二郎が手にしていた資料の裏に戦闘記録の走り書きが残されている。それを元に戦闘の経過を追ってみたい(※速記のため略称を使用)。
15:47 会敵、戦闘開始。コ(=甲標的)がDH(=デモンズヘッド)①に突入、敵中破
15:48 ヒ(=飛燕)がFS(=フライシザース)①とFS②に同時に突入、①中破②小破
15:53 DG(=ディプロガンズ)①飛来、LC(=レールキャノン)発射。ワ(=我=シュピーゲルフューラー)回避
15:57 SK(=シェルカーン)×3とDH②に接敵
ワ爪(=キラークロー)にて迎撃、SK①とDH②小破
DG②をコが迎撃、敵小破
16:03 LG(=ロードゲイル)①会敵 ヤリ(=マグネイズスピア)とワ爪交叉 ワ牙(=バイトファング)が翼を破壊 LG後退
16:06 LG①②同時攻撃 ワ尾で撃退 敵距離取る 後方よりDA(=ディアントラー)×5及びBF出現
筆圧から二郎が興奮している様子が覗える。敵のブロックス〝シェルカーン〟もまた彼の設計したゾイドであることを含め、技術者の立場で自分が育てたゾイドが直接戦闘をする場面を目にする機会は稀有であったからだ。
文字としては二郎の記録のみ残るが、現場を目撃していた所員一同が口を揃えて語った主旨は以下の言葉に集約される。
「あのゾイドは戦うたびに金色に輝いて、本当に美しかった」
蒼き龍の初陣は華麗に彩られていたと言えよう。
BFと記載されているのは後衛より指揮官機として出現したシンデヴォルフ少将搭乗のバーサークフューラーであった。奇しくも龍の姉妹機が対峙する場面が早々に巡ってきた。
16:10 DAの(プラズマブレード)アンテナ発振開始
散開B(=ブロックス)集合
CM(=チェンジマイズ)開始 除 中破機等
16:11 キメラドラゴン形成×3 LG×2同時攻撃 BF待機
合体後は完全自立型プログラムで行動するキメラドラゴンは戦闘アビリティーのみ比較すれば通常の大型ゾイドに匹敵する一方、コアブロックスの寿命が極端に短くなるためチェンジマイズ実施がライフサイクルコスト的に非効率且つ暴走という多大なリスクを伴う。しかしゾイド製作所破壊以上に、眼前に出現した試作機らしい蒼い新型ゾイドという魅力的な標的に遭遇してしまったネオゼネバス軍奇襲部隊はどんな代償を払っても破壊若しくは鹵獲するのを優先した。
16:14 キメラD(=ドラゴン)①牙攻撃 キメラD②LC射撃 ワLC回避するも牙受ける ワ尾にクラック
キメラD③乱入 キメラD①と交錯
暴走は闘争本能のみに特化したキメラドラゴンのデメリットであり、単機で戦う蒼き龍にとっては貴重な勝機であった。ストライクスマッシュテイルによって一機のキメラドラゴンを薙ぎ払うとすかさず甲標的をキメラドラゴンの正中線に突入させる。
16:17 コ突入によりキメラD③分解分離
数多くの戦闘キャリアを持つリョウザブロウは的確に敵の脆弱な部分を探り当てると同時に、甲標的AIの有効性を実戦で証明したのである。
キメラドラゴンという組み上げたブロック細工が崩れチェンジマイズが解除されると再び四機の小型ブロックスへと姿を戻し戦闘に加わった。
16:20 LG①②連携攻撃 ワ頭部擦過 クラック発生
16:22 キメラD②跳躍 ワ直上より落下 ワ横転
Bが一斉攻撃 ワ被弾 ヒ分離落下
二郎の記録はここで一時中断する。理由はその時二郎の背後より駆け付けた人物がいたからである。
「所長、それが例の装置ですね」
ノヴァヤゼムリャ製作所長であるN・ネフスキーがスーツケース大の装置を台車に積んで近寄る。
「なんとか間に合った。あのキメラブロックスが我が社の製造した純正品である確認に手間取った」
会話しつつ装置を展開するネフスキーは、内部より発振機らしきパラボラアンテナを設置すると工場から引かれたケーブルと接続し赤い電源灯を発光させた。
「……タダで商品を入手することのリスクを思い知れ」
ネフスキーがスイッチを操作すると、ヒトの聴覚では捉え切れない音波が発振されていた。
暴走するキメラドラゴン二機を除き、蒼き龍を攻撃していたキメラブロックスが動きを止めた。デモンズヘッドとシェルカーンは関節を軋ませ、ディプロガンズとフライシザースは飛行する方向を変える。
暴走とは異なり明らかに統率された動きで各キメラブロックスがディアントラーとロードゲイルに襲い掛かった。同士討ちである。
突然のアクシデントに状況を理解できない有人ロードゲイルのモニターに華やかなロゴが現れた。
『いつもゾイテック社の製品をご利用いただきありがとうございます。
今後とも弊社の商品のご愛顧をお願い致します』
「ロジックボム(論理爆弾)だ」
バーサークフューラーのコクピットでシンデウォルフ少将が吐き捨てた。
論理爆弾とはAIのロジックなどに潜伏しある一定の条件を満たした時点で発動するマルウェア(悪意あるプログラミング)の一種で、この場合『最も効果的な方法でゾイテック社を防御せよ』という指令を忠実に実行していた。
企業コンプライアンスの遵守としては重大な契約違反ではあるが、恫喝と奪取というマーケティング行為を逸脱した時点でネオゼネバス帝国軍に対しゾイテック社側は顧客登録を抹消、明確な〝妨害組織〟と認識し来るべき事態に備えロジックボムをAIに組み込んでいたのである。
引き続き二郎の記録を追う。
16:37 FS③DG③⇒LG①襲撃 FS④SK③⇒LG②襲撃 DH④⇒DA①②撃破 DH⑤⇒DA③撃破 残B BF襲撃 ワ⇒LG①撃破
状況は一変した。煌びやかな初陣を飾った蒼き龍に対し、満身創痍の奇襲部隊の内で残るのはバーサークフューラー一機のみとなっていた。
16:42 BF CPC(=Charged particle cannon 荷電粒子砲)発射態勢
撃破寸前のキメラドラゴンと組み合う蒼き龍の方向に、片方のバスタークローにフライシザース一機を突き刺したままのバーサークフューラーが集束荷電粒子砲の照準を定めていた。
口腔内の砲身が輝き、一閃の光が蒼き龍に到達する。
16:44 ワにCPC到達 キメラD②消滅
荷電粒子砲の直撃を受け崩壊するキメラドラゴンのシルエットが
16:45 Lモジュール正常作動 CPC完全吸収 美しい
バーサークフューラーの集束荷電粒子砲を吸収し、全身のLモジュールを輝かせる蒼き龍が前傾姿勢をとった。
頸部尾部の放熱板が一斉開放される。
狙い定めた蒼き龍の閃光が姉妹機バーサークフューラーに向かって放たれた。
咄嗟にバスタークローを展開しEシールドで防御するも、二機分の荷電粒子を帯びた閃光に抗い切ることなど出来ず、キメラドラゴン同様に荷電粒子の奔流の中に消え去っていった。
16:53 敵撤退 LG1、DA1のみ
稼働実験成功
二郎の記録は以上である。