『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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 (かね)てより皇帝ヴォルフ出撃時に限定したサージカル・アタックを主眼に編成された共和国軍精鋭が、縺れ合うゼロフェニックスと皇帝専用エナジーライガーを包囲する。ヴォルフ援護のため猛追する皇帝直属の親衛隊を、凱龍輝シュトゥルムとゴジュラスギガが遮断し決闘を見守る光景は、(さなが)らゾイドをセコンドとしたランバージャック・デスマッチを思わせた。

 ディスペロウ、エヴォフライヤーを加えても中隊規模に過ぎない部隊は、しかし歴戦のゾイド乗りを結集させていた。

 

・凱龍輝シュトゥルム×8

 070-22 ハリエット・ブルックス大尉(※中隊長)

 070-31 ランドルフ・カークパトリック中尉

 70-6 マグリット・ボレル中尉

 70-7 ジョン・バーディーン曹長

 70-46 ヴィタチェスラフ・コードリアツェフ軍曹

 70-56 ローアル・ユートハウグスノリ・ストルルソン伍長

 70-67 カールトン・ガジュセック伍長

 70-73 マリーニ・サチェック少尉

・ゴジュラスギガ×2

 064-8 ニュート・ギングリッジ中尉

 064-13 チャールズ・クリッチフィールド少尉 

 

 凱龍輝シュトゥルムは、出力で大幅に上回るエナジーライガーを翻弄し、頑なにヴォルフとレイの対決への介入を遮った。クローニングベースの凱龍輝を操るブルックス、カークパトリックはオペレーション・アナストモーシス及びグレイ砦へのフェニックスユニット輸送に参加した熟練パイロットであり、プロトレックスをプラットフォームとする残り6機のうちボレルとバーディーンの機体はロールアウト以来戦い抜いてきた古参のゾイドである。

 痺れを切らしグングニルホーンを振り翳して凱龍輝シュトゥルムへの突入を図った2機のエナジーライガーが、突然前のめりとなり進撃を阻まれる。濃紅の獅子の足元には小型の猪型ゾイドが出現していた。

 高速性能を重視し飛燕も雷電も装備しない凱龍輝シュトゥルムのサポートのため、代わってディスペロウがAZ電磁キャノン・四連装マルチプルキャノンを装備し随伴していたのだ。

 

・ディスペロウ×4

 018-11 ラルフ・ファウラー中尉

 018-14 エドマンド・ストーナー少尉

 018-22 ベビン・ダンバー兵長

 018-45 ケイティ・スロコーム軍曹

 

 ファウラー、ストーナー両名もまた、凱龍輝と共に戦場を駆け抜けてきた歴戦のゾイド乗りである。エナジーライガーに比べ遥かに非力なディスペロウだが、雷電が切り開いた貴重な戦機を逃さずメタルクラッシャーホーンを叩き込む。

 体勢を崩し無防備となったエナジーウィングと後肢の隙間にギガの顎が噛み付いた。狂暴なセレーション(serration)のギガクラッシャーファングが不快な軋みを轟かせ、濃紅の獅子の左後肢と下半身を食い千切って破壊していた。

 二郎は激戦の一部始終を遠望できる場所にいた。セイスモサウルス出現に備え、飛燕のMPS(Mission Programming System)管理を自ら申し出て赴任した兵站支援部隊と、凱龍輝主力の前進攻撃部隊との距離はそれほどまでに密接していたのである。

 蒼き龍と濃紅の獅子の激突の奥に垣間見える、ゼロフェニックスと皇帝専用機の決戦を注視しつつ、二郎はゾイテック本社からの物資到着を待ち侘びていた。既にミドルタウンより〝隼〟完成の報告は受けていたが、ドラグーンネスト『ルイーズ』を失い、フライトエンベローブを確保できない状況での輸送能力は著しく低下している。タートルシップは帝国航空師団の防衛網に進路を阻まれ、已む無く先行生産機をテストパイロットに操縦させ空中発進を行ったとの情報を得るが、以降通信は途切れてしまっていた。

 戦友とも呼べるレイ・グレッグとネオゼネバス皇帝との戦闘を眼前にした二郎は、タキシングを始めようとするエヴォフライヤーを睨んでいた。

 

・エヴォフライヤー 

 019-2 マーチン・ファン・クレフェルト少尉

 019-3 エルンスト・ローレンス曹長

 019-23 エンデル・タルヴィング少尉

 019-44 キャリル・ファン・シャイク中尉

・飛燕×8

 

 哨戒・偵察部隊として通信機能を強化改造していたエヴォフライヤーのコクピットによじ登り、装備された開放系の通信回線を開く。自分とコンソールの間に割り込まれ、唖然とするクレフェルト少尉を気にせずレシーバーを掴み呼びかける。(※著者注:二郎の発言と会話はレコーダーに記録された。以降、開示された音声を元に戦場の様子を再現してみたい)

「中尉さん、レイ・グレッグ中尉さん、ゾイテックの二郎です。間もなくゼロの新アーマーが到着します。だから凱龍輝のみなさんはそれまでなんとかゼロを援護してください」

 レイからの返信は期待していなかった。激戦の最中、応える余裕などある筈もない。

「マーチンさん、僕も一緒に出撃させてください」

 直後にコクピットに滑り込み、二郎は馴れた手つきで予備シートに身体を固定する。出撃体制を整えていたクレフェルトは無謀なエンジニアの無茶な希望に無意識に従ってしまっていた。戦後、クレフェルトは笑いながら語っている。

「オペレーション・アナストモーシスの頃と全く変わっていませんでした。つくづく命知らずの主任さんでした」

 

 強化されたエナジーチャージャーの余剰エネルギーが皇帝専用機を妖しく光らせる。凱龍輝たちが取り囲むなか、上空のエヴォフライヤーから二郎はエナジーライガーを凝視していた。その光に見覚えがあったからだ。操縦席のクレフェルトに語るというより、半ば心理的外言(独り言)として声に出していた。

「Lモジュールが荷電粒子吸収の際に励起する輝きに酷似しています。

 もしかすると、キングゴジュラスからサルベージし開発されたエナジーチャージャーとは、仮想粒子タキオンとタージオンの対消滅で発生するエネルギーを荷電粒子に変換させるリアクターなのかもしれません」

 技術的な考察を巡らせた刹那、ゼロフェニックスがエナジーライガーの重レーザークローをまともに喰らい一撃でスクラップ同然となっていた。

「フェニックス!」

 コクピットで叫んだところで伝わるはずもないが、咄嗟に叫んでいた。

 皇帝専用機は執拗にゼロフェニックスを追い、二撃目の重レーザークローを叩き込む。アーマーが弾け飛び、ゼロは破壊されたかにも見えた。

 直後、B-CASを強制排除し素体となったゼロが妖光を放つエナジーライガーに対峙するのを確認し安堵する。

 辛うじて攻撃を躱したものの、周囲には皇帝の異変を察知した帝国ゾイドが大量に接近していた。だがゼロは、そしてレイは退かない。その姿は刺し違えても敵を斃そうする鬼気迫る戦い方で、最初から生き残る事を否定していた。

 一方、コードリアツェフ、ストルルソン、ガジュセックの機体が凱龍輝デストロイにチェンジマイズを行い砲撃戦を開始する。激しい砲火に一瞬怯んだものの、弾幕を潜り抜けたレッドホーンとスティルアーマーの混成部隊が突入して来た。

「頼むぞ、飛燕」

 残っていた凱龍輝シュトゥルムは一斉にシュトゥルムユニットをパージし、二郎が調整したMPSに従い飛燕が装着される。更に飛来したエヴォフライヤーとチェンジマイズした凱龍輝スピードが赤い角竜群に格闘戦を挑み、動く要塞を薙ぎ倒し、レールガンを翳すブロックスをコアごと粉砕する。

 期待以上の善戦を繰り広げたものの、僅かな凱龍輝とギガで支えきれる数ではなく、そして素体のゼロでは到底皇帝専用エナジーライガーに敵う筈もない。

「〝隼〟はまだなのか」

 シュトルヒ、フライシザースの襲撃を必死で回避するエヴォフライヤーの予備シートで、二郎は何度も蒼穹を見上げていた。

 

 空の一角に奇妙な変化が現れた。飛行形態のディメトロプテラの編隊が輪陣形、それも空中に縦に輪を描いて回転を始め、円陣中央に開いた空間から、不釣り合いなほど大型のバスタークローを装備した見慣れぬ飛行ゾイドが出現した。

〝こちらゾイテック社所属、リョウザブロウ。新型ゾイド『ジェットファルコン』をヘリック共和国軍へお届けに参りました〟

「リョウザブロウさん!」

 戦場に心強いベテランテストパイロットの声が響く。

〝二郎さんですね――お待たせしました。これより作戦行動に移ります〟

 エヴォフライヤーの上空をかすめ、新鋭ジェットファルコンが突入した。

 レーザーストーム、シザーストームの対空ガトリング砲火の豪雨を掻い潜り、満身創痍のゼロを目掛けて急降下、直上の低空を旋回する。

 開放系の通信からレイ・グレッグへ向けて老兵が語り掛ける声が聞こえるが、口調は既に変わっていた。

 

〝死に急ぐんじゃねえよ、若造が〟

〝リョウザブロウのオヤジ!〟

 

 一切声を発することのなかったレイ・グレッグの歓喜が一言で伝わった。若きレオマスターは、今は亡き〝クレージー〟と呼ばれた老レオマスターの面影をこの老兵に重ねていたのかもしれない。

 合体シークエンスに移行しマグネッサーの磁束帯がゼロとジェットファルコンの間に伸びる。宿敵との対決に水を差された皇帝ヴォルフは、ゼロとのユニゾンを阻まんと猛然と突撃するが、素体となり機動性を増したゼロの剥出しのボディ表面を僅かに削ったのみだった。レイとリョウザブロウの声が重なる。

 

〝Zi―ユニゾン、ライガーゼロ・ファルコン〟

 

 磁束帯の旋風に包まれ瞬時にファルコンのアーマーを纏う。背負う巨大なバスタークローは、紛れもなくバーサークフューラーのシルエットを持つライガーであり、設計者クヌート・ルンドマルクの意匠を強く感じさせた。

 取り囲む凱龍輝も帝国軍親衛隊をも引き離し、二匹の獅子は超高速の格闘戦を開始する。戦乱の行方を握る宿命の対決には、凱龍輝を以てしても干渉することは出来ない。

「頑張ってください、中尉さん、リョウザブロウさん」

 そして二郎もまた、凱龍輝と共に戦いを見守るほかなかった。

 

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