この素晴らしい世界でゆんゆんのヒモになります   作:ひびのん

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第四話

『緊急クエスト! 緊急クエストッ!! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってくださいーー』

 

 いつものように冒険者ギルドに向かおうとしていた俺とゆんゆんは顔を見合わせた。

 

「なんだこの放送。な、なんか、ものものしいな」

「とりあえず行ってみよう? まさか魔王軍の幹部が来たってこともないだろうし……」

 

 魔王軍? 冗談じゃない。こっちはまだ魔法を一つも覚えていない駆け出しウィザード。アークウィザードになるまでヒモでいる覚悟を決めたのに、さらにゆんゆんに借りを作ってしまうではないか。どうか違っていてください。

 二人慌ただしく冒険者ギルドに向かうと、すでに大勢の人が集まっていた。

 

「皆さん! 突然のお呼び出しすいません! 今年もキャベツ収穫時期がやってまいりました!!」

 

 と、ギルド職員の人が呼びかけていた。キャベツ? ……なんで冒険者にそんなことを頼むんだ。この世界にもちゃんと農家の人がいるだろ。そもそも、できがいいからって理由でキャベツ一万エリスって、元取れるのか?

 

「あーーーーーっ!!?」

「ん? おや、あなたは……」

 

 ギルドの人の説明が終わって、見知らぬパーティが次々に外に出て行った矢先のこと。

 ゆんゆんが向こう側を指差して、思いっきり声をあげた。

 あっ、カズマとアクアだ。そして見知らぬ金髪と銀髪の人。さらに隣にいた奇妙な帽子の魔法使いがゆんゆんにピクリと反応した。赤い瞳。背丈よりも大きな杖。ゆんゆんの持っているものと似たローブ。もしや、これは。

 

「めぐみんっ!! あ、あなた、めぐみん。めぐみんじゃないの!! やっと会えたわね!!」

「……? あの、失礼ですが、どちら様でしょう?」

「ええぇっ!?」

 

 ガーン、とショックを受けた。ゆんゆんと同じ色の瞳が細まり、まるで面倒臭いとでもいわんばかりにため息を吐いた。

 あっこれは、ゆんゆん遊ばれてるやつだ。何か言おうと思ったが、それより先にカズマの「よっ」という、気軽な挨拶に答えた。

 

「ようカズマ、アクア。なあ、お前もう三人も女の子をパーティーメンバーに入れたのか?」

「ちげーよ。まあ、確かに一人はメンバーになったけどさ……そっちのゆんゆんと同じ紅魔族の子な。なあ、ものは相談なんだが、うちのめぐみんと取り替えないか?」

「無し。ゆんゆんが前から探してた子みたいなんだけど、お前のところにいたんだな」

「ねえ、ちょっと……えっと、あ、そうそう。ショウタ! 前は様付けだったのに、消えてるんですけど? 信仰心があるなら、敬称くらいつけてほしいんですけど!」

「う、うーん。すみません。今度クリムゾンビアとか奢るんで許してください」

「えっ本当? それなら考えないこともないわ! でも、ちゃんと今まで通り崇めなさいね!」

 

 アクアが寛大な女神様でよかった。この素晴らしい異世界転生に感謝、感謝。ナムナム。

 

「ところでこの騒ぎはなんなんだ。キャベツの収穫で一つ一万エリスって、どういうことだよ」

「さあ。俺もさっぱり何のことやら……おいアクア、知ってるか?」

「もちろんよ。敬虔なアクシズ教信者に免じて、特別に教えてあげるわ! この世界ではね、キャベツは飛ぶの。ひっそり人知れぬ秘境で育った彼らは、まるで渡り鳥のように大空を飛んで、やがて次の地でひっそり息を引き取るといわれているわ。それだと勿体ないから、暴れまわるそいつらを冒険者が捕まえて、おいしく食べてあげるってわけ!」

「俺の知ってるキャベツと違う」

 

 だが、周りの冒険者達はかなりノリノリだった。どのくらい強いかは知らないが、一つ一万エリス相当。ジャイアント・トード2匹分。しかも捕まえたキャベツはたっぷり経験値を持っており、初心者にはレベルアップの絶好の機会でもあるらしい。周囲の反応からして、かなりお得なクエストらしい。

 

「……なあ。そんなおいしいクエストには早くいくべきだと思うんだ。みんな行っちゃってるぞ」

「そうだな。俺たちも生活に余裕があるわけじゃないし……」

「ならカズマ、あの二人を止める手伝いをしてくれないか。めぐみんって子は、パーティーメンバーなんだろ」

 

 指差すと、ちょうど根負けしたゆんゆんが「我が名はゆんゆん!!」と、とうとう紅魔族流の自己紹介を始めたところだった。

 あの挨拶は異世界式でもなんでもないらしい。バサッとローブを翻して、戦隊ものみたいなポーズをとって言葉を締める。紅魔族はどうなってるんだ……顔真っ赤にして泣きそうになるくらいなら、やめればいいのに。

 

「ところで、そちらの方は? まさかパーティーメンバーとか言いださないですよね?」

「ふふん。よく分かったわね、めぐみん。彼こそが! 彼こそ、我が切望したパーティーメンバーにして、女神に愛されし者! いずれアークウィザードになる者、友達のショウくんです!!」

「ゆんゆん、やめて!! その挨拶は心にダメージを負うだけだから!!」

 

 今後、紅魔族に他己紹介をさせるのは止めさせないと。

 そのとき傍にいたカズマとアクアはそんな目をしてた。いずれ、二人もめぐみんにあんな感じの紹介をされる日がくるのだろうか。

 そしてめぐみんは驚きに、眼帯をしていないほうの目を見開き、うなだれた。

 

「そ、そんなまさか……ゆんゆん。信じられません。あなたに友達ができたなんて……」

「ねえっ、それどういう意味!? まるでわたしが友達のできない変な子みたいじゃない!?」

「実際その通りではないですか……くっ、そこのショウとやら! 彼女の名乗りは本当なのですか!?」

「うん、まあ……嘘は言ってなかった……」

「知ってるよね!? 紅魔族は自分の名乗りで嘘はつかないって、ちゃんと学校で習ったよね!!?」 

「パーティーメンバーとは……信じられません。里ではずっと一人ぼっちで、族長の娘の金をたかりにくる同族を友達と呼び、暇なときは一人でボードゲームを嗜んでいた、あのゆんゆんが……」

「ちょっと、めぐみん!? やめて! みんなの目がどんどんかわいそうな子を見るものになってるから!! ねえっ!!?」

 

 ほろり。涙が流れる。

 このクエストが終わったら、明日はたっぷり一緒にボードゲームをしような、と、そっと肩に手を置いた。めっちゃ涙目で抗議された。

 

「話はまとまった? それじゃあ行きましょうカズマ、めぐみん。たっぷり稼いだお金で今日はとことん徹夜で飲みまくっちゃうんだから!」

「アクア。一応、お前の信者の前だぞー? ……よし。出遅れないうちに行くとするか」

「じゃあ行こう、ゆんゆん!」

「う……うんっ!」

 

 カズマは四つん這いになってショックをうけるめぐみんの背中をさすってから、泣き止んだゆんゆんの手をとった。

 残ったメンツとともにこの異世界で初めての、突発クエストに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドの一角にある、広めのテーブルを、七人のメンバーが囲んだ。

 机の上にはキャベツが乗っていた。キャベツサラダ、キャベツ炒め、カエル肉のロールキャベツ。ゆんゆんとめぐみんは未成年なのでジュースを飲んでいた。

 

「……納得いかねえ。キャベツが、なんでこんなに美味いんだ。さっきの更新でレベル上がってたぞ」

「そりゃあ、この時期のキャベツには豊富な経験値が詰まっていますから」

 

 カズマの気持ちがわかるのは、俺とアクアくらいのものだろう。話を聞いていた他のメンツは全員首を傾げていた。

 

「えへへ……これも……夢かな。こんなにたくさんの人と一緒に、わいわいご飯なんて……もう死んでもいい……」

「戻ってこーい……駄目だ。手を握ってるのに戻ってこない」

「なあ。紅魔族ってのは、こんな変なやつばっかなのか?」

「いくら何でも失礼ですよカズマ。大勢の前で緊張するのは、紅魔族の中でもゆんゆんくらいのものです。だからなかなか友達ができないのですよ……本当ですよ?」

 

 紅魔の里とやらでのゆんゆんの暮らしぶりを想像する。

 めぐみんの堂々とした挨拶はすでに聞いている。爆裂魔法を使うらしい。あまりどういう魔法か知っているわけではないが、ボードゲームでは敵に当たったら勝ちになる、最強の魔法だった。

 

「今日のキャベツ狩りで、途中ですごい爆発があっただろ? あれがめぐみんの爆裂魔法だ」

「あっ、あった!! へえー、あんな凄い魔法が使えるのか。さすが紅魔族。ゆんゆんのライバルって凄い奴だったんだな!」

「ふふん、あなたは私の偉大さが理解できているようですね。ゆんゆんのライバル認定されているのは少し納得いきませんが……聞き及ぶところによると、あなたもアークウィザードを志す者だとか。どうです? 我が切り開きし爆裂道を歩むというのは」

「だっ、駄目!! いくら親友のめぐみんでも……爆裂魔法? め、めぐみん。あなた、爆裂魔法を取ったの!!?」

「そうですが。どうです? これで私が紅魔族随一の魔法使いであることが証明されましたね」

「う、うう……で、でも!! わたしのほうが早くパーティーメンバーを見つけたんだから!」

「うぐっ。ぐぬぬ、確かに……ゆんゆんごときに遅れをとるとは……で、ですがパーティーの規模では私のほうが勝っていますから!」

「二人と三人じゃそんなに違わないだろ。いや、四人になったんだっけ……」

 

 ライバルらしく言い争っている。

 なんだ、ゆんゆんいい友達持ってるじゃん……ああ、今までで一番ほっとしてる。

 

「ところで、カズマ、アクア。そっちの二人は?」

「ああ、そういえば紹介もまだだったな……なあアクア、今からでも遅くない。やめておかないか?」

「何言ってるのよ。クルセイダーよ、クルセイダー。これで私たちのパーティーはアークプリーストの私、アークウィザードのめぐみん、クルセイダーのダクネス。ついでに冒険職のカズマで、上級職だらけのバランスのとれたパーティーになったのよ。喜ばないと!」

「……というわけで、紹介に預かったダクネスという。クラスはクルセイダー。このたびはカズマのパーティーに参加することになった、よろしく頼む」

「あたしはクリス。クラスは盗賊です、よろしく。そっちのお二人さんは、ショウとゆんゆん……で、合ってるよね!」

 

 ……あっ。ゆんゆんが固まった。名乗りをあげなきゃいけないと思ってるなこれ。

 

「ああ。よろしく、クリス。ゆんゆん、さっきやったから、もうやらなくていいんだぞ」

「う、ううん。ここは紅魔族の長となる者として……めぐみんには負けてられないから。そう。わ、我が名は!!」

 

 幸い、周囲がキャベツ狩りで大金をせしめた冒険者の酔っ払いだらけなので、ほとんど注目を浴びなかった。

 だがゆんゆんは、 また心にダメージを負ってしまった。ダクネスはひきつったが、クリスは、紅魔族の挨拶ということを知っているのか、全く気にせずにニコニコしていた。

 

 しかし、上級職3人を揃えたパーティーか。

 女神にしてアークプリーストのアクア。

 紅魔族にしてアークウィザードのめぐみん

 クルセイダーのダクネス。

 

「カズマ、アクアに祈っとけ。これだけのパーティーメンバーが集まるのは女神の力のおかげに違いないぞ」

「…………」

 

 カズマは食べる手を止めて、何か言いたそうにこちらを見ていた。やがて口を開きかけたが、アクアがカズマのクリムゾンビアをひったくったのを見て、抗議の声をあげた。そこにめぐみんも加わり、向こう側の席がほっぺたの引っ張り合いで、大変なことになっていく。

 ぎゃぁぎゃぁ、ワァワァ。

 騒ぎまくっている中、隣でゆんゆんがくんっと袖を引いてきた。

 

「どうしたゆんゆん。もうお腹いっぱいになったのか?」

「ううん。むしろね、こんなに楽しいのは生まれて初めてで……夢だったの……こんな風に、友達や仲間と、わいわいみんなで騒ぎながら、一緒に食卓を囲んだりするのが」

 

 感極まったように、ゆんゆんは涙を溜めながら言った。

 そしてポケットから取り出したアクシズ教のペンダントを首から下げて、それに気づいたアクアがぱあぁぁっと顔を輝かせる。

 

「……正気ですか、ゆんゆん」

「えっちょっと、何? あなたもアクシズ教徒になってくれるの? この水の女神アクア様を信仰してくれるの?」

「はい。アクア様と、ショウくんには、返しきれないほどの恩ができちゃいましたから。あの、願いを聞いてくださって、本当にありがとうございます……っ!!」

「願い? うーん、そんなの叶えた覚えはないんだけど……ま、細かいことはいいわ!! 私に感謝するなら、1日3回は祈りを捧げなさい! ついでに総本山のあるアルカンレティアで、この私が直々にアクシズ教の洗礼を受けさせてあげるわ! カズマやショウも一緒にどう?」

 

 カズマは首を横に振った。俺は身を乗り出してきたアクアに苦笑いした。

 アクシズ教の総本山。ちょっと嫌な予感がするけど、そのうち旅してみたいな。いい宗教だったら、ちょっと怖いけど入信を考えてもいいと思ってる。ゆんゆんがかわいいから。

 

「っていうか、お前らちょっと落ち着け! 今日の目的は打ち上げもあるが、新しい仲間の歓迎と、新しい友人と親睦を深めるのが目的だろうが! 俺も忘れてたけど! グラス持てお前ら!!」

「おっと、そういえばそうでしたね。ゆんゆんに挑発されたせいで目的を見失っていました」

「めぐみん!? わたしのせいなの!? あなただって勝負のこと言ってたじゃない。ねえっ!?」

「落ち着けゆんゆん! めぐみんも! 二人ともまずはジュースを持って!? な?」

「うむ、なかなか楽しそうなパーティじゃないか。私も彼女を見習って、エリス様に感謝せねば」

「よかったねダクネス。これで、ようやくあたしも安心できたよ」

「見てみてみんなーっ、いよっ! 祝福の『花鳥風月』っ!!」

「馬鹿、宴会芸やるのは待て! ってかお前も持て。めぐみんも!」

 

 全くまとまりのないまま、カズマはいくらかのメンバーがジョッキを手にしたのを見て、ヤケクソ気味に叫んだ。

 

「それじゃあみんな。これからの冒険で、きっと色んな苦しいことがあるだろう。

 けど、ひとまずは。ここでできた新しい仲間と、友人に、乾杯しようぜ! 乾杯!!」

「「「「「「「乾杯っ!!」」」」」」」

 

 ただでさえ騒々しい冒険者ギルドで、笑顔の七人が持ち上げた七つのジョッキが、軽快な音を立てて打ち鳴らされた。

 

 

 


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