昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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物語は一つの節目へと


Torvatus

 

 これは言わずもがなである事なのだが、極東支部の第一部隊の面々というのは極度のお人好しの集まりだ。お人好しは転じてお節介焼きにもなるのだろうが、とにかくこいつらは他人に干渉したがる。そして助けたがる。

 彼らは精力的にシオと雨宮リンドウの餌を集めてきて、ついでとばかりに俺の狩りにも付いてきやがるのだ。

 特に神薙ユウが異様に付き纏ってくる。ストーカーか? とは思ったが、アリサ・イリーニチナ・アミエーラの件やソーマ・シックザールの件を考えるに、コイツにも過去の記憶があって、それがコイツのなんらかの懸念に繋がっているのだろうと考えつくのは容易かった。

 

 今回の愚者の空母でのミッションにも、神薙ユウとソーマ・シックザールが同行している。

 なんでも輸送ヘリがアラガミに撃墜され、空母付近に墜落したのだとか。

 どこかで聞いたことのあるような任務だが、下手人は勿論俺ではない。目の前で力なく倒れ伏したクアドリガによるものだ。

 ソーマ・シックザールはコンゴウを倒し、神薙ユウは有り得ないような速度で空母全域にいたコクーンメイデンを駆逐しきった。

 

「……ん?」

 

「アオバ?」

 

 さて、帰投準備を……と、インカムに手を掛ける寸前に、とある物が視界に入ってそちらへ視線を逸らす。

 それは、エイジス島だった。

 月がいらないものだと言っているノヴァの母体がある島。いらないものではあるが、起動し無いモノというわけではないようで、もしヨハネス・フォン・シックザールが特異点を手に入れようものなら、望まぬ終末捕食が起こされかねない。

 シオを特異点にさせる気はないし、そうなる前に潰す算段は出来ているのだが……。

 

「……おい、どうした」

 

 何故こんなにも、気になる?

 何か忘れているのか? それとも、何か別の要素がある?

 どこか、誰かに、呼びこまれているような――、

 

「アオバ!」

 

 右手首に痛み。

 ゆっくりと振り向けば、前やその前の生では終ぞ見る事の無かった、神薙ユウの心配顔がそこにあった。

 なんだ。

 

 今俺は、何を考えていた?

 今の思考……原作のシオのようではないか。呼ばれている、なんて。

 月に聞いてもわからない……あそこにあるノヴァは、前と何かが違うとでも言うのか?

 

「大丈夫かい?」

 

「……手を離せ。馴れ馴れしく肌に触れるな」

 

「……」

 

 慎重に手を離す神薙ユウ。

 見ればソーマ・シックザールもいつでも飛びかかれるような、そんな体勢だった。

 何をそんなに危ぶんでいるんだか。

 

「誰かに呼ばれた気がしただけだ。余計なお世話を焼かれるつもりはない」

 

「呼ばれた……ね」

 

 チラっとエイジス島の方を見る神薙ユウ。

 コイツ、まさかエイジスに何があるのかもう知っているのか? ……いや、コイツなら何も不思議ではないか。対アラガミの最終決戦兵器だからな……。

 

 改めてインカムから竹田ヒバリに帰投準備をさせる。

 その間、神薙ユウとソーマ・シックザールは監視でもするかのように俺を見張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼ばれた、か……それは」

 

「ええ、確実に彼女の神機のコアが反応していると見るべきだと思います」

 

「参ったね……想像以上に、早い」

 

 ペイラー・榊の研究室に、夏江アオバを除いた第一部隊の面々が集結していた。

 夏江アオバは先程メディカルチェックを受け、麻酔によって眠りに就いたためにここにはいないのだ。

 隔離部屋の方へは音は漏れないつくりである。

 

「……隊長、サカキ博士。それは……アーク計画、という言葉に関係がある?」

 

「サクヤさん、それは……」

 

 ユウとサカキの意味深な会話にサクヤが反応する。サクヤはリンドウが遺した(すぐそこにいるが)ディスクから「特異点」や「アーク計画」といった支部長が秘密裏に進めていた計画を知ったのだ。

 それはアリサも聞き及んでいる事であり、同時に今はまだ隠しておこうとしていた事柄でもあった。

 

「話が早くて素晴らしいね。そう、ヨハンが推し進めているアーク計画……それに必要な特異点が、アオバ君の神機のコアであると私達は睨んでいる。その件で、ちょっと困ったことが起きていてね……」

 

「さっき終わらせてきた任務で、突然アオバの様子がおかしくなったんだ。焦点の合わない目で、『誰だ……?』って呟きながら、3歩ほどエイジス島の方へ歩いた。愚者の空母とエイジス島の間には海があるのに、構わずね。

 咄嗟に手を掴んで止めたけど、その時に振り向いたアオバの顔は……言い方は悪いけど、人間じゃあないみたいだった」

 

「そんな……」

 

 衝撃の事実とアオバの行動に戦慄が走る。

 どうにかしてアオバを助けないと。その手段をサカキに尋ねるアリサの横で、コウタは深刻な顔をして顔を伏せていた。

 

 つい先日の事だ。

 彼はヨハネス支部長に呼び出され、チケットを貰っていた。

 アーク計画。その存在を他の神機使いに先んじて知らされていた彼は、一時的な星外脱出用のロケットに搭乗するためのチケットをヨハネスから受け取っていたのだ。勿論自分用ではなく、家族用の。

 彼は喜び勇んでソレを母と妹に渡してきたばかりだったのだ。

 

 だが、研究室で現在仲間が話している内容は到底受け入れられる話ではなかった。

 アーク計画の全貌。チケットを持たぬものを見捨てるという話。そして何より、計画の要として必要なものがアオバの神機、もしくはアオバ自身であるという事。

 確かに日常面では神薙ユウ共々アオバから邪険にされているコウタだが、どういうわけか任務中のアオバはコウタへ受け渡し弾を渡す頻度が高く、しかも命中させると普通に褒めて来るのだ、彼女は。

 それが普段とのギャップというかなんというか、常にツンケンしているアオバからは考えられない行為であり、もしかしたらこっちが素なのではないか? と最近は思い始めていた。

 激しく動き回るアリサやソーマ、ユウと違ってコウタとサクヤは受け渡しバーストでバースト管理がしやすい、というだけであることはコウタには与り知らぬこと。だがこの勘違いは、彼の意志を揺らがせるに十分な材料だった。

 

 コウタは意を決し話す。自分に持ちかけられた支部長からの話。家族の事。

 そして、アオバを犠牲にはしたくないということ。

 

 その決意をユウもアリサもサクヤもソーマも黙って聞き、頷く。

 すでにアオバは仲間で、特異点のコアになんてさせるわけにはいかないという気持ちは同じだった。

 

「それで、サカキ博士。何か方法は……」

 

「ふむ。それなんだけど……一番簡単なのは、この惑星外へ一時的に脱出するためのロケットを使って、ヨハンが造っているだろう終末捕食のための巨大アラガミ……通称ノヴァの母体をどこかへ飛ばしてしまう事だろうね。

 母体が無ければ、アオバ君、もしくはアオバ君の神機をコアにすることはできない。これが彼女を救うに当たる、一番確実な方法と言えるだろう」

 

「なら……さっさと……行くぞ」

 

「それがそう簡単にも行かないんだよ、ソーマ。エイジス島はいわば支部長の庭だからね。どこに遠隔端末を隠し持っているかわからない状況であの島に乗りこむというのは流石に自殺行為だ。何を仕掛けているか、わかったものじゃない。

 支部長はサカキ博士と肩を並べる技術者だから、ロケットへの干渉も現時点では難しいだろう。どうにかして支部長を物理的にも電気的にも隔離しないことには、エイジス島へ乗り込む事は危険だよ」

 

 何より時期尚早なのだ。

 彼とサカキがおぼろげながらも画策していたアーク計画潰しの計画は、こんな早期にエイジスに踏み込むなどと考えられていない。だからサカキは参っていて、ユウは困っているのだ。

 

「とりあえずアオバにこの事を知らせませんか? そうすれば彼女も自分で気を付けられるかもしれませんし……」

 

「そうだね……今彼女は自室で眠っているはずだから、あと一時間ほどしたら彼女に私が呼んでいたと伝えてくれるかい?」

 

 サカキだけであればそこまででもないのだが、ユウが絡むとどこか秘密主義になる二人。

 こんな重大な事を当人に隠しておく意味が無い。アオバは理性的な人間なので、自分が特異点になりかねない存在だと知れば捕食行為も減らすだろう。だというのにアオバに何も言わなかったのは、ソーマとユウの第六感がその行為を留めていたからだった。

 それもまた、この面々に計画についてを話したことで消える。

 

「そういえば……博士、アオバは何故メディカルチェックを?」

 

「あぁ……今回のはただのデータ収集……新型神機使いの戦闘データを、取っただけ……まさか!?」

 

「ッ!」

 

 ふと気が付いたように問うユウ。そして大変な事態に驚く様に顔を上げるサカキ。

 その顔は完全なる緊急事態で、ユウは凄まじい速さで研究室を出て行った。

 

「ど、どうしたんだよ!」

 

「リーダー!?」

 

 コウタとアリサが驚く。

 その傍らで、「やられた……」とサカキが額に手を当てた。

 

「なんだ……どういう、ことだ……」

 

「これで彼女がいなかったら、私の失態だ。

……アリサ君とユウ君、そしてアオバ君たち新型神機使いの生体データはヨハンに必ず報告される……そう言ったらわかるかい?」

 

「え、えと……どういうこと?」

 

「まさか、もう?」

 

 まだ気付かないらしいコウタと、冷や汗を垂らすサクヤ。

 サクヤの呟きに、アリサも駆け出して行った。

 

「新型の……データ、だと……?」

 

「ああ。ヨハンの手元に行ったアオバ君の生体データ……。もしそれに、ヨハンの御眼鏡に適うだけのオラクル反応があったとしたら、ヨハンはどう行動すると思うかい?

 ノヴァの特異点に足る程の、ただの神機使いや神機としては異常なほどのオラクル反応があったら」

 

 気付いた。

 既に特異点として使える。そう判断されたのなら。

 彼女が連れて行かれる事など、容易に想像できるだろう。

 ましてや彼女は現在眠っていて、さらに言えばメディカルチェックから二時間もの間1人であったのだ。

 

 この支部を掌握しているヨハネスが彼女を攫う事くらい、赤子の手を捻るくらいには簡単だという事である。

 

「や、やばいじゃんそれ!」

 

「いや……アーク計画として必要な人員が……つまりコウタ君の家族のような人々はヨハンのアーク計画には必要不可欠だ。地球を一掃するだけでは意味が無いからね。それが十分量集まって、且つロケットに彼らを乗せるまではノヴァの母体に彼女を入れる事はしないはず……」

 

 あくまでアーク計画とは「選ばれた人類を地球外に脱出させ、地球を終末捕食によって再生させた上で選ばれた人類が戻ってくる」という計画だ。脱出させる前に全人類を終末捕食で滅ぼしてしまっては意味が無い。

 だが、特異点という起動キーを手に入れた時点でヨハネスの行動は爆発的に早まるだろう。もしかしたらもうチケットの話が各神機使いに行っているのかもしれない。何かと守るモノの多い彼らは、その提案に乗る者も少なくはないだろう。

 そうして十分量の人間が集まれば、アオバは使われてしまう。そこがタイムリミットだ。

 

「ッ、博士!」

 

 あの神薙ユウが息を切らして戻ってきた。

 任務中はスタミナ管理の鬼かと思う程に縦横無尽に走り回り、且つ息切れをしない彼が。

 その表情は、お世辞にもいいとは言えない。

 

 遅れて戻ってきたアリサも、沈んだ表情だった。

 

「……いませんでした」

 

 懸念事項が当たってしまった。

 夏江アオバは、自室にはいなかった。

 部屋に荒らされた痕跡はなく、眠っているところを連れて行かれたのだろうことは容易に想像できることだった。

 

「……私は急ぎヨハンに彼女の行方を問い合わせてみるけれど……あまり期待はしないでほしい」

 

 九割五分、さらったのはヨハネスだろう。

 そのヨハネスに問い合わせたところで、まともな答えが返ってくるとは思えなかった。

 

「いえ、博士。僕達が勘付いていると支部長に知らせるのは不味い。一応人目を気にして走ってきましたから、僕達が計画を知っている、ということはまだ支部長には知られていないはず。

 ここは何も知らないフリをしておきましょう」

 

「……」

 

 真剣な表情で言うユウ。

 そんなことを気にして走っていたのかと戦慄するアリサ。底が知れないにも程がある。

 

「……そうだね、すまない。少し気が逸っていたようだ。

 君達も、知らないフリをしておいてくれたまえ。多分だけど、すぐにでもアオバ君の捜索命令が出るはずだから」

 

「……わかりました」

 

 自分で暗殺命令を出しておいて、捜索任務を出す。そして見つからない事でMIA扱いにして、捜索を中断させる。

 リンドウの時と同じだと、サクヤは気付いた。

 恐らくアオバは単独任務に就いていた事になり、その途中で行方不明になったことにされるのだろうことは簡単に想像できる。

 その横暴極まるやり方に、ギリと歯を噛みしめた。

 

「とりあえず解散しよう。いいかい、顔に出してもダメだからね?」

 

「えーっと……そんなにオレ顔に出やすいかな」

 

「出やすいですね」

 

「出やすいね」

 

 何故かコウタにだけ念押しするように言うサカキに、頬を掻くコウタ。

 彼が嘘を吐くに向いていない性格であることなど、この場の誰もが知っているのだ。

 自覚していないコウタを見て、不安になる一同だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『御目覚めかね、夏江アオバ君』

 

「……なんか用スか、変態」

 

『いやなに、君には定められた期間そこで過ごしてもらおうというだけだ。安心したまえ、最短で五日、長くとも二週間で終わる』

 

「……チッ」

 

 起きたら、見た事の無い個室にいた。

 どうやら俺は攫われたらしい。

 

 見た感じ、作りはペイラー・榊の研究室奥、つまりシオとリンドウが隔離されている部屋に似ているが、置いてあるモノは人間用だ。まぁ、感知遮断の部屋という所だろう。

 一応は婦女である俺が寝ている間にここへ移動させたということでヨハネス・フォン・シックザールを変態呼ばわりしてみたが、スルー。余裕しかない声色にイラっと来る。

 

「あぁ、クソ……そういうことかよ」

 

 ここまでされれば誰だって気が付く。

 あの時の呼び声で気付くべきだった。迂闊だった。

 

 今回は俺が特異点なのか。

 

『言ってくれれば食事や配給ビールは出そう。君はあまり読まないと聞いているが、雑誌の類いもある。シャワーやトイレも備え付けてある。他、不備があれば言うといい』

 

「シャワー室やトイレにも監視カメラあんのか? ハッ、とんだ変態親父だな」

 

『……そこには付けていないが、扉の方にはセンサーがある。出入りは記録させてもらうよ』

 

「なるほど、中で工作でもしていようものならすぐにわかるってか。そんなに俺が怖いか、ヨハネス・フォン・シックザール?」

 

 部屋についている監視カメラに目線を向けつつ笑う。

 

『そうだ。私は君が恐ろしい。故に、そこにいてもらう』

 

「……つまらん。挑発に乗れよな」

 

『生憎そこまで暇ではないのでね。それでは、しばしの休暇を楽しみたまえ』

 

 響いていた音声が切れる。

 舌打ちを1つして、横になった。

 人間の作る雑誌やバガラリーなんてものは興味が無いし、別に腹が減っているわけでもない。眠る以外の選択肢が無い。

 

「……」

 

 だが、これでシオを心配しなくてよくなった。

 むざむざ特異点になるつもりはないが、それだけは安堵できる点だろう。

 

 あとは、どうやってアーク計画を潰すかだけだ。

 どうせ神薙ユウは気付いているだろう。アイツは必ず間に合うはずだと、敵ながら信頼はしている。であれば、それに合わせてどうにか特異点から外れればいい。

 まぁ、最低五日は考える時間があるのだ。

 サマエルであった頃も、ルシフィルであった頃も思考を止めた事は無かった。

 なら、アオバとしても現状を考え続けるだけだ。

 

「キィ……」

 

 混迷は昏迷になったのだと、教えてやる。

 

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