もう一度、あなたと   作:リディクル

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 ちょっと遅くなったと思いますが、後編です。
 そして皆様お待ちかね、今作品最初のまともなISでの戦闘描写です。
 例にもよって拙い描写や独自設定、それに伴う原作改変等があります。

 それでもよろしければ、どうぞ。





十「影を踏む(後)」

 

 

 

 なんとか更衣室までたどり着いた一夏は、節々が痛む体に顔をしかめながら、仮面を取り、ため息をついた。

 あの時、舞台の専用機持ち、並びにフリーエントリー組、果ては観客達の目から一瞬でも自分を見失わせるにはああするしかなかった。そして彼女らが見失ったほんの一瞬の隙をつき、ISの腕部装甲のほんの一部を展開。PICを一瞬のみ起動させて慣性を制御し、舞台の下側へと体を滑り込ませた。そして舞台上にいる人々に気がつかれないうちに、下側を通って自分の制服が置かれている更衣室まで戻ってきたのだった。

 一応、楯無から()()()()()()()()()()()()()のみISを展開してもいいと許可をもらっていた。というよりも、楯無はこれを見越して許可を出していたのではないか、と考えてしまう。

 後で問い詰めようかな、と考えながら、一夏は疲労と痛みに苛まれた体にムチを打ちつつ、着替えをしようと立ち上がり――

 

 ――誰かのねっとりとした視線を、背中に感じた。

 

 それに気が付いた瞬間、一夏はすぐに振り向いた。彼が振り向いた先には、巻紙礼子が前会った時と同じ笑顔を浮かべながら立っていた。

 

「お久しぶりですね、織斑一夏さん」

 

 そう言って、ゆっくりと近づいてくる巻紙礼子に、一夏は妙な違和感を覚えた。それは、言葉で表現するのは少し難しいもので、()()()()()()()()()()()という言葉が一番表現としては合っていた。

 

「お久しぶりと言っても、さっき会ったでしょうに」

 

 近づいてくる巻紙礼子に対して、なるべく笑顔を浮かべながら一夏は言葉を返した。ただ後ろへ下がろうにも、既に彼の背中はロッカーに当たっており、これ以上下がることはできない。そこで彼は、こちらへ向かってくる彼女から極力目を離さないようにしながら、部屋の構造や出口の場所を確認した。

 一夏がそうしている間も、巻紙礼子は彼へと近づいていき、やがて少し離れたところで立ち止まった。その距離は一夏の目算で約1メートル半といった所だ。その気になれば一足で距離を詰められてしまう。そのような距離で立ち止まった彼女は、一言も話すことはせず、最初に会った時と変わらない笑顔を浮かべたままだ。

 そのまま数分、二人はにらみ合い――

 

「――何か御用ですか」

 

 先に言葉を発したのは、一夏だった。このままでは埒が明かないと考え、率直に問い掛けることにしたのだ。もちろん、その間も警戒を解くという愚行はせず、どうにか彼女と距離を離す方法を考え続けていた。

 そんな彼の問いに、巻紙礼子はええ、と肯定し、笑みを深めた。その瞬間、違和感がさらに強くなる。

 

「単刀直入に言いますと――」

 

 その言葉とともに、巻紙礼子の浮かべていた笑みが歪み、禍々しいものへと変わる。そこで初めて、一夏は()()()()()()()()()()()()()()()()()事に気づいた。

 

「――てめぇが持っている白式を奪いに来たんだよ!」

 

 そう言うと同時に、巻紙礼子の背後から、スーツを引き裂いて蜘蛛の足によく似た鋭利な爪が飛び出した。その数は8本。黄色と黒という警告色で彩られたそれは、よく見ると機械的な装甲脚であった。

 そんな装甲脚の刃物のような先端が割れるように開いて銃口が見えるのと、一夏が白式の完全展開を終えて雪片弐型で斬りかかったのは、ほぼ同時の出来事だった。

 一瞬で距離を詰めた一夏が、すれ違いざまに雪片弐型で薙ぐ。しかし巻紙礼子は、受け流すように体を回転させ紙一重で回避する。

 そしてそのまま一夏の背後を取った彼女は、彼の背中に向かって装甲脚の銃口で射撃を敢行しようとしたが、それよりも早く、一夏が反転する反動を利用してクロウモードの雪羅を叩きつけるように振るった。間髪入れずに襲来した二撃目に、巻紙礼子は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに不敵な笑みに戻り、いつの間にか展開していた脚部のスラスターを吹かして後退し、一夏と距離を取った。

 そんな彼女に対して、一夏はすぐに距離を詰めることはせず、横へ移動し、ロッカーの後ろへと身を隠した。そんな一夏の行動に、巻紙礼子はほう、と感心したように声を上げた。

 

「少しは冷静な判断ができるじゃないか、色男」

「――あんた、何者だ?」

 

 投げ掛けられた挑発を聞き流しつつ、一夏はロッカー越しに巻紙礼子と名乗った女に問い掛ける。彼の問い掛けを聞いた女は、ますますその顔に浮かべた笑みを深めた。

 

「まあ、普通だったら聞き出してみろとでも言うんだが――出血大サービスだ」

 

 そう言いながら、女は拡張領域(バススロット)からマシンガンを自身の手の中に呼び出す。その時の微かな金属が当たる音が聞こえた一夏は、雪片弐型の柄を握る手を強めながら、機を伺う。

 

「私の名はオータム、亡国機業(ファントムタスク)のオータムだよ」

 

 覚えたかい? と小馬鹿にしたように聞いてくる女――オータムの言葉を聞きながら、一夏はスラスターを噴射し、空中前転の要領でロッカーを飛び越えて、その勢いのままオータムめがけて雪片を振り下ろした。

 一夏の姿を捉えた瞬間、オータムはマシンガンを撃とうとしたが、それよりも一夏の斬撃が自分に届くのが早いと判断を下した時には、既に八本の装甲脚全てを操作して防御の姿勢を取り、その直後に振り下ろされた刃を完全に受けきっていた。

 

「さすがは第3世代機、片手なのにふざけた馬力だ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、オータムは言う。一夏はその間も、雪片弐型を押し込もうと右手に力を入れているが、装甲脚全てを使って挟み込んでいるためか、全く動く気配はない。

 ――これは引くのも難しそうだな、と考えた一夏は、雪片弐型に掛けていた力を徐々に抜きつつ雪羅のビームクローを展開、そのままオータムの脇腹めがけて貫手を叩き込む。

 それは流石にまずいと感じたのか、オータムは少々顔をこわばらせながら、装甲脚を操作して雪片弐型を弾くと同時にスラスターを逆噴射して距離を取る。そのことを想定はしていた、しかし予想よりも早かったためか、拘束が解除された時に一夏はほんの少し態勢を崩した。だが、そうしてくるのは分かっていたため、すぐにPICを操作して体勢を立て直した。

 オータムは彼が態勢を立て直しているその1秒にも満たない隙をつき、エネルギー・ワイヤーで構成された塊を投げつける。その塊は一夏の目の前で弾けて巨大な網へと変化し、彼を拘束しようとした。

 迫る網に一夏は微塵も慌てた様子を見せず、後退しながら雪片弐型を絡め取るように振るう。そうすると、みるみるうちに網が雪片弐型へと絡み付いていく。

 そうして、網が完全に雪片弐型に絡みついたのを確認してから零落白夜を一瞬だけ起動。展開されたビーム刃とエネルギー消滅能力は、一瞬にも関わらず、絡みついていた網を残さず焼き切った。

 

「……やるじゃないか」

 

 零落白夜が解除された雪片弐型を見ながら、不敵な笑みは変わっていないが、額にほんの少し汗が出ているオータムが口を開く。

 

「――それ、アラクネだよな。かなり前にアメリカで盗難騒ぎがあった」

 

 そんな彼女を睨みながら、いつ仕掛けられても動けるように最大限警戒しつつ、一夏は問い掛ける。その問いに、オータムは口元を歪めながら、当たりだよ、と答えた。

 一夏が言う通り、アメリカ産の第2世代機であるアラクネは実戦配備されていたうちの1機が盗難されるという事件があった。実行犯は短時間でそれを成し遂げたらしく、実際に盗難が発覚したのは実行予想時刻の1時間後だった。しかも、盗難された機体があった格納庫の監視カメラには、実行犯が格納庫へと入っていく姿が写っておらず、実行犯がアラクネを起動し、持ち去った時には既にジャミングによって役に立たなくなっていた。

 警備の人間はその時何をやっていたのかというと、ちょうど交代時間であったことと格納庫がある基地の前でちょっとしたトラブルがあった為、そちらの対応に人員が割かれ、少しの間監視室の人員が一人になってしまったのだ。また、そのたった一人の人員も、別部署からの急な書類の対応をしていた為、ほんの少しの間監視画面から目を離したタイミングがあったのだ。

 その数分の隙に、アラクネは強奪されたのだ。

 

「で、それを知ったお前はどうするんだ?」

「どうもしないよ」

 

 オータムの言葉にそう答えた一夏は、それに、と小さく付け加えるように呟き、構え直す。

 

「そんな事実を知ったところで、今目の前にいるあんたが俺の敵だってことには変わりがないだろ」

「――違いないなぁ」

 

 方やオータムは好戦的な笑みを浮かべ、方や一夏は仏頂面を浮かべている。そんな二人の間にもはや言葉はなく、冷たい沈黙の中で相手の出方を窺い、睨み合っていた。

 両者の距離は5メートル程であり、その間にはロッカー等の遮蔽物は存在しない。単純な攻撃可能距離を問うならば、銃器が主兵装のオータムが有利である。しかし第3世代機の性能と一撃必殺の零落白夜を擁する一夏にも十分に勝ちの目はある。

 それ故に、両者とも下手に動くことはできない。もし、先手を取って攻撃を仕掛けたとしても、それをいなされてそこから相手に押し込まれてしまえば、敗北に直結する可能性がある。

 特にオータムの場合、零落白夜を発動した攻撃を一度でも受けてしまえばほぼ終わりであることがわかっている上に、先の攻防から、目の前の男性操縦者は自身にその攻撃を当てうる力量を持っている、と嫌でも理解できた。

 一方の一夏も、零落白夜の特性と相手の射程距離の問題から、このままではジリ貧になることを理解していた。そんな中でも、彼が勝つ方法はただ一つ。懐に入り、一撃当てる。それだけで勝敗を決することができる。しかし、相手の攻めの引き出しが予想以上に多い為、次の攻撃が読みづらく、それが結果として一夏を前へと踏み込ませることを躊躇させていた。

 双方ともに考えを巡らせ、相手の一足一挙動を読み合う中でも、たった一つ、共通している考えがあった。

 

 ――もし勝負が決まるならば、それは一瞬である。

 

 均衡が崩れる。

 先に動いたのは、オータムだ。滑るように横へ動きながら、マシンガンと装甲脚の銃器で牽制を放つ。銃弾が放たれ、一夏へと迫る。しかし一夏は、慌てることなく脚部のスラスターを床に叩きつけつつ噴射し、跳躍するように回避する。

 そしてPICの操作とバク宙の要領で天井に脚部をつけ、蹴り出すと同時にスラスターを噴かし、突進する。その間もオータムの射撃が止むことはないが、一夏はバレルロールするように体を捻り、避けられる銃弾のみを避けつつ、雪片弐型が届く距離まで詰めた。

 

「ああもう! 惚れ惚れするぐらいやるじゃねえか!」

 

 そう言いながらも、オータムは後退しつつマシンガンを撃ち続ける。その顔には微塵も焦りが感じられない。そんな彼女の言葉に対して睨むような眼差しを返した一夏は、零落白夜を起動し、雪片二型を逆袈裟に振り抜いた。

 しかしそれを予想していたのか、オータムは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を起動。一夏とすれ違うようにして彼の斬撃を躱してみせた。

 数少ない好機を無駄にしたことに、一夏は思わず舌打ちしそうになったが、我慢した。そしてすぐにオータムを追撃しようとして――

 

 ――自身の胸部に、何か装置が取り付けられている事に気が付いた。

 

「掠っただけで3分の2持ってかれるか――本当に怖いねぇ」

 

 そう言いながら、オータムは振り向く。

 

「だが、()()()()だ」

 

 その言葉が一夏の耳に届くと同時に、彼の体に電流に似たエネルギーが流された。

 一夏は咄嗟に歯を食いしばるが、それでも痛みを抑えきれなかったのか、くぐもった声が口から漏れる。

 そうして必死に激痛に耐えていると、体に流れていたエネルギーが収まった。しかしそれと同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 妙だ、と一夏は思う。いくら体に痛みがあったとはいえ、あれぐらいの攻撃で白式のシールドエネルギーが空になる事はないはずだ。それに、そのような攻撃で機能不全を起こすほどISというものは脆弱ではない。

 そこまで考えて頭に過ぎったのは、エネルギーが流される直前に、自身の胸部にいつの間にか取り付いていたなにかの装置のようなもの。今確認してみれば、いつの間にか消えていた。

 ――恐らく、あれが原因だ。そう思いながら、一夏はオータムを睨む。

 

「お前が今考えていることは正解だぜ、織斑一夏」

 

 そう言いながら、オータムは自らの手の内にあるものを一夏に見せた。それは、小さいながらも強い輝きを宿している菱形立体のクリスタルだった。

 

 ――紛れもなく、白式のISコアだった。

 

剥離剤(リムーバー)ってやつか、くそったれ」

 

 一夏の悪態に、それも正解だ、とオータムは答え、ゆっくりと一夏に近づいていく。その間も一夏はどうにか立ち上がろうとするが、いくら体を動かそうとしても、流されたエネルギーによって負わされたダメージが回復していないのか、手足は痺れて動かない。どうにか首から上は動くのだが、そちらも動かすだけで痛みが走る。それ故に、彼が現状取ることができる行動は、苦痛に顔を歪めながら近づいてくるオータムを睨みつけることだけだった。

 そうして一夏が足掻いている間も、オータムは歩みを止めることはなく、やがて一夏の前まで来て立ち止まった。

 

「ISを失っても冷静さを失わないか、普通の操縦者なら喚き散らしているところだぞ」

 

 そう言いながら、オータムは困ったような笑みを浮かべる。だが、直ぐにその顔から笑みが消えた。

 

「本当ならそんなお前と少しくらい語り合いたいところなんだが、生憎私には時間が無いんでね――」

 

 悪いが死んでもらう。そう言うやいなや、オータムは一夏へマシンガンを突きつけた。

 

 その明確な死の宣告に、一瞬だけ一夏の表情に恐れが浮かぶ。

 だが直ぐに一夏はオータムを睨み返す。諦めるな、必ず突破口があるはずだ。そう思いながら、必死に考えを巡らす。

 そんな一夏を見ていたオータムは、ふと寂しげな笑みを浮かべた。

 

「――本当に、お前は私の好みだよ」

 

 何故そのような表情を彼女が浮かべ、そんな言葉を言ったのか、精神的な余裕があまり無い一夏にはわからなかった。ただ、こちらに銃口を向けているにも関わらず、彼女から敵意を一切向けられていないことだけはわかった。

 

「出会い方が違えば、多分だが私達は仲良くなれたと思うぜ」

 

 まあ、もうそんな機会は訪れないんだけどな、と自嘲気味に言ったオータムは、そのままマシンガンの引き金を引こうとして――

 

 ――突如自身の真横にマシンガンを向け、掃射した。

 

「乱暴ね、侵入者さん」

 

 聞き覚えのある声が、一夏の耳に届いた。

 ゆっくりと、オータムが声の主へと目を向ける。その行動に釣られるかのごとく、一夏は痛む体に鞭を打って声が聞こえた方向へと顔を向けようとしたが、上手く首が動かない。

 

「……一応言っておくが、ここのシステムは全てロックしておいた筈なんだが?」

「残念ながら、そちら方面に強い子が私の配下にいるのよ」

 

 少々引きつったような笑みを浮かべながら問いかけたオータムに、その人物はまるで隠すことなど何も無いというように即答した。そこでようやく、一夏は声の主の方へと顔を向けることができ、その姿を確認することができた。

 

「まあ、そういうことだから――」

 

 後はお姉さんに任せなさい、織斑君。

 

 出入り口の前に立ち、そう自信満々に言い放ったのは、自身のISを纏い、目の前に水のヴェールを展開して銃弾を全て受け止めた更識楯無だった。

 

 

 

 

 

 




 何故か書いてたら自然とオータムが性格改変されてしまった……
 一応はプロット通りです。原作での描写が余りにもギャグに見えてしまったので、テコ入れのつもりです。
 恐らく賛否両論の誰得状態ですが、この作品だと性格改変されていないキャラを探すほうが大変かもしれないです。
 戦闘描写に関してはもう少し工夫して書いていこうと思っています。今までガッツリと書いたことがあまりなかったので、色々と試行錯誤しながらやっていきます。
 なので少々拙い部分が出てくるかもしれませんが、ご容赦ください。

 このような作品ですが、感想をお待ちしています。


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