もう一度、あなたと   作:リディクル

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 ヒーヒー言いながら書いた話です。
 まさか中編まで分ける事になるとは思いませんでした。
 一応、今回は戦闘描写が書かれていますが、ISを使用していない上、かなり荒削りな箇所が複数あります。
 また、独自設定が多々あります。

 それでもよろしければ、どうぞ。






九「影を踏む(中)」

 

 

 ゆっくりと、舞台の幕が上がる。照明は落ちているものの、一夏の眼で確認出来る限りでは、観客席は全て埋まっているように見える。ただ、観客のほとんどが生徒なのは、この学園の立地や楯無が言っていた事情がある為しょうがないとは思うが、よくよく考えてみればひどいものだ、とも思った。

 舞台のセットは第四アリーナいっぱいに作られているからか、かなり広い。そして突貫工事で作った割には無駄に装飾等も凝っている。照明はアリーナのものに少々手を加えて使用するそうなので、恐らくそうした設備を準備する時間がなくなり、その分を舞台の方へと当てることができたのだろう。

 そんなことを考えている一夏に、アリーナのライトが当たる。さて、始まりだ。そう思いながら、一夏は今まで座っていたセットの玉座から立ち上がる。

 

『昔々、ある国に一人の王子がいました』

 

 楯無のナレーションとともに、一夏はセットの階段をゆっくりと降りていく。その先には舞踏会エリアと事前に説明を受けた広場がある。王子と説明がなされたが、今一夏がIS学園の制服に似た衣装の上に身にまとっている、所々に金の意匠があしらわれた真紅のロングコートや、腰に下げられた細身の剣、そして彼の顔を覆う竜の顔を模したような無機質な仮面などを見ると、その姿は騎士のようにも見えた。

 そんな一夏が階段を降り、エリアの中央まで到達したことを確認し、楯無はナレーションを再開する。

 

『その王子は誰かを信じることができず、呪われた仮面の下に自身の心を封じていました』

 

 ここで一夏は、初めて自身が演じている役の設定を知った。台本では仮面が取れるまでは一切セリフを言ってはならないと書かれていた。身振りで演技をしろということだろうか? あまりそういうのは得意ではないが、頑張ろう。そう思っていると――

 

『そんな王子を狙う者たちがいました』

 

 流れが変わった、明らかに悪い方へと。

 

『その者達は幾多の戦場を抜け、群がる敵兵をなぎ倒す』

 

 おおよそ穏やかじゃないナレーションで、これまた穏やかじゃない設定が語られる。

 

『戦火の灰燼を纏うことすら厭わぬ地上最強の兵士たち。人は彼女らを――』

 

 はっきり言って、滅茶苦茶だ。時代考証とかその他諸々がおかしい。いや、学生の演劇だからこれぐらいぶっ飛んだ設定でもいいのか? 一夏がそんなことを思っている間も、ナレーションは進んでいく。

 

『――灰被り姫(シンデレラ)と呼んだ』

 

 そんなシンデレラいねーよ、と一夏は心の中でツッコミを入れた。

 

『今宵、王子の仮面に隠された軍事機密を巡り、シンデレラ達が舞踏会という名の死地にて舞い踊る!』

 

 そこで楯無のナレーションが終わった。そんな中、一夏は混乱の只中にあった。もしも仮面をつけていなかったならば、確実に間抜けた顔を晒していただろう。

 これから何が起こるかわからない。ただ、確実に悪いことは起こるだろう。そう思いながら、頭を切り替えようとした。その刹那――

 

「もらったああぁぁぁ!」

 

 聞き覚えのある叫び声とともに、何かがこちらへと突進してきた。

 響いた叫び声を聞いた瞬間、一夏はほぼ反射的に回避行動をとり、突進してきた何かが投擲してきたものを紙一重で避けた。

 投擲されたものは中国の手裏剣こと飛刀で、投擲してきた人物は鈴音だった。気合のこもった叫び声には似合わない、白地に銀のあしらいがなされたシンデレラ・ドレスを身に纏った彼女は、こちらを鋭い目で睨みながらも、油断なく飛刀を構えている。

 そんな彼女の姿を見ながら、なるほど、確かにナレーションにあった灰被り姫(シンデレラ)だ、と一夏はのんきに考えていた。

 

「……よこしなさいよ」

 

 鈴音が、ポツリと呟く。その言葉と同時に、彼女から放たれる殺気が強くなった気がした。それを肌で感じとっている一夏は、すぐに回避行動が取れるように身構えた。

 

「そのすかした仮面を!」

 

 飛刀の投擲と同時に、鈴音の足が踏み出される。

 

「私によこしなさい!」

 

 一気に加速し、再度一夏の方へと突っ込んでくる。

 回避するか――否、投擲された飛刀は4本。彼女の突進に対処するとなると飛刀が体に刺さり、かといって飛刀をしゃがんで避けてしまえば今度は鈴音の突進を避けることができなくなる。

 どうしたものか、と考える一夏の目にあるものが入ってきた。それは舞台セットのテーブルであり、その上にはティーセットが置かれたトレーがあった。

 それを視認した瞬間には、一夏はもう動いていた。まず、テーブルに乗ったトレーへと手を伸ばして掴み、自分のもとへ引き寄せる。そして、自身の方向へと投擲された飛刀のみそれを使って凌ぎ、そのままこちらへ突進してくる鈴音へと投げつけた。

 ただ、彼女も代表候補生だ。一夏が投擲したトレーに反応して急停止、向かってくるそれを蹴り上げてあさっての方向へと弾いた。その間に一夏は、後方へと飛び退るように距離を取った。そして腰に下げられた剣の柄に手をやり、いつでも抜けるように身構えた。

 鈴音が投げた飛刀が、舞台の床に落ちた音を立てる。それを皮切りに、体勢を立て直した彼女が、再度一夏の方へと突進する。そんな鈴音を迎え撃とうとした一夏は、突如背筋に寒気を感じ、転がるように左へと飛び、そのままテーブルの影に隠れた。

 

 その直後、先程まで一夏が立っていた場所に銃弾が撃ち込まれた。

 

 なに!? と驚愕の声を上げ、急停止する鈴音。そんな彼女を尻目に、一夏は銃弾が飛んできた方へと視線をやる。そちらの方向には、スナイパーライフルを持ってどこかへと移動を始めたセシリアの姿が見えた。そのまま彼女の姿を一夏は目で追おうとしたが、遮蔽物で姿が見えなくなったきり見失ってしまった。

 非常にまずかった。姿が見えないということは、どこから撃ってくるのかわからないということだ。一応、セシリアが走っていった方向の様子をしっかりと確認することができたならば、彼女がどこから狙撃してくるかなんとなく把握することができる。だが、それ以上の情報はわからない。銃弾を避けようにも、発射間隔や射線を少しでもずらされれば終わりだ。狙撃する側としては願ってもない好条件、だが狙撃される側からすれば拷問とも言える悪条件だ。

 そのようなこともあるから、このまま同じ場所にいるのは危険だ、そう思った一夏が狙撃に警戒しつつ、立ち上がり移動しようとしたとき――

 

「逃がすかぁ!」

 

 鈴音が飛び蹴りをかましてきた。辛うじて避けられたものの、一夏は彼女の不意打ちによって大きく体勢を崩してしまった。

 それを見逃すほどセシリアは愚かではない。その明確な隙を確認した次の瞬間には、既に引き金が引かれた後だった。放たれた銃弾は、何かに邪魔されることなく一夏の即頭部へと突き進んでいく。これは当たった、そうセシリアは確信していた。

 

「――危ない!」

 

 だが、彼女の銃弾はシャルロットが手に持つ対弾シールドによって防がれた。

 苛立ちから、思わずセシリアは舌打ちする。だが、次の瞬間には既に心を切り替え、次のポイントへと移動を始めていた。

 そんな彼女をあえて無視したシャルロットは、一夏を背に守りながら鈴音とにらみ合っていた。

 

「どきなさい、シャルロット」

 

 そう強気に言いながらも、鈴音は先ほどまでのように突進することはなく、飛刀をその手に持ちながら注意深くこちらの様子を伺っているようだった。

 

「それは出来ない相談だね、鈴」

 

 対するシャルロットも、鈴音へ挑発を返し、対弾シールドを構えながら腰を落とす。そんな彼女の後ろにいる一夏は、彼女が鈴音以外にもセシリアの方へ意識を割いている事に気がついた。

 ――否、よくよく観察してみると、鈴音の方もセシリアを警戒していることがわかった。無闇矢鱈と突っ込んでこなくなったのが、何よりの証拠だ。どちらも口では強気に出ているが、どこにいるかわからない狙撃手の存在に対して気を揉んでいるようだ。そんな彼女らが警戒しているセシリアも、今動くのは悪手であると考えているのか、こちらを狙撃してこない。

 下手に動けない、動いてしまえば終わりだ。そんな考えが三人の少女達の頭を過ぎり、動けないままにらみ合う。舞台の上に緊張が走り、膠着状態が生まれていた。それに飲まれるように、一夏も動くことができず、剣の柄に手をかけている事しか出来なかった。

 

「一夏、覚悟ぉ!」

 

 しかしそんなこと知らんと言わんばかりに、その膠着状態を壊したのは、刀を大上段へと構え、今にも一夏へ振り下ろそうとしている箒だった。

 彼女の叫びにいち早く反応したのは、今まさに刀を振り下ろされようとしている一夏だ。彼はほぼ反射的に剣を鞘から引き抜き、振り下ろされる刀を受け止めようとして――耐久性など様々な問題が不安として頭を過ぎり、急遽受け流すように刃を走らせ、後退するように距離を取った。刀を受け流した剣をちらりと見てみれば、傷一つ付いていないことが確認できた。

 後退した背が壁に軽く触れる。どうやら、舞台の端まで来てしまったようだ。背中から撃たれる心配は無くなったものの、事態が悪いことは未だ変わりない。

 そんな彼の前に、同じく後退してきたであろうシャルロットが立つ。そんな彼女に対して、にじり寄るようにゆっくりと距離を詰めてくる箒と鈴音、そしていつの間にか混ざっているラウラ。狙撃手であるセシリアは、どんどん自分の都合が悪い方向へ事態が動いていくせいで、アクションを起こすことができなくなっているようだ。

 また、膠着状態が生まれる。ただ、今回のそれは――

 

「――ああもう、じれったい!」

 

 我慢できなくなった鈴音によって、短い時間で壊された。

 突進する鈴音に続くように、ラウラと箒も疾走を開始する。そんな彼女らの鬼気迫るものを目の当たりにしたシャルロットは、ひぃ、と引きつった悲鳴をあげつつも、一夏を背に庇いシールドを構える。

 

『はーい、お知らせでーす』

 

 これから乱戦が始まり、ただでは生き残れなくなりそうな舞台に、楯無からのナレーションが響く。

 

『只今からフリーエントリー組の参加です!』

 

 その言葉を聞いて初めて、一夏は徐々に大きくなっていく地響きに気が付いた。

 その正体を知ったとき、一夏はこれが()()()()()()()()であることを思い出した。

 

『皆さん、王子様の仮面を目指して頑張ってください』

 

 フリーエントリー組はざっと見て、数十人以上いるようだった。しかも現在進行形で増えているのか、その一群は時間が経つごとにその大きさを増していっている。

 突然の乱入に、今まで一夏の仮面を狙っていた専用機持ち達は、程度の差こそあれど、顔を青ざめた。シャルロットに至っては、既に涙目になっている。

 しかし、そんな彼女らとは反対に、一夏はこの状況を好機と見た。彼は手に持った剣を鞘に収めると、シャルロットの脇をするりと抜け、フリーエントリー組の方へと全力疾走を始める。シャルロットが静止する声が一夏の背に投げ掛けられるが、それを無視した彼は足を動かし続ける。

 一夏の突然の行動に、シャルロット以外の専用機持ち達も驚愕から一瞬だけ動きを止めてしまう。だがすぐ我に返り、一夏を追いかけ始めた。一人離れた所にいるセシリアも、決定的な瞬間を狙い、スコープを覗き続ける。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 鈴音の声を聞いても、一夏は止まらない。

 

「何とか言ったらどうだ! 一夏ぁ!」

 

 箒の叫びが耳に届いても、一夏は動き続ける。

 フリーエントリー組の黄色い悲鳴が近づいていく今この瞬間も、一夏は迷うことなく疾走を続ける。その表情は仮面によって隠されており、窺い知ることはできない。

 そんな彼を、箒と鈴音は叫びながら追いかけ、ラウラはテーブルを器用に飛び移りながら迫り、シャルロットはそんな状況にもうどうにもならないと悟って対弾シールドを投擲しようと振りかぶった時、一夏は()()()()()()()()()()()()()

 

「――もらいましたわ」

 

 そんな些細な変化を見逃さなかったのは、セシリアのみ。彼女は一夏が速度を緩めた瞬間、ほぼ一瞬で彼の進行方向を計算・予測し、完璧なタイミングで引き金を引き――

 

 ――勢いよく横へと跳んだ一夏へ、彼女の放つ銃弾が届くことはなかった。

 

 目の前で跳んだ一夏の姿を見て、フリーエントリー組は全員が驚いて足を止め、専用機持ち達は冷静に対処しようと彼が降り立つだろう方向を見て、再び驚愕をあらわにした。

 誰かが自分の名を叫ぶのを他人事のように聞きながら、一夏は自分の体が物理法則に従って目的の場所へと吸い込まれるように落ちていくことに、何の抵抗もしなかった。

 足を動かそうと思っても動かない。まるで一夏以外の時が止まったかのような静寂の中、彼の体だけが空中を移動し続け――

 

 ――そうして、一夏は舞台の外側へと落ちていった。

 

 そんな衝撃的な光景を目の当たりにしながら、誰よりも早く我に返ったシャルロットと鈴音がすぐさま舞台の淵へと駆け寄り、一夏を探す。他の専用機持ち達も、彼女らに遅れる形でその場所まで行き、同じように舞台の外側へと目をやった。

 

 しかし、そこに一夏の姿は影も形も存在しなかった。

 

 

 

 

 

 




 後半は駆け足になってしまったのでかなり拙い描写になっています。
 戦闘描写ってこんなので良かったのか、と思いながら書いていましたが、結構キャラの動き等を考えながら書くのは楽しかったです。
 ただ心残りは、今回の話では一夏が一度も口を開かなかったことですかね。
 次回は皆さんお待ちかねのISでの戦闘ですので、一層頑張りたいと思っています。 
 ただ、なるべく早く投稿したいと思っていますが、今月中は少々きついと考えているので、その辺を理解していただくと幸いです。

 このような作品ですが、感想をお待ちしています。


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