もう一度、あなたと   作:リディクル

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 後編です。
 最初に言っておきますが、今回の話は見ようによってはアンチと取られかねない表現があります。
 また、いつものごとく独自設定もあります。

 それでもよろしければ、どうぞご覧下さい。





十七「静寂の帳(後)」

 

「――そういえば、話は変わるのですが」

 

 結局、セシリアはそう言って、無理やり話題を変えた。それは単純に、自身とラウラの間に流れるまずい空気を変える術をそれぐらいしか思い浮かばなかったからだ。そして、そんな方法しか思い浮かばなかったが故に、セシリアはそのような選択しかできない自分自身の至らなさを嘆くとともに、他にも方法を考え、より良いものを選び取ることが出来たにも関わらず、()()()()()しかできなかった自分自身への憤りを心の中で募らせた。要するに、自己嫌悪に陥っていたのだ。

 しかし、当のラウラはそんなセシリアの感情をわかっていないのか――もしくは、わかっていて無視しているのか、なんだ? と言って何事もなかったようにセシリアの方へと顔を向ける。そんなラウラの様子に、セシリアは少々困惑しつつも、それを表情に出さないように気をつけながら、続ける。

 

()()()は聞かなかったことですけれど、ラウラさんは生徒会長についてどうお思いになられているので?」

「あの女の事か?」

 

 セシリアの言葉に、ラウラは少し驚いたような表情で、ぱちくりと瞬きした。初めて、彼女の無表情が崩れた瞬間だった。

 セシリアが振った話題、それは生徒会長――更識楯無のことだ。

 いきなり自分達の前に現れて、いつの間にか一夏の隣に収まっていた彼女の存在を、箒と鈴音は遠まわしに侵略者と揶揄していた。二人の他にもシャルロットは声には出していないものの、無意識的に二人と同じ感情を抱いているように見えた。

 セシリアは、そんな彼女らのように楯無の登場を()()()()()で処理できるような思考をしてはいなかった。楯無の経歴を調べた上で、彼女の今までの行動をつぶさに観察してきた自分からしたら、狙いが一夏自身ではないのでは? と思えてしまう立ち回りの仕方をしているのがよくわかるのだ。

 しかしラウラは、今まであの生徒会長について詳しく言及していることはなかった。どのような理由で、彼女が突然現れたあの女性について何も言わないのかは分からない。もしかしたら、大勢の前では言えないことを考えているのかもしれない。

 だからこそ、セシリアはラウラの()()が気になったのだ。

 

「そうか、あの女のことか……ふむ」

 

 セシリアの内面など露知らず、ラウラはそう言い、顎に手をやって少しだけ何かを考えた後、主観的な話になってしまうが、いいか? と確認の言葉を口にした。それに対しセシリアは、構いませんわ、と答え、彼女に続きを促した。セシリアの返答を聞いたラウラは小さく頷き、口を開く。

 

「まず、IS操縦者としての実力は――あの時の模擬戦でわかっていることだが、私達よりも高い」

 

 そのことはわかっているな? とラウラが問い掛ければ、セシリアは何も言わずに頷くことをその言葉への返答とした。セシリア自身もあの模擬戦の当事者の一人である上、その中でも()()()()()()()()()であるが故に、楯無の実力を十分に味わうことになった。その経験があったからこそ、ラウラが語った楯無の評価は素直に賛同できるものであった。

 セシリアが頷いたことを確認したラウラは、続けるぞ、と前置き、話を続ける。

 

「次に奴の性格についてだが――これがよくわからん」

「よくわからない、とは?」

 

 ラウラの言葉を聞き、セシリアは思わず聞き返した。当のラウラは、うむ、と答え、また的の方へと顔を向ける。

 

「簡単に言ってしまえば、捉えどころがない。そして、本心を隠すのがうまいのだ」

「……つまりは底が見えない、ということですの?」

 

 ラウラの言葉を受けたセシリアの問いに対し、まあ、近いものだ、と珍しく要領を得ない答えをラウラは返し、続ける。

 

「奴の本心が見えない以上、どこまで潜れば底があるかわからない――しかし、奴の目的はわかる」

 

 予想外の言葉に、セシリアは思わず驚きの言葉を上げた。そんなセシリアを、ラウラは一瞥して、わからないか? と言葉を投げ掛けた。

 

()()()()()()()()()()()()。普段奴が嫁と接触している時のことを思い返せば、すぐに分かることだ」

「……そこまで気にするのはラウラさんくらいかと思うのですけど」

 

 呆れたようなセシリアの言葉に、そうか? とラウラは首を傾げた。そして、そうですよ、というセシリアの返答に、そういうものなのか、と一人納得したような感じで、話を進める。

 

「模擬戦の時も、普段の訓練の時も、()()()()()()()()()()()()()()()()()。いや、嫁だけじゃない。照彦がいる時は照彦も守れる位置にいたぞ」

 

 わからなかったか? とラウラに問われ、セシリアはもう一度今までのことを思い返す。

 ――思い返し、ラウラが言っていることが真実であることを理解した。

 

「確かに、そうですわね」

 

 記憶の中の彼女は、一夏とともにいるときは、常に彼が自身の視界に収められるところにいた。照彦もいるときは、二人とも彼女の視界に入っていたのだろう。さらに面白いことに、どちらの場合でも彼女は5()()()()()()()彼らの前へと飛び出せる場所にいたのだ。

 対象に不審には思われず、常に対象を守ることができるその姿はまるで――

 

「まるで、ボディーガードかSPみたいですわね」

 

 セシリアの正直な言葉に、ラウラも頷く。

 

「しっかりとした訓練を受けていなければ、そうした動きは取れないからな。あながち間違いではないだろう」

 

 日本にも()()()()()家があると聞いたことがある、と言ったラウラに、セシリアはなるほど、と納得したように頷いた後、ふとあることが気になり、口を開く。

 

「――仮に、あの方が()()()であるならば、依頼者は」

「恐らく教官だろう」

 

 セシリアの問いに、ラウラは断言する。セシリアの考えも、ラウラとほぼ同じだった。女尊男卑の考え方が主流であるこのご時世で、一夏を――突然現れた男性IS操縦者を守ろうと考えるのは、その人物の身内しかいないだろう。そういった面では、千冬の考えていることは人間として正しい。しかし、それは彼女自身(ブリュンヒルデ)の威光(という称号)では守りきれないということを意味しているのだ。

 それをラウラもわかっているのか、だからこそ解せんのだ、と腕を体の前で組みながら言った。

 

「教官が依頼したからといって、何故()()()()()()()()のだ?」

 

 そう、ラウラの言う通り、彼女が一夏に接触したのは、彼の証言を信じるならば夏休みが終わってからである。そこの部分を聞くと、何故彼女は千冬から一夏の護衛を依頼されているにも関わらず、彼が入学してから今まで接触してこなかったのか? という疑問がセシリアの頭を過ぎる。

 考えられるとすれば、千冬が依頼した内容そうした意味を含むもの――例えば、一定期間は陰ながら護衛するとか、そうした内容での契約だったのかもしれない。そうであるならば、接触してきたのが秋になってからというのも納得できる。

 しかし、そのような内容の依頼をあの織斑千冬が頼むだろうか? 彼女の性格からすると、影から護衛する場合はずっと影からで、接触させるくらいなら入学してすぐに引き合わせるくらいはするだろう。それこそ、懇切丁寧に一夏の置かれた状況から、彼女がどのような役目の人物であるかの説明付きで。

 しかし、何故そのような依頼の仕方を千冬がしなかったのか――と思考が振り出しに戻りかけていたセシリアの頭に、ふと一つの考えが浮かんできた。

 

 ――もしかしたら、依頼の内容を変えなければならない事態が発生したのでは?

 

 最初は、陰ながら護衛するという内容の依頼でいいと思い、それで様子を見ていたのだろう。しかしある時、不測の事態が発生し、千冬は彼女を一夏の傍に付けざるを得ない状況になってしまった。

 それならば、千冬の不自然な依頼のつじつまが合う。

 

 ――では、千冬が看過できないと考えた、依頼変更の理由は何なのだろうか?

 

「セシリア」

 

 そこでセシリアは、ラウラに声を掛けられた。その声を聞き、隣に座る彼女の方へと顔を向けると、彼女の深い紅を湛えた隻眼が、視界に入った。

 不思議なことに、射撃訓練場の中はもう十分に暗くなっているのに、いつにも増して真剣な表情を浮かべているラウラの顔が、何故かよく見えた。

 

「――恐らく、お前も私と同じ結論に至ったのだろう」

 

 その上で、心して聞け、と真剣な表情のまま、ラウラは言った。

 

「私は、教官が何故依頼を変えたのか――その理由がわかった」

 

 その言葉に、セシリアは驚愕を隠しきれなかった。ラウラは軍属で、自分は貴族。思考する速度も違えば思考する上で何に重きを置くかも違うが、少なくともいい勝負はするだろうと思っていた。

 しかし、実際には彼女の方が自分よりも早く答えにたどり着いたのだ。

 いや、今はそんなことを考えている暇はない。

 

「その、理由とは?」

 

 教えてくださいまし、と自身の口から出た言葉が震えていることを、セシリアはあえて無視した。

 そんなセシリアの状態を、自身には関係ないと考えているのか、特にそのことについて言及しないまま、ラウラは口を開く。

 

「敏いお前ならば、わかっているはずだ」

 

 たった一言、それだけでセシリアの記憶の蓋は開かれた。

 

()ならば、すぐ近くにいたはずだ」

 

 夏休み以前、一夏に何があった。

 

「教官は、ただ温情を掛けていただけに過ぎない」

 

 夏休み以前、一夏に危害を加えていた原因はなんだ。

 

「堪忍袋の緒が切れた――とは言わないが、夏休みが終わるまでが分かれ目だったのだ」

 

 夏休み以前、私達は何をしていた。

 

「だからこそ、教官は手を打つと決めたのだろう」

 

 ――夏休み以前、()()()()()()()()()()()()

 

 そこまで思い出してしまえば、嫌でもわかってしまう。思い出したくなくても、記憶から流れ出してくる。

 

 そう、私達は罪を犯したのだ。

 

 しかしそれはセシリアだけじゃない。箒も、鈴音も、シャルロットも、ラウラも、皆が等しく()()()を犯している。

 そんな、救いようがない大馬鹿者である自分達を、千冬は辛抱強く見守っていたのだ。

 その温情を――彼女が教師として翻したその最後のチャンスをふいにしたのは、他でもない自分達だ。

 無知であることに気がつかず、何もかも知ったふうで、それでいて自分達に都合が悪くなるとそれを捻じ曲げようと力を振るう。

 ……そんなことは、到底許されるはずはない。

 

「ここまで言えば、もうわかるだろう」

 

 そうして、真実に打ちひしがれているセシリアの耳に、ラウラの言葉が届いた。彼女の声には、どこか諦めの色が見え隠れしていた。

 そんなラウラが口を開く。その様子を見ていたセシリアは、次に彼女が言う言葉を恐れた。何故ならば、今まさにラウラが言わんとしている言の葉こそ、自分達の罪の証であり、決して降ろすことは許されない、背負うべき十字架であるからだ。

 

 ラウラの言葉に合わせるように、セシリアは自らが導き出した答えを、自身の頭の中で言葉にする。

 

 そう、私達は――

 

 

 

「――()()()()()

 

 ――私達は、織斑一夏に暴力を振るっていたのだ。

 

 

 

 

 

 




 積もりに積もったものが一気に来た感じです。
 実はこの二人、結構相性がいいと考えています。
 軍属であるが故、そして貴族であるが故、いい具合に思考回路が違いますし、二人が揃えば結構色んな事に対応できるのではないかと考えています。
 今回は予想もしていなかったのか、結構精神的なダメージもでかいですが、裏を返すと他の三人よりも先に真実にたどり着いたことは結構なアドバンテージになっています。
 ただ、しばらくは二人に厳しい展開が続きます。そしてそれを乗り越えたとき……

 最後になりましたが、ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。
 このような話ですが、感想を書いていただけると幸いです。
 では、次の話で会いましょう。


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