なかなかモチベーションが上がらず、執筆に苦しみました。
一応表現が雑にならないように努力しましたが、早く更新しようと思っていたため、そうなってしまった箇所があるかもしれませんが、ご了承ください。
それでもよろしければ、どうぞ。
小さな雲が、風に吹かれて青空を動いていく。遠くから潮騒の音が聞こえ、まだ残暑と言える時期の日差しが第六アリーナに降り注ぐ。
少々夏の雰囲気が残るが、平穏という言葉がよく似合うその日、1年1組の生徒達は、副担任である真耶の説明を真剣に聞いていた。
今日からしばらくは、市の特別イベントとして催される『キャノンボール・ファスト』というISを用いた高速機動レースの為の授業となる。しかしそのイベントは、本来であれば整備課が登場する二年生からのイベントである。今年はこれまでの行事において発生した予期せぬ出来事に加え、一年の専用機保持者が例年よりも多いことから、一年生時点で参加することとなったのだ。
そうした関係で、先週急遽行われた座学の際に、高速機動によって起こる事故は通常時の事故よりも被害が大きくなると説明された時、皆気を引き締めて臨むように、と千冬に釘を刺されている。一夏自身、高速機動時における戦闘訓練を楯無とともに行ったことがある為、千冬の言うことはよくわかった。
ISを使用する関係上、接触等による不慮の事故は自動車やバイクでのそれよりも悲惨なことになる可能性は十分に有り得る上、今回は妨害ありのレースであり、武器の使用も平常時の状況と異なる為、一つ間違えれば大惨事になる。一応、今回のイベントではIS学園のものと遜色ない設備を持つ市のISアリーナで行われる為、観客への安全性は確保されている。
――それでも、もしかしたらということがあるので、一般生徒と専用機持ち双方ともに気をつけろという意味なのだろう、と理解していた。
そんなことを考えていると、いつの間にか説明が終わっており、照彦とセシリアが前へと出てISを展開していた。周囲の一般生徒の様子から察するに、どうやら専用機持ちによる実演が行われるようだ。いつもだったら、このような専用機持ちによる実演の機会では一夏が選ばれているのだが、文化祭でオータムに襲撃された時のことを話した所、現状は彼の心身に影響が出ていないものの、これから出始めるかもしれないということで、楯無や千冬の許可がない場合はISの展開を極力控えるようにとのお達しがされた。要は経過観察というわけだ。
この経過観察がこれまた厄介で、例え許可が取れても授業の時はもちろん、放課後の楯無との訓練でもISの起動・展開は教師が最低でも一人はついた状態で行われ、何らかの異常が確認できた場合はすぐにISの起動を終了しなくてはならず、また、一週間に一度ISを絶対に起動しない安息日を設けるといった徹底ぶりだ。
もちろん、そのような現状で一夏がISを起動できる時間は、他の専用機持ちと比べて圧倒的に少なくなっており、自身の体調によっては、まともに訓練ができない日もあった。そういった日は、生徒会の仕事に集中したり、疎かになりがちな一般教養科目の勉強を行ったりしていた。
しかし、自身がそうして足踏みしている間にも、他の専用機持ち達はしっかりと訓練に打ち込み、着々と実力をつけているのだ。ただ、そのことに焦って無理をすれば、今の状態が悪化するのが目に見えていた。
だから、一夏は焦らない。自分は自分、他人は他人と割り切り、今の状況の中でできる最善を模索し、やるべきことを一つ一つ確実にこなしていく。それこそが、自身にとっての近道なのだと考えた。
――今は、我慢の時である。そう自身に言い聞かせながら、一夏はもうすぐ始まるであろう実演の方へと意識を戻す。
どうやら二人とも高速機動用の設定が終わったようで、一般生徒達の声援に手を挙げて答えながら、所定の位置へと移動していく。
その途中、照彦が一夏の方を向き、偶然二人の視線が合った。その時、一夏は何か言葉を口に出すことはなく、代わりに口元に笑みを浮かべ、小さく手を上げることで答えた。そんな彼の反応を見た照彦も、真剣な表情を変えずに、同じく手を上げることで返答とした。二人の視線が交わったのは一瞬で、その後照彦はすぐに前方へと顔を向け、一夏は照彦の前を行くセシリアの方へと目を向けた。
見ればセシリアは、一夏の視線に気がついていないらしく、クラスメイトの声援に答えながら移動をしていた。そのことに対して何も言うことはない一夏は、静かに彼女のことを見守っているうちに、ふと彼女がやつれているらしいことに気がついた。しかし、今彼がいる位置からでは彼女の距離が少々開いている為、その真偽を判別することは難しかった。
後で照彦に聞いてみるか、と一夏が思ったのと、実演をする二人が位置に着いたのはほぼ同時だった。それを確認した真耶の口から、一般生徒に向けて二人のISについての説明がなされていた。
「――織斑」
一般生徒と一緒に話を聞いている一夏の耳に、聞き覚えのある声が入ってくる。
「何でしょうか、織斑先生」
声を掛けてきたのは、千冬だった。声を掛けてきた彼女に対し、一夏は真耶の方を向いたまま返事をする。真面目な彼女からしたら、声を掛けられたからといって授業の説明をしている真耶から目を切ったら、確実に注意してくるだろう。
「やりたかったか、実演」
生徒に呼びかける時とは違う、意識的に抑えた声。今彼女が浮かべている表情は、実際に見ていないのでわからないが、いつもとは違ったものになっているのだろう。
「やりたくない――と言えば嘘になりますね」
そんな彼女に対し、一夏も本音を言う。
本当は、自分も実演に参加したかった。いつもとは違う速度で空を駆けるということが、どのようなものであるかを知りたかった。
――だが、その感情はどちらかというと
しかし、一夏の願いはまだ叶わない。
「でも、今はしょうがないですよ」
貴重な男性操縦者に何かあったらいけない。そんな理由でISの起動を極力控えるよう言われたのだ。その時の一夏は、渋々といった風で了承した。自分が至って健康体であり、多分政府の役人達が思っているような事態にはならない筈だ。だが、無理をしたのは自分であり、これはその結果なのだから、しょうがない。
――そう、しょうがないんだ。
自嘲するように呟かれた一夏の言葉を聞いた千冬がただ一言、そうか、と小さく答えたのと、真耶がフラッグを振り、二人の実演を開始させたのはほぼ同時のことだった。
「時に織斑、何を考えていた」
実演も後半に入り、どうやらコツを掴んだらしい照彦が徐々にセシリアを追い上げ始めて来た時に、千冬が一夏に対してそんなことを言った。
「何を考えていた、とは?」
しかし言われた当の本人は、その言葉の意図を把握しきれていないようで、実演の様子から目を離さずに、とぼけたような言葉を返した。そんな一夏の様子に何かを察したのか、すまない、言葉を変えよう、と千冬は前置き、口を開く。
「お前は山田先生の話を聞いていたか?」
その言葉を聞き、一夏はようやく千冬が言わんとしている事を理解した。彼女が言いたいのは、真耶が授業の説明をしているにも関わらず、思考に没入して話を聞いていなかったように見えたということだ。そうした他人ではわからない自身の小さな変化を、彼女は何故気づけたのかと問われれば、彼女が自身の姉であり、小さい頃から一夏を見ていたから気が付くことができた、と答えることしかできない。
「ちゃんと聞いていましたよ?」
そんな千冬の問いに、一夏は答える。ただ聞いていたというのは些か正しくはない。正確には、耳に聞こえてきた説明が頭に残っている、という方が正しい。それを聞いていると答える輩もいるだろうが、大雑把な内容しか頭に残っていないことを鑑みれば、おおよそ聞いているとは言い難い、と一夏は思っている。
「何かを考えるようにぼうっとしていたのにか?」
……さすが元
「言いましょうか、説明の内容」
そうしなければ、貴女は納得しないだろう――と心の内では考えつつも、それを努めて言葉に出さないようにする。もしも、隣にいる彼女にそんなことを考えていることがバレたら、恐らく出席簿だけでは済まないだろう。
「――いや、言わなくていい」
しかし、千冬の口から出てきた言葉は、一夏の予想を裏切るものだった。いつもの彼女であれば、言ってみろ、と少々こちらに威圧を掛けながら言うはずだ。
いつもとは違う姉の態度に困惑しつつも、一夏は口を開く。
「いいんですか? 言わなくて」
「いいさ、細かい所を疑っていたらキリがない」
一夏の問いに、千冬は事もなさげに答えつつも、それとな、と前置き、言葉を付け加える。
「昔からお前がそういった時は、特に問題がないことが多いからな」
――本当に、自分のことをよく見ている。少し優しげな口調の千冬に言われたその言葉を聞き、一夏は少々の気恥ずかしさとともにそう思った。
そんな一夏の内心を汲み取ったのか、だがな、と口調を平時のものに戻して千冬は続ける。
「今回は許すが、今後は話を聞いていないように見える態度は取らないように」
いいな、と念を押す千冬に一夏は、わかりました、と返事を返し、実演の方へと意識を戻す。
彼と千冬が話している間に、照彦はセシリアを抜いていたようで、ゴールまでの距離はあと僅かであるものの、徐々に差を広げようとしていた。しかしセシリアも必死に食いついているのか、照彦が追い上げていた時よりかは差に変化はない。
そんな実演の様子を見守っている一夏の耳に、勝負あったな、と千冬が小さく呟いたのが聞こえた。そんな彼女の呟きに対し、一夏は特に反応を示さなかった。何故なら、彼女の言葉を聞いた彼もまた、照彦の勝ちを予想していたからだ。
そして、彼女の呟きから1分も経たないうちに実演は終わった。結果は言わずもがな、照彦の勝ちである。
ゆっくりと地面に下りてきた二人が、機体の展開を解除して並び立つ。そこへ真耶が駆け寄っていき、声を掛けている。その光景を横目で見ていると、ぱんぱんと手を叩く音が聞こえた。音がきこえた方を見れば、いつの間にか前へと戻っていた千冬の姿が見えた。
千冬は生徒達が自身の方へ注目したのを確認してから、口を開いた。
「いいか諸君」
一瞬だけ、一夏は千冬と目が合ったような気がした。
「今年は異例となる一年生の参加だが、そうなった以上は各自結果を残せるよう全力を尽くすように」
わかったな、という千冬の言葉を聞き、一般の生徒達は皆、真剣な表情で返事をした。姉の知名度と崇拝度をよく知っている一夏にとって、一般生徒達が彼女の話を聴き損じることがないということは、眼前の様子を見ていれば分かることだった。
そんな生徒達の様子を見ながらも、特に表情を変えずによろしい、と言った千冬は、さらに言葉を続ける。
「それではこれより、練習機組の選出を行う。各自割り振られた機体に乗り込め」
千冬の言葉を聞いた一般生徒達が、一斉に動き始める。専用機部門と違い、訓練機部門は完全なクラス対抗戦となる。そうした事情があるからか、勝利を収めたクラスにはデザート無料券が賞品として出ることになっている。人間、目の前に餌がぶら下がっているとやる気を出すもので、賞品を手に入れようとクラスメイト達の気合は十分だ。
そんな活気に負けぬよう、千冬は声を張り上げ、専用機持ちの面々に対して指示を飛ばす。
「専用機持ちの中でパッケージをインストールするだけの者は訓練機組の補助に回れ。機体に調整が必要な者は即時調整を始めろ」
千冬の言葉を聞いた専用機持ち達は早速動き出す。セシリア、ラウラ、シャルロットのパッケージ組はすぐに一般生徒達の元へと移動し、指導を始めた。その一方で調整組に割り振られている一夏は、千冬の指示が飛ぶ前に照彦と合流していた。
「どうだった、実演」
その言葉を聞いた照彦は、まだまだだな、と少々厳しめの自己評価を下す。
「今回は俺が勝ったが、セシリアの方もまだ機体の調整が完全には終わってないだろうし、今回のようなレースになるのであれば今度は俺が負けるかもな」
「つまり、まだ改善すべき所はあると?」
一夏の言葉に照彦は、そういうことだ、と答える。
「今の俺の機体はスラスターに出力を振っているとはいえ、対外的に見ればほぼ未調整のようなものだからな。細々とした設定はこれからいじっていかなくちゃならない」
それに、と一夏に言葉を投げかけつつ、照彦は続ける。
「そもそも俺達は高速機動下での戦闘訓練はやっているが、レースの訓練なんてやったことないだろう?」
照彦の言葉に同意するように、一夏はそうだな、と少々困ったような表情を浮かべて言う。一夏と照彦の指導役である楯無も、今回の学園側の決定は寝耳に水のものであったようだ。しかし彼女は、今更訓練の予定を変えることは難しいと前置いた上で、苦肉の策として高速機動時における機体制御に重点を置いた内容を行うつもりだと自分達に語った。
その時の、本当に申し訳なさそうにしている楯無の表情が、未だに一夏の脳裏に焼き付いていた。
「無様は晒せないよな」
ほとんど無意識のうちに、一夏はそう呟いた。もちろん、呟かれたその言葉には様々な意味がある。しかしその中でも一番強いものが、自身らを想い続けている楯無の為にも負けられないという感情だ。その感情は、彼女のことを想えば想うほど強くなっていく。
その感情が何であるか、一夏は表現することが出来ないが、きっとその根底に有るものは、自身の恋心なのだろう、と考えていた。
――じゃあ、負けられないな。
自分の恋心が真実であると証明する為、そして楯無へのささやかな恩返しの為、一夏はそんな小さな誓いとともに、自身の心に火を灯した。
想いを胸に秘めた一夏の内心を知らない照彦ではあるが、彼の気迫を感じ取ったのか、呟かれた言葉に賛同するかのごとく、全くだ、と答えつつ頷いた。
「そういう事なんで――早速始めようぜ」
「ああ、時間は有限だからな」
その会話を合図に、一夏と照彦は自分達の機体の調整を始めた。時に二人で議論をし、時に教員の二人にアドバイスをもらいながら、授業終了ギリギリまで作業に打ち込んだ。
少し離れた所から見ている、箒の瞳には気づかずに――
少しずつ、これからの展開の為に種をまいていきます。
さて、話は変わりますが、これから少しだけ更新速度が遅くなります。
なるべく早く更新するように心がけますが、しっかりとした作品を書く為に、執筆に時間を使いたいと思っているからです。
なので、そこのところをご理解していただけると幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。