『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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 ヘリック共和国軍エーディット・ユングハウス少佐率いる特殊工作部隊は、ネオゼネバス帝国占領下のヘリックシティーでの〝オペレーション・テラトカルシノーマ〟実行準備を完了していた。帝国総督府周囲で現地レジスタンスの「細胞」が一斉蜂起し合流、「暴走分裂と増殖」を開始し「奇形腫(テラトカルシノーマ)」となって統治体制を蝕み行政システムを制圧する騒擾計画である(※各オペレーションに生物学の専門用語を使用したのは、作戦内容を容易に推測させないためと言われる)。

 嘗ての大統領官邸に設置されたネオゼネバス総督府は、行政機構としての職務を執る側近達が残されるのみで皇帝は不在となっていた。総力を以て包囲戦を挑んで来る共和国主力部隊と対峙するため、ヴォルフは自らエナジーライガーに搭乗し出撃していたからだ。

 指導者を欠いた状況は独裁政治にとって存外に脆いものであり、工作隊がこの絶好の機会を逃すべくもない。決行時刻は夕刻、〝ウルトラザウルス・テラ・インコングニータハ、ウィルソン湖付近ニテ戦闘状ニ突入セリ〟との暗号電文を確認し、ユングハウスはアナクロな照明弾の打ち上げを命じた。

 夜空に白い火花の尾を引く流星が舞い上がり、総督府を取り囲むビル群の影から百人弱の武装集団が現れる。集合的沸騰状況に導くデモンストレーションの意味合いもあり、仰々しい『ヘリックシティー奪還!!』の旗指物が翻る。破壊力を抑えたIED(手製仕掛け爆弾)の炸裂を合図に、騒動を聞きつけ集まる住民大衆に扇動家(センセーショナリスト)のアジテートが注がれた。

 アジテートの文言記録は破棄されたと伝わるが、当時ヘリックシティーの騒乱に巻き込まれた経験のある人々によると歯の浮くような美辞麗句に飾られた空々しい内容であったと証言されている。俄か作りの狂信的愛国主義(ショービズム)に誘導され高揚感に包み込まれた群集は作戦の狙い通りに暴走と増殖を行い市街に満ち、一方の特殊工作員部隊は暴動の隙を突いて総督府を一気に占拠せんと施設正面へ殺到した。

 群集の前に十数機のゾイドが出現する。

 ゲーター、ディメトロドン、ダークスパイナー、電子戦を得意とする機体ばかりが立ちはだかる。各ゾイドには重火器も装備されているが、丸腰の住民に対し発砲すれば帝国の信用は失墜し統治機構は瓦解する。なにより皇帝ヴォルフより非戦闘員への攻撃行動禁止を厳命されており、それを知る工作員は群集を引き連れ有刺鉄線の障壁を乗り越え今にも総督府内部に侵入しようとしていた。

 突如群集の波が見えない壁に突き当たり塞き止められた。ゾイドを含め総督府側からの発砲等は無いが、ディメトロドンやダークスパイナーの特徴的な背鰭が微細に振動している。振動に伴い群集の体感温度が熱湯を浴びせ掛けられた如く上昇し、発熱と発汗のため顔を隠す布やヘルメットを脱ぎ出した。あまりの暑さに卒倒する者が続出し、程なくして総督府を包囲していた集団は分散消滅していた。当時ユングハウス少佐の送信した暗号電文である。

〝王宮護衛ノ電子戦用ゾイド群ヨリADS攻撃ヲ受ケル。首都奪還未ダ成ラズ〟

 ADS=アクティブ・ディナイアル・システムとは、ミリ波の電磁波を人体に向け照射し皮膚温度を摂氏50℃程度に上昇させる装置である。ヴォルフは第一線を退いた電子戦ゾイドを暴徒鎮圧用に改造し、一滴の血も流さず騒乱を終息させる方策を用意していたのだった。

 オペレーション・テラトカルシノーマは失敗に終わる。

 ヘリックシティー解放はゾイドの直接戦闘に決着を持ち越されることになった。

 

 凱龍輝シュトゥルムとゴジュラスギガのコンビネーションは完璧と言えた。

 支援部隊のゴルヘックスとディメトロプテラのジャミングによって射撃精度を落とされ、半ば無差別に照射されるセイスモサウルスのゼネバス砲は、前進攻撃部隊として展開する凱龍輝によって無効化された。レイ・エナジー・アキュムレイターの性能は開発当初より飛躍的に向上し、照射された荷電粒子が集光パネルに捉えられた瞬間、偏向フィールドに沿って輝きを放ち黄金の離弁花を咲かせた。

 荒んだ戦場でいちめんに菜の花が咲き誇り、黄金の(さざなみ)を広げていく。

 荷電粒子の花びらを撒き散らしシュトゥルムブースター全開で突入する凱龍輝に、エナジーライガーが立ち塞がった。格闘戦の不利を知る凱龍輝はエクスブレーカーの一撃のみでアクティブシールドをパージし離脱する。エナジーウィングを展開し追い縋ろうとする濃紅の獅子の背後には、追撃モードに変形した主力攻撃部隊のゴジュラスギガが猛然と肉迫していた。音速を越えるロケットブースター加速式クラッシャーテイルがロングリーチを活かしエナジーライガーに叩き込まれる。如何に強力な重量級ゾイドとはいえ、ギガのパワーには贖い切れず紅の残骸と化して逝く。最高速度660㎞の獅子は慣性に呪縛され運動性は極端に低下し、尚且つエナジーチャージャーの長時間稼働は叶わない。エナジーライガー部隊をゴジュラスギガが誘引している間に、凱龍輝シュトゥルムは超長距離照射を続けていたセイスモサウルス部隊に到達した。シュトゥルムブースターをもパージすると、上空待機していた飛燕が急降下し合体する。全身11枚の集光パネルを輝かせ、凱龍輝はセイスモサウルスに向け渾身の集光荷電粒子砲を照射した。己の放った荷電粒子を撃ち返され、セイスモサウルスは次々と撃破されていった。

 全ては厳格な戦闘シミュレーションによるルーティーン・プレシージョン(恒常的精密化)戦術の帰結である。戦略は戦闘のみで占められる事象ではなく、また軍人だけで成し遂げられるものでもない。目的、場面、技術、信頼が多次元的に関わり合い、マクロな部分では政治が、ミクロな部分ではヒトとゾイドが結果を左右する。凱龍輝とギガの進撃の背景には、常に軍と技術者との連携(アライアンス)があった。凱龍輝にはゾイテック社嘱託の二郎が、そしてギガの担当には共和国軍戦略技術部直属のベルナー・イズラエル・バラクリシュナンが連絡を密に取り合い互いの機体性能を補い合う戦術サポートを行っていた。

 快進撃を続ける共和国部隊だが、同時に時間との闘いを強いられていた。中央大陸西岸ネオゼネバス帝国本土より、アイアンコング、デスザウラー、グレートサーベル等の主力ゾイドを満載した大部隊が出撃したとの報告を受ける。大部分の戦力を大陸北東に集中している共和国軍にとって帝国軍の大部隊が到着すればFOB(Forward Operating Base=前方作戦基地)が逆包囲され殲滅される可能性もある。オペレーション・テラトカルシノーマ失敗の情報も届いており、攻撃部隊は一刻も早く首都奪還を達成しなければならなかった。

 

 凱龍輝の整備管理で手一杯にも関わらず、二郎の元にゾイテック社より奇妙な指示が到着する。

『鹵獲したイクスのCASを使用し、ライガーゼロ1機をネオゼネバス帝国軍仕様に偽装を願う』

 事業部門長ユルジス・バルトルシャイデスの署名があり、オペレーション・アナストモーシスの際に凱龍輝をバーサークフューラーに偽装した経歴のある二郎であればこその人選とも推察できる。作業としてはデータベースよりゼロイクス用の色彩を選び塗装を指示するだけであったが、単機のみ、それも共和国軍ではなくミッドタウン本社からという指示に疑問を抱いた。

「ルンドマルク君の〝隼〟が完成したのではないでしょうか。そしてそれとのユニゾンを行う最初の機体は、やはり主任が手をかけたゾイドでなければならないという彼の拘りを込めて。確か彼もいまミッドタウン本社にいた筈です」

 既に共和国軍に所属し社外の者となったとはいえ、信頼に足る三歳年長のバラクリシュナンに打ち明けた際の答えだった。そして二郎を未だに「主任」と呼んでいた。

 客観的なバラクリシュナンの分析によって、一人の女性を互いに愛し競った技術者への最大の讃辞を込めた願いと解釈できた。

 二郎は時間を割いてライガーゼロイクスの偽装作業に取り掛かるのだった。

 

 デスザウラーの空輸はホエールキングでも可能だが、400tの重量とサイズのため僅か2機しか積載できない。対して海上輸送のドラグーンネストであれば本体に2機、ネプチューン及びポセイドン内部にそれぞれ1機の合計4機が積載可能なため、デスザウラーのみは帝国本国よりの海上(海中)輸送を選択した。

 ヘリックシティー奪還を目指す共和国軍にとってデスザウラー出現は脅威であった。凱龍輝は全機最前線に投入され、Eシールドによって荷電粒子砲を防御可能なギガも後方防衛の予備機は無い。仮にウルトラザウルス・テラ・インコングニータを残し後衛を固めたとしても、セイスモサウルスとは異なり頒布面積の広い大口径荷電粒子砲の照射全てを吸収することは不可能であり、駐屯地を攻撃されればひとたまりもない。

 ドラグーンネストはトライアングルダラスを突破し最短距離での進出も可能なので、共和国軍諜報部も強電磁域での動向を察知することも出来なかった。

 

 ウィルソン湖まで進出したウルトラザウルスに対し、二郎を乗せた兵站支援部隊であるドラグーンネスト『ルイーズ』はOOTW(Operations Other Than War=軍事作戦以外の行動)のためクック砦沿岸にまで後退していた。

〝ドラグーンネスト艦隊、クック湾に出現〟の報が届くのは積み荷を降ろし終えた直後であり、クック要塞を含め艦内でも戦慄が奔った。クック砦~ウィルソン市~キマイラ要塞(共和国軍占拠)に点在するFOBが上陸したデスザウラーによって各個撃破されれば補給線を断たれ前線は孤立しこれまでの戦闘も無意味となる。

「つまり敵を上陸させなければいいのです。艦長さん、時間がありません。僕自身も無茶な作戦とはわかっていますが提案があります」

 帝国軍本隊接近に騒然となる艦内で、艦長エドワード・ミルン少佐(※昇進)に対し、二郎は腕時計を見詰めながら大胆な作戦案を提言していた。

 

 同日正午過ぎの白昼、クック湾沖北西2㎞付近にドラグーンネスト艦隊が一斉浮上した。『ネアンデル』『トフェルスカマー』『フェアデシュタール』『フェルトフォーファー』。鹵獲された『フェルトフォーファーキルフェ』=『ルイーズ』を除き、旗艦『ネアンデル』に当時の総司令官であったヴォルフを欠くものの、嘗てヘリックシティーを陥落させた陣容である。ドラグーンネスト自体には荷電粒子砲などの強力な攻撃兵器は装備されていないが、何よりその巨体と重装甲は共和国軍の如何なる兵器を以てしても容易に破壊は出来ない。港湾配備の共和国軍海上封鎖部隊からの砲撃はなく、揚陸を図りドラグーンネスト群は抵抗を受けないまま接岸に向かう。海上には五隻(●●)の巨大ザリガニの姿が露呈していた。

 

「我レドラグーンネスト見ユ、味方ニ非ズ」

 

 帝国軍の監視兵が奇声を発した。

 クック砦背後の岩礁より、ロービジョン塗装に塗り替えられたドラグーンネスト『ルイーズ』が浮上し、海上のドラグーンネスト艦隊と港湾施設との間に立ち塞がっていた。

 

 二郎が提案した作戦とは、ドラグーンネスト『ルイーズ』を以て敵ドラグーンネスト艦隊と格闘戦に挑みデスザウラーの揚陸を阻むという、もはや作戦とも呼べないものであった。

 4隻のドラグーンネスト 対 鹵獲ドラグーンネスト『ルイーズ・エレナ・キャムフォード』。

 奇しくも『ルイーズ』背後の地平にはロブ・ハーマンの座乗するウルトラザウルスがある。

 母の名を得たドラグーンネストは、息子を守るために身を投げ出したのである。

 

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