『凱龍輝―蒼き龍の系譜』   作:城元太

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 キメラブロックスのAIはやはり暴走を開始した。

 戦場にはロードゲイル+ディプロガンズ+デモンズヘッド+フライシザースがチェンジマイズした〈ヘビーゲイル〉と、スティルアーマー+シザーストーム+レーザーストームがチェンジマイズした〈ヘビーウェポンスティルアーマー〉が徘徊する。HW(ヘビーウェポン)スティルアーマーのストームガトリングの曳光弾が無差別に撃ち込まれ、弾痕がレイのゼロファルコンにも、既に活動停止に陥っていたヴォルフのエナジーライガーにも刻まれた。

 ゴジュラスギガがギガクラッシャーファングでヘビーゲイルを噛み砕き、ディスペロウとHWスティルアーマーが砲撃戦を繰り広げるのを尻目に、レイは強引にゼロファルコンをエナジーライガーに横付けする。

 機体操縦をリョウザブロウに任せ、自らジェットファルコンのエネルギー伝導管を掴むと赤熱化するエナジーライガーに飛び移り、頭部装甲を排除したヴォルフとは互いの顔が見える距離に接近した。その時二人が交わした会話を知るのは当事者のみだが、やがてヴォルフもコクピットを離れ、レイが差し伸べた伝導管を掴みエナジーチャージャーのコネクターに接続していた。

 暴走したキメラブロックスは全て鎮圧され、戦場から砲火が途絶える。見守る両軍兵士は、直前まで激闘を続けてきたニ人の若者が協力する光景の不思議さを強く感じていた。

 接続されたゼロファルコンのバスタークロー付け根の銃口から、エナジーチャージャーより吸収した余剰エネルギーが天に向かって放出された。

 その場に在った全ての者が、長きに亘る戦いの終りを告げるモニュメントの如き光の柱を見上げる。

 やがて柱は線条となり、光の根元には灼熱の輝きを失ったエナジーライガーと、それに寄り添うゼロファルコンの機体が残されていた。

 機上で伝導管を掴んだまま座り込んでいた二人が立ち上がり、重責を成し遂げた後に互いを賞賛するかの如く、右手の(こぶし)を差し出す仕草が覗えた時だった。

 

15:59 EL、臨界継続、チェレンコフ光放射。

 

 機能を停止したかに思えたエナジーチャージャーは、先程とは異なる青い燐光を放ち始めた。

 再稼働の衝撃によってヴォルフはゼロファルコンのコクピットまで吹き飛ばされる。咄嗟に頭部ハッチを閉じヴォルフを収容したゼロを、エナジーチャージャーのバブルフィールドが容赦なく弾き飛ばした。

 エナジーライガーを中心に半球状のプラズマ・マトリクスが形成され、球面上で気体分子が燃焼してフィールドを縁取り、見る間に直径100mに拡大する。弾かれたゼロはファルコンの能力を活かし、空中で体勢を立て直し事なきを得るが、より悪化している状況を悟り身構えた。

 

 あれを止める。

 

 球殻の中心で暴走を続けるエナジーライガーを破壊せんと、渾身のザンスマッシャークローを打ち込んだ次の瞬間、最強のB-CASを纏ったはずのゼロは激しい爆風に煽られ敢え無く弾き飛ばされた。

 

16:02 プラズマ爆風、斬爪不可侵。

 

 剥き出しとなったクォークとタキオンとの対消滅反応により、プラズマ・マトリクスは外部からの物理的刺激を一切受け付けない閉じた〝系〟を形成していた。膨張する球殻を前にレイが絶叫する。

〝あのバリアみたいなやつを破壊しなければ近づくこともできない。何か停止させる手段はないのか!〟

 レイに呼応し、ゼロファルコンの傍らに寄り添うように進み出たのは、精神リンクを確立した二郎と、二郎に顛末を明かされ達観するマグリット・ボレルの搭乗する凱龍輝70-6号機であった。

「時間が無いので手短に言います。みなさんの凱龍輝を僕に預けてください」

 透徹とした二郎の(こえ)が響くと、残る7機の凱龍輝のコンソールに“We have control.”という奇妙な表示が出現した。

〝ブルックス機、操縦不能〟

〝カークパトリック機、本機も操縦を受け付けない〟

〝バーディーン、勝手に稼働していきます〟

〝こちらコードリアツェフ、なぜ一斉に制御不能になる、原因は〟

〝ストルルソン70-56号機、機体がまるで強烈な意志を持っているように疾走していきます〟

〝ガジュセック機、本機も同様です〟

〝こちらサチェック。ブルックス大尉、この現象はなんなんだ〟

 混乱し当惑する各凱龍輝のなか、70-6号機での二郎とボレルの会話が記録されている。

「――ボレル中尉さん、巻き込んでしまって申し訳ありません。会話はボイスレコーダーに録音されますから、責任の所在が僕にあるのは証明されるでしょう。証言台には喜んで立ちますのでお許しください」

「主任さんはこの状況で生き残るつもりなのか」

「もちろんです、死ぬ気なんてこれっぽっちもありません。僕は凱龍輝と一緒に生き残ります。――行こう、凱龍輝」

 二郎のコールに従い蒼き龍は粛然と隊列を組み、膨張を続けるバブルフィールドの周囲に散開していく。凱龍輝たちは己が成すべきこと、果たさなければならない任務を知っていた。

 

※ ベルナー・イズラエル・バラクリシュナンによる考察

「【精神リンクに伴う共振(Resonance)現象】としか、現時点を以てしても説明がつきません。ゾイドがパイロットのことを想い、自己犠牲を伴う利他的行動を行った事例はプロトゴジュラスギガを含め幾つも確認されていますが、一度に8機のゾイドが自律行動したという例は聞いたことはありません。

 凱龍輝たちは彼らを――彼女らを生み育て愛してくれた主任の〝こころ〟に応え、惑星Zi存亡の危機に立ち向かったのだとしか、未だ以て答えられません」

 

 直径200mを超える程に成長した球殻の円周に、凱龍輝が等間隔で移動する。

 集光パネルが微細な光を発し、やがて明確な輝きとなって機体を覆う。各パネルから離弁花状の粒子干渉フィールドが展開し、プラズマ・マトリクスの周囲に黄色い八つの花束を花開かせた。

 青白いチェレンコフ光を浄化する都度、花束は次第に数を増していく。

 その光景を見る二郎の脳裏に、父から語られた古い詩の一節が鮮やかに描かれていた。

 

 いちめんの菜の花

 いちめんの菜の花

 いちめんの菜の花

 いちめんの菜の花

 いちめんの菜の花

 いちめんの菜の花

 いちめんの菜の花

 かすかなる麦笛

 いちめんの菜の花

 

 エナジーライガーを中心にしたプラズマ・マトリクスは、モザイク状の黄色い花束に縁取られた。

 凱龍輝は更に輝きを増し、タキオンの奔流を黄色い花びらで柔らかく受け止めていく。

 蒼天に雲が流れ、春の香りを運ぶ。

 凱龍輝は、人のイマジネーションに描かれるであろう理想郷を具現化し、温かな輝きを放ち続けていた。

 

 理想郷はときとして残酷に破壊される。

 Lモジュールの耐久限界であった。

 花束の一画が崩れ、再びタキオンの奔流が惑星を蝕むかのように触手を伸ばそうとした。

 

〝待たせたな〟

 決壊した球殻の一隅に巨大なゾイドが出現する。

「ハーマンさん!」

 絶望的状況に現れたウルトラザウルス・テラ・インコングニータは、凱龍輝を遥かに上回る花束を纏っていた。装備された膨大なアキュムレイトモジュールは、8機の凱龍輝の干渉フィールドを補って余りある能力を顕示し、見る間にプラズマ・マトリクスを分解消滅させていく。

〝どうやら役に立ったようだな〟

「ええ。本当にありがとうございます」

 心の底から、精神リンクで繋がっている凱龍輝から出た言葉だった。

 

※ タケオ・Dによる考察。

「現場に居合わせたわけではないので断言できないのですが、話を総合し、機体の損傷状況からも分析すると、恐らく凱龍輝はLモジュールから荷電粒子を逆流させ、BEC(ボース=アインシュタイン凝縮体:Bose-Einstein Condensate)を精製し、超光速粒子タキオンを干渉フィールド内に封じ込めたのではないかと思われます。

 専門用語を使わせてもらうと、遅い光を実現するためにEIT(電磁波誘起透明化:Electromagnetically Induced Transparency)という手法を利用し、高密度の荷電粒子で空間の光学特性を変化させたわけです。

 EITを利用すると、濃密なガス状の荷電粒子集団はタキオンに対して一時的に透明になります。これは光の電場が荷電粒子に強力に作用して励起したエネルギーを吸収し、同様の作用をタキオン粒子――虚数質量を持つ(●●)としても――に影響を与えるような、正確に位相をずらした量子干渉と呼ばれる相殺効果を行ったに違いありません。黄色い花弁状に可視化されたのは、その位相を探る過程で顕在化した現象と考えられますね。

 簡単に言えば粘性の強い荷電粒子でタキオンを捕え消滅させた、と言えばいいでしょうか。

 それにしても、原理的に可能であったとはいえ、Lモジュールをこんなふうに使用するとは考案者自身も想像もつきませんでした。

 ゾイドが自分の構造を分析し、判断した。

 まだまだゾイドには謎が残っている、ということですね。

 

 ところで、エナジーライガーが超光速粒子タキオンを放出した時点で因果律が破綻している可能性があります。こうして会話している世界自体が、或いは多元宇宙の一つに過ぎないかもしれません。それでも個々人の主観で語られるその人自身の人生があるように、多元宇宙解釈にも無限の可能性が存在すると考えると、面白いと思いませんか?

 蛇足になりますが、この世界観を報告に付け加えて頂けるととても嬉しいです」

 

 臨界を終え石化したエナジーライガーの骸が現実事象に帰還した。

 惑星崩壊の危機は回避されたことが判明すると、兵士達は敵味方の区別なく一斉に歓声をあげ抱き合っていた。

 集光パネルの端々から白煙を上げる凱龍輝の頭部装甲が開き、二郎が立ち上がる。

「ありがとう、凱龍輝」

 そしてすぐに座り込んだ。

“You have control.”が表示され、制御を戻した凱龍輝が、精神リンクを終え疲労困憊の二郎の元に集まってきた。

「主任さん、やりましたね」

 口々に二郎を讃える言葉が聞こえる。

(僕はもう主任じゃないですよ……)

 少し面映ゆい笑顔を浮かべ、振り向いた視線の先で、顔の左側に古傷を刻むベテラン操縦者と若きレオマスター、そして初対面にして何度も映像で目にしてきた憂いを佩びた風貌の青年を捉えた。

 それもまた、非現実的な光景であった。

 

 ゼロフェニックスのコクピット上に、ネオゼネバス帝国・第二代皇帝ヴォルフ・ムーロアが立っていた。

 

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