『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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 オペレーション・アナストモーシス 部隊編成

○陽動部隊(※実質的な囮部隊)

・凱龍輝 参戦機体及び操縦者

 070-2号 ハリエット・ブルックス中尉

 070-3号 ランドルフ・カークパトリック曹長

 070-5号 P・リョウザブロウ ゾイテック社員 義勇兵・軍曹扱い 

(070-1号は不参加。070-4号は予備機として塗装するもバスタークローは装備せず)

・ライガーゼロ(CASの換装なし)×3 操縦者

 レイ・グレッグ少尉(※中尉より降格)

 バーナード・ブロディ少尉

 エドワード・ルトワック曹長

・シールドライガーDCS×3

○空挺部隊(※凱龍輝の輸送)

・バスターイーグル×3 小隊長ヴァレリアノヴィッチ・タタリノフ飛曹長

○鹵獲部隊

・ウルトラザウルス・ザ・キャリアー 司令官 ロブ・ハーマン少将

・エヴォフライヤー×2 操縦者

 BZ-019-2 マーチン・ファン・クレフェルト軍曹

BZ-019-3 エルンスト・ローレンス伍長

・機動陸軍第十一独立装甲大隊付特殊工作部隊

 指揮官 エーディット・ユングハウス大尉(以下42名)

 

「バスターフューラーと名付けました」

 中央大陸よりオコーナー海峡を望むフリティヨフ半島のナンセン岬で、チューキョンは灰白色の凱龍輝を誇らしく見上げていた。背部にダミー装備されたバスタークローをも圧してマグネッサーウィングが覆い被さるバランスを欠いた装備ではあるが、それでも彼女が満足し切っている様子が伝わる。

「タケオさんやベルナー(バラクリシュナン)たちとのコンペを思い出します。

 結果的にモデルケースとして私のコンセプトが実現できたのはとても嬉しいです」

 二郎には、充実した彼女の笑顔がまた嬉しく思えた。

 凱龍輝070-5号のコクピットよりリョウザブロウが出撃の合図のサムズアップを行う。名目上、小隊指揮官は中尉のブルックスだが、凱龍輝の機体特性及び戦闘キャリアから判断して中尉はあっさりと指揮権をリョウザブロウに委任した。「指揮権は預ける。しかし責任は自分が負う」。形式に囚われず最善策を採用する。二郎はヘリック共和国の強さの一端を垣間見た。

 翼を授けられた凱龍輝がシーフォッグに沈むオコーナー海峡に向け飛び立って行くのを見送る。その先には、ライガーゼロを主力とした陽動部隊が待機している筈である。

「エヴォフライヤーへ。次の準備だ」

 二機の小型ブロックスは、飛行形態に変形すると凱龍輝の方向と直角に屈曲し飛翔していった。

 

 マルガリータ暖流の還流により、中央大陸北東部に位置するオコーナー海峡は通年深いシーフォッグに覆われる。アクア海とシート海を繋ぐこの狭隘な海域から、突如鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)を名乗る緊急電文が発信された。

『我レ鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)バーサークフューラー部隊。潜行活動中オコーナー海峡〝フリティヨフ半島〟ニテ敵ニ遭遇。反乱軍所属ライガー多数ニ包囲サレ孤立、至急救援サレタシ。繰リ返ス。我レ鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)……』

 電文を謀略と知る者にとってはあまりに露骨であり、敵がこれほど粗雑な策に騙されるとも思えない稚拙な文章であった。

 しかし発信十分後、オコーナー海峡に向けドラグーンネスト一隻が移動を開始したとの報告が入る。オペレーション・アナストモーシスの「第二段階」が達成されたのである(「第一段階」については後述)。

 一見杜撰な策略に思えるが、共和国軍諜報部隊は敵を誘き寄せる〝餌〟を幾つか準備していた。無論一つ目は包囲されたという〝バーサークフューラー〟である。先に記したようにデスザウラー復活計画の過程で副次的に生み出されたこのゾイドは希少種であり帝国軍にとっても一機でも多くの機体を確保が望まれた。

 二つ目は発信された暗号電文がネオゼネバス帝国制式軍とは異なる鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)固有の極秘暗号であったことだ。意外だが、私設軍として暗躍してきた鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)はゾイドの装備や兵員整備に力を入れたため暗号などの情報技術力は脆弱であった。鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)の暗号は旧ゼネバス帝国のそれに準じる前時代的なもので解析はさほど難解なものではない。それはヴォルフ、そしてプロイツェンにとっての限界であったと言えよう。

 共和国軍は早期にガイロス帝国軍内で暗躍する謎の部隊の存在を把握しており、可能な限り情報の収集に努めていた。正体を掴むことのないまま共和国政府は崩壊するが、無作為に収集した全ての情報は共和国軍データーバンクに蓄積、謎の部隊=鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)が使用した暗号は共和国諜報部によって解読され、そのコード表もデーターに含まれていた。プロイツェンの叛乱及び爆死以降露見した鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)の出現によって全てを理解した共和国臨時政府は、暗号コードを最重要機密として来るべき大戦略の機会まで解読の事実を隠し続けた。ネオゼネバス帝国が中央大陸全土を制圧し、ヴォルフ・ムーロアの第二代ネオゼネバス帝国皇帝就任によって鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)の作戦行動も減少したことで共和国軍の奥の手と言える最重要機密は永らく凍結されていたが、(こと)ここに至りドラグーンネスト鹵獲という破天荒な謀略計画を遂行するために遂に禁を解いたのである。

 三つ目として、この暗号が発信された時点で帝国軍及び帝国皇室は動かざるを得なかったことだ。悩ましいことに()の若き皇帝は時折隠密裏に鋼鉄師団(アイゼンドラグーン)を率いて戦場に現れることが幾度もあった――あたかも敵陣にいる好敵手を探し求めるように。若き皇帝は往々にして飾り気のない言葉を語る事例も踏まえ、敢えて稚拙な暗号電文を発信することでより緊急事態の信憑性を高めたのだ。

 帝国内に戦慄が奔った。もしフリティヨフ半島で孤立したというバーサークフューラーに本物の皇帝が搭乗しているとすればネオゼネバス帝国全軍を挙げてでも救援しなければならないが、本物という確証もない(隠密行動ゆえに皇室内でさえ同時刻の皇帝の所在は未確認であった)。共和国軍制圧圏にある発信地点への到達は当然困難を要する。最低でも中隊規模の攻撃部隊を隠密裏に派遣する必要があると分析した帝国海軍は、セシリア湾近くを遊弋していたドラグーンネスト『フェルトフォーファー・キルフェ』を急遽オコーナー海峡に差し向けた。

 共和国軍が作戦を成功に導く最低条件は、アクア海付近の三隻のドラグーンネストを充分且つ確実に分散させることであり、共和国軍諜報部は敵の配置に細心の注意を払い偽装電文を放った。当時『フェアデシュタール』は共和国海上部隊を追ってフロレシオ海に進出し、また『トイフェルスカマー』もマウント・ジョーより出現したハンマーヘッド部隊に吊られ大陸南東部へ移動、これもまた陽動である。つまりオペレーション・アナストモーシスの「第一段階」の完了であった。

 単艦を以て目標地点に移動する『フェルトフォーファー・キルフェ』(以下、〝キルフェ〟と呼称)は、よもや自艦が鹵獲の標的であると知らず誘引にされていた。

 オコーナー海峡付近に接触したキルフェのレーダーは、半島の海浜部に幾つかの金属生命体の影を捉える。乳白色の霧に閉ざされる目標地点に向けステルス性の高いグレイヴクアマを偵察に出した。

 濃霧による数十mの視界のなか、グレイヴクアマはバーサークフューラーと思しき機体とライガーゼロ及びシールドライガーらしきゾイドが激しい戦闘を繰り広げているのを確認した。

 

 バスターイーグルによって空挺された凱龍輝は手筈通りにライガーゼロとの疑似戦闘に突入するが、陽動とはいえ次第に迫真の格闘戦へ移行していた。

 近親憎悪、或いは同族嫌悪と呼ぶべきだろうか? 濃霧の中、野獣の本能を剥き出しにした激闘が繰り広げられる。CASシステム対応のフレーム構造を持つ両機の格闘性能は従来のゾイドに比べ群を抜く。打ち込まれるストライクレーザークローを咄嗟にかわし、凱龍輝のクラッシュテイルがゼロの爪を払い除ける。一瞬体勢を崩したものの、ネコ科特有の柔軟性により地上に四肢をついて着地すると、その僅かな間合いを狙って凱龍気のキラーファングがゼロの頸部目掛けて噛み付こうとした。

 牙には牙。逆に姿勢維持に伸ばしておいた凱龍輝右腕のバイトクロ―がゼロのレイザーファングに噛み付かれた。

 無線封鎖中のため周囲からの停止命令は届かず、真剣勝負にしか見えない戦闘は続く。リョウザブロウもレイも、ゾイド乗りの意地と久しぶりのバトルに陶酔していたとしか思えない。

 全身を板バネの如く張りつめ鋼鉄の獅子を弾き飛ばした凱龍輝は、右腕装甲の傷を一瞥すると脚部ダンパーを伸ばしホバー走行でゼロへ突進する。俊敏性に勝るゼロが擦れ違いざまに凱龍輝を後肢で蹴り上げると、ダミーのバスタークローが破片を撒き散らして離脱した。

 龍と獅子との格闘の様子に、グレイクアマは無線封鎖を解き平文で発信した。『バーサークフューラーを発見、至急救援を求む』。

 

 定石であれば、ドラグーンネストはネプチューンとポセイドンを分離し本体と共に包囲戦を挑むべきであった。しかし濃霧の中分離したハサミを再び接舷させるのは、ブロックスゾイドの普及によって削減された艦内作業員に過剰な負担を強いる。キルフェは分離をせずに戦闘が行われている半島付近へ上陸する。

 ドラグーンネスト接岸を察知し、作戦は第三段階に移る。巨大ザリガニの背後から、海中に身を潜めるウルトラザウルスが接近していた。

 

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