距離を詰める事が出来る。
それには青年も驚きを隠さない。だが、笑みも絶やさなかった。真っ向勝負を受けたのだ。
「せいやァ!」
「っ!」
その上で、彼女はしっかりと青年にもたれかかるかのように背中から体当たりをぶつける。その技を、人はこう呼ぶ。
「鉄山靠ッ!」
「っ!?」
その効力は防御を崩す事にあり、青年の固いガードを一気に崩壊させる事を成功させる。その先にさらに震脚で踏み込むと、次の一撃を叩き込む。
次は必殺の一撃。その名を身に刻ませる一打。
「頂肘!」
「ぐぅっ……!」
その威力たるや、正に述べた通りの爆発といっても過言ではない一撃に、青年も宙に吹き飛ぶ。美鈴もこれで決まったと信じた。
だが、青年は笑う。この状況であろうとも、笑みを絶やさないのだ。彼は空中で体制を立て直し着地すると、本気の技を使う事にする。
「行くぞッ!」
「!?」
美鈴は未だ技の反動で隙がある。そこに叩き込むのは体を反転して左足から繰り出される蹴り上げ。美鈴は宙に再び浮かび、彼は地を蹴るとかかと落としでたたき落とす。そこから中段ほどに浮かんだ美鈴に拳を的確に叩き込んだあと、足を大きく振りかぶる。
「ヒールエクスプロージョン!」
「痛ぅっ!?」
振り下ろされた足は美鈴の腹部にクリーンヒットする。さしもの美鈴はこればかりは効いたが、少ししたあと立ち上がった。やはり、妖怪で良かったと微笑む。
「いやぁ、降参です。ここまでやられたら流石に負けを認めます」
正直というものの、未だに闘志は尽きない。けれども、素直にこれだけの戦いができたことは嬉しかった。幻想郷ではこれほどの格闘戦は出来ない為に久しぶりの高揚感を得られた事にも感謝している。
青年は一礼すると、先程までの精悍な顔付きと打って変わって優しい笑顔を見せた。
「中々の手練ですね。道場破りかと思いましたが、拳を合わせて分かりました。貴女はお困りのようです。良ければ話してくれますか?」
「……いいんですか? 私を信じて」
美鈴は念のためにと青年に問いかけると「勿論です」と返してくる。
心はまだ戦いたいという欲望はあるが、今はこの場所について知る方が先だと認識すると、相手に向かって中国式の礼。胸の前で固めた右手の拳に左手の掌を添える。
「私は紅美鈴。一応門番をしております」
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「紅美鈴さん。ですね」
これ程の武道家なら、自分の耳には入って来るはずだ。と羽麗は考えるが、今はともかく相手の事情を聞く方が先決だと思うと羽麗自身も手と拳を合わせる。
「私は姓は関。名は羽。字は麗。関羽麗です。美鈴さん」
「関羽麗……どことなく彷彿させる人物が居ますが……」
羽麗が名乗ると女性。美鈴は何かを思い出しているように見えるが今そこは置いておく。
さて、と羽麗は美鈴を観察するとまず服装はチャイナドレスに星の付いた帽子。そして発達も良く健康的な肢体が目に入る。顔立ちもはっきり言うと美少女に値する部類だ。
だが、女性をあまり長く見ている事は失礼になると考えると話を切り出す事にする。
「美鈴さんは何処から来たんですか?」
「私、ですか。信じていただけるか分かりませんが、私は妖怪や神様等忘れ去られた物が辿り着く、幻想郷という場所にある紅魔館からやってきました。一応、私も妖怪なんですよね」
「……なるほど」
幻想郷。その単語に聞き覚えはある。知り合いや友人に見せてもらった文献にはそのような事が書いてあった為に理解は早い。
その後も幻想郷についての説明はされるものの、本当にそんな魔境はあったのだな。と羽麗は驚きと共に彼女の強さには納得した。
まさか幻想郷が実在するとはという事を考えるも、一旦それは隅に置きもう一つの疑問を相手に問いかける。
「貴女は住む所、あるんですか?」
「……ないですね」
案の定、やっぱりかということでやれやれといった様子で手振りをすると美鈴に微笑む。
「それでは、この家で暮らしませんか?」
「宜しいんですか!?」
美鈴からしてみれば驚愕でしかないのだろう。やはりというか得体の知れない妖怪である事は自覚しているらしい。と羽麗は様子で察すると、「困っている女性を放ってはおけませんから」と告げる。
すると美鈴は安堵した表情で「良かった……」と呟く。
その仕草には少しばかりドキッと反応してしまう羽麗は、視線をほんの少しだけずらした。何せ、大きな胸が揺れているのだから。
と、そこで美鈴は羽麗に少しばかり疑問を持った目を向ける。
「一つお聞きしたいのですが、貴方はもしかして関羽という武人の末裔では?」
その質問を投げかけられた羽麗は美鈴にそういえばと思い出して頷く。
「はい。僕は八十七代目関羽雲長です。よく分かりましたね」
「これでも今で言う中国出身なので。まさかそんな名家の方と出会えるとは……」
美鈴の言葉は確かに昔に覚えがあるため羽麗は苦笑いする。自分をその肩書きで見られるのはあまり慣れていないのだ。
ともかく、だ。何の因果か美鈴は目の前にいる。羽麗は優しく微笑んで美鈴の手を取った。
「何はともあれ、これから宜しくお願いしますね、美鈴さん」
「はい、羽麗さん!」
かくして、紅美鈴は現代入りしたのである。その胸に新たなる闘士を宿し、これから辿る道を知らないまま。