『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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 本来飛燕の翼が付くべき位置に巨大なシュトゥルムブースターを装備し両腕に細身のエクスブレーカーを佩びる蒼き龍は、抜き身の狂刃の如き妖艶な美を宿していた。

 最高時速660㎞を活かし一撃離脱殺法を繰り返すエナジーライガーに抗するには僅かなりとも速度差を縮めなければならない。二郎が発案したのはバーサークフューラー用に開発されたCASを凱龍輝に装着するプランであった。

 エナジーライガー以外のゾイドとの近接戦闘に於いてはバイトファングやエクスブレーカーなど格闘戦用の武器を使用し、戦略兵器としては荷電粒子砲を放つ砲台として運用する。そしてエナジーライガー出現の際にはアクティブシールド等全ての兵装をパージしアフターバーナー全開でライガーゼロフェニックスと共同で迎撃にあたるのが〝凱龍輝シュトゥルム〟のコンセプトである。必然的に戦線投入分のシュトゥルムユニットの取得が不可欠となるが、ユニットの製造規格はガイロス帝国仕様であったため共和国でもゾイテック社でも早急な生産対応ができなかった。二郎は苦肉の策としてネフスキーを介しゾイド開発事業部門長ユルジス・バルトルシャイデスを説き伏せ、Lモジュールに関する技術をガイロス帝国に開示する見返りに貴重なCASを譲り受ける交渉を締結していた。

 シュトゥルムユニットを満載したホエールキングがノヴァヤゼムリャに飛来したのは作戦開始直前の僅か二週間前である。

「これで我々も凱龍輝が製造できます。いや、完成の暁には敢えて〝シュピーゲルフューラー〟と呼ばせて戴きましょうか」

 同乗して来たガイロス帝国技師アドリエン・ジールマンは巨大輸送艦を背に会心の笑みを浮かべていた。遠い過去の記憶を掘り起こされると共にガイロス帝国はタケオが名付けたコードネームさえ察知していたことにガイロス諜報機関の底知れぬ調査能力の高さを空恐ろしく感じたのだった。

 ユニット装着が完了した凱龍輝シュトゥルムの実証実験では瞬間的に時速488㎞を記録し(※バーサークフューラーに比べ凱龍輝は軽量化が進んでいたため)充分エナジーライガーに対抗可能と判断される。機体色に合わせ青く塗装されたシュトゥルムユニットを装備した凱龍輝は、ノヴァヤゼムリャ製作所、ウェストリバー製作所、そしてミッドタウンのゾイテック本社工場にて調整され、各製作所へ廻航したドラグーンネスト『ルイーズ』に搭載されていった。

 クーパーポートで艤装を終えたウルトラザウルス・テラ・インコグニータは中央大陸東回りにオコーナー諸島を抜けシート海に進出する。一方、凱龍輝を積載した『ルイーズ』はネオゼネバス帝国の意表を突き東方大陸ミッドタウンより中央大陸西岸を西回りに北上、デルダロス海を抜けトライアングルダラスに突入した。ゾイドの機能を狂わす魔の海域もアイゼンドラグーンが開発したドラグーンネストには無効であり、海底を進む巨大ザリガニを隠蔽する絶好の隠れ蓑となった。

 ゴルゴダス海峡で会合した両艦は最終作戦計画を確認しレオゲーター、ディメトロプテラの大部隊を先行させる。ウィルソン川を埋め尽くすレオゲーターがアリゲーターモードからライガーモードにチェンジマイズし大陸北岸の橋頭堡を確保、余力を駆ってディメトロプテラとフェニックスのストライクパッケージ及びライガーゼロと凱龍輝の連携によってマウント・アーサを奪取し占領下のヘリックシティーまでの回廊を着実に延長していった。

 

 

 凱龍輝部隊の華々しい戦果が届く傍らで、『ルイーズ』のブリッジに待機する二郎の心は激しく苛まれた。

 無機質にカウントアップされていく数字が戦場に骸を晒し犠牲となった凱龍輝の数を示す。片腕が捥げ片足となり頭部集光パネルを損壊し隻眼状となった凱龍輝の機体補修作業も二郎は何度も繰り返した。戦場に身を投じた技術者の宿命と言ってしまえばそれまでだが、これまで手塩に掛けて育ててきた愛おしいゾイドが次々と破壊されていく様子は見るに堪えなかった。二郎が補修作業中、何度も眼鏡を外し目元を擦っている姿が見受けられたが、それが汗を拭っていたのか或いは涙であったのかを確認しようと試みた者はいない。

 

 

 クック湾よりウルトラザウルスが上陸するのは、年明けを目前に控えた冬至の払暁であった。

 2037年にロールアウトした当時と比べヘリック共和国軍の象徴とも呼べる最大級の戦闘ゾイドを取り巻く状況は大きく変化した。嘗て36㎝高速キャノン砲を擁し圧倒的火力を以て敵を蹂躙した巨大ゾイドも、2108年に陸上に巨体を露呈し砲撃戦を挑むのは客観的に考えて無謀としか思えなかった。同じ竜脚類型ゾイドとはいえ最新鋭のセイスモサウルスの超長距離集束荷電粒子砲の前では、陸に上がったウルトラザウルスは訓練用の標的同然で、ゾイド第一世代とブロックス対応型の第五世代とでは体格差を補って余りあるほど性能の違いが際立っていた――筈であった。

 ウルトラザウルス上陸の報を受けセイスモサウルス12機及びレーザーストーム、シザーストーム、スティルアーマーをそれぞれセイスモサウルスの機数分配備する編成のネオゼネバス帝国突撃部隊がウィルソン湖方面の戦線に出撃する。但し近接戦闘は避け飽くまでゼネバス砲のみでの砲撃戦を主とした戦闘行動を指示されたためエナジーライガーの護衛は随伴しなかった。此処にゾイド戦史上最初で最後と思われる龍脚類ゾイド同士の戦闘が開始されたのだ。

 帝国軍ネシュア・ダーダネス・プレイビク大尉の率いる第一中隊は、フライシザースの強行偵察によりウルトラザウルスの位置を確認、直後に飛燕によってフライシザースは撃墜される。ゴルヘックス及びディメトロプテラのジャミングにより命中精度は低下するとはいえ、標的の巨大さが射撃誤差修正の必要を無効化する。射線を確保ののち地平線の向こう側にある共和国旗艦ゾイドに向け、第一中隊3機のセイスモサウルスが一斉にゼネバス砲の砲門を開いていた。

 地磁気の影響による第一中隊のゼネバス砲の曲射状況を確認し、同部隊第二中隊も砲撃態勢を取る。ヘンリ・デレジズ・ランドリール中尉率いる4機のセイスモサウルスは標的までの距離が遠いこともあり前面にセイスモサウルスを配置しゼネバス砲を発射する。

 第一、第二中隊に遅れること5分。クラウス・ズベルビューラー少尉率いる第三中隊は海抜100m程の丘陵地に布陣し5機のセイスモサウルスを丘陵の頂上付近に配置。先に撃ち放たれたゼネバス砲の輝線を元に標的を確認し一斉砲撃を開始した。

 夜明けの星が残る払暁の空に十数本の閃光が地平を越えて伸び、その先に存在する共和国旗艦ゾイドを確実に捕捉する。帝国軍兵士の誰もが、やがて立ち昇るであろうウルトラザウルス断末魔の爆発と黒煙を予測した。

 照射を開始して10分が経過。しかし地平線の向こう側からは何の破壊音も聞こえてこなかった。仮に目標に命中しなかったとしてもゼネバス砲によって破壊された周囲の爆発音は検知される筈だがそれさえ確認できない。

 突撃部隊内部で動揺が奔る。そして動揺の一部始終は、共和国軍が配備した新鋭ディメトロプテラ(ディメトロドンモード)のマグネッサー3Dレーダーによって傍受されていた。

 以降、公開されたディメトロプテラが傍受したネオゼネバス帝国突撃部隊間で交わされた会話を書き起こしてみる(抜粋)。

 

(ひと)中隊より(ふた)(さん)中隊通達。敵ウルトラザウルス状況確認を求む〟

(ふた)中隊デレジズ、照射到達地点より破砕反応無し。目標物の破壊、及びその他の破壊の反応無し〟

(さん)中隊、戦果確認出来ず。地平線に黎明、日の出と認む。東方にも黎明確認、朝日が二つ出現〟

〝ダーダネスより三中隊クラウスへ。貴官の言動不明。太陽の数は幾つか〟

〝クラウスより一中隊へ。目視確認、東方に太陽。

 先の発信を修正す。北方の黎明は太陽に非ず、ウルトラザウルス。繰り返す。北方の黎明はウルトラザウルスなり〟

〝言動不明。ウルトラザウルスは太陽に非ず。クラウス、血迷ったか〟

〝ウルトラザウルスが黄金色(こんじき)に輝いている、まるで太陽のように〟

 

 遅く昇った冬至の太陽と共に、傍受された会話の通りウルトラザウルス・テラ・インコングニータは黄金の光背を纏って帝国軍の前に出現していた。

 

 

 二郎が発案した第二のプランは、ウルトラザウルスに集光パネルを装着し敵の荷電粒子砲を無効化する作戦であった。

 共和国軍最大にして唯一のゾイドの改造案を提示するにあたり、二郎はセシリア市に仮設された共和国軍総司令部に赴き、直接ロブ・ハーマンと会見する機会を得ていた。

 個別での面会を指示され、通された司令官用の個室の中、ハーマンは改造計画書と二郎の顔を代わる代わる見詰めた後短く告げた。

「君の真意を聞きたい」

「戦争を終わらせたいのです」

 不器用な遣り取りだが、長く戦場に身を委ねてきた者同士であればこそ成り立つ会話であった。

「僕はゾイドが大好きです。戦う姿も大好きです。ですがこれ以上無益な戦争で殺されるのは我慢できない。そして敵の攻撃手段を奪って無効化できる凱龍輝のコンセプトは最も理想的と信じています」

「だから集光パネルをウルトラザウルスに装備させようというのか」

「そうです」

 二郎は総司令部の外に広がる蒼穹に視線を向けていた。

「暗黒大陸に生まれたバーサークフューラーを僕たち東方大陸の人間が凱龍輝として生まれ変わらせました。それを中央大陸で運用し、同じコンセプトをウルトラザウルスに装備する。バーサークフューラー、凱龍輝、そしてウルトラザウルス。

 皆全て、蒼き龍の系譜としてこの惑星の歴史に連なって行くのです」

「蒼き龍の系譜……か」

 刹那の沈黙の後、ハーマンは二郎と熱い握手を交わしていた。

「気に入った」

 あまりの握力に二郎の顔が苦痛に歪むのも気に掛けずに。

 開発当初より凱龍輝のレイ・エナジー・アキュムレイターに関し高い関心を示していたハーマンは二郎の第二のプランを即座に受け入れクーパーポートにて早速艤装作業を開始させたのである。

 

 上陸したウルトラザウルスが恰好の攻撃目標になるのは避けられないが、それを逆手に取って敢えて攻撃を集中させれば凱龍輝やライガーによる攻撃部隊を先行させることが可能となる。照射された荷電粒子も全て集光パネルによって吸収されウルトラザウルス周囲のゾイドに被害を及ぼすこともない。凱龍輝と異なり荷電粒子砲を装備していない為吸収した荷電粒子を撃ち返すことは出来ないが、ウルトラザウルスサイズのゾイドであれば吸収した荷電粒子を蓄積するアキュムレイターは余裕をもって搭載可能である。

 凱龍輝を上回る全身33カ所に集光パネルを装備したウルトラザウルスは、正しく「未知の領域(テラ・インコングニータ)」に達していた。

 荷電粒子を吸収し、ゾイドコアが活性化されたウルトラザウルスの歩行速度は上昇していた。比べて長大な全長とがゼネバス砲連射直後によるエネルギー不足が災いし、突撃部隊のセイスモサウルスの退避行動は鈍重であった。撤退に入った第一中隊指揮官ダーダネスの搭乗するセイスモサウルスは、直上から振り下ろされたウルトラザウルスのバイトファングによって頸部付け根に咬みつかれ、胴体ごと吊り上げられた。

 勢い付けたウルトラザウルスの首がセイスモサウルスを地上に叩き付ける。小口径2連レーザー機銃砲塔を撒き散らし腹部の荷電粒子強制吸収ファンを露出させる眼下の地震竜に対し、ウルトラザウルスは巨体の全重量を右脚に掛け、勢い付けて踏み潰した。

 ゾイドの悲鳴とコアの弾ける音が響く。胴体部を破砕された哀れな地震竜は、無傷の頭部と尾部を残し真っ二つに切断されていた。

 

〝キサマら如きがウルトラザウルスに楯突こうなんざ、百年早いんだよ!〟

 

 ディメトロプテラはハーマン中将が発した通信をも傍受していた。

 ロールアウトして71年。ハーマンの言葉通り、未だウルトラザウルスは健在であった。

 

 共和国首都を目前にし、ウルトラザウルスの足元を無数の凱龍輝シュトゥルムが疾駆していった。

 

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