昏迷を呼ぶ者   作:飯妃旅立

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ちょっと遅れました


この状況がフラッシュグレネード

 

「はぁ……」

 

「どうしたんだい、アオバ。溜息なんてついて」

 

「……」

 

 上目遣いで、しかし殺意の籠った睨みを向けてきたアオバ。

 アオバは何も言わずに昇降機へと入って行った。

 視線に込められた意味は恐らく、「お前のせいなんだがな」だろうね。

 

「うーん、上手く行かないなぁ」

 

「よっすユウ。どした? お前が溜息って、かなり珍しいんじゃない?」

 

「あなたと一緒にしないでください。リーダーはあなたと違って悩み事も沢山あるんです。あ、私で良ければ、その、相談に乗りますよ」

 

「ひでぇ……」

 

 コウタとアリサが話しかけてきた。

 この2人も随分と余裕が出てきたというか、しっかり実戦経験を積んでいっぱしの兵士になってきたなぁとしみじみ思う。僕と同期なんだけどね?

 アリサも、だいぶ落ち着いてきたし。

 

「うん……まぁ、アオバの事だよ。この前一緒に任務に行くことがあったんだけど、「そんなに僕の事嫌い?」って聞いたら「大嫌いだ」ってはっきり言われちゃってね……。リーダーとサブリーダーの関係と割り切るにしても、もう少し近づけなきゃ連携も取り辛いだろうし、なんとかできないかなぁって」

 

「あー……アオバかー……」

 

「私も、仲良くしたいんですけど……当の本人が……」

 

 そうなんだよねぇ。

 取りつく島もないというか、むしろねずみ返し張りに境界を引いているというか。

 こっちがどれほど頑張っても踏み込めそうにないというか。

 

「あ、でも俺リッカちゃんから聞いたんだけどさ……アオバが、神機保管庫近くで誰かと談笑してたらしいよ?」

 

「え……え? アオバが?」

 

「俺も聞いた時は聞き間違いじゃないかっておもったんだけど、間違いないらしくてさ。神機保管庫の出入りの記録は取ってあるからアオバなのは間違いないらしいんだけど……」

 

「だけど?」

 

「うん、その相手が誰なのかわからないんだって。記録に残ってないから、アオバが独りで笑ってたんでもなければ、神機相手に話しかけてたんじゃないかってリッカちゃんは言ってたけど」

 

 ――……。

 

「流石にそれはないかと……リーダー?」

 

「うわー……ユウがサカキ博士ばりの笑顔を浮かべてる……」

 

 なるほど、なるほどね。

 心当たりがあったよ。アオバ、君はあの子が見えるのか。

 

「ふふ……ちょっと、僕は行く場所が出来たから、行ってくるよ」

 

「お、おう……進展したら教えてくれよな!」

 

「リーダー、私も付いて行っていいですか?」

 

「ちょおっ!?」

 

「うーん、来ても何が起こってるかわからないんじゃないかなぁ。……まぁ、止めはしないけどね」

 

 まさかアリサにあの神機へ触ってもらうわけにもいかないしね。

 さて……話を聞きに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、アオバ。こんな所で何をしていたんだい?」

 

「……楠リッカか」

 

 迂闊だった。

 考えればわかることを。馬鹿か、俺は。

 浮かれ過ぎだ。

 

「おっと、リッカちゃんは何もしてないよ。だからそんな怖い顔をしないでくれるかな」

 

「……別に、楠リッカをどうこうするつもりはないさ。自分の愚かさを嘆いてただけだよ」

 

 コイツが訪ねてくる、という時点で、コイツの中で結論は出ているのだろう。

 入隊してから短い間しか会話らしい会話はしていないが、それくらいはわかる。

 なら、誤魔化す方が無駄だ。

 

「……本当に見えているんだね」

 

「話が早くていいだろ? で? 見えてたから、なんだ?」

 

「事を早急に進め過ぎだよ、アオバ。別に見えているからって何もしないさ」

 

 そう言ってニコニコと笑う神薙ユウ。

 信用ならねぇ。

 

「本来は第一部隊の隊長として不審な所作のある隊員を支部長に報告する……くらいは、やるべきなんだろうね。けど――トップが最も不審ときたものだから、僕はこの事実を内に潜めておくことにするよ。これで納得してくれるかい?」

 

「……特務か。大方、ペイラー・サカキの遺したディスクでも見たか?」

 

「……驚いたな。流石にそこまで見通されるとは思ってなかった……うん、話が早くていいね。そこにいる子含めて――どうかな、共犯者(・・・)にならないかい?」

 

 これだから。

 これだから――こいつは、

 

「嫌いだな……」

 

「ひどいな」

 

「嫌いだが、良いだろう。俺としてもあの支部長は無益だと感じていたし、斬り捨てた方がメリットは大きい。俺の大切な物を狙った報復もしなけりゃならんしな」

 

「大切な物? ……アオバにそんなものあったんだ。意外だけど」

 

「意外だろうな。遥か(・・)少し前の俺には無かったものだが、案外これが心地いい。なるほど、自らの死を省みずとも守りたくなる気持ちというのはこういうものかと、ようやく理解できた気分だ」

 

「不思議な言い回しだね。まるで、アオバには人間じゃあ無かった時でもあるみたいだ」

 

「さてな。こんなものを振り回している時点で、俺達は真っ当な人間じゃあないのは確かだろうさ」

 

 こんなもの、と。

 雨宮リンドウの神機を手の甲で叩く。たとえこんな一瞬の接触であっても、本来ならば浸食が起きかねないソレ。

 それに対し神薙ユウが驚く前に、『こんなもの』と言われた事に不服がある存在が不満をあげた。

 

『酷いなぁ。こんなものって……これでも、神機たちはみんな神機使い(きみたち)の事を大事に思っているんですよ? たとえ投げられたり蹴られたりされようとも』

 

「すまんすまん。俺が言いたかったのはオラクル細胞を、ってトコだ。どうせ、ソーマ・シックザールのマーガナルム計画も見たんだろう? あれとは少し偏食傾向が違うとはいえ、似たようなモンが俺達にゃ詰め込まれてんだ。この神機と腕輪から、な。真っ当な人間とは言えないだろ」

 

『サ……アオバさんは結論が極論過ぎますよね。1か2……いや、0か100しかない』

 

「これでも丸くなった方なんだぜ?」

 

 昔は殺せない(0)殺す(100)かだったわけだしな。

 今はちょっと違う。

 

「……談笑していた、と聞いていたけれど……本当に仲が良いんだね。皮肉気味とはいえ、心から笑ったアオバなんて初めて見たよ」

 

「そりゃ、嫌いな奴らに囲まれてる状況で威嚇以外の目的で笑う奴なんかいないだろ」

 

「はは……所で、どうしてその子が見えているのかとか、なれ初めとかは……教えてくれるのかな?」

 

『それは……』

 

「俺がこの極東支部をぶらついてた時に、こいつが声をかけて来たんだよ。『少しいいですか? ちょっとお話良いですか?』ってな」

 

『ちょ……』

 

 昔でこそあの姿だが、今は曲がりなりにも少女の身。

 まるでナンパだな、こりゃ。無論、コイツに性別もへったくれもないだろうが。

 

「……余程その子に気を許しているんだね、アオバ。君……レンと言ったかな。参考までに、アオバに心を開かせる方法を伝授してくれないかい?」

 

『あなたには一生無理だと思いますけど……』

 

「その通りだな。ま、支部長の件は利害の一致で協力してやるが……俺はお前も、お前達も仲間だとは思っちゃいねぇ。それを念頭に置いて行動してくれや」

 

「……道は険しいなぁ」

 

 険しいんじゃなくて断崖絶壁なんだよ。

 道なんかないんだよ。

 

「監視の目は潰してあるが、楠リッカの件もある。事を起こすんならレンに託けしろ。そうすりゃ、誰にもバレずに俺に伝わるからな」

 

『僕は機密メール扱いですか? それならまだこんなもの、って言われた方がいいなぁ』

 

「見える奴がいないってな、それだけでアドバンテージだろ」

 

「……それについてなんだけどね?」

 

 神薙ユウが、珍しくばつの悪そうな顔で……神機保管庫の入り口を見る。

 そこには同じくばつの悪い顔をした存在が居た。

 

「……アリサ・イリーニチナ・アミエーラ」

 

「その……盗み聞きするつもりはなかったんですけど……」

 

「あはは、ここまで話が早いと思ってなくてね……アリサ、他言無用なのはわかっているよね?」

 

「は、はい! それは言いませんけど……リーダー、アオバ。そこにいる(・・・・・)のは何なんですか? 見えませんけど……何か、いますよね」

 

 その言葉に、俺も、レンも、そして神薙ユウも目を見開いた。

 神薙ユウはその身に雨宮リンドウの神機――つまり、レンの偏食因子を入れた。

 故に神薙ユウの側でレンは出現できるし、神薙ユウは声や姿を認識できる。俺はまぁ、言わずもがなだが。

 

 だが、アリサ・イリーニチナ・アミエーラは違う。

 何故……。

 

『僕は確かに僕の偏食因子を持っている人にしか認識できないけれど、物質界には存在しています。恐らく、彼女は僕が干渉する外界の変化を感じ取った……ということかな?』

 

「それが本当だとすれば、慧眼というより魔眼だな……。お前が外界に及ぼす影響を見抜く? は、流石は極東人ってところ……あぁいや、アリサ・イリーニチナ・アミエーラは極東出身じゃなかったな……」

 

「だってリーダーもアオバも虚空に向かって喋っているし……それに、先程リーダーが『君、レンって言ったかな?』と言っていた辺り、少なくともアオバとリーダー以外の誰かがいるのはわかりますから」

 

「キ……なんだ、そういうことか」

 

 なんだ……俺達のミスか。

 そうだよな。何もないトコに喋ってる奴が2人いたら、集団幻覚か集団妄想か、どちらでもなければそこに見えない何かがいるって考えた方が普通……か。

 普通か?

 

「それに、その……失礼ですけど、リーダーだけじゃアオバをああいう風に笑わせられると思えなかったので……」

 

「キ……正解だ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。それで? 他言無用にしてくれるならありがたいが、お前は何か思わないのか? 俺とコイツが叛逆を企てている事についてとか、俺がお前達を仲間と思っていない事に付いて、とか」

 

「……その、私も……支部長には、不信感を覚えていたんです」

 

「へぇ?」

 

「以前病室で……サクヤさんと話をしました。あの時、私が陥った病状……そして、あの日の任務記録が抹消されている事実。任務記録の抹消なんて、できる人は限られてくる……私に対する洗脳も、同じ。そしてロシア支部に問い合わせた所、私を呼びこんだのは他ならぬ支部長だとわかりました。私の主治医についてくるように言った人物も」

 

 ……正直、驚いた。

 行動が早すぎないか。俺の記憶に在る限り、この時期はまだヨハネス・フォン・シックザールはおろかオオグルマ・ダイゴにすら辿り着けていなかった気がするんだが……。

 まさか、こいつにもあるのか? 

 

「僕の方も、半ばサカキ博士に誘導される形だったけれど……支部長の隠してきた真実がどういうものなのか掴んでいるよ。あの計画については僕が思う所は無いけれど、それによって害される人々が多すぎるのは少し、ね。救命ボートに航海士がいるのは良いけれど、何も船に在る他のボートを潰す必要はないと思うんだ」

 

『そもそも僕達神機にとっては、あのやり方は裏切りに近い。ゴッドイーターも神機も切り離すなんて、僕は認められませんよ』

 

「それと、アオバが私達を仲間に思っていないというのは……私は、あなたにそれだけの事をしてきましたから。これから、取り戻していくつもりです」

 

「は?」

 

 ……あー。

 そういう。

 そういう勘違いイラナーイ。

 

「アリサ。アオバには何か、支部長に敵対してまで守りたい大切な物があるらしいんだ。多分攻略のカギはそこだと思うんだよね」

 

「先程の話ですね。アオバの口から『大切な物』って言葉が出てきた時には驚きましたけど……案外、家族なんじゃないかと思っています。あの時の声色は、普段からは考えられないくらい優しかったですから」

 

「家族。家族か。なるほどね……うん、やっぱりアリサがいてよかったかな」

 

 本人を前にしてそんなことを話し合う奴ら。

 まぁ、間違っちゃいない。確かに家族だ。

 

『……所で、いいんですか? 流石に2時間もここにいたら、怪しまれるんじゃ……』

 

「キ……マジか。もう2時間も経ったか……んじゃ、そろそろけーるわ。またな、レン」

 

「僕も戻ろうかな……アリサ、後で僕の部屋に来てくれるかい?」

 

「はい。……アオバ! ……その、あなたは、絶対に死なせませんから!」

 

「……?」

 

 え、なに?

 何の話?

 

「今度こそは……私の手で、あなたを守り抜いてみせます!」

 

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラは決意の瞳と共に宣言する。

 

 俺はアリサ・イリーニチナ・アミエーラと共にでて行こうとしていた神薙ユウの首根を掴み、引っ張った。

 引っ張って顔を近づけ、問いただす。

 

「……おい神薙ユウ。一体何を吹き込みやがった」

 

「それが僕もわからないんだよね……原隊復帰してから、ずっとあの調子で……。憶測だけど、リンドウさんを自分の手で殺してしまったと思っているから、同じく閉じ込めてしまった君を守りたい……って所じゃないかなぁ」

 

「本当に憶測かソレ。具体的過ぎるだろ」

 

「一応事情は聴いたからね。アリサの記憶に在る両親の仇のアラガミがリンドウさんにすり替わっていた事と……アリサが、君に似たアラガミに殺されたっていう記憶がある事。どっちも洗脳だとしたら、確かにリンドウさんと君は狙われていた事になるだろ?」

 

「――……!」

 

 やっぱり……あるのか、記憶が。

 前回の記憶……いや、そうか。確かにオラクル細胞が流転しているのだとしたら……同じ人間の僅かな、本当に僅かな偏食傾向の差異によって個を識別し、同じ奴に同じオラクル細胞が宿っても不思議じゃあない。

 

 シオやレンがはっきり覚えていたのは全身がオラクル細胞であるから……雨宮リンドウも、半身が、というかそろそろ全身が”そう”なるだろうから記憶の引継ぎが完全であってもおかしくはない。

 つまるところ、ゴッドイーターという種――身体に少しでもオラクル細胞を入れている存在は、前回を覚えている可能性がある、ってことだよな。

 

「君もリンドウさんを引き継ぐ形で特務を言い渡されたらしいじゃないか。狙われている可能性は、零じゃあないと思うよ?」

 

「……だが、俺を狙って何になる?」

 

 つまり……オラクル含有率が高い奴ほど覚えている可能性が高いってわけか。

 ゴッドイーターだと……台場カノンとソーマ・シックザールが危ないな。あぁ、ソーマ・シックザールの「お前は人間を何だと思っていやがる」って問いは……もしやそう言う事か?

 逆に、大森タツミはいいとして……引っ込み思案な台場カノンまでもが俺についたのも、何か洗脳を受けている、みたいな勘違いをしている可能性も出て来たな。

 

 いやはや……面倒な。

 

 

「――ほう。お前達、そこまで仲良くなっていたのか。隊長と副隊長の関係が劣悪だとコウタから相談を受けていたが……どうやら杞憂だったようだな」

 

「あ、ツバキさん」

 

 確かにアリサ・イリーニチナ・アミエーラに聞こえないよう物理的に急接近したのは事実だが、仲良くなってなんかいない。

 もっとも、雨宮ツバキもそれを見越してのからかいのようだが、存外面倒なからかいをしてくるものだ。

 

「あはは、そうだったら良かったんですけどね」

 

「なんだ違うのか。つまらんな。……まぁいい。夏江アオバ。サカキ博士がお前を呼んでいる。至急、ラボラトリに向かうように」

 

「……? はい」

 

 なんだ?

 何用だ?

 

「じゃあね、アオバ」

 

「アオバ、また」

 

「へいへい」

 

 ……なんだかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー! サマ……あおば! 久しぶり、だな!」

 

「よ、元気にしてたか? サマ……アオバ」

 

「酷いじゃないかアオバ君。人に近づいたアラガミの少女と、理性を取り戻したリンドウ君に出会っておいて……秘密にしておくなんて。それも、こんなに仲良くなっているなんて」

 

 扉を閉めたくなった。

 












もう皆さんお気づきかと思われますが、夏江アオバって名前は

夏=サマー+江(ル)
アオバ→"アバ"ド"オ"ン
です。
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