昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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佳境


Suclagus

 

 ほとんどの神機使いは「対人戦闘」という物を経験した事が無い。

 対人経験があるのは極僅か――フェンリルから逃げ、追手と対峙した・逃亡者を追ったことのある神機使いのみだろう。

 シユウやヤクシャと言った人型のアラガミとは違う、パターン性の無い本当の対人戦闘。

 それは神薙ユウにとって、酷く戦い辛いものだった。

 

「くっ!」

 

「……」

 

 ナイフ新とナイフ新が高音を立てて擦れ合う。

 全く同一の動き。だが、ユウの方が大きく弾かれた。

 ユウの戦闘データと、ユウ以上の身体能力持っているらしい神機兵短剣型(キグルミ)

 そんな見た目だからか足音はしないし、呼気もないので動きが読み難く、恐らくスタミナは無尽蔵にあるのだろう事は容易に想像できた。

 

「なにより……バーストできないのは、キツいね……!」

 

「……」

 

 相手がアラガミかどうかも分からぬ今、捕食行動はただただ隙を晒すだけになりかねない。アリサの恐慌状態はまだ治っていないようだし、かといってユウが支部長の元へ行けば乱戦は必至。今でさえサクヤが支部長に狙われ、それを必死にソーマとコウタが引き剥がそうとしているところなのだ。

 近づくのは無理だろう。

 

「せめて……君がアラガミかどうかわかれば、いいんだけど……」

 

「……!」

 

 悪寒を覚え、バックステップで後退する。その、先程までユウの顔があった場所をナイフ新が薙ぎ払った。この速さには覚えがある。ユウも良く使う、アドバンスドステップだ。

 むしろ今まで使っていなかった理由は何なのか……考えるまでも無い。相手の意表を突くためだ。自分なら、そう考える。それが自身より下の実力の相手なら、なおさらに。

 

「戦闘データだけじゃなく、性格まで僕ってことか……はぁ。僕ってそんなに悪辣なことしているかなぁ」

 

「……」

 

 答えは無い。無いが、キグルミもまた「そんなにじゃないよねぇ?」とでもいう様に肩をすくめた。どうやら人格の様な物もあるらしい。それも、自分とよく似た。

 ――と、そこへ。

 

『――アルファ1っ! アルファ1の対峙している敵はアラガミです! オラクル反応照合、シックザール支部長が融合したアラガミを仮称アルダノーヴァとし、アルダノーヴァと同じオラクル反応を検知しました!』

 

 インカムから、竹田ヒバリの声が響く。

 ニヤリとユウの口角が上がる。

 

「……それは良い事を聞いた。ありがとう、ヒバリちゃん。これで存分に、ッ!」

 

「……!」

 

 嫌な予感がして、後方へアドバンスドステップをした。

 バンッ! という空気を叩く音と共に、キグルミから散弾が吐き出された。

 ショットガンだ。自身が使用した事の無いソレ。極東支部でも使っている者がいないために、どのような挙動をするのかわからない。

 

「そう簡単にはいかない、って? ハハ……それはこっちのセリフだよ!」

 

 スナイパーへ神機を切り替え、狙いを付けずに狙撃弾を放った直後にまた切り替え、斬りかかる。神業としか言いようのないそのユウの速力に、しかしキグルミは悠々と対処する。スナイパーから放たれた狙撃弾をナイフ新で切り裂き、斬りかかってきたユウの攻撃はバックラーでジャストガード、弾かれたユウへアドバンスドステップで踏込み、ライジングエッジ。

 

「あぐっ!」

 

「……」

 

 戦闘が始まってからの初のダメージにユウが苦悶の声を上げる。

 浮き上がったその身体にショットガンを構えるキグルミ。視界外で行われたその動作に、ユウは条件反射(・・・・)の如くバックラーを展開し、それを防いだ。

 

「ッ、いまのは……!」

 

 どこか、夢のような現実のような場所で経験した事だ。

 意識外からのショットガンによる攻撃。予想外のそれに無様に沈んだあの時。

 憶えている。自身と同じくらいに強かった、あのショットガン使いの少女を!

 

「……はは……! いつの記憶かわからないけど……有効活用させてもらおうか!」

 

「……!」

 

 両者はまた、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……! おい、避けろ!」

 

「キャッ!?」

 

「サクヤさん! くそ、こっち向けぇ!」

 

 ユウとキグルミが熾烈な戦いを極めている一方で、ソーマ・コウタ・サクヤ、そしてヨハネスの戦いは苛烈と称するべきものになっていた。

 先程インカムから流れてきたヒバリによれば、もうヨハネスと目の前のアラガミ・アルダノーヴァを切り離すことは不可能だという。

 

『アットウテキナチカラ!』

 

 確かにその動きは既にアラガミそのもの。その素早さに翻弄され、その攻撃力は今までのアラガミと一線を画した。だが、アオバを狙おうとするサクヤを見逃さずに妨害したり、コウタの攻撃に一切興味を示さなかったりと、ヨハネスであった頃の頭脳が消えたというわけではないらしいのだ。

 それが一層、サクヤとコウタの心を掻き立てる。相手をしているのが、人間に見えてしまう。

 

「おい……アレは、アラガミだ! あのクソ野郎じゃねえ!」

 

「わ、わかってる! おおおおおお!!」

 

「早くしないと……アオバが!」

 

 ドクンドクンという鼓動のような音は大きくなっている。

 これがノヴァの鼓動なのか、それとも他の何かなのかはわからないが、良いものだとは思えなかった。

 

『やはりそれが狙いか……無駄な事ヲ!!』

 

 男神を振りかぶったアルダノーヴァがサクヤに急接近する。

 避けられない。

 

 避けられ、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻らなきゃ……いけないのに……ッ!」

 

 カチカチと歯が鳴る。

 肩がガクガクと震える。

 

 暗示だ。

 これはただの暗示だ。

 ハンマーのような神機を持つ男を助けられなかった事も、ジーナ・ディキンソンが目の前で殺された光景も、ブレンダン・バーデルの身体がくの字に折れた時の音も。

 全て全て、暗示だ。

 自身が殺された記憶なんか、あるわけがない。

 

「そう……だから、そう、私は生きているから……」

 

 任務中、あの少女は何度も自身を救ってくれた。回復弾や受け渡し弾に始まり、味方の防御力を上げたりバーストさせたり、あのアラガミ(・・・・・・)とは全く反対の……自分たちを助ける行動をしてきた。

 

 両親を殺したアラガミが雨宮リンドウにすり替わっていたように。

 あの少女の一挙手一投足が、真逆の行為であると暗示されているだけなのだ。

 よく考えろ。良く考えろ。もっと考えろ。

 今倒すべきは、今為すべきはなんだ。

 

 今、助けるべきは誰だ。

 

「――アオバを、助けないと!」

 

 

 

「――そんじゃ、いっちょやろうぜ、アリサ。一週間分のメシの借り、返させてもらうからよ」

 

「色んな味、美味しかったぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルダノーヴァの振りかぶり。

 それは、例え受け渡し弾によるバーストを貰ったとしても避けられるものではなかった。

 あの巨体に、あの速度で殴られたならばサクヤの身体は持たない。鈍重なバスターや位置的に反対側にいたコウタでは届かない。

 唯一可能性のあったユウは封じ込まれている。

 

 万事休すか。

 

 否。

 

『ム!?』

 

 その横殴りを、黒く燃え盛る炎の剣が止めた。

 アルダノーヴァの男神と同じくらいの大きさのソレ。

 

「ゥォオオオオオオオ!!」

 

『ナンダト!?』

 

 それは雄叫びと共に、アルダノーヴァを押し返す。

 さらにはアルダノーヴァの足元に黒い渦巻が現れ、アルダノーヴァが危機を悟って飛び退いた瞬間、轟ッ! と、黒い炎の竜巻が出現した。

 それは数秒で晴れて散らばり、消える。

消えた黒い炎の竜巻の向こうに、黒い炎剣を構える男の姿。

 右目から右手にかけてを真っ黒に染めた男。身の丈の三倍はあるだろう炎剣を両腕に携え、サクヤを守るかのような位置取りでアルダノーヴァと対峙する。

 

「よォ……久しぶりだなぁ、支部長さんよ」

 

『雨宮少尉……イヤ、ナンドモミタ……黒キ竜!!』

 

「おーおー、有名になったもんだなァ、俺も。

 ……サクヤ。命令は一つだ。……アオバを起こせ!」

 

「ぁ……」

 

 小声でそう言うリンドウに、驚きから固まっていたサクヤが目を見開く。

 見た目も、思考も、もう人間ではないのかもしれない。

 それでも……彼は雨宮リンドウだった。

 

「皆さん! ご迷惑をおかけしました! アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、復帰します!」

 

 さらには、凛としたその声が響く。

 同時、各人に受け渡し弾が発射された。

 濃縮アラガミバレットは、ザイゴートのもの。

 

「その辺で狩ってきました!! 沢山あるので、バーストは任せてください!!」

 

 そのあまりにもな物言いに笑みをこぼす面々。

 依然としてキツい状況であるのは間違いないが、二人の救援は何よりもの心の支えになった。

 

 さぁ、再開だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは……」

 

「……!」

 

 アリサからの受け渡し弾でバーストLvを3まで引き上げたユウはキグルミを果敢に攻める。だが、キグルミもまたさることながらその一切合財を相殺してきた。今までが手加減されていたかのような動きに、流石に歯噛みするユウ。

 そこへ、

 

『フッ!』

 

「……!?」

 

 風圧に驚く様にしてアドバンスドステップによる回避行動をとるキグルミ。振り返るが、そこには誰もいない。

 

「おや……いいのかい? 君はリンドウさんと一緒にいたいんじゃなかったかな」

 

『もうリンドウに僕は必要ありませんから。既に僕とリンドウは対等だ。だからこそ、君の方へ援護に行っても問題はないんですよ』

 

「……?」

 

 誰もいない虚空へ向かって話しかけるユウ。

 だが、キグルミに刻まれたユウの性格と戦闘データはそこにナニカがいる、という事だけは気付いていた。

 

「君達は味方だと、そう考えて良いんだよね?」

 

『はい。少なくとも今は、そう考えてくれて構いませんよ。僕達もアオバさんが大切ですから』

 

「……」

 

 ガチャ……とショートをショットガンに切り替えるキグルミ。

 見えないのならば、面で制圧するまでだ……とでも考えたのだろうと、ユウはキグルミを分析する。一度でも被弾させてしまえば大まかの形や大きさを察するには十分だからだ。

 ユウは笑みを深める。

 

「今だけでも……十分!」

 

 自分一人で格上の自分に勝てなかったのは残念だが、今はアオバの救出が最優先だ。

 ショート三人、高速の世界で雌雄を決するとしよう。

 

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