楓さんと男子大学生   作:ブロンズスモー

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浮輪、睡眠、帰宅準備、トイレタイム、約束。

 

昼飯が終わった後も遊んだ。まずはかき氷を作って食べた後、スイカ割りをした。流石に食べ過ぎて食休みしてる間に、俺はお腹いっぱいなのを我慢してスイカのゴミとカキ氷セットを片付けた。

戻って来て、しばらく食休みした後、ようやくみんなで海にゆっくり浸かった。女子三人が魚を探すだのなんだの言ってる中、一人でのんびり浮き輪に乗って漂っていた。

 

「……………」

 

空が青い。もくもくと入道雲が水平線の向こうから上がっている。これが、アニメでよく見る海か……。東京湾からは絶対見えない風景だなぁ。

ヤッベ……なんか、眠くなって来た。寝ちゃうか……。帰りも、運転だし………。

そう思って目を閉じかけた直後、グルンッと視界が回ったと思ったら、俺の身体は水中に叩きつけられた。

 

「がっ⁉︎ガボボッ………!」

 

うおっ、水が大量に口の中にっ………!溺れるっ、とりあえず海面から出ないと……!

 

「っはぁ!ェホッ、エホッ………‼︎」

 

「浮輪取りぃ〜♪」

 

キャラ作りをすっかりやめた飛鳥が、嬉しそうに浮輪を取った。

 

「て、テメェ……!」

 

「何、カッコつけて海の上で漂ってんのさ」

 

「お前にカッコつけてとか言われたくねーんだよ。セカイの選択はどうした」

 

「う、うるさいな!もう悠貴にも楓さんにも素を見せちゃったんだから良いんだよ」

 

「ああそう……。ていうか、少し休ませてくれ。帰りも運転しなくちゃいけねーんだから」

 

「飛鳥さんっ、お兄さんっ!ヒトデ!ヒトデ落ちてましたっ!」

 

「嘘⁉︎どこに⁉︎」

 

「こっちこっちっ!」

 

聞けよ、と思ったが、乙倉さんは飛鳥の手を引いて泳ぎ去ってしまった。

浮輪返せよ。まぁ、でもこの際休めるから良いか。パラソルの下に移動し、俺はビニールシートの上で寝転がった。

 

「あら、お疲れなの?」

 

高垣さんが俺の隣に腰を下ろした。

 

「いや、これから疲れるんですよ……」

 

「ああ、帰りの運転ね」

 

「はい……。これ以上遊ぶと、何というか……帰りたくなくなる気がするんです」

 

「あら、そんなに楽しかった?」

 

「いや、運転したくなくて」

 

「……………」

 

高垣さんはふと目を逸らした。まあ、大人になれば引率の大変さとか分かるよな。察してくれて助かるわ。

 

「………それなら、寝る?」

 

「はいっ?」

 

「私がここにいて、あの子達を見ててあげるから、寝ても良いわよ?」

 

「え、いやでもそれは………」

 

「良いのよ。元々、保護者役をもう一人頼む為に私を呼んだんでしょう?」

 

「………でも、さすがに悪いですし」

 

「じゃあ、こうしましょう。今度、私のお願いを聞いてもらうから、今は寝てくれる?ほら、運転に集中してくれないとこっちが危ないから」

 

「………じゃあ、お言葉に甘えます」

 

「ふふ、おやすみなさい」

 

ああ、その「ふふ」っていう笑いがもう母性の塊。今更だけど、この人の水着もビキニで、飛鳥とは違うタイプの黒と形ですごい似合っている。

っと、ジロジロ見てないで寝ないと。俺はその場で寝転がって、ビーチボールを枕にして寝転がった。

 

 

 

 

翌目を覚ますと、後頭部にすべすべもちもちした柔らかい感覚があった。そういや、ビーチボールを枕にしてたっけか……。

 

「ん………?」

 

あれ?でも、なんで目の前に黒い影が見えるな。なんだこれ。

 

「あっ、お兄さん起きましたよっ」

 

「結局、ずっと深遠なる闇に呑まれていたか……」

 

「おはよう、二宮くん」

 

女子三人の声がした。どうやら、なんかみんなパラソルの下に集まっているようだった。

で、不思議なのはアレだね。まずは飛鳥が不機嫌そうな顔をしている事、そしてもう一つは高垣さんの姿が見えない事だ。声は聞こえてのに。

 

「………んっ」

 

とりあえず頭を上げた。

 

「おはよ」

 

「おはよう、兄貴」

 

「高垣さんは?さっき返したよね」

 

「後ろ」

 

「後ろ?」

 

振り向くと、高垣さんが正座していた。でも、思ったより距離近いな……。ていうか、俺の枕のビーチボールは……あれ?まさか……。

不機嫌な飛鳥、ニコニコしてる高垣さん、目を輝かせてる乙倉さん。あれ?おい、これもしかして………。

 

「………もしかして、膝枕とかしてました?」

 

「してたわよ?」

 

「っ………!」

 

してたわよ?じゃねぇよ!ビックリするじゃん!二十歳超えた男子大学生が膝枕って………!

 

「ふふっ、二宮くん。顔赤いわよ?」

 

「だ、誰の所為だと………‼︎」

 

「おおー、兄貴が照れてる……。楓さんすごいな………」

 

「おい、殺すぞ飛鳥」

 

小っ恥ずかしくなって、頬を掻いた。で、誤魔化すように俺は三人に聞いた。

 

「そ、そもそも、みんななんでここにいんの?遊んでなかったの?」

 

「いや、その……楓さんの膝の上で寝てるお兄さんを見て、飛鳥さんが怒って……」

 

「わーわーわー!わっ、ワールドエンド!」

 

「むぐっ⁉︎」

 

乙倉さんに飛鳥は口を塞がれた。何それ可愛い。けど、からかえば高垣さんに何か言われるのが目に見えていたから黙った。

ていうか、なんかもう夕方じゃん。海水浴に来てた人達も減って来てるし。

 

「………さて、じゃあそろそろ帰りますか」

 

「そうね。もう遅いし」

 

「すみません、高垣さん。2人の事シャワーまでお願いします」

 

「ええ」

 

高垣さんが二人を連れて行き、俺はその間に片付けを始めた。ビーチボールと浮輪の空気を抜き、水鉄砲とかを水道で洗い、ビニールシートやパラソルを畳み、というか、とにかく片付けて車に運んだ。

すると、車に女子達がやって来た。

 

「お待たせ」

 

「あ、どうも。じゃ、多少車の中を濡らしても良いんで、身体拭いて着替え済ませておいて下さい」

 

「はーいっ」

 

………あれだな。父親って大変だわ。昔、親父がやってた通りな感じでやってみたが、大変だなこれ。忙しいというかなんというか、昔はよく親に迷惑かけたものだ。今回は最年少でも中一だったから良いけど、これが小学生とかだと、もっと大変なんだろうなぁ。

片付けとかそういうの全部が面倒。でも、やらなければならないから仕方ない。今から結婚するのが嫌になって来たぜ……。

心の中で愚痴りながら、俺はシャワーで海水や土を流し、海パンの中も洗い流して、バスタオルで体を拭きながら車に戻った。すでに着替え終わっていた女子達が車の前で待っていた。

 

「お待たせ。すぐ着替えるから待ってて」

 

それだけ声をかけると、車の中でさっさと着替えて、出て来た。

 

「じゃ、帰りますか。乗って下さい」

 

運転席に移動しながらそう言うと、他の三人は行きと同じ席に座った。

エンジンを掛けて、車を走らせた。せっかくなので、海沿いを走る事にした。多分、アイドル業が忙しくて、今年は海を見る事も出来ないだろうしな。

 

「……あら、海に沈む夕日も綺麗ね」

 

高垣さんが窓の外を見ながら呟いた。

 

「そうですねー」

 

「ええ」

 

「……………」

 

「……………」

 

あれ、なんか静かだな。後ろの二人は?もしかして、後ろの二人もうっとりと夕日を見てるのか?

ちょうど良いタイミングで赤信号になったので、車を止めて後ろを見た。二人とも爆睡していた。

 

「……………」

 

「たくさん遊んだから、疲れたんでしょう」

 

「………ま、いっか」

 

とりあえず、写メった。考えりゃ、アイドル二人の寝顔とかこれ高く売れるな……。まぁ、妹とその友達の寝顔だし絶対売らないけど。

信号が青になったので再発進した。車を走らせてると、隣からくあっと子猫のような欠伸の声が聞こえた。

 

「高垣さんも眠かったら寝てて良いですよ」

 

「えっ?」

 

「東京に入ったら起こしますから」

 

「え?で、でも助手席の人が寝ちゃったら………」

 

「大丈夫です。俺はさっき寝ましたから。明日、仕事あるなら今のうちに疲れ取った方が良いでしょうし、眠かったら寝て下さい」

 

「いえ、明日は仕事ありませんが…………あっ」

 

何か思いついたようで、意味深な声を漏らした。で、ニヤニヤと微笑みながら目を閉じた。

 

「では、お言葉に甘えますね。おやすみなさい」

 

「え?あ、はい。おやすみなさい」

 

高垣さんはそのまま目を閉じた。なんなんだ一体?

 

 

 

 

寝て下さい、と俺は軽い気持ちで言ってしまったが、それを俺は全力で後悔していた。

一人で運転する寂しさではない。というか、今は運転すらしていない。1時間くらい運転した辺りで、トイレ行きたくなって、コンビニに車を止めた。車から降りてトイレを借りて、ついでにテキトーに食べ物や飲み物を四人分購入して、車に戻って来た。

運転席に乗り込んだとき、高垣さんの寝顔を見た。見てしまった。その寝顔はもう、なんというか……激烈に綺麗だった。アイドルにしても綺麗だ。むしろ、アイドルというより女優と言った方がしっくり来る。

 

「……………」

 

それから、車を動かせない。隙あらば、寝顔を見ようとして前から目を離しそうだったので、コンビニから車を動かせないでいた。

写メを撮れば、これからいつでも見れるわけだし、何とか車を走らせる事はできるだろう。だが、飛鳥と違って大人の、それも歳上の女性だし、無断で寝顔を撮るのは失礼だろう。下手したらセクハラなまである。

必死に自分の中で「後1分経ったら出発する」とかけじめをつけようとしていたが、それがもう20回ほど続いている。

 

「……………」

 

………もう少し近くで見ても平気かな。いやいやいや、下心とかじゃなくて、近くで見たいだけだから。

…………ていうか、よく見たら頬に蚊が付いてる……。俺は右手を構えて近付いた。高垣さんが起きないように静かに殺す。そう、これは蚊を殺す為だ。決して、柔らかそうな頬を触るためではない。

 

「……………」

 

ふと後ろの席を見ると、ものっそい顔で睨んでる飛鳥と目をキラキラと輝かせてる乙倉さんがすごい見ていた。

 

「お、お前ら起きてたのか⁉︎」

 

「私達の事は気にせずに続きをどうぞっ」

 

「兄貴、今何するつもりだったんだよ!」

 

おい、二人の意見が真逆なんだが。どうすりゃ良いんだよ結局。

すると、飛鳥がジト目で睨みながら言った。

 

「………まさか、楓さんが寝てる間に襲うつもりだったのか?」

 

「…………違うよ?(裏声)」

 

「おい、そうなのか⁉︎」

 

「や、だから違うって!頬に蚊が止まってたから仕留めようと思って………!」

 

「何処にいるんだよ、蚊なんて」

 

「だから頬!見てみろってマジで!」

 

「………嘘だったら承知しないからな」

 

言いながら、飛鳥は後ろの席から高垣さんの頬を覗き込んだ。蚊はいなくなっていた。

 

「いないじゃないか!」

 

「さっきはいたんだってマジで!」

 

「このっ……変態スケベエロ兄貴‼︎」

 

「待て待て待て待ってお願い待って!運転席で暴れないで危ないから!」

 

エンジンは切ってあるけど。すると、騒がしかったのか高垣さんがくあっと欠伸をして目を覚ました。

 

「ふわあ………もう着いたの?」

 

「あ、すみません。起こしちゃいまし」

 

「楓さん!そいつ、高垣さんを襲おうとしてた!」

 

「はっ⁉︎ち、違いますから!テンメ飛鳥お前その口が俺の悪評を広めんのか⁉︎」

 

「だってそうだよ⁉︎顔に手を伸ばして顔近付けてた癖に!」

 

「間違ってない!間違ってないけど、ただ単に蚊を潰そうとしただけで………!」

 

「あら、私は別に二宮くんとそういう事をしても良いけど?」

 

「良くない‼︎」

 

「なんでお前が答えた飛鳥」

 

「冗談だから、飛鳥ちゃん怒らないで?」

 

畜生………なんかもう恥ずかしい思いをしてばかりだ。さっさと発進し……いや、せっかくコンビニに止まってる時にみんな起きたんだし、一応聞いとくか。

 

「トイレ行きたい人とかいます?いたら行っておいで。お菓子とか飲み物は買っておいたから」

 

「あ、じゃあ私行ってきますっ」

 

「僕も行く」

 

「私は海で済ませて来たし、しばらくは大丈夫」

 

飛鳥と乙倉さんは車から降りた。とりあえず、俺は猛反省した。もう二度と変な気は起こさない。いや、本当に蚊を潰そうとしただけだけどね?

 

「ねぇ、二宮くん」

 

「…………あい」

 

反省してる中で声をかけられたので、返事なのかわからない返事をしてしまった。

 

「今日は楽しかった?」

 

「ええ、まぁ楽しかったですよ」

 

飛鳥が同年代くらいの子とキャーキャーはしゃぐ所も見れたし、最高だったわ。撮ったビデオは今日のうちにDVDに焼いておこう。

 

「私も楽しかったわ。誘ってくれてありがとう」

 

「いえいえ。まぁ、楽しんでくれて何よりです」

 

まぁ、保護者がもう一人欲しくて頼んだだけなんだけどな。

すると、高垣さんは改めて、と言った感じで話を変えた。

 

「明日、暇?」

 

「………え、なんでですか?」

 

「んー、ほら。なんでも言うこと聞くって話だったじゃない。お昼に寝る条件としては」

 

「え?そ、そうでしたっけ」

 

「そうよ。寝てもらう代わりに何かお願いを聞いてもらうって」

 

今にして思えばすごい条件だな。向こうが寝てくれって言って来た上に俺がお願いを聞いてあげることになるのか……。高垣さんの一人win-winじゃん。

 

「で、それがなんですか?」

 

「だから、明日言う事聞いてもらおうかなーって」

 

「………明日、ですか?」

 

「ええ。明日、二人で出掛けましょう?」

 

「良いですけど。明日の予定なんて寝る以外に無いし」

 

「よし、じゃあ決まり」

 

………だからその笑顔は反則だってば……。照れくさくなって目を逸らした。

すると、飛鳥と乙倉さんが戻って来た。

 

「ただいまー」

 

「よーし、じゃあ行くぞ。ちょっと遅くなっちゃったから、高速使うわ」

 

「おおー!高速!」

 

飛鳥は何故か高速道路好きなんだよな。まあ、俺も昔はテンション上がったが。

車を走らせた直後、高垣さんが小声で俺の耳元で言った。

 

「………明日のことは、また後で連絡するわね」

 

「は、はい」

 

と、いうわけで、何の間違いか高垣さんとデートする事になった。

 

 

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