生産直後の機体は必然的に慣熟作動が不十分なため思わぬトラブルを招く場合があり、新品が必ずしも最良とは限らない。従って熟練の〝ゾイド乗り〟は乗機を選ぶ際、敢えて古参の機体を選ぶ傾向が強い。
大地を揺るがし駆け付けた34機のイェーガー、シュナイダー、パンツッアーユニットそれぞれを不統一に纏ったゼロも、
進撃する鶴翼陣の翼端に位置するゼロがストライクレーザークローで虚空を薙ぎ払う。薙ぎ払う都度、闇の獣王イクスが断末魔の雷霆を帯びて斃れて逝く。ゾイドはメカニズム且つ生物である。同種ライガーであることが気配を察知しステルス性を弱め、更には
シュナイダーユニットのレーザーブレードを翳したゼロが凱龍輝背後から迫るロードゲイルを粉砕し、背中を預けた凱龍輝はホバー移動でディメトロドンに肉迫する。ジャミングを行う背鰭を蒼き龍のバイトファングが食い千切り、首筋に噛み付き数度にわたって大地に叩き付け絶命させた。
瞬時に分離した月甲に、ディスペロウの三連砲が装着され強化型月甲へとチェンジマイズを行う。砲身6門を抱えた空飛ぶカブトガニは、キメラブロックスの誘導を行うディアントラーへ斉射した。
鳥脚が折れ、プラズマブレードアンテナが砕かれた一機を残し、形態をモア型に変えたディアントラーが脱兎の如く逃走していく。飛来したエヴォフライヤーのAZアサルトライフルとストライククローを佩び、月甲に代わって強化型飛燕が追撃する。速度に勝る強化型飛燕のストライククローの一撃がモア型ブロックスを一閃、同時に2機を撃破した。
執拗に脱出を図る残る唯一のディアントラーの横合いより雷電の突撃が交叉する。頸部、脚部を欠損し、プラズマブレードアンテナを持つブロックス誘導の要のゾイドは全壊した。
形勢不利を悟ったロードゲイルが一斉に地上から浮上する。強化型飛燕が追尾するが撃墜には至らず、イェーガーのイオンブースターのリミッターを超えても、ゼロの能力では宙に舞い上がったゾイドを追う手立てはない。
ポセイドンのブリッジに緊急伝が届く。発信者は他ならぬレイである。
〝飛行ブロックス〟トノ〝チェンジマイズ〟ヲ求ム
事前にそれがライガーゼロの強化ユニットである情報は懲罰部隊内で共有されていたからこその合体要求であった。だが調整無しでのフェニックスとの合体は往々にして多大なリスクを伴う。
一方、浮遊するロードゲイルの背後には、第四波攻撃となる爆装したザバットが出現していた。再度爆撃を受ければ輸送部隊は確実に壊滅する。二郎はエドワードと視線を交わし、「君に任せる」という了承の意を読み取った。
「インストレーションシステムのコールサインを送ります。
タタリノフさん、フェニックスをレイ・グレッグ少尉のゼロに接近させてください」
唯一稼働中のフェニックスが二郎の指示に「了解」の意のバンクを振り、レイのライガーゼロ上方に滞空する。
解放されたままの通信回線からレイのコールが響いた。
〝Zi—ユニゾン、ライガーゼロ・フェニックス〟
ゼロの機体が磁力線の旋風に包まれた。振り払われたゼロのアーマーが螺旋を描き、代わって飛来したフェニックスの機体が分離し、素体となったゼロに次々と装着されていった。
従来の
換装の一部始終を見守っていた二郎は、激戦の緊張状況にありながらも思わず顔を綻ばせる。
「チューキョン、君もゾイドも最高だよ……」
ゼロフェニックスのフォルムは古代地球の神獣グリフォンを想起させる。ロードゲイルと同じキメラ型だが、キメラの禍々しさとは異なる威厳を漲らせていた。
仮想現実の地平を踏みしめ、翼を得た獅子が疾駆する。直下で飛行中のロードゲイルを攻撃の間合いに捉えると一時的にマグネッサーを切断し、自由落下に身を任せ重力加速を加えた必殺のストライクレーザークローを打ち込んだ。咄嗟に防御態勢を取るが脆くもマグネイズスピアを粉砕されロードゲイルは爆発四散する。ゼロフェニックスは次々と新たな獲物を索敵し、浮上したロードゲイル全てを葬っていった。
ロードゲイル、ディアントラーを失い、無人爆撃を敢行すべきザバット部隊に動揺が起こる。自律AIは飛行編隊の幅を狭め密集隊形を選択するが、ブロックスに比べ一世代前のザバットのAIは明らかに判断を誤っていた。
後方から到着したゼロパンツァーが必殺のバーニング・ビッグ・バンを撃ち放つ。真っ赤な警戒色の弾頭がランダム曲線を無数に描き、密集隊形のザバットに殺到した。
空中で無数の誘爆が発生する。蒼穹が燃え上がり、空一面が爆炎の塊に覆われた。
辛うじて低空に難を逃れたザバットに、突進するディスペロウのメタルクラッシャーホーンが貫き踏み潰す。
ゼロの到着は帝国軍へ打ち込まれた楔となる。しかしゾイド数百機を擁する第8装甲師団を全て葬るには至らず、グレイリバー沿岸の森林地帯の奥より本隊が刻々と迫っていた。
突如、薄暗い樹林帯に黄金の輝きが満ちた。荷電粒子コンバーターとしてL・モジュールを応用し、空間に散らばる荷電粒子を充填する過程での輝きである。飛燕、月甲を装甲に戻した凱龍輝三機は、帝国機動陸軍第8装甲師団本隊の方向へ発射態勢を整えていた。
凱龍輝は充分過ぎるほど荷電粒子を吸収すると、進軍する帝国軍部隊の先頭目掛け集光荷電粒子砲を撃ち放った。
三本の閃光が敵部隊中央を貫く。連鎖的に爆炎が立ち昇り、帯となって無数のゾイドが炎上する。無人ゾイドに依存したことが被害を拡大し、帝国軍ゾイドの損耗率は実に30%に達していた。
凱龍輝・ゼロフェニックスの連携攻撃の猛威に戦慄した帝国軍は遂に撤退行動に転じる。引潮の如く去っていく敵部隊の後姿を、地上と空の凱龍輝とゼロフェニックスは見送るしかなかった。共和国軍側にも追撃する余力は残されていなかったのだ。
第8装甲師団の増援が阻止された情報が伝わった時点で、グレイ砦に立て籠もっていた帝国軍守備隊は間もなく白旗を揚げる。そして調整無しにレイ・グレッグのゼロとのユニゾンを成功させた事例より、B-CASフェニックスは非常に柔軟な適応性を有している事が証明された。
陥落後のグレイ砦に、レッドリバー、グレイリバーを遡上しハサミと本体が久し振りに接合されたドラグーンネスト『ルイーズ』の巨体が鎮座し、その中央格納庫でも二つの人影が一つになっていた。
「……よかった、無事で」
「言ったはずだよ、〝君が育てたフェニックスと僕の凱龍輝とが一緒ならどんな敵でも倒せる〟と」
「そんなことじゃないの……」
何度目かのキスの後、チューキョンは目尻に滲んだ涙を拭いた。眼下の格納庫には、歴戦の傷を新たに刻んだ白い獅子がメンテナンスを受けていた。
「少尉さんから聞きました。彼ら元〝
父より学んだ臥薪嘗胆の故事を思い出す。苛烈な立場に身を置いたのは、自ら望んだものであったと二郎は知った。
激戦を制した感慨に暫し耽っていた矢先、唐突にチューキョンが告げた。
「今度は私が戦場に赴くことになりました。目的地はキマイラ要塞です」
驚愕し当惑して、二郎は改めて彼女の顔を見つめ直していた。
「グレイ砦が無血開城されたことで、本格投入が今回先送りとなったフェニックスの実戦調査をキマイラ要塞攻略戦で実施することになりました。
二郎さんの凱龍輝と私のゼロフェニックスがあれば、きっと今度も大丈夫です。
覚えてますよね。ヘリックシティーを取り戻したら、エンゲージリングを買ってくれる約束」
左手の甲を二郎に向け、広げたしなやかな指の間からチューキョンの微笑む顔が見える。
「勿論だとも。ゾイテック社の臨時ボーナス分の金額の指輪を選ぶつもりだ」
「嬉しい」
言葉と共に交わした軽めのキスに、彼女の唇の柔らかさと温もりを感じながら、なぜか二郎は言い知れない胸騒ぎを覚えていた。
メンテナンス中のゼロの傍らには、梱包を解かれたフェニックスが翼を並べて出撃を待っている。
翌日、仇敵セイスモサウルスの待ち構えるキマイラ要塞へ、ライガーゼロとフェニックス、そして凱龍輝部隊が出撃をした。