奪ウ者と喰ラウ者 作:屍化かし
屋敷の周囲には生い茂る草木が広がっており、それよりずっと遠方にうっすらと街の灯が見える。
この屋敷は山間部に位置しているのだろう。少し先から傾斜が広がっている。
空乃たちは一先ず当面の目標である『資金・情報集め』のために、街に向かって歩みだした。
下山道中、異世界ファンタジーで定番の魔物といってもいいジェル状のアイツに出くわした。
戦ってみてわかったが、液状不定形生物であるソイツはその見た目に似合わぬ素早い動きで襲って来る。
さらに眼で見たところ色別に各耐性があるらしくレッドスライムなら火耐性、グリーンスライムなら風耐性という感じだ。
まぁそんな感じでエンカウントした魔物を倒し経験値&スキルを奪いつつ、街に向けて歩くこと1時間弱。
ようやく到着したと思ったらすでに周囲に人影はなく、陽は落ちていた。
(危なかったな......。)
自分はかなり夜目が効く方だが情報の少ない現在において、おちおち慢心などしてはいられない。
街の入り口の立て札には、《ロードランド領 王都エクスペイン》と書かれている。今まで見たことのない言語であったが、特殊な眼を持つ僕らであったためか別段苦なく読むことができた。
理由などさして気にならなかったためそんなことより、と思考を切り替え二人は身体を休めるための宿屋を探しに歩みを早めた。
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宿屋《宵闇の根城》
暫く街を散策したのちに、二人はそんな名前の宿屋を選ぶことにした。
理由は単純に最初に見つけたのがこの店だったからだ。
1泊するだけの宿を選ぶのに時間をかけていても仕方がないだろうと、疲れた身体が判断した故であった。
「いらっしゃいませ。こんばんは」
中に足を踏み入れると一人の少女が出迎えてくれた。
スピカ・ブルーネル
種族:ライカン
職業:女中
固有能力:なし
歳は10代半ばくらいであろう。身長は150センチ弱程度で、髪の隙間からピョコっと生えた犬耳が愛らしい少女であった。
だが惜しいことに彼女の外見は少々?みすぼらしい。愛らしさがマイナスになり少し痛ましいように見える。
長期間手入れされていないのであろう頭髪は、全体的にばさついており枝毛など髪が傷んでいることが目に見えてわかる。また、あちらこちらぴょんぴょんと荒れ放題な雑草原のように髪が伸びていて、クリリとした可愛らしい二重の双眸をも隠してしまっている。
着ている衣服もボロボロのボロ雑巾のように薄汚れていて、正直見るに耐えない姿となっている。
(この世界にも奴隷が存在しているのか.......。)
「旅のお方でしょうか? 当店のご利用は初めてでしょうか?」
「はい(ああ)。今晩泊まれる宿を探しているのですが.......一泊いくらになりますか?」
「個室での宿泊を御希望でしたら一泊400リアで朝食付きになっています。相部屋での雑魚寝でよろしければ1泊100リアになります。なお、二人部屋になりますと少しお高い一泊900リアになってしまいますが.......」
「構いません。では、二人部屋をお願いします。」
「かしこまりました。ただいま鍵を用意いたしますので、その間こちらの書類にお名前をご記入ください。」
少女は愛想の良い笑顔を浮かべると、犬耳をピコピコと動かしながら二人の元を離れていった。
現在の手持ちにはオークたちから奪いとった資金、118700リアがある。つまり日用品やその他を除いても、4ヶ月くらいはこの街に滞在することが可能だということだ。
しかしそれは1日1食計算であり、また必要経費などは入っていない。
よってこのまま稼ぎなしでは、すぐに資金は底をついてしまうということも視野に入れなければならない。
「お待たせしました。こちらは203号室の鍵でございます。」
「ありがとうございます。少し細かくなりますが、支払いを。」
空乃は鉄貨90枚を悠斗の持つ魔法のバッグから取り出して支払いを済ませることにした。
「かっ、かしこまりました。枚数を確認しますので少しの間、お待ちください。」
少女は1枚1枚丁寧に鉄貨の枚数を数えていく。
90枚分の鉄貨を取り出したことにより魔法のバッグからは幾分、軽くなっていた。
「確認が終了いたしました。900リアちょうどになります。どうかごゆっくりおくつろぎ下さいませ。」
少女から鍵を受け取った僕たちは早速階段を上がり指定された部屋の中に入ることにした。
「うわ……。これは酷いな……」
などと悠斗がつぶやいている。確かに部屋の中は個室と言えば聞こえが良いが、六畳ほどの空間の中にワラ布団が敷かれただけの質素なものであった。まぁ、こちらの世界にあちらレベルの文化水準を求めるのが間違いなのだろう。
しかし、日本という国で生まれ育ちフカフカのベッドに慣れていた悠斗にとってこの環境は些か厳しいものがあった。だが、
「そんなこともあろうかと、ベットを買っておいてあります。部屋は空間魔法で広げましょう。」
「前から思ってたけどよ、便利だよな。一家に1人欲しい欲しいぜ、お前。」
「残念ですが僕にはソッチの気はないので.......。」
「ちがうわぁぁぁぁぁぁあ。なんか、急に眠くなってきたわ.......。」
「自分はまだやりたいことがあるので、先に寝ていいですよ?」
「あぁ.....、じゃあお先に。ぉやすみぃ......。」
「えぇ、おやすみなさいませ。」
それから少しして悠斗は泥のように眠った。口ではファンタジー最高!みたいなことを言っていたが、いきなり見知らぬ世界に友人と二人で飛ばされたのだ。悠斗の身体はは無意識的に気を張っていたのだ、それも丸一日。
そんな酷使された身体は悠斗が思っていた以上に疲れが溜まっていたのだ。
故に、彼の意識が闇に落ちるまでそれほど時間はかからなかった。