SUPERでHOTな能力で異世界を旅する。 作:ホットォー
その時のことは、今でも鮮明に覚えている。雲一つない快晴の空の中、異色を放っていた大樹の下で俺は新しい生を受けた。「君はまだ死ぬべき人間じゃない」「君には異世界に行ってもらいたい」。そう言われて言われるがまま特典とやらを選び俗にいう異世界転生というものをした。夢のような話だが、実際に異世界で新たな生を受けた俺がここにいるんだから夢ではなかったことは確かだ。
異世界、と聞くとみんなは何を思い浮かべるだろうか。チート?ハーレム?俺TUEEE?確かにチートで異世界を無双するのは楽しいだろう。俺もチートの能力を持って生まれたかったが、俺が貰ったのは『
一見チートっぽく見えるが、他の元々いた世界の異世界チーレム系小説の主人公よりかはチートではない。と思う。
まだまだ小さい赤子の手で、天井を仰ぐように振った。もっと強い能力が欲しかったなんて贅沢は言わない。けど、これだけは言わせて欲しい。
もうちょっと能力名短くして貰ってもいいかな?
****
時が過ぎるのは早い……いやそこまで早くなかったな。俺が異世界転生をしてからもう六年も経とうとしていた。それと言ってなかったが俺はどうも孤児らしく、両親が不明なため名前は孤児院の先生がつけてくれた。
『ラグ・フィリック』
これが今世の俺の名前だ。うん、いい名前だと俺は思ってる。五歳くらいの時、孤児院の先生にいい名前をつけてくれてありがとう的なニュアンスのことを伝えると孤児院の先生は涙目になって喜んでくれた。ふっ、女を泣かせるなんて俺って罪な男…。はい、嘘です冗談です。
突然だが、前世と今世、合わせて二十年近く生きた俺は今絶賛悩み中である。その悩みというのは、ある女の子からしつこく付きまとわれることだ。女の子から好意を持たれるのは嬉しことなのだが、流石に風呂やトイレまでついてきそうになった時は驚いた。
と、そこまで考えていると、
「ねえ、何考えてるの?」
という女の子の声で思考が現実へと弾き出される。俺は女の子の方を向き、ごめんごめん。と言うが、女の子は頬を膨らませてむぅーと唸っていた。
因みにこの女の子が件の女の子だ。綺麗な水色のショートカットにきめ細かい肌、整っている顔立ち。最初見た時は思わずアニメの住人!?といいかけたが、実際アニメとかに出てくるなら絶対主人公のヒロインになれるレベルの容姿の高さだ。
いや、別にね、俺はアニメの主人公ではないしそんな異世界転生させられただけの元一般人だ。なのに何でかこの子は俺に好意を持ってる。なんでだ?
「なあ」
俺がそう話しかけると、女の子はより一層膨れっ面を深くした。
「なあじゃない、名前で呼んで」
少し表情を変え、怒ったようにそう言う彼女。このあまり変わらない表情も彼女の魅力の一つといったところか。悪い言い方をすれば無愛想、いい言い方をすればクールって感じだ。
「あ、ああごめん。ノア、ちょっと頼みたいことがあるけどいいか?」
「ん。いいよ、何?」
ノアにそこら辺で拾った石を渡し、距離を取る。
「この石を全力で俺に向かって投げてくれ」
俺がそう言うと、ノアは少し呆気に取られたような表情になった。レアだなノアがこう言う顔すんのは。あ、因みに石を投げて欲しいっていうのは俺がドMだからとかっていう理由ではない。何だか気分的にも能力を使いたくなったからだ。それに、俺はもうすぐこの孤児院を
「分かった」
ノアは少し口角を上げて、首を縦に振る。え?何で笑ってんの?この子まさかSっ気がある子…?
ノアは迷いなく石を持ち振りかぶると、思ったより速いスピードで石を飛ばしてきた。
俺は特典である、能力を発動する。
『
発動をした瞬間、俺の世界は変わった。何も聞こえない世界、何も動かない世界。ノアは投げている体勢のまま止まっているし、ノアが投げた石もノアの手から少し離れたところで静止している。
試しに手を少しだけ動かしてみる。
すると、時も少しだけ動き、石との距離がほんの僅かに近づく。
石がどのように飛んでくるか軌道を予想し、身体を少しずつ捻り地味だが確実に避けれるように体勢移動をする。
少しずつ、少しずつ。移動するたびに石も段々と距離を縮めてくる。
「………今だ」
石の軌道上、当たらないところまで身体を動かしたことを確認すると、俺は能力を解く。
すると再び俺の世界が変わる。石は俺の横を通ると、地面へと落下した。よし、成功だ。
ノアは、何が起こったのか分からないようで、頭にハテナマークが出てきそうな感じで頭を横に傾げていた。うん、可愛い。
そう言えば、俺が能力を使っている時は他人から見ればどういう風に見えるのだろうか。そんな、疑問が出てきた俺は目の前で見ていたノアに聞いてみる。
「なあ、俺どんな動きしてた?」
ノアは少し唸った後、顔を上げて口を開いた。
「何かね、一瞬で石を避けてた」
「一瞬で、か」
「…?どうかしたの?」
「いんや、何でもない」
内緒にされたのがお気に召さなかったのかノアはまた膨れっ面でこちらをジト目で睨んでくる。
「やっぱり、チート、なのか?」
チートにしろ、チートじゃないにしろ、まだこの世界にあるだろう魔法の力を見たことがないためか、少し力不足ではないのかと考えて見たりするのだが、今はまだそんなこと知らなくて大丈夫だろう。と結論付け、未だ膨れっ面のノアを見る。
ご機嫌斜めなノアを見て、また頭撫で撫で一時間コースか…。なんて思い、ため息をつくのだった。