昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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微勘違い(勘違いが有用とはいってない)


Adjuchas

 

「う、そ……。なんで……ううん、本当に……本当に、リンドウ?」

 

「あー……、よぉ、サクヤ。元気かどうかは……聞くまでもねぇか」

 

「リンドウ……よかった、本当に……! あなたの腕輪が見つからなくて、特別任務の事とか、支部長の事とか、あなたは殺されてしまったのだと思って……」

 

「人間としちゃほぼほぼ死んでるようなモンだ。今の俺は、もうアラガミだからな」

 

「それでも……それでも、言わせてちょうだい。

 ……おかえりなさい、リンドウ」

 

「……ただいま、か……」

 

 

 

 

 

 

「おー? なんだ、コレー。食べてもいいのかー?」

 

「ちょおっ!? ダメダメ、これは食べちゃダメな奴だよ! ……こんなナリでも、やっぱりアラガミなんだな……」

 

「ふふ、いいじゃないですか。そのストールが美味しそうってことですし」

 

「何も良くないんだけど……というかその……いいの? アリサは……行かなくて」

 

「今はサクヤさんの時間ですから……私の贖罪なんかよりも、よっぽど大切です」

 

「そっか。

 じゃあ後で俺と一緒にってあででででっ! だーからダメだって!」

 

「うー? アリサ、いいっていったぞー?」

 

「俺がダメって言ってるのわああああ!?」

 

 

 

 

 

 

「お前は……どうなんだ。あいつらは紛れも無くアラガミだが……」

 

「うーん、どうって言われても……、ねぇ。リンドウさんは元人間だし、シオって子は人間に生態を近づけたアラガミ、か……。ちょっと複雑かな……。けどまぁ、人類の敵にならないのなら、割り切れるよ」

 

「……そうか……」

 

 

 

 

 

「これが混迷か……。なるほど、嫌われるわけだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 率直に今の状況を現すのならば、「第一部隊にシオと雨宮リンドウの存在がバレた」というものが精確かつ的確な言葉だろう。

 きっかけは屋内生活に飽きたシオと雨宮リンドウが出て行こうとした所に、タイミング悪く支部長室に(ノックもせずに)入ってきた藤木コウタとアリサ・イリーニチナ・アミエーラが鉢合わせた、というもの。

 驚きから叫ぼうとした藤木コウタをペイラー・サカキがギリギリで留め、説明をしなければ口封じは無理と判断、第一部隊を召集した次第である。

 楠サクヤは雨宮リンドウにべったりだし、藤木コウタとアリサ・イリーニチナ・アミエーラはシオにべったり。神薙ユウとソーマ・シックザールは部屋の隅で何やら話しているようで、どうせロクな話ではないだろう。

 

 

 

「――というワケなんだ。君達に黙っていたのは混乱を避けるためと、ヨハンに悟られないようにするため……わかってくれるかな」

 

「アラガミ化……ですか。ですけど博士、リンドウは普通に会話できるくらいの理性があります。本当にアラガミ化しているんですか?」

 

「あぁ、バイタルデータは完全にアラガミだよ。会話が出来るのは、リンドウ君の右手にあるアーティフィシャルCNC代わりのコアが、食欲を抑えているため、だろうね」

 

「そう、ですか……」

 

 重い沈黙が落ちる。

 帰ってきたのは嬉しいが、完全にアラガミとなっていると聞いて心の整理がつかないのだろう。何故なら、自分たちはアラガミを屠る神機使い(ゴッドイーター)なのだから。

 

「ね、ねぇ! さっきから気になってたんだけど……シオとアオバはどういう関係なの? この子の口からアオバの名前がよく出るんだけど……」

 

「家族だな。かけがえのない家族だ」

 

「おー! 家族、だな!」

 

「あ、アオバが笑った……?」

 

「そこまで驚く事では……ありますね」

 

 この身体は喜怒哀楽が激しい故に、笑顔になってしまうのは仕方がない。

 だが、こいつらに見せるモンじゃなかったかな。

 

「家族って……リンドウ、あなたは……」

 

「あー……その辺は複雑な事情があるんだがな。ま、一つ言える事があるとすれば……俺はもう人間(おまえたち)と一緒にゃいられないってことさ」

 

「……アオバとは、一緒にいられるのに……?」

 

「どー説明したもんかねぇ、こりゃ……」

 

 アラガミとして月で過ごした記憶と、人間として極東支部で過ごした記憶が鬩ぎ合っているのか……鬩ぎあうというよりは、どちらを割りきるべきか迷っているように見える。

 割り切る必要なんてないんだけどな。どっちも選ぶことが出来る様に動いているわけだし。

 

「さて、そろそろ俺は狩りに行ってくるわ。シオ、リンドウ。今日の晩飯のリクエストはあるか?」

 

「魚が良いー!」

 

「あー、んじゃ俺は熱い方の魚で頼む。すまんな、俺達もついていってやりたかったんだが……」

 

 その言葉に、ふふ、と笑う。

 俺を気遣う気持ちもあるのだろうが、それより狩りをしたいんだろ、雨宮リンドウもシオも。

 

「気にすんなよ。確かに前みたいに一緒に狩りが出来りゃそれに越したことはないが……お前らに飯を食わせるっていうのは俺の楽しみなんだ。それを奪わないでくれよ」

 

「……」

 

 母親の気持ち、とでもいうのかね。

 あいつらが俺の獲ってきた得物を美味そうに食ってる姿が、とても嬉しいのだ。昔とは違い、明確に家族として食を共にできるってのも大きいのかもしれないが。

 ヒラヒラと手を振って隔離部屋、ラボラトリを出る。

 

『……いいなぁ、楽しそうで』

 

「仕方ないだろ? 神薙ユウと雨宮リンドウ以外にゃ見えないんだ、話しかけるのも難しい」

 

『わかっていますけどね……。あれ? 誰か追いかけてきたみたいですよ』

 

 一瞬だけでてきたレンが消える。

 同時に、神機保管庫へ向かう俺に並ぶ影3つ。

 

「へへっ、水臭いじゃん? シオちゃん達の晩御飯を狩りに行くんだろ? 手伝わせてよ!」

 

「そうですよ。アオバ、私達も手伝います。お腹いっぱい食べさせてあげましょうね!」

 

「君の楽しみを奪うつもりはないけれど、アシストくらいはさせてほしいかな。僕はこの部隊の隊長なわけだし」

 

 藤木コウタ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、神薙ユウの3人である。

 ……わけがわからん。

 原作のようにそれなりの時間を経てシオと絆を深めあった結果ならともかく、今日の、それもほんの2時間ほど前に会ったばかりのアラガミの童女に対して、どうしてそこまで献身的になれる?

 本来なら、ソーマ・シックザールの反応が正しいのだ。

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラだって両親をアラガミに殺されている。藤木コウタも外部居住区にいる家族がアラガミによって危険に晒されている。神薙ユウなんかはついさっきまでアラガミを見たら殺す、なんて雰囲気だったじゃないか。

 自らの内に秘めるアラガミによって周囲との関係を築けなかったソーマ・シックザールのように、アラガミと聞いただけで相手がどのような姿形であろうと化け物と罵るのが人間のあるべき姿じゃないのか?

 

 それとも、会話が出来れば良い、とでも?

 

「ほらほらアオバ! シオちゃん達がサカキ博士の研究室を食べちゃう前に狩らなきゃいけないんだろ? なら、パパっと終わらせようよ!」

 

『おー! いくぞ、サマエルー! 今度はあっちだー!』

 

「行きましょう、アオバ。……半分は私のためでも……あるんですけど、やっぱりアオバには笑っていて欲しいですから!」

 

『ん? どしたぁ、サマエル。とっとと行くぞ?』

 

「観念した方がいいよ、アオバ。僕達だって、君の仲間なんだからさ」

 

『サマエルさんって、なんだかんだいって面倒見いいですよね。ふふ、僕も見習わなきゃなぁ』

 

 副音声のように重なった思い出(きおく)

 ……計画が進行すればいずれ消える存在だ。最後に残るのは俺とシオと雨宮リンドウとレン、そして月だけ。新しい世界が始まりを告げる。

 俺が人類種の敵である事に何ら変化はない。こいつらの勝手な勘違いによって何故かイメージアップしているだけで、最後には斬り捨てる存在だ。

 

 何も似ている所なんか、ないはずだ。

 

「キィ……やだやだ、考えたくもない」

 

 小声で呟く。

 脳裏に一瞬でも浮かんだ――そんな可能性(みらい)は、あり得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーっす! ちょっと今割のいいミッションが出てんだけどよ、一緒に行かねえか?」

 

「……別に構わないが」

 

「おっしゃ! んじゃ、行こうぜ!」

 

「……」

 

 カレル・シュナイダーは2人の神機使いを遠目に見ていた。

 夏江アオバと小川シュン。

 口には出さないが自身もそれなりに慕っていた雨宮リンドウのMIA事件に深く関わる女と、つい最近までその女の態度に嫌悪感を露わにしていた自身の(不本意ながら)コンビの片割れ。

 確かに死の影が常に付き纏うこの職場において、個人の死をいつまでも引き摺るのはプロとしてよくないことだとはわかっている。金の為ならなんだってするカレル自身、そう言う所は割り切れているつもりだ。

 それを差し引いても女……夏江アオバは口が悪い。無論自身だって相当な物だと言う自負はあるが、アオバは群を抜いている。旧型を馬鹿にするような態度に始まり、極東支部の誰に対しても軽薄で且つ暴言を吐くのだ。足手まといだの、邪魔だのと。

 それは夏江アオバ自身が自分達と仲良くする気の無いという姿勢の顕れ。故にカレルや同じ防衛班のジーナ・ディキンソン、小川シュンは距離を置いていたはずなのに。

 

「最近……やけに仲良いわよねぇ、あのコ」

 

「ああ……先日の外部居住区襲撃で色々あって認めてやった、と言っていたが……」

 

「実際、夏江は良く動けているな」

 

 小川シュンだけが一気に夏江アオバと距離を近づけ、今のようにミッションに誘う、なんて姿をみるようになったのだ。元の性格から人当たりの良い大森タツミや危険物……もとい普段は誰かを嫌う、なんて事が出来る性格じゃない台場カノンは夏江アオバとも交流があったようだが、そういう「お人好し」の奴らでなければ夏江アオバと関係を保てるとは思えない。

 それほどまでに態度が悪いのだ。

 

 だが実際の所、今の会話の流れからすれば見当はずれな天然発言をしたブレンダン・バーデルの言う事もまた、間違った物ではない。

 夏江アオバは受け渡し弾と回復弾を多用する。近接行動のほとんどはスピアによる攻撃ではなく捕食行動で、主なダメージソースは銃撃。また、仲間がいればサポートに徹して結果的な作戦行動時間を早める支援タイプだ。

 アサルトのカレル、スナイパーのジーナは旧型故に己だけでバーストする方法は薬剤に頼る以外ないし、捕食弾丸は受け渡してもらわなければ使えない。オラクルポイントの総量の問題から火力の或るバレットはショットガンかブラストに頼りがちなので、オラクルポイントを消費せずに超火力を撃てる濃縮アラガミバレットはとてもありがたいのだ。

 バスターを使うブレンダンにとっても受け渡しバーストは有用で、常にバーストlv3を保ってくれるアオバとの作戦行動中は、アラガミがダウンした時に捕食せずにチャージクラッシュを叩きこめる。一々鈍重なバスターで、しかも貼り付いての戦闘を得意とするブレンダンにとって少々やり難い捕食行動をしなくて済むのは、不謹慎な言い方をすれば「楽」であった。

 

「そもそも……あのコだって、被害者、だものねぇ?」

 

「ああ……同情する程優しくはないが、邪険にしている暇があればせいぜい利用させてもらう方が効率的だろうな」

 

「それに……あの少女はどこか、脳裏にチラつく」

 

「「……」」

 

 そろそろ自分達も認識と態度を改め、利用してやるか。

 そんな風にまとまった……かに思われた防衛班2人は、残る1人の発言に停止した。

 2人の心境は一致する。

 

 ――あの”堅物”に……春が?

 

「……ふふ、今度私もミッションに誘ってみようかしらぁ……? イロイロ、面白い話が聞けそうだし……ね?」

 

「適当に金払いの言い依頼を見繕っておくか……。態度なんてものは、仕事をしてくれるんならなんだっていい」

 

「ああ。俺も今度修行に誘ってみるとしよう」

 

 それは断るだろうな、という本音は抑えつつ。

 面白いネタをみつけたと、ジーナは微笑み、カレルは溜息を吐いた。

 当のブレンダン本人は、何を考えているのか分からない表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「あれ、ヒバリちゃん。溜息なんてついてどうしたの? 悩み事?」

 

「タツミさん……」

 

 オペレーター・竹田ヒバリは深いため息を吐いていた。

 オペレーターとて四六時中働いているわけではなく、むしろ神機使いより体力の無いただの人間である彼女は、普通に睡眠が必要だ。

 ただし夜間の襲撃もあるので定時上がり、などという言葉は夢のまた夢なのだが、現在の様な「休み時間」は体力回復の為に自室で眠るのが最適である。

 であるのだが。

 

「悩み事ならオレ、相談乗るけど?」

 

「……その、自分の力不足を……最近、ひしひしと感じてしまって」

 

「そんなことないって! ヒバリちゃんのおかげですっごい助かってるよ、俺達」

 

「でも……その、さっきも第一部隊のオペレートをしてきたんですけど……」

 

 そこまで言えば、「あー……」という表情になるタツミ。

 第一部隊。リンドウさんの抜けた、最前線を行く極東支部最強の部隊。極東支部で最強という事は、全世界でも最高峰にいるということになる。

 

「バースト情報もバイタル情報もお伝えする機会がなくて……侵入予測でさえ、ユウさんとアオバさんが私達よりも早く気付いてしまうので、その……」

 

「あー、うん。それはあいつらがおかしいだけというか……いやそんなこと言ったら不味いけど、でもヒバリちゃんは悪くないっていうか……。って、あいつら侵入予測までわかるのか……」

 

「結果作戦開始時間と帰還準備をお知らせするだけとなってしまって、もっとオペレーターとしてステップアップするにはどうしたらいいんだろうと悩んでいた次第です……」

 

 自分は要らないのではないか、とは思わない。

 オペレーターという存在が神機使いの命綱になっているというのは、目の前の大森タツミや雨宮ツバキから何度も聞かされているし、お役にたてた、と思う瞬間もあるのだ。

 だからこそ、第一部隊をサポートする時の歯痒さが如何ともし難い。

 

 神機使い達のバーストには制限時間が存在し、その情報は腕輪を通して自分達オペレーターに伝わる。バーストゲージという形で目に見えるようになったその情報を、逐一神機使い達に教える必要があるのだ。出来るだけバーストは継続した方が生存率も上がるので、この仕事はやりがいのあるものだった。

 だが、夏江アオバがいるとその仕事はなくなる。

 まるでバーストゲージが見えているのではないかとおもうくらい、適確にメンバーのバースト管理を行う。アラガミと接触している時間のほとんどを捕食行為に費やすアオバは捕食弾丸のストックがとても多く、例え受け渡し弾がアラガミや遮蔽物に阻害されて仲間のバーストが切れたとしても、一瞬でバーストLv3まで戻してしまう。

 自分が何かを言う前に、その一連の行動が行われるのだ。

 

 バイタルデータも同じ。

 ヒバリは第一部隊のオペレーターを、ひいては夏江アオバがメンバーにいる場合のオペレーターを担った時、「バイタル危険域です」という言葉を言った事が無い。無論それは良い事なのだが、良い事なのだが……。

 ヴェノムやリークなどといった状態異常ですら瞬時に治してしまうので、口を出す暇がないのだ。

 

「タツミさんは戦闘中、今の情報以外で何を得られたら戦いやすくなると思いますか?」

 

「……んー。ヒバリちゃんのスリー……っと、ごめんごめん。

 って言っても、新しい情報か……。アラガミごとの特徴とか、どこが結合崩壊しやすいかとか……かなぁ」

 

「それも、アオバさんが……。活性化情報まであの人が先に伝えてしまうんですよね」

 

「となると……悪い、お手上げだ。なんならアオバ本人に聞いてみたらいいんじゃないか? それだけオペレーターの業務を奪えるんだから、アイツができない事をしてあげたらいい」

 

「……! それもそうですね! ありがとうございます、タツミさん! 次の任務終了後、聞いてみますね!」

 

「お、元気になったな。やっぱヒバリちゃんは笑顔が一番だよ」

 

 となれば、こんな所で油を売っている場合ではない。

 早々に仮眠を取り、アオバの次の任務をオペレートできるよう、体力を養わなければ。

 

 ヒバリは再三タツミに頭を下げ、自室へ向かったのだった。

 

 オペレーターの自室がある区画に、何故大森タツミがいたのかは気にならなかった。

 











何故か上がって行く株
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