夏ももうすぐ終わり。まぁ、大学生だから9月過ぎても夏休みはあるわけだが。
だが、飛鳥はそうではない。9月1日から学校がある。1日は金曜で土曜はまた休みなんだから、休みにすりゃ良いのにな。
そんな事を考えながら、ソファーに寝転がって漫画を読んでいた。すると、そんな俺の上に飛鳥が飛び乗った。
「ふぉぐっ」
「兄貴!お祭り!お祭り行こう!」
「っ……な、なんだ急に」
「お祭り!暇だろう?友達と駅前で待ち合わせしてるから!」
「え、それでなんで俺を誘うの」
「だって出掛けるときは保護者が必要なんだろ」
「それは海とか遠出するときの話で、別に祭りくらいなら……」
「なんだよ、僕とお祭りに行くのは嫌か?」
「嫌なわけないだろ。百万円もらうより価値あるわ」
「っ、じ、じゃあ行くぞ」
「ああああ!自分で言っといて照れてる飛鳥キャワイィイいい‼︎」
「や、やめろ!抱き着くな……!いい加減にしろ‼︎」
「ゴフッ……み、見事なボディブロー……」
「準備して来る!」
はっ……相変わらず元気な妹よ………!そして、あの拳の威力も徐々に上がりつつあるな……。
しばらく悶えながらも何とか立ち上がり、俺も準備した。この前の高垣さんとのお出かけでただでさえ金がないってのに……。
まぁ、今日の祭りの費用なんてこの前に比べたら安いもんか。
「よし、兄貴行くぞ」
飛鳥が楽しそうに言って、俺は仕方なく後に続いた。
二人で外に出て、駅前に向かった。しかし、友達ってまたアイドルかなぁ。こんな、友達の友達感覚でアイドルの知り合いを増やして行っても良いのだろうか。世界中のファンに殺される気がする。
駅前に到着した。駅前には、すごく目立つ女の子がいた。このクソ暑い真夏にゴスロリ着た女の子、それと何故か高垣さんがいた。高垣さんは眼鏡を掛けて帽子を被って変装している。
「闇に飲まれよ、飛鳥!」
「おい、テメェ俺の飛鳥をブラックホールの深淵につき落とそうってのかコラ」
「兄貴、落ち着いて。あれは挨拶だから」
え?そ、そうなの?いい年こいて女の子に喧嘩売るとこだった。
ていうか、テメェとか言っちゃったし下手したら泣かしてしまったかも………。
「ブラックホールの、深淵………?」
全然泣いてなかった。目を輝かせてた。何この子、厨二病?
「あ、飛鳥!彼が⁉︎」
「そうさ、蘭子。彼が我が兄上であり、僕のセカイを支配しうる者」
「え?俺、飛鳥のこと支配してたの?」
「二宮くん、飛鳥ちゃんに何をしたの?」
「いやいや何もしてないですよ。ていうかなんでいるんですか?」
「蘭子ちゃんが飛鳥ちゃんとお兄さんとお祭りに行くって言うから、私も行きたくなったのよ」
つまり、飛鳥は俺に予定を聞く前から俺を連れて行く予定だったんだな。黒いなぁ、うちの妹。服装も。
しかし、少し残念だ。全員の浴衣姿が見たかった。みんな可愛いし。
「………あれ、保護者いるし、もう俺いらなくね?」
「あら、私は子供と同じなんでしょ?」
高垣さんがサラリと切り返した。それは確かに前に言ったが………。
「で、兄貴。彼女が僕の同志であり運命共同体の神崎蘭子」
「え、飛鳥の運命共同体って俺じゃなかったんだ………」
「ショック受けるとこそこ?」
いつの間にか隣に立っていた高垣さんがツッコミを入れて来たが、ショックのあまり反応できなかった。
「ま、まぁまぁ、二宮くん」
………慰めてくれるのか、高垣さん。相変わらず良い人だなぁ。まだ出会って数週間の人とは思えない。
「これを機に、
慰められてなかった。というか、アドバイスするにしても真面目な話する時くらいギャグを抑えられないんですかね……。
「………行きましょう」
俺は三人の子供を連れて祭りに向かった。なんか、今日も理不尽に疲れそうな気がして来たぜ………。
祭りの会場に到着し、祭りに入った。しかし、何というかアレだな。祭りってのはどこでも景色は変わらない。人がたくさんいて蒸し暑くて屋台の灯りと月光だけで夜を照らしている。
まぁ、今回は祭りだし、ぶっちゃけ保護者も必要ないだろう。スマホもあるし、逸れても大丈夫だろう。
だから、あまり気を入れる必要もないか。そう思ってふと前を見ると、飛鳥と神崎さんはいなくなっていた。
「………あれ?」
「二人なら、さっさと遊びに行っちゃったわよ」
「…………あの二人、仲良いんですか?」
「私の知る限りだと、飛鳥ちゃんと一番仲良いのは蘭子ちゃんなんじゃないかしら?」
「………つまり、好敵手というわけか」
「歳下の女の子を目の敵にしないの……情けない。それより、せっかく二人きりになったんだから、私達は私達で楽しみましょう?」
「じゃあ、サイゼでも行きますか?お酒も飲めるし飯も食えるしクーラー効いてるし」
「………本気で言ってるの?」
「ごめんなさい、冗談です」
「ほら、行きましょう」
「うん」
高垣さんは俺の手を握った。
「えっ……」
「私達まで逸れたら困るでしょ?」
「いやそしたら帰るだけなんで……ちょっ、痛い痛い手の骨砕ける力抜いてちょっ高垣さん?謝るから冗談ですから万力並みの力で握り締めないで」
精一杯謝ると、何とか力を緩めてくれた。あーでも、なんだこの状況、心臓がうるさい。心不全になる勢いで胸がバクバク言ってる。
何この人、恋人かっつの。
「なんか食べたいものある?」
向こうから声をかけてきた。食べたいものと言われてもなぁ。特にない、強いていうなら駅前の豚骨ラーメン。でもこれ言ったら怒られるし、無難な返しをしよう。
「いえ、特には。高垣さんの食べたいもので良いですよ」
「私はー……」
高垣さんは近くの屋台を見回した。焼きそばの屋台が見えた。
「焼きそばで」
「分かりました」
二人で焼きそばの屋台に並んだ。
「………あれ、屋台の焼きそばって食べたことないんですよね」
「あら、そうなんですか?」
「自分で作った方が美味いから」
「あ、う、うん。でも、こういうところで食べるのも美味しいのよ?」
そういうもんなのかね。外のクソ暑くて蚊が飛び交う中、素人の焼いた焼きそばを食べるんでしょ?絶対美味しくないわ。
そんなこんなで、順番になった。焼きそばを二人分買った。
「どっかベンチ探します?」
「食べながら歩きましょう」
「えぇ、食べ歩きってお行儀悪いし……」
「いいのよ、今日くらい」
お祭りってそういうもんなのか?まぁ、高垣さんがそう言うなら良いかな。
そんなわけで、焼きそばを啜りながら歩いた。………あっ、思ったより美味い。そんな感想が顔に出ていたのか、高垣さんはニヤリと微笑んだ。
「美味しいでしょ?」
「っ、は、はい。思ったより、青海苔が効いてて……」
青海苔の味が濃いがな……。まぉ、青海苔好きだから良いけど。
「あーなんか、ビール飲みたいわね」
「……祭りにビールなんてあるんですか?」
「さぁ?あるんじゃない?無かったらコンビニで買いましょう?」
「いや、ていうか高垣さん酒弱いんだから飲まないで下さいよ」
「………二宮くんが強過ぎるのよ」
この前、高垣さんをおぶって帰ったことを思い出してしまった。人の背中でグースカ寝やがったからなぁ。まぁ、悪い気はしないが。
「ていうか、俺って酒強かったんですね。この前、初めてあんなたくさん飲んだんで知らなかったです」
「あら、そうなの?」
「はい。大学ではあんま友達いませんから。一人だけいますけど」
「ふーん、意外」
「? 何がですか?」
「二宮くん、飛鳥ちゃんと似てカッコ良いし……」
「飛鳥がカッコ良いって言ってるんですか」
「あの子はカッコ可愛いでしょ」
「あ、そっか」
「だから、モテそうだけど」
「いやー、最初のうちは声かけられたり遊びに誘われたりしたんですけどね。『妹とデートしないと行けない』って断ったらなんかみんなさざ波のように引いて行って……」
「そりゃ引くわよ」
なんだよ、みんな自分の兄弟を愛せないのか?薄情な連中だな。
「まぁ、でも高垣さんは良い人ですよね。俺が妹好きでも全然引かないし。いや、引いてるかもしんないけど、なんやかんや話してくれるし」
「っ…!そ、そんな事ないわよ」
「あっ、ビール売ってる。飲みます?」
「…………飲む」
あれ、なんか怒った?気の所為だと思いたいが………。
「び、ビール買ってきますね」
なんか怖くて一瞬離れようとしたが、ギュッと手に力が入った。え、なんで高垣さん強く握るの。
「私も行くわよ」
「え、あ、そ、そうですか………」
な、なんだよ………。冷やしきゅうりの店にビールが売ってたので、焼きそばの蓋を閉じて、そこの前に移動して、オッさんに声を掛けた。
「すいません」
「おう。いらっしゃい。綺麗な彼女だな、男の方はお代倍な」
何言ってんだこいつ。ていうか料金倍冗談でしょ?
「………彼女?どこに?」
「あれ、カップルじゃないのかい?お二人さん」
「違いますよ。だからお代通常料金でお願いします」
「倍ってのは冗談だったんだが………」
と、思ったら、隣の高垣さんが俺の腕にしがみ付いた。ちょっ、控えめな胸が当たってる当たってる柔らかい良い匂い。
「いえ、私達カップルですので。冷やしきゅうり2本とビール二杯お願いします。彼の方は料金倍で構いませんので」
「えっ、ちょっ、高垣さん?何抜かしてんの?」
「ふふ、
「え、ダジャレで誤魔化そうとしてません?」
「はっはっはっ、姉ちゃん面白ぇなぁ。よし、姉ちゃんの分はタダだ!彼氏の方は倍だけどな!」
「いやそれ俺が奢っただけですよね」
「はいよ」
うん、問答無用ね。もう良いや。金を払って店から離れた。高垣さんは何故か俺の前を悠々と歩いている。
「………ちょっ、何言ってんですか。てか、高垣さん良いんですか?アイドルなのに………」
「変装してるから平気よ」
平気なら良いけど………。でもなんで彼女とか言っちゃうかな。お陰でちょっとドキッとしちゃったじゃん……。
「………あの、とりあえず座りましょう。両手にきゅうりにビールに焼きそばなんで、流石に座らないと……」
「………そうね」
会場は大きめの公園なので、遊具の置いてある方に屋台はない。座れて空いてそうな場所はそこしかないので、二人でそっちに向かった。
しかし、さっき彼女のフリされた事が未だに頭から離れない。そうか、俺と高垣さんって恋人同士に見えるのか………。
「っ………」
意識するとなんか恥ずかしいな。もしかしたら、俺の顔は赤くなっているかもしれない。
その時だった。ドンッと腰の辺りに小学生くらいの女の子がぶつかった。
「っ?」
「ひゃっ、ご、ごめんなさいっ」
俺の手元からビールが落ちた。バシャッと完全に溢れ、女の子の服にも掛かってしまった。
「あ、悪い」
「う〜……濡れちゃったぁ〜……」
金髪でツーサイドアップの女の子。俺はポケットからハンカチを取り出した。
「これで体拭きな。あげるから」
「えっ、良いの?」
「ああ」
すると、遠くから「莉嘉〜!」という声が聞こえた。それに女の子は「はぁ〜い!」と答えると、ハンカチで体を拭きながら言った。
「ありがと!お兄ちゃん!」
「俺を兄と呼んでいいのは飛鳥だけだから」
「じゃあね!」
女の子は声のする方に走り去った。さて、とりあえずビールは諦めるか。
「二宮くん、何してるの?」
先を歩いていた高垣さんが戻ってきた。
「あ、いえ」
「女の子でもナンパしてたの?」
「そんなわけないでしょ。とりあえず、空いてるとこ行きましょう」
遊具の方に向かった。
ようやく人混みを抜けて、ブランコに座った。食い掛けの焼きそばの蓋を開いて、割り箸を割った。
「じゃ、食べましょうか」
高垣さんが言うと、俺は頷いてきゅうりを飾った。
「んっ、まだ割と冷たいなきゅうり……」
「
「………あ、あははっ。どこに詰めるんですか」
「口でしょう」
それは詰めるって言うのか………?いや、まぁ大きく捉えれば詰める、なんだろうけど………。いや、気にしたら負けだ。
続いて、焼きそばを啜った。うん、やっぱ青海苔美味い。ていうか、焼きそば自体は普通だわ。青海苔が美味い。
「………それにしても、お祭りねぇ」
「あーうん。祭りですね」
「お祭りで飲むお酒も美味しいわね」
「ほんとに好きですね、酒」
「あら、二宮くんは好きじゃないの?」
「んー……普通ですね。正直、飲もうって誘われないと飲まないです」
「私が大学生の頃は、よく飲み歩いてたけどなぁ」
「よく変わり者って言われますからね。他の人と価値観が違うみたいで………」
「それはそうね」
そこは否定しろよ………。
「別に人と変わってる事が、間違った事じゃないでしょう?」
「いや、社会で必要なのは協調性ですからね……。出る杭は打たれるって言いますし」
「でも、私は二宮くんの変わってる部分、好きですよ?」
「ーっ」
この人はなんでそう言うことを平気で………!ただでさえ、さっきカップルとか言われて心臓がうるさいってのに………!
「ま、たまにムカつくけど」
ああ、まだその方が良いわ。心臓に良い。ただし、心に悪い。
そんな事を思ってると、「あれっ?」と高垣さんが声を漏らした。
「? なんですか?」
「二宮くん、ビールは?」
「あー、さっき落としました」
「落としたの?」
「はい。女の子とぶつかって」
「ふーん……。女の子と?」
「はい。多分、小学生くらい?飛鳥よりも歳下の」
「あら、大丈夫だったのその子?」
「はい。ビール服に掛かったからハンカチあげました」
「あ、あげちゃったの?」
「だってあの子、誰かに呼ばれたから早く行かせてあげないとって思って」
本当は高垣さんが先に行っちゃってたからだけど、それ悪く捉えれば高垣さんの所為って事になる。
「じゃ、私のあげる」
「………へっ?」
「いいでしょ?これ、二宮くんのお金だし」
「や、でも………」
「何?」
くっ、いい歳して間接キスで照れてる場合か!童貞の弊害が大きいが……いや、高垣さんは全然気にしてないっぽいし、いっか。
「ありがとうございます……」
いただいて、ビールを飲んだ。おお、ドルルルァ〜イの味がする。美味っ。
「あ、今の間接キスね」
「ボッフォ‼︎」
噴き出した。こ、この女は本当に………‼︎
「ふふ、照れてるの?」
ニヤニヤ笑いながら、俺の手からビールをとって飲み始めた。
心底ムカついたが、俺は優しいので、この人の耳が赤くなってる事は黙っておこう。
ちなみに、飛鳥の事を完全に忘れていて、後で怒られたのは言うまでもない。