いわゆる幽霊になりまして   作:幸い

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どうも、幸いです!
なんか…すごい久しぶりのような…?なんでこんなに空いちゃったんだろう…もし、ほんとにもし!待っていたって方がいらっしゃったら申し訳ないです!

今回はちょっと核心に触れるかなぁ…どうぞ!



幽霊になって助けを求めまして

「お兄さんっ!!!」

 

ーー生理的に滲む涙を浮かべて、私は悲痛な声を出した。

 

突然の発砲音、お兄さんの体から飛び出した血の粒がスローモーションのように私の目に映った。反動でうずくまるお兄さんに駆け寄って、私は焦った気持ちをそのままに、ひたすらお兄さんに声をかけた。

 

「お、お兄さんお兄さんお兄さん!血が、血、出てっ…」

「大丈夫、だ…」

「お兄さんっ」

 

お兄さんの腕を伝う赤い血を見つめて顔面蒼白の私がお兄さんの背中を支えながら喚いていると、お兄さんはそんな私の様子を一瞥してまるで安心させるように動かせる方の腕をゆるりと曲げて私の頭を撫でた。

 

「大丈夫、大丈夫だ。幸い、弾は腕に掠っただけだったからな…ただ、ここにいると君まで巻き込まれてしまうだろう…」

「な、なら早くここから…」

 

離れようよ、とそう言おうとした時だった。

お兄さんの目に覚悟の決まった光が浮かび、どこか思いつめた表情をしていたお兄さんは何かから開放されるような大きな息をついて私を見て、そして笑った。

 

「俺は行かないよ…だけど、君は逃げるんだ」

「なに、言ってるの…?」

 

なんで、そんなこと…逃げようよ、怪我してるのに。ねぇ!!

 

お兄さんの言葉が理解出来ず、口をパクパクと開閉させているだけの私にお兄さんはとても優しい顔をしてまるで幼い子供に諭すように私に言った。

 

「これは、俺の罪なんだ。最後に…君に会えて良かった。君に、会えただけで…こんなに救われるなんてっ…」

「なっ…」

 

何が、何を言っているの?救われるってなに?どうして、お兄さんは…

 

もう、呆然とお兄さんを見つめるだけになった私を見て、お兄さんは泣きそうな顔をしながら笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…遠くから、また銃声が聞こえた。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

森の奥の、川の向こう岸にある小さな一軒家に2人の兄妹がいた。

1人は、手入れのされていない茶色の髪を腰くらいまで伸ばした愛らしい顔の妹と、もう1人は、何処か汚らしい印象を与える妹によく似た茶色髪のよくよく見れば美形の兄だった。

 

お兄ちゃん、と呼ばれた少年は妹の呼び声に動かしたいた手を止めて振り向いた。

 

「ん?どうかしたのか、アジェリー」

「んっとねー」

 

2人は、川で洗った洗濯物を手作りの物干し竿で干している最中で、親も見当たらない中、2人だけでせっせっと働いていた。

 

「お兄ちゃんは、お母さんとお父さんのこと。どう思う?」

「…どう思うって、どういうことだい?」

「だーかーらー全然帰ってこないお母さん達のこと、お兄ちゃんはどう思ってるのかなー?って」

 

気になっちゃって。そう無邪気な笑顔で言った妹を、兄はぽかんとした表情で見つめていた。

 

確かに、自分たちの生みの親である両親はこの家に滅多に帰ってくることはなく自分たちもほぼ放ったらかしの状態である。たまに帰ってきても、食料や日用品を置いていくとまたふらっと何処へ出かけてしまい、当分の間は帰ってくることは無かった。

 

それでも、と兄である少年は妹を見つめながらぐっとこぶしに力を入れた。

 

「別に、俺はお前がいるだけで幸せだからな。これでいいんだよ」

 

幼い頃、押し付けられたと同然に親が自分に投げ出したこの妹のことを、自分はとても愛していて、妹とのこの暮らしが続くのなら、今の親のことなんてちっぽけなものなのだと。

兄は自分の言葉に訳が分からなさそうな顔をしている妹に、爽やかな笑みを返したのだった。

 

「アジェリーも、お兄ちゃんがいるだけでいいや。だって、毎日幸せだもんね」

「あぁ、2人だけでも生きていけるさ。今までも、そしてこれからも」

「うん!お兄ちゃん、大好き!」

 

「俺もだよ、アンジェリーチェ」

 

干し終えた洗濯物の籠を背負いながら、兄と妹は手を繋いで歩き出した。向かう先、何が待っているかなんて知らず。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

遠くから響いた銃声に、私はぐっと目を瞑った。もう何も見たくない、聞きたくないと閉じこもるように。

 

こんな異常な光景が見たくなくて、体を強ばらせて目と耳を抑えればお兄さんはそんな私を抱き寄せて守るように体を丸めるから、私は閉じていた瞳を開けて、お兄さんのことを見た。

 

「お兄さ…」

「…誰だ」

 

涙で滲む視界の中、お兄さんは私のことを一瞬だけチラッと見て笑いかけた後、鋭く警戒したような視線で私の背後を睨みつけていた。

恐る恐るそちらの方を振り向いてみると、そこにいたのは銃口を向けた怪しい人物とかじゃなくて。

 

「え、エレナさん?」

 

昨日別れたばかりの、エレナさんだった。

でも、その前にはもう1人いて。まるでエレナさんを庇うように背を向けて立つのは同じく昨日、私のことを助けてくれたDさんだった。

 

「なんで、ここに…?」

「…彼らは、君の知り合いかい?」

「そうだけど…でも、なんで」

 

戸惑い、あわあわとエレナさんを見つめた私に確かにエレナさんらしき後ろ姿の人は「アリーチェ!その場を動かないで!」とそれだけ叫ぶとDさんに駆け寄って何処か焦ったような様子でDさんの体を支えていた。

 

「D!どうして庇ったりしたの!私なら平気だって…そう、言ったはずなのに!」

「っエレナ…貴方が無事で、何よりです」

「…っ!」

 

よく見れば、Dさんのお腹あたりに赤く滲む血が服から浮き出ていて、私は先程の銃弾が私たちを庇ってくれたDさんに当たってしまったのだと理解して、ひゅっと息を呑んだ。

 

お兄さんも私たちを助けてくれたのだと分かったのだろう。エレナさんとDさんの2人を見て少し警戒を緩めると、私の視界を塞ぐようにもう一度抱きしめ直し、そのままお兄さんは静かな声で私の耳元にぽつりと言葉をこぼした。

 

「いいかい?2人があいつらを引き付けてくれている間に、君はここに助けを呼んでくるんだ」

「助け…うん、分かった。でもお兄さんは?」

「俺は行けないよ、あいつらの狙いは俺だからね」

「でも…」

 

お兄さんも一緒に逃げて欲しくて、思わず言い淀む私に、お兄さんはまた懐かしそうに笑ってみせると、抱きしめていた腕から私を離しその手でぐっと私の背中を押して「行けっ」とお兄さんのその声を引き金に、私は森の中を駆け出し始めた。

 

 

一瞬だけチラリと後ろを振り返ったけれど、お兄さんは力なさそうに緩く腕をあげるだけで、私の方を振り向くことは無かった。

 

「お兄さん…」

 

 

 

ーー何処か懐かしいこの気持ちは、なんなのだろう?

 

 

そんなふいに思った疑問を深く考えずに頭を振って誤魔化すと、走るための足に強く力を込めて私はずっと前を見て走り続けた。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

お兄ちゃん…そう、か弱く自分の手を握りしめる妹に俺は大丈夫だと言って笑いかけた。

 

たとえ、自分の生みの親である両親が家に帰ってきた瞬間に既に赤く染まったナイフを自分たちに向けてきたとしても。それを見て、妹が腰を抜かして危うく殺されそうになったとしても。

 

『大丈夫だ』

 

自分が震えてるのも知っているくせに、なんでもないことのように振る舞わなければ。そうしなければ、妹まで不安にさせてしまう。

 

俺は自分にも、そして妹にも、ただ大丈夫だと何も心配はいらないのだと言い聞かせ続け自分たちの部屋にある大きめのクローゼットに身を隠していた。

 

時々、下の階から親達の狂った叫び声や何かを壊すような音が始終鳴り響いているが、自分たちはそれに恐怖している暇などない。なんとしても妹と2人、この状況から脱出する算段をたてなければいけない。

 

…ただ、生きるために。

あんなクソみたいな親に、殺されてたまるか。自分たちは生きるのだ、妹と俺と2人だけで。

 

チラリと妹の方を見やると、妹はガタガタと震えた体を縮こまらせ俺と繋いだ左手をぎゅっと握しめてまるで祈るように目を瞑っていた。

その目には涙が堪えていて、絵に描いたかのような恐怖している姿に心が押しつぶされそうになってしまう。

 

「…大丈夫だ、アジェリー」

「お兄ちゃん…うん、大丈夫。アジェリーと、お兄ちゃんは大丈夫…」

「あぁ、いい子だな」

 

軽い言葉のやり取りも、気を張って警戒して。親達がいないことを確認しないといけない。

 

…ひどく疲れた。これは一体いつまで続くのだろうか。早く、早くここからでないと。じゃないと、妹まで…

 

不安が頭の中の大半を占め息が震えそうになるのを耐えていた、その時だった。

 

ーー家が、震えた。

 

「え…?」

 

ズシンと、まるでなにか重いものが家の屋根に乗っかってきたみたいな。そんな重く鈍い音が響いたと思うと、次に感じたのはなにかが焼け焦げたかのような鼻につく匂い。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、なんか…おかしいよ」

「あぁ…一体なにが…っ!?」

 

クローゼットの中から見える狭い視界に映ったその影に、俺は瞬時に妹を抱きかかえてクローゼットから飛び出た。

その影は勢いのままに先程まで自分たちがいたクローゼットを飲み込んで、焼け消してしまう。

 

ーー火事だ。

 

いや、これも両親が…?そんなこと、どうでもいい。今は、アジェリーを連れて早く逃げないと。この家から、離れないと。

 

チラチラと火の粉が目に入るが、擦らないように注意しながら妹にもそう伝え部屋の中から出ると、大きな足音をたてて1階へと移動し、そしてもう少しで扉だというところで、運悪くもあの気が触れた母親と鉢合わせになってしまった。

 

「あぁぁぁぁ…見つけたわぁぁあああ!」

「チッ…アジェリー!扉へ走れ!」

「で、でもっ」

「いいから早く!!」

 

戸惑いながら、でもちゃんと俺の言うとおりに走り出すアジェリーに俺は安心して微笑んでそして母親に飛びかかろうとした時。後ろから愛しい妹の悲鳴が聞こえた。

 

「いやぁ!」

「っ…アジェリー!?」

 

弾かれたように振り返ると、そこには父親に掴みかかられて抵抗しているアジェリーの姿が…

 

「やめろっ!アジェリーに、手をっ…出すなぁ!」

「あぁ…これで…」

「いやっ、やだぁ!!離して!お兄ちゃん!」

 

妹の叫び声にいてもたってもいられず駆け出そうとした俺を、すっかり忘れていた母親が押さえつけ、そして俺は何度か力強い拳で顔を殴られ動けない体になると、母親と父親の2人はアジェリーを連れて何処か外へ出ていってしまった。

 

 

 

ーー必死にこちらに手を伸ばす妹に、なんとか伸ばそうと動かした腕には、もう力が入らなかった。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

走って走って、もう木々を掻き分けるのも億劫になって。しまいには木々をすり抜けながらたどり着いたその街の入口には、私の予想していなかった人物が立っていた。

 

「ん?アリーチェ…?」

 

綺麗なブロンドの、ツンツンヘアー。見慣れたマントに身を包んだその姿は、紛れもないジョットの姿だった。

自警団のお仕事だろうか?Gさんや雨月さん、それにたくさんの部下のような人たちを率いて、この森の入口に立つジョットは急いでやってきた私を見て、何故か大きく目を見開いていた。

 

そのことに気づかないほど焦っていた私は、見つけたジョットの腕を引っ張って森の中を指さした。

 

「ジョット、ジョット!エレナさんが、Dさんも撃たれて…どうしよう!このままじゃ…」

「何だと…?アリーチェ、とりあえず落ち着いてくれ」

「でも、今にもみんなっ」

「………アリーチェ、一体いつどこから出てきた?」

 

ジョットの冷静な問いに「え…?」と私は声を零す。

 

どこから?どこからって、そりゃあ森から…

 

「…言い方が悪かったな、どうやって出てきた?」

「どうやってって…普通に、すり抜けて………あ」

 

私の言葉を聞いたジョットは、信じられないようなものを見るような目で私を見ていた。理解した瞬間、私もあっと声を漏らすけど、でも今はそんなことを説明している暇なんてない。

 

だって、今まで必死に隠してきたことがバレたという後悔よりも、やらかしてしまったという自責の念よりも、さっき森に残してきてしまったお兄さんたちのことの方が、何よりも気がかりだったから。

自分のことなんて今はいい。それよりもはやく、助けに行かなければ。

 

だから、逸る気持ちを押さえつけて信じられないと言いたげに目を見開くジョットに私はすごい勢いで助けを求め縋り付いた。

 

「そのことは、後で必ず話すから!だから、今は森にいるみんなを…!」

「………分かった。今はそちらの方を優先しよう」

 

ぎゅぅとジョットの袖を握りしめて俯く私を、ジョットは頷きながら頭を撫でる。

 

優先するというその言葉にパッとジョットを見上げた私は、へなへなと座り込みつつ「ジョット、ありがとう…」と感謝を口にすると、ジョットはそんな私の目線と合わせるようにしゃがみこむと「だが、アリーチェ」そう続けて私を見た。

 

「これが終わったら話してくれないか…?無知な俺に…いや、俺たちに、アリーチェのことを教えて欲しいんだ」

 

そっと私の手を取って、ジョットはそう言った。

優しげなその仕草に、不安そうに揺らめくその視線に、私は息を飲んでジョットを見つめた。

 

 

ーーなんで、なんでそんなことを言うの。そんなこと言われたら、私は頼ってしまうかもしれないのに。迷惑を、かけてしまう。

 

 

まるで弱虫な私の心は、ジョットの提案にひどく揺らいでしまっていた。そんな私の心を読んだかのように、ジョットは慈しむように温かな大きい手で丁寧に頭を撫でてくれた。

 

「…わかった」

 

 

話す、話すよ。私の正体も、今まで誤魔化してきたことも全部。

 

 

覚悟を決めた瞳でジョットのことを見上げると、ジョットは安心したように笑ってそしてお仕事をする時の真剣な眼差しで森を見据えると、部下の人達に指示をだした。

ジョットの指示で全員森の中へと入っていく。

 

 

その光景を見つめ、私は置いてきてしまったお兄さんたちのことを思いながら立ち上がり、そしてジョットたちの後ろを急ぎ足でついてあるいたのだった。




うぅん?まだまだ書きたいことがあったのにもう文字数が5000字を超えてしまった…平均4000字を目指している私としては少し心苦しいですかぎりです。

あと1話くらいアリーチェsideで書いたらどうしてエレナさんやDがこの時に居たのかの話も書きますね^^*
あまりお待たせしないように頑張ります!

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