Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】   作:カチカチチーズ

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ちょいと舞い降りてきたので投稿
シグルド欲しい
これは本編では無いです


ある筈の無いIF

 

 

 

 そこには屍山血河が広がっていた。

 広い、広い、城塞の外に広がる草原だったものを染めるのは血、血、血。

 無造作に積み上げられているのはいたるところに致命傷のある武装した兵士らの遺体、地面に転がるのは鎧兜に身を包むそれらがひしゃげ使い物にならないほどボロボロな騎士らの亡骸、無惨に破壊され死臭を撒き散らすのは常人より大きな体躯に目の部分に穴の空いたフルフェイスヘルメットのようなものを被った緑の人型の死骸。中には尋常ではない獣もちらほら見えるがそこは一切どうでもよい。

 そんな死山血河のど真ん中を悠々と歩く人影が一つ。

 

 それは何ににも憚られる事なく堂々と────とは言えないが己を害せるものなどないと言わんばかりにゆったりとした歩みで進む者。

 大仰な装飾など施されず、暗銀色の鎧に身を包み背から触手のようにうねる幾本の細布を棚びかせ、その頭部には竜か狼か何らかの獣を模した様な兜が被さっている。そんな騎士であろうそれに何かが渦巻いていた。

 黒、宇宙の色、深海の色、深淵、そう表現するしかない色の何か……それは魔力、それは呪力、それは澱み……この島に、この島が生まれた時より溜まり続けた原始の魔力。常人では触れただけでその精神が塵に変わってしまうほどの深淵の澱みをその身体にまとわりつかせ、時折汚泥が滴るように澱みを地面に垂らしながら歩く。

 ふと、それが何やら引きずっているのが分かる。

 一つの腕に一つ。

 全体的に澱みに包まれているが、所々包まれていない部分がありそこから見えるのは青白くなった人肌に鎧の一部分。すなわちは人間である。

 大人且つ鎧に身を包む人間二人を引きずる騎士からは一切意思のようなものは見えず、さながら人形のように見えて────

 

 

「よお、なんだまた来たのか」

 

 

 そんな騎士に声がかかった。それに反応したのか騎士は首を動かしその声の主を探し始めて、ある一箇所にその面を向ける。

 城塞の門、その近くに積み上げられた兵士の遺体の山、その頂上で遺体に腰掛けた一人の青年。メガネをかけたギャングの一員のような風体の伊達男、そんな印象を抱かせる飄々とした雰囲気の青年はその顔に返り血のようなものをつけたまま、騎士に軽くさながら友人に声をかけるように喋りかけた。

 

「アサシン。いったい今回は何処のどいつだ?」

 

「ガリアのボールス・ド・ゲイネス、ペリノアの子パーシヴァル」

 

 

 まるで夕食を聞いてるかのような口調の青年にアサシンと呼ばれた騎士はくぐもった聞くものの脳に直接響く様な異質な声音で無感動に答える。

 そんなアサシンの言葉に青年は愉快そうに笑う。

 

 

「ハハッ!ボールスは七人目、パーシヴァルは十二人目……なかなかどうして顔見知りになってきたなぁ、おい」

 

「どうでもよい」

 

 

 笑いながら話す青年にアサシンは素っ気ない態度を取り、そのままボールスであろうものとパーシヴァルであろうものを引きずっていく。彼らもまたこの屍山血河を構築するものの一つとなるのだろうか。

 彼らは邪悪なのだろう。普通人が忌避する光景に笑みを浮かべ、無感動な彼らは正しく悪なのだろう。

 だが、それを彼らに糾弾したところできっと彼らは愉快そうに笑い、無感動に切り捨てるのだろう。

 青年の名はベリル・ガット。

 このブリテン島を領域とするクリプターの一人である魔術師にして、無感動に他者を葬るアサシンのマスター。

 

 

「────で、今日はまだ終わりじゃねえみたいだ」

 

 

 ひとしきり笑って、冷徹に呟いた。

 その呟きは静かに響き、アサシンはその鎧を軋ませ────振り返る。

 

 

「…………どうやら、貴方々がこの異聞帯の首魁のようですね」

 

 

 それは白銀の騎士であった。

 太陽を思わせる輝かしき金色の髪に、騎士の清廉潔白さを表すかのような美しい白銀の鎧、威風堂々とした悪を討つ聖騎士が正しく現れた。

 彼は自らが跨っていた馬より降り、その腰に下げていた剣を抜き放ちアサシンとベリルを睨みつける。

 そんな聖騎士にベリルはやはり、笑みを浮かべて

 

 

「よお、太陽の騎士(ガウェイン)。今回のあんたで────五人目だ」

 

「何を言って────ッ!!」

 

 

 ベリルの言葉に怪訝そうな表情を浮かべた聖騎士、太陽の騎士ガウェインはすぐさま剣で防御態勢を取る。数瞬遅れでそんなガウェインへとアサシンは迫り、その右手に掴んでいたパーシヴァルを叩きつけた。

 

 

────(Traître )!!!!」

 

 

 戦いは始まった。

 アサシンは先程までの無感動さとは裏腹にまるで獣の如き咆哮をあげながら、ガウェインへとパーシヴァルを、ボールスを叩きつけていく。

 決して武器ではない。人間は武器などではないが……成人男性の体重否、騎士である彼らの強靭な肉体に彼らの鎧、そしてそこにアサシンの筋力が加わる事で正しく彼らはメイスと変わった。

 ガウェインには彼らがいったい何処の誰かなど分かりはしない、だが彼らが人間である事は理解している。だからこそガウェインは彼らを防御するしかないのだ。

 

 

「おのれッ、外道が!!」

 

────(Cécité )!」

 

 叫ぶガウェインなど意に介さず、アサシンは叩きつけていく。

 

 

「くっ、すまない」

 

 

 だから、ガウェインはこれ以上彼らの身体を弄ばせないためにその刀身に炎を這わせ、アサシンが叩きつけてきたタイミングに合わせ彼らを焼き尽くす。

 それにより完全に死に絶えたのか、サーヴァントである彼らはその身体を光の粒子に変えてこの世界から消え去った。

 

 

「でぇあああ!!」

 

「────」

 

 

 ボールスとパーシヴァルを失ったアサシン、その隙を逃すガウェインではなく刀身に炎を這わせたまま兜割りさながらの脳天直下の一撃を放ち────

 だから、どうした。

 

 

「徒手だからと、死ぬわけないだろうが」

 

 

 刀身の炎など気にもとめず、片手で剣を受け止めガウェインの鳩尾に蹴りを叩き込む。

 予想外の一撃だったのか、ガウェインは呻きそのまま後方へと吹き飛ぶ────事は無かった。既に剣の柄から片手は外れており、その腕は鳩尾に叩き込まれたアサシンの脚を掴みそのまま身体を捻り逆にアサシンを投げ飛ばして見せた。

 

 

────(Saleté )!」

 

 

 大きく開いたガウェインとアサシンの距離。

 だからこそこの瞬間を逃すわけには行かず、ガウェインは全力をもってアサシンを滅ぼす事を誓いその聖剣を天へと投げた。

 

 

「これこそはもう一振りの星の聖剣、あらゆる不浄を祓い清める焔の陽炎────」

 

 

 いつの間にかに空を覆っていた厚い雲は失せ、太陽の輝きがガウェインへと降り注ぐ。

 溢れ出るは太陽が如き炎熱の魔力、一切の邪悪を焼き払う陽光の輝き。

 汎人類史によるバックアップにこのブリテン島にて召喚されたというステータスへのボーナス、そしてスキルによる超強化をもってここに生前すら超える一撃をガウェインは放つのだ。

 

 

「さあ、邪悪なるもの一切よ。消え果てよ!!!『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラディーン)』!!!!」

 

 

 対軍宝具の全力解放。アサシンだけではなくそのマスターであるベリル、更にはその後方の城塞ごと消し飛ばさん勢いのそれはいま放たれた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ────」

 

 

 嗤った。

 ベリル・ガットはそんな絶体絶命を前に嗤って見せた。

 それは何故か、そんなのは簡単だ。

 アサシンの魔力が荒れ狂う。身に纏う澱みが並々動く。

 

 

────(Die )────(Die )────(Die)

 

 唸り声を上げて抜き放たれるは澱みに濡れた黒い星の魔剣。

 愛する者を殺した。親しき者を殺した。肉親を殺した。殺して殺して殺し尽くしたが故に黒く染まり堕ちた星の魔剣は担い手に応えるように魔力の呪力の澱みが吹き上げ唸り、太陽を飲み干さんばかりの威を撒き散らして。

 

 

「『いまは遠き湖光、奈落の魔剣(Aroundight Caledbwlch)』」

 

 

 ブリテン島の澱みが太陽の輝きを穢した。

 

 

「馬鹿なッ────いえ、それよりもこれは」

 

 

 アサシンの放った宝具がガウェインの宝具を穢し消え、ガウェインが再度構える前にその人外じみた身体能力でガウェインの前へと躍り出て、その魔剣を振るう。

 やはり円卓の騎士と言うべきか、すぐさまガウェインはそれに対応して聖剣を振るう。

 ぶつかり合う魔剣と聖剣。

 鍔迫り合い、どのようにしてアサシンを打ち倒すかガウェインは思考を回そうとして────

 

 

「『死ね(Aroundight Caledbwlch)』」

 

「なっ……!?」

 

 

 魔剣が唸り、澱みが撒き散らされる。

 これほどまでの近距離、鍔迫り合いという状況上担い手であるアサシンも被害を受けるというのに宝具の再発動にガウェインは目を見開きすぐさま離れようとするが、もはや遅く第二射が発動した。

 

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 汚泥のような澱みが撒き散らされた草原、吹き飛んだ屍山血河。

 遺体も亡骸も死骸も澱みに呑まれ、まともなものは無い。

 草原を騎士は歩く。

 ゆったりとゆったりと。生き急いだ過去を忘れる様にゆったりとゆったりと。

 そんな騎士に『狼男』は笑みを浮かべて出迎える。

 

 

「ひゅう、やっぱりイカれてるよアンタ」

 

「いったい誰が予想できる。反転したアンタがここまでイカれてるなんてな。他のクリプターの誰もこんなの予想できるか────ああ、デイビットなら予想してそうだ」

 

 

 騎士がそれに答えるわけない、と分かっていながら、いやそもそも騎士に向かって言ってるわけではないのだろう、誰かに言ってるわけではないのだろう。

 ただ、ただ、嗤い笑って、獰猛な狡猾な笑みを浮かべ

 

 

 

「アンタだって思ってもなかったろう?────ニヴィアンの旦那」

 

 

 

マスター:ベリル・ガット【クリプター】

サーヴァント:ランスロット・オルタナティブ【アサシン】

 

 

 

 

 




ランスロット・オルタナティブ
アサシン
宝具である己の栄光の為でなくが異常強化され、アロンダイト使用時も解除されず真名を理解できない。
ブリテン島の原始の呪力に呑まれ反転した深淵歩き、澱みの騎士
円卓虐殺マン

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