そのことに対する言い訳のようになってしまいますが、これから先、他のキャラの視点で物語が進行したり、話の流れで戦闘描写を書く事はあります。
そうした中で、専用機持ちが戦闘する場面はもちろんありますし、恐らく現状のプロットのままいくと主人公である一夏以上に、彼女らは戦闘すると思われます。
しかし、この作品は主に登場人物の心理描写をメインに取り扱っていこうと思っているため、他作者の作品のようなバトルは少なくなることを予め心に留めておいてください。
長くなってしまった上に前書きで書く事ではありませんが、このまま説明しない場合、読者の皆様に悪感情を植え付けることになると思った為、この場を借りて説明させて頂きました。
このような作品ですが、完結まで付き合っていただくと幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。
さて、今話から徐々に展開が原作と違う箇所が多くなっていきます。
それでもよろしければ、どうぞ。
――二週間。細かい日数的には十四日。その間一夏は専用機持ち達との会話が少なかったものの、クラス代表としての仕事や生徒会の業務、更には時たまに行われる楯無との訓練によって、忙しくも充実した毎日を送っていた。
ただ、珍しく何の問題も無く過ぎていく日々に、一夏は嵐の前の静けさを感じつつも、たまにはこういうこともあるか、と考え、極力気にしないことにした。それが正しいか、それとも間違っているかは自分が決めることではない。
そう考え、一夏はそうした不安を頭の隅へと追いやった。何故なら、今はそんなことを考えている余裕などないからだ。
「――相川さん! オムレツ出来たよ!」
「はーい、今行くー!」
なにせ、今は文化祭の只中だからだ。
トラブルなく開店することが御奉仕喫茶なるものは、この世界でたった二人しかいないとされている男性IS操縦者が所属するクラスの出し物であるからか、誰も彼もが彼らの存在を一目見ようと押し寄せてきており、そんな状況をどうにかするため急ごしらえで整理券が配られるなど、想定外の大盛況となっていた。
当然、そのような状況であるからか、図らずも出し物の目玉となってしまった一夏と照彦は、責任を感じてか休憩返上で動き回っていた。一応こうなることを見越して事前に組んでおいた二人専用の特別シフトは、既に意味のないものとなっていた。
それでも、流石に無休で長時間動き回れるほど二人は鉄人でも化物でもない。その為、その時の客足で盛況具合を判断し、問題がなければどちらかが休憩に入るという体制で臨むことにした。それは、休憩が不定期になるということもあり、お世辞にも良いとは言えないが、全く役に立たない専用シフトを使うよりかはマシだった。
そんなことを考えながら、一夏は自身が作ったオムレツがクラスメイトの
ようやく終わったか、とある種の満足感と少々の疲労感を抱きつつ、一夏はふう、と小さくため息をついた。
そうして一夏が一人ぼうっとしている所に、オムレツを持っていった清香と入れ替わる形で照彦が入ってきた。
「お疲れさん、休憩の時間だ」
照彦は一夏の顔を見るなり、そう言ってきた。
彼の言葉を聞いた一夏が備え付けられた時計を見てみると、既に正午を過ぎていることを確認できた。
「――ああ、もうそんな時間なのか」
「そうだ、そんな時間だ」
ほとんど無意識のうちに呟かれたような一夏の言葉に、照彦は苦笑しながら律儀に反応した。
そんなところまで反応しなくてもいいだろう、と一夏が呆れたように言えば、照彦は苦笑を浮かべたまま、悪い悪い、と軽い調子で謝った。しかし彼は、だがな、と付け加える。
「休めるうちにちゃんと休んでおけよ。ただでさえお前は朝からずっとホールと厨房を行ったり来たりしていたからな――倒れられたら困る」
今さっきまでの苦笑はなんだったのかと思えるほど、一転して照彦は真剣な表情で念を押してきた。そんな彼の言葉を聞いた一夏は、わかった、と同じく真剣な表情で言いながら、エプロンを外す。
エプロンを畳み、ロッカーへ入れた一夏は、なあ照彦、と声を掛ける。彼の言葉に反応し、照彦は、なんだ織斑、と返事をする。
「――後は頼んだ」
その言葉に、一瞬だけ虚を突かれたような表情を浮かべた照彦だったが、すぐに笑みを浮かべ、わかった、と答えた。
その言葉を聞き安心したのか、一夏も同じく笑みを浮かべ、じゃあ行ってくる、と言って出口の方へと向かった。
そんな一夏の背を見つめながら、苦い表情を浮かべ、照彦は口を開く。
「お前は頑張りすぎなんだよ、織斑」
◇◇◇◇
文化祭が開催されているからか、廊下には人がごった返し、普段とは違った喧騒に包まれている。
あるクラスの前では客を呼び込もうと声を上げている生徒もいれば、ある教室の前では展示物の詳しい説明を行っている生徒もいる。そして、彼女らが相手にしている人間のほとんどが、外部から来た人々だ。
一応人が通れるくらいにはスペースがあるものの、そんなところを通れば、自然と人の目に付いてしまう。しかし一夏は、自分が見られていることを特に気にすることなく歩を進めていた。
実を言うと、一夏は休憩に入ったものの、特にやることを決めていなかった。楯無からは特に仕事を回されておらず、布仏姉妹はクラスの出し物に専念すると言っており、照彦は休憩時間が合わず、専用機持ち達とはそもそも文化祭が始まってからまだ一度しか顔を合わせていない。
思えば、一人で行動する機会が巡ってくるのは久しぶりだった。最後にこうした機会に恵まれたのかは覚えていない。それ程一人で行動する機会が減っているのだ。
IS学園に入ってから今に至るまで、大抵誰かがそばにいて、その人物とともに行動していた。しかし、いざ一人で行動するとなると、何をしていいのか迷ってしまう。色々やりたいことは確かにある。だが、特に何もせずにこうして行くあてもなく歩き続けたくなるのも事実なのだ。
「――少々よろしいでしょうか」
そうして半ばぼうっとしながら階段の踊り場へと差し掛かった時、一夏の背中に声が掛けられる。聞き覚えのないその声の方へと顔を向けてみると、そこにはスーツを着た女性が立っていた。
「……どちら様で?」
「失礼しました。私はこういうものです」
少々警戒しながら訪ねた一夏に、女性は笑顔を崩さずに名刺を差し出してきた。差し出された名刺には、IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・
名刺にある彼女の肩書きを見て、一夏はまたか、と内心辟易した。
篠ノ之束本人から直々に後付武装の開発禁止のお達しがなされている照彦の専用機とは違い、一夏の白式にはそうした発言がされたことはなく、加えて開発元である倉持技研が後付武装を開発できていないという事実もあり、善は急げと言わんばかりに各国企業から装備提供の申し出が山のように届いているのだ。
「念のため聞きますが、何のご要件でしょうか」
「はい、織斑さんには是非我が社の装備を使用して頂けないかと思いまして――」
思った通りか、と一夏は思いながらも、目の前の女性を注意深く観察する。
外面は特に怪しいところはなく、言葉の節々にも違和感はない。少なくとも一夏の目には、普通のキャリアウーマンに見える。
そうして彼が観察している時も、巻紙礼子はニコニコと笑顔を浮かべ続けながら、自社のPRをしていた。仕事熱心だ、と一夏は思いながらも、これ以上拘束されては堪らないと考え、口を開く。
「そのような話であれば、俺の一存では決められないので、学園側に許可をもらってからにしてもらえないでしょうか」
とりあえず一夏は、事務的な常套句を言っておく。これは一応学園側から言われていることであり、諸々のトラブルをなくすために必要なことなのだ。
これでもし、彼女が学園の許可を取っていないのにも関わらず、強引に交渉しようとしてくるならば、この件を学園側へ報告し、学園側の方から国際IS委員会を通して企業へと抗議をしなくてはならなくなる。
ただ、彼女が許可を取っていたならば話は別だ。残念ながら休憩時間に別れを告げなければならなくなる。それは嫌ではあるが、自分と会うためにわざわざここまで足を運んできているのだ。決して無下にはできない。
「――ああ、そうでしたね」
そう言って巻紙礼子は、今思い出したと言わんばかりの表情を浮かべた。しかしすぐに先ほどの笑顔に戻る。
「では、
そう言って会釈をした彼女は、足早に離れていった。やけに理解が早く、引き際をわきまえている。人ごみの中へと消えていくその背中を目で追いながら、一夏はそう思った。
そして完全に見えなくなったことを確認し――
「あら、こんなところで何をしているの?」
――ゆっくりと歩き出そうとした所で、いつの間にか楯無が目の前にいた。
「こんにちは、楯無さん」
一夏はいきなりの遭遇に驚きながらも、しっかり挨拶をする。何故かはわからないが、こうして楯無と会えたことで少しだけ心が晴れた気がした。
一夏の挨拶に対して、楯無は律儀よねぇ、と苦笑を浮かべながらも、挨拶を返す。
「それで話を戻すけど、何かあった?」
「ええ、実は――」
そう前置いた一夏は、楯無に先ほどのことを説明する。別に隠しておく必要性は感じられなかったからだ。むしろ、国家代表である楯無ならば同じようなことがあったかもしれないと思ったからだ。
そして予想通り、一夏の話を聞いた楯無は、苦笑いを浮かべて、わかるわ、と答えた。どうやら、ロシアで同じような経験をしたことがあったらしい。
「まあ、大抵は所属する国の企業なのだけれど、貴方の場合は少し違うからねぇ」
楯無の言葉に一夏は、重々承知の上だ、と返した。なにせ、世界に二人しかいない男性のIS操縦者の片割れなのだ。しかも、篠ノ之束からは特に何も言われてはいない。それは企業側から見れば、目の前にぶら下げられた餌にも等しい。彼らが自分達の開発した装備を使ってくれれば、これ以上にない宣伝となるのだ。
だからこそ、彼らは躍起になる。それが良い事か悪い事かは個々人が決めることではない。ただ、少し迷惑ではある。
「まあ、そこらへんはもう諦めてますよ」
「こらこら、そう言わないの」
そう言って一夏を諌めた楯無は、さて、と話に区切りをつけた。
「会って直ぐで悪いんだけど、ちょっと付いてきてくれるかしら」
そう言った楯無に、一夏は少々戸惑いを見せる。数日前に仕事の配分を決めた時には、まだこの時間は自分の仕事はないはずである。一応何か不測の事態が起こった場合は、放送で呼び出すと言っていた。
――もしかしたら、自分が何かミスをしてしまったのではないか、そう考えた一夏は、不安になる心を隠しつつ、思い切って楯無に質問した。
「……俺何かやりました?」
「いいえ、貴方が思っているようなことじゃないわ」
そう言って、楯無は一夏の手を握る。握られた瞬間、一夏の心にあった不安が和らいだ。それと同時に、彼女の手の柔らかさに胸が高鳴った。
そんな一夏の内面を知らない楯無は、茶目っ気がある笑みを浮かべながら口を開いた。
「ちょっと手伝って欲しいことがあるのよ」
「――観客参加型の演劇、ですか」
更衣室に着いた一夏は、楯無から台本と衣装を受け取りながら、聞き返す。
「そうそう、生徒会主催のね」
そう言った楯無は、ニコリと笑顔を浮かべる。そんな楯無と手渡された台本と衣装を交互に見ながら、一夏ははあ、と気のない返事を返す。
「いやに急ですね」
「上から何かやれと言われてね、突貫工事で頑張ったのよ」
そう言いながら、楯無は褒めて褒めて、と言いながらこちらに頭を近づけてくる。そんな仕草に、一夏は不覚にも可愛いと思いながら、彼女が言った言葉の意味を考えてみた。
突貫工事ということは、元々やるつもりはなかったということだ。そして、上からという言葉から、今回の演劇には学園側も関わっているということだ。
そして最近の生徒会の動向や、生徒達の情報を少し考えてみて、十中八九自分に関しての何かが原因だろう、と一夏は当たりをつけた。
「――やっぱり、俺のせいですか?」
そんな一夏の問い掛けに、楯無は何も言わずに扇子を開く。扇子には、当たり、と大きく書かれていた。
「学園側が生徒たちに突き上げをくらったらしいわよ」
織斑君が何かしないのは何事か、てね。
そう言った楯無は、ホント嫌になっちゃう、とぼやくように呟き、小さくため息をつく。そんな彼女の言葉を聞いた一夏は、何かすみません、と申し訳なさそうに言った。
自分のクラスが
しかし、そこに来て一夏の生徒会への所属。ある種不意打ちとも言えるそれを許せるほど、彼女らは大人ではないだろう。恐らく署名を集めて学園側に提出したのだろう。
そこからの流れは容易に予想がつく。学園側は生徒会に指示を出し、生徒会はその対応を考えた。生徒達のニーズ、文化祭というイベントであること等を加味して考えた末に、観客参加型の演劇という案に行き着いたのだろう。
自分にギリギリまで伝わらなかったのは、演劇の準備が整うのに時間が掛かった事や、自分にこのことを伝えるタイミングを段取りの中で決めていたからなのかも知れない。
いずれにせよ、楯無を始めとした他の生徒会役員に迷惑を掛けてしまったことには変わりがない。
そう、だからこそ――
「わかりました、参加しましょう」
一夏は演劇に参加することを決めた。
次話の投稿まで少し時間がかかりそうです。
一応来週中には投稿する予定です。
それまで気長に待って頂ければ幸いです。
このような作品ですが、感想をお待ちしています。