『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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「直撃ヲ受ケタ(集光パネルの)〝保護シート〟ガ溶ケルト、溶ケタ〝シート〟ノ下カラ露出シタ〝パネル〟二光ノ粒ガ吸イ込マレテイクヨウニ見エタ。サスガ〝バーサークフューラー〟ノ集束荷電粒子砲ダケアッテ、〝アキュムレイター〟ノ〝ゲージ〟ガミルミル満タサレタ。

 荷電粒子砲ヲ浴ビルノガコンナニ嬉シク思エタコトハナカッタ。タチマチ(アキュムレイタ―が)〝フルゲージ〟ニナッタ凱龍輝ノ前ニハ、〝フューラー〟ガ呆ケタミタイニ棒立チシテイタ。凱龍輝ヲ発射形態ニシ、〝エネルギー〟ヲ使イ果タシタ〝フューラー〟目掛ケテ、自分ハ蓄積シタ〝エネルギー〟ヲ含メ集光荷電粒子砲ヲ撃チ放ッタ。

〝バーサークフューラー〟ダケデナク、〝ディプロガンズ〟〝ディアントラー〟〝シュトルヒ〟ガ集光荷電粒子砲ノ奔流ニ巻キ込マレ、同時ニ爆発シテイタ」

※凱龍輝070-3号搭乗、ランドルフ・カークパトリック曹長の戦闘報告書より抜粋。

 

 ドラグーンネスト『ルイーズ・エレナ・キャムフォード』(以降『ルイーズ』と表記)と凱龍輝一個小隊でのクーパーポート奇襲作戦は、凱龍輝の華々しい戦果を戦史に刻んで終了した。ノヴァヤゼムリャ製作所を奇襲したオットー・シンデウォルフ少佐が率いたキメラブロックス部隊は戦闘記録を送信できずに全滅していたため、ネオゼネバス帝国軍が初めて公式に接する凱龍輝の脅威であった。敢え無くクーパーポートを明け渡し脱出した帝国軍残存部隊はレッドリバー沿いに北上、レッドリバー支流のグレイリバー水源にあるグレイ砦駐留部隊と合流、併呑される。

 一方共和国軍は奪還したクーパーを足掛かりに一大反攻作戦を開始する。反攻部隊の先陣には、常に黄金のパネルを輝かす蒼き龍、凱龍輝の雄姿があった。

 

 赤道直下のフロレシオ海上、ウェストリバー製作所より出港したドラグーンネストにはプロトレックスベースの新たな凱龍輝と、飛行ブロックス・フェニックスが満載されていた。戦略技術部の要請により仮称〝凱龍輝2型〟の実戦検証を請け負った事実上フリーランスの二郎と、武器開発局の指示を受けゾイテック社員としてフェニックスとライガーゼロとのチェンジマイズの整合性を確認する任を負ったチューキョンが、東方大陸に向かう『ルイーズ』に同乗を願うのは必然であった。赤道越え祭りを機会に艦長のローレンス・アーベルクロンビー少佐を媒酌人として開かれた祝賀会は、二人にとっても同乗した兵員達にとっても記憶に残るイベントとなった。

『ルイーズ』の艦内で祝福の歓声が響き、狭隘なブリッジ中央通路をありあわせの紙吹雪とありあわせのブーケを携えた男女が肩を寄せて歩んでいく。

「おめでとう、主任さん!」

「チューキョン、お幸せに!」

 婚約を公言した二人へ無数の祝辞が贈られる。

「主任、艦内恋愛は軍紀違反だぞ!」

「部下に手を出すのは越権行為だろ、主任!」

 いつのまにか「主任」と呼ばれていた二郎へは、数少ない女性乗員のチューキョンに秘かに憧れていた男性乗員から半ば怒号にも似た賛辞が投げ付けられていた。

 輸送任務とはいえ作戦行動中であり、喧噪の宴は数分の内に閉じられた。余韻を味わう暇もなくブリッジは無機質な警戒態勢に移行する。各々が配置に戻り、二郎も中央格納庫に積載された凱龍輝群をキャットウォークより見下ろす位置で私物の情報端末を確認する。出港前に受け取った戦略技術部事業部門長ユルジス・バルトルシャイデスの通知書には、凱龍輝の1型と2型の能力差を詳細に報告せよという主旨が記されていた。

 コクピットレイアウトを含め外見上差異のない1型と2型は機体ナンバーで判別される。先行試作機及び先行量産機は070-xx(xx=製造順の通し番号)だが、2型の場合70-yy(yy=1型からの通し番号)となり、最初の0を省略している。これは操縦者に機体の違いを伝えないことにより性能差を先入観無しに分析させるための措置であり、共和国軍内部でも現時点で知る者は限られていた。

 二郎はメールに添付されている文書データに気付く。差出人はクヌート・ルンドマルクとあった。

恋敵(こいがたき)に塩を贈ります。お幸せに〟

 続く補給物資のコンテナナンバーが記載されていた文字列に目を見張る。

「これは……」

「本社から、グレイ砦包囲部隊にいる懲罰部隊にフェニックスを配備しろという連絡を受けました」

 反対側のキャットウォークより現れたチューキョンの問いかけに二郎の独白が中断された。

「オペレーション・アナストモーシスで一緒に戦ったレイ・グレッグ少尉達の部隊だろう」

「ライガーゼロ・フェニックスは間違いなく優秀なゾイドです。それなのにあの子たちが懲罰部隊だなんて……」

 自分の開発したゾイドに絶対の自信を持つ彼女にとって、過酷な任務に従事させられる懲罰部隊へのフェニックス配属は不満であった。

「私自身のエゴを否定しません。敵のゾイドは傷つけても自分の作ったゾイドが傷つくのは嫌というのがダブルスタンダードであることも認めます。でも、みすみす破壊されるための出撃なんて……」

 身体を傾けるチューキョンに、二郎は咄嗟に端末を持った右手を上げて胸のスペースを空けた。抱擁した彼女の身体からスピンドル油の匂いが漂う。

「精強な新鋭ゾイドを配属するのは懲罰とは思えない。もしかすると懲罰任務は終わったのかもしれません。きっとグレッグ中尉達へこれまでの慰労を込めてフェニックスが送られるのですよ」

 二郎は彼女の背中に左手をまわし抱き寄せ静かに語り掛ける。チューキョンは軽く目元を拭い顔を上げた。

「ごめんなさい、主任……二郎さんに迷惑かけて」

「お互いの弱い部分を補うのも必要だと思っています。大丈夫、君が育てたフェニックスと僕の凱龍輝とが一緒ならどんな敵でも倒せます」

 軽いキスを交わし、再びチューキョンは分解収納されているフェニックスのコンテナチェック作業のため格納庫後方へと去って行く。その時二郎の鼓動は高まっていた。残念なことにフィアンセとの抱擁ではなく、ルンドマルクからの贈与品によって。

 

 クーパーポートに接岸した『ルイーズ』は搭載していたゾイド群の陸揚げ作業を直ちに開始した。作業中に二郎はローレンス艦長に乞われ、数人のブリッジ要員と共にクーパー守備隊の仮設司令部へと赴いた。

「ポセイドンとネプチューンでのグレイ湖までのフェニックス輸送は可能か」

 クーパー守備隊の暫定指揮を司るユータス・ダインコート中佐は二郎を目にするなり告げていた。

 フェニックスのAI(artificial intelligence)は、先導機が有人であれば航続距離の80%程度まで自律飛行は可能であるが、今回移送されたフェニックスの数は中隊規模の30機に及ぶ。飛行領域(フライトエンベロープ)の制圧を完了していない以上、貴重な新鋭飛行ゾイドをAI任せに移動させるリスクを回避するのが一つ目の理由である。

 二つ目の理由に、今回懲罰部隊にフェニックスを与えグレイ砦強襲を実施させるにあたり、敵に手持ちの駒を明かさず攻撃を開始させたいという思惑があった。

 クーパーポート奇襲により鹵獲ドラグーンネスト『ルイーズ』の存在は帝国軍にも知られてしまった筈で、分離した強襲揚陸艇を独立行動させたところで今後の作戦への影響は少ない。今回の輸送任務には鈍重で巨大で装甲の薄いタートルシップではなく、重装甲で中規模の輸送が可能なネプチューンとポセイドンこそ最適と分析され、そして技術者として多少なりともドラグーンネスト艤装に関わってきた二郎にアドバイスを求めたのだ。

「ホバークラフトでの短距離低空飛行は可能ですが、本体と分離した長距離移動は避けたいところです。燃料消費を抑えるために各揚陸艇のハイドロジェットの緊急時以外のブースト使用を限定し、レッドリバーとグレイリバー河川上を遡上するのが最良と思います」

 改名された『ルイーズ』と異なり、単独行動を想定していなかった巨大ザリガニのハサミには共和国軍側での呼称は未定であった。状況は急を要し混乱を避けるため敢えてネプチューンとポセイドンの新たな命名は見送られた。 

 

 グレイ砦への輸送部隊編成

○輸送艇

・揚陸1号艇 ポセイドン(フェニックスユニット15積載)

 艇長エドワード・ミルン中尉

・揚陸2号艇 ネプチューン(フェニックスユニット14機積載)

 艇長ヘンリー・ノリス・ラッセル少尉 

〇護衛部隊

参戦機体及び操縦者

・凱龍輝×3

 070-2号 ハリエット・ブルックス中尉

 70-6号 マグリット・ボレル少尉

 70-7号 ジョン・バーディーン伍長 

・エヴォフライヤー×2 

 019-2 マーチン・ファン・クレフェルト軍曹

 019-3 エルンスト・ローレンス伍長

・ディスペロウ×2

 018-11 ラルフ・ファウラー少尉

 018-14 エドマンド・ストーナー兵長

・フェニックス(1機のみ稼働)

 071-3 ヴァレリアノヴィッチ・タタリノフ飛曹長

 全体指揮官 エドワード・ミルン中尉(以上55名)

 

 当然の如く、二郎は部隊に加わっていた。

「また宜しくお願いします」

 オペレーション・アナストモーシスの際にエヴォフライヤーに同乗したマーチン・クレフェルトがポセイドンのブリッジで握手を求め、背後ではやはり同作戦でバスターイーグルを操縦したタタリノフ曹長がチューキョンにフェニックスに関しての情報に熱心に耳を傾けている。今回彼女はクーパーポートに残留し、後方より作戦を支える役割となっていた。

「危険なことはできるだけ避けてください。私も後から合流します」

「グレイ砦で待っています。到着したら一緒にグレイ湖畔を散策しましょう」

 強く抱擁し少し長めのキスを交わす。見開いた視線は僅かにチューキョンに向けられたものの、すぐに揚陸艇を背景に立つ凱龍輝に移っていた。

「相変わらず浮気者ですね。二郎さんらしいです」

「……すみません」

 言葉とは裏腹に二郎の視線は出撃準備が整った凱龍輝70-6号の脚部に注がれ続けていた。そこには見た目にもアンバランスで無骨な新装備、AZ電磁キャノンと四連装マルチプルキャノンが装着されていた。

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