今回も独自設定というか、独自の解釈をしている箇所があります。
それでもよろしければどうぞ。
「織斑、生徒会長は大丈夫なのか?」
模擬戦に巻き込まれないよう観客席に移動している最中、照彦は一夏に問い掛ける。
その問い掛けに、多分大丈夫だよ、と一夏は答えながら、階段を登っていく。
追いかけるように階段を上りながら、ではどちらが勝つ? と照彦は問う。しかし一夏は、勝つのは楯無さんだよ、と即答した。
「その自信はどこから来るんだ」
「……あまり言いふらさないでくれよ」
胡散臭そうに問うてくる照彦に、一夏は周囲を気にしながら答える。
「あの人、ロシアの国家代表らしいんだ。ちょっと調べてみたら公式の情報が出てきたから、多分間違いない」
「……名前を聞く限り日本人だぞ、ハーフかクォーターなのか?」
「自由国籍権持ちらしい」
「――なるほどな」
一夏の答えに、照彦は一定の納得を示した。
自由国籍権。読んで字のごとく、国籍を自由に選択できる権利のことだ。元々は優れた技術者等の活動を国際的に支援するために生まれたもので、国際機関の厳しい審査に合格した者のみが手に入れることができるものだ。現在では、優れたIS操縦者の才能を埋もれさせないためにも使われているが、取得の為に行われる審査は技術者等に行われるそれの比ではないほど難関となっている。また、取得した後も定期的に審査が行われ、一定の基準を満たしていないと権利を剥奪されてしまう。
そのような規定があるからか、自由国籍権の取得には才能が、維持には努力が必要である、と度々揶揄される。
そこまで考えた照彦は、もう一度更識楯無という人間について考えて――ぞっとするような感覚に襲われた。
――彼女は、自由国籍権を持つ日本人でありながら、
そのようなことを考えているうちに、二人は観客席についた。そこには数人の生徒がフィールドで行われている模擬戦の様子を固唾を飲んで見守っていた。
「――お前が言った通りだな」
フィールドの方を見て、照彦は言う。そこで行われていたのは、模擬戦とは名ばかりのワンサイドゲームであった。
遠目からは一進一退の攻防をしているように見えるが、専用機持ち側は既にシャルロット・デュノアと箒が戦闘不能であり、今ちょうど鈴音が落とされた。
残っているのはセシリアとラウラだけであり、二人は連携しながら戦っているようだ。
二人はタイミングを見計らい、ビットによる攻撃で動きかく乱しつつ、レールカノンによる攻撃を試みたり、ワイヤーブレードとAICで誘導し、レーザーライフルで狙撃を敢行したり、とにかく自身らのISの性能をフル活用するかの如き戦いをしていた。
――だが、
すべて回避されている。その事実が、少しずつ二人の焦燥感を煽っているようで、楯無に回避される度に、その表情が歪む。しかしそれでも、互いを罵倒することはなく、次の策を講じていく。
ただ、彼女らのISの特性上、多大な集中力が必要であり、長期戦は圧倒的に不利なのだ。その証拠に、模擬戦開始から比べてその動きは精彩を欠いたものになっている。現状はまだ致命的なミスを犯していないが、もしそれが起こってしまえば、簡単にこの拮抗状態は崩れる。故に――
「……二人が落ちるのも時間の問題だな」
その照彦の言葉に、一夏はそうだな、と答えた。そうしながらも、アリーナで行われている模擬戦から目を逸らさない。
そんな彼は、頭の中で楯無と戦っている専用機持ち達について考えていた。
実を言うと、一夏はごく最近、専用機持ち達から何がしかの感情を向けられているのではないかと考えていた。あくまで予測ではあるが、彼女らの今までの様子を思い返したり、夏休みの出来事を考えてみたりすると、今まで自身に行ってきた仕打ちは照れ隠しで振るっているのではないか、と思えてしまうのだ。しかし、その反面で彼女らの仕打ちが、本当に自身に恨みがあるから振るっているということも、一夏は否定することはなかった。
箒は気に入らないことがあると木刀を振るう。
鈴音はすぐに手が出る上に平気でISを無断展開する。
シャルロットは二人のように暴力はそんなに行使しないが、言葉でこちらを責めてくる。
セシリアは三人ほどこちらに危害を加えることはないが、貴族という立場からか、少々言葉に棘があるときがある。
ラウラはそもそも生まれが生まれである為、一般常識に疎い面がある。
そんな、見方によっては直情的とも取れる行動を行う彼女らが、照れ隠しで暴力や罵倒を行うだろうか? 実は照れ隠しだと思っているのは自身だけであり、彼女らは仲良くするフリをしていて、心の中では自身への憎悪で満ちているのではないか?
その考えが合っているにしろ、間違っているにしろ、セシリアとラウラは多少マシとはいえ、余りにも理不尽な仕打ちだ、と一夏は強い苛立ちとともに思った。
だが、そうは思っていても、一夏は彼女らを見限るつもりはない。確かに彼女らは非常識で理不尽な存在ではあるが、それ以前に大切な仲間なのだ。だから、我慢した。どんなに彼女らが過激とも言える行動に出たとしても、それに自身が強い苛立ちを覚えたとしても、味方であり続けたいと思っている。
だけど、と一夏の頭に一つの考えがよぎる。
――もしも、この胸にある苛立ちが抑えきれなくなったら、形振り構わず自分の感情を爆発させるのは、果たして許されることだろうか?
一夏にとって、その考えは今まで考えつくことはなかったものであった。当然ながら、心の内に芽生えたその問いに対しての明確な答えを、彼は持っていなかった。だからこそ、彼はその問いの答えを考えようとした。
しかし、その問いについて考えようとした時、彼は楯無が振るう蛇腹剣によってSE切れとなり、地面に膝をついたセシリアの姿を目にした。どうやら、一夏が考え事をしている間に模擬戦が終わっていたようだ。
終わったな、という照彦の呟きに、一夏は
――つまり、今回は自分達の訓練は出来ないということ。そのことに思い至った一夏は、深くため息をついた。
◇◇◇◇
先ほど受け取ったA定食をテーブルに置いて着席した一夏は、小さくため息をついた。
「お前、そんなに今日の訓練がやりたかったのか」
そんな彼に、照彦は呆れたような表情を浮かべながら言う。
「何事も、最初が肝心って言うだろ?」
「それは否定しないがな。それよりも――」
そう言って照彦は、自分から見て後方のあるテーブルへと顔を向ける。つられるような形で、一夏もそちらの方へ目を向けた。
そこには、料理を取りに行かず、テーブルに突っ伏したままの専用機持ちの5人がいた。
「……あいつら、まだ引きずってんのか」
「しばらくはああだろうさ」
呆れを滲ませた一夏の言葉にそう返しながら、照彦は割り箸を割る。
「何せ国家代表だったとはいえ、たった一人相手に手も足も出なかったからな」
そう言った照彦に、乾いた笑いを返しながら、一夏はもう一度専用機持ち達の行動を思い返しながら、口を開く。
「あいつらも冷静になって考えれば良かったのにな」
今回照彦と一緒に来た彼女達は、怒りを浮かべていた。恐らくではあるが、自身と訓練がしたいのに、別の人間と行おうとしていたからだろう。それも、相手はいつも共にやっていた自分たちの誰かではなく、ぽっと出の上級生だ。
確かにそう考えてしまうと、怒りを浮かべないわけがない。だが、それと同時に今日ぐらい我慢できなかったのか、とも考えてしまう。
「
照彦は一夏が呟くように言った言葉に、そう返した。
そう、しなかったのだ。ほんの少し自分の感情を引っ込めて、今回は諦めておけばあのような結果にはならなかっただろう。
しかし、彼女らは自分の感情を優先した。一夏と一緒にいたいという自分達の想いを最優先で行動したのだ。それを否定はしない。人間は誰しも少なからず譲れないものを持っているからだ。ただ、それを振りかざすには今回は色々と状況が不味すぎたのだ。
そうして、彼女らが自分本位で行動した結果が、一夏と自身、そして楯無の訓練の時間を奪い、そして彼女らは、模擬戦で完膚なきまで叩きのめされるというものに繋がった。
全く進歩がない、そう照彦は思いつつ、目の前で定食を黙々と食べている一夏を見る。
ある意味で、進歩がないのは一夏も同じだった。
自分は第三者であるものの、専用機持ち達が一夏に対して恋心を持っていることは知っている。しかし、当の思慕を向けられている本人は鈍感だからか、はたまた他に何かの要因があるからかわからないが、彼女達からの想いを未だに自覚できていない。
一夏にそれを自覚させる方法の中で一番手っ取り早いのが、自分が一夏に対して、彼女らはお前に恋心を抱いている、と言うことだろう。実は一夏は、しっかりと向き合ってくれている他者の言葉に対して真摯に考える癖がある。その為、自分が彼女らのことを一夏に言えば、数日間悩んだ末に、自覚するだろう。
次点で、彼女らのうち誰かが、ストレートに一夏に対して告白することだ。一夏ほど鈍感な人間には、遠まわしな表現は通用しないからだ。だから、誰か一人が単刀直入に想いを告げることができれば、一夏の心に楔を打ち込むことができ、そこから一夏は意識しだすだろう。
しかし、照彦は一夏と専用機持ち達にそのことを伝えるつもりはない。彼の持論ではあるが、こうした男女関係に関しての機微は、当人同士が自力で気が付かなければ意味がないと考えているからだ。
もしも、自分が彼女ら、あるいは一夏にそうしたことを助言して、その結果悲惨なことになってしまえば、そして彼女らと一夏の絆に罅が入ってしまえば、自分は今後合わせる顔がない、と考えていた。
――知り合いなのだから、幸せになって欲しい、そうした願いがあるからこそ、照彦は一夏と彼女らの関係は余程のことがない限り、一夏の側に立ちつつも静観を貫いていた。
そんな照彦の苦悩を知らない一夏は、食事を進めながら楯無のことを考えていた。
彼の脳裏に浮かぶのは、模擬戦で専用機持ち達を圧倒した彼女の闘う姿だった。
蝶のように舞い、蜂のように刺すという言葉が似合う闘いぶりは、考え事をしながら観戦していた一夏の記憶にも深々と刻まれていた。
近距離だろうが遠距離だろうが関係なく、時に変則的に、時に王道的に、それなりの実力を持っている筈の5人を相手に大立ち回りを演じ、見事完勝した楯無の姿に、一夏は言葉で表すことができない美しさを感じたのだ。
堂々としていて、それでいて可憐さと優美さを併せ持った彼女の姿は、思い出す度に一夏の胸は高鳴った。生憎、その胸の高鳴りが何であるのか表す言葉を持ってはいない。だが、それが悪いものではないことはわかった。
――ただ、その感情を誰かに話すのは何故か気恥ずかしいと思った。
なので、一夏はその感情を誰かに話すことはせずに、しばらく自分の心の中にしまっておくことにした。大事に、まるで壊れ物を扱うかの如く、その仄かな輝きを放つものを、自分だけのものとすることにしたのだ。
そうして、一夏は自らのうちに芽生えたこそばゆいものを楽しみながら、夕食を口に運び続けた。
夕食が終わり、照彦と別れた一夏は、自室へ向かいながら、楯無とのことを思い返していた。
思えば、楯無のような女性と関わるのは初めてだった。飄々としているようで、真摯に他者と向き合う生真面目さがあり、それでいてどこか安心できる雰囲気がある。ISを始めとした諸々の事象に関しての知識も申し分がなく、その立ち振る舞いからは生まれの良さがにじみ出ている、この学園の生徒会長にして自由国籍権を持つ、ロシアの国家代表の女性。そんな魅力を持つ彼女と短いながらも関わった一夏は、いつの間にか心を許していた。いつの間にか、そうなっていた。
もしかしたら魅了されてしまったのかもしれない。実は彼女は魔法使いで、知らず知らずのうちに魔法をかけられてしまったのかもしれない。そう思えてしまうほど、更識楯無という人物は自然体で人を虜にする能力があるのかもしれない。そしてそれもまた、彼女の魅力なのだろう。
そんな彼女と関わるのが、とても楽しい。そう思うと、自然と口元に笑みが浮かんでくる。そして、楽しいと思うと、自然と会いたくなってくる。
そんな自分に苦笑しつつ、自室の前まで帰ってきた一夏は、ドアの鍵を開け、ゆっくりと開いた。
「ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」
そして、投げ掛けられた問い掛けに、一夏は完全に虚を突かれた。
一夏の目の前には、楯無がいた。ただそれだけならば、驚くだけで済んだ。しかし、今目の前にいる楯無はそれだけではなかったのだ。
裸エプロン――ではなく、水着の上にエプロンを着ているだけの装いだったのだ。
そんな楯無を見た一夏は、はじめは困惑した。何故楯無が自分の部屋にいるのか、何故そのような格好でいるのか、と疑問に思い、それを尋ねようとした。
しかし、一夏の口からは彼女の状態について問い掛ける言葉が出ることはなかった。何故ならば、その困惑以上大きさを持つ感情が、彼の心に生まれたからだ。
――それは、ある種の懐かしさと安心感だった。
不思議なことに、それは楯無が闘う姿を見た時の胸の高鳴りと同じような感覚の中で生まれたものだった。
なぜそんな感情が生まれたのかは、わからない。ただ、それも胸の高鳴りと同じく、悪いものではないということだけはわかった。しかし、その感情が胸にあると、何故か楯無のことしか考えられなくなっていた。目の前に楯無があられもない姿でいるからか、はたまた別の要因があるからか、今の一夏は楯無に対して抱いている
そうして感情のままに、あなたが欲しい、と言いそうになるのをこらえつつ、一夏は苦笑を顔に浮かべながら、口を開いた。
「とりあえず、今日のところはもう休ませてください」
自由国籍権に関してはちょっと調べてもどんな内容なのか詳しいことがわかりません。
しかし、そんな便利なものが簡単に手に入るわけがない、それ故の独自解釈です。
あとさらりと書きましたが、専用機持ちの実力もちょっと変えています。
まあ、それぞれの境遇を加味しての結果なんですけどね。
次の話は少々時間が飛んで、文化祭が始まってからになります。
てか文化祭前はこれ以上描写することがないので……
このような話ですが、感想をお待ちしています。