Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
「ガアァァァッッ!!??」
サーヴァントによる、他のサーヴァントを釣るかのようなあからさまな魔力の流れを感じ取ってコンテナ区画へと足を踏み込んだ、アインツベルンの魔術師アイリスフィール・フォン・アインツベルンとサーヴァント・セイバーの耳に飛び込んだのは何者かの絶叫だった。
すぐにセイバーはそれがサーヴァントの戦いによるものだと理解し、驚いた。
自分たちよりも先にここへと訪れた別の陣営のサーヴァントにがいることに。
それに対しアイリスフィールは僅かながら恐れを抱いた。
自分たちのサーヴァントであるセイバーは最優のクラス。
だが、この聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントはどれも名のある英霊の筈なのだ。
それがあのような絶叫をしたという事はここで起きた戦いはもはや終わりが近いということで…………ここに誘われてから自分たちが来るまでに三十分程しか経っていない、にも関わらず終わりが近いという事は片方のサーヴァントがそれほどの強者なのだと考えそんなサーヴァントにセイバーが勝てるのか、と恐れ疑ってしまった。
アイリスフィールはそんな考えを恥じ、セイバーなら勝てると先ほどまでより強く信じた。
だが、それはすぐにまた揺らいでしまう。
「まさか、既に我々より先に来ていて且つサーヴァントを一騎落とすとは……さぞ名のある英雄なのでしょう」
「セイバー……気をつけて」
視界が開け、戦闘が行われていたと思われる場所に出たセイバーとアイリスフィールはサーヴァントの消滅を感じより一層警戒心を強めて広間の中央に立つサーヴァントと思わしき存在を見る。
濃紺の葉脈の様なモノが走った黄色の短槍を右手に美しい剣を左手に持った全身鎧に包まれた存在。何やら黒い靄のような何かを纏っておりその細部までは見る事が出来ない。
そんな存在がセイバーとアイリスフィールを見ていた。
『…………なる、ほど、きさ、マラもランサーに誘われ、た口カ』
なにやらノイズがかった老人なのか若人なのか、男なのか女なのか分からない声を発するサーヴァントにセイバーは身構える。
ランサー……すなわち三騎士の一角を討ったという事は少なくとも最弱のキャスター───正直に言えばセイバーはキャスターが最弱と聞いて首を傾げるが───ではないと判断し、ノイズのような声から狂化がかかっている考え目の前のサーヴァントがバーサーカーと結論付けた。
「なるほど、つまり我らを誘ったのはランサーだったわけか……そして、それを貴様は倒した」
『さよ、ウ』
「疲れた敵を討つというのは騎士道に反するが……これは戦争、倒させてもらおうか」
そう挑戦的な笑みを浮かべたセイバーはアイリスフィールの用意した黒のスーツからセイバー本来の青と銀の騎士装束へと変化する。
その手には風で覆われ不可視となった剣が握られる。
『…………風、か』
サーヴァントはセイバーの剣を隠す風を見てそう呟く。サーヴァントにとって風の鞘の中身には興味はなく、風の鞘にこそ注意を向ける。
『…………』
「……さて、貴様はさぞ名のある英雄なのだろうが……ここはこの聖杯戦争のルールに則り名乗らせてもらう。サーヴァント・セイバー、貴様は?」
『……………………スマ、んな、ゾォルゲン』
セイバーの名乗りに対し、サーヴァントは名乗りに関する念話でもしていたのか唐突に謝る。
アイリスフィールはサーヴァントが漏らした言葉の中に聞いた名前がある事に気づきこのサーヴァントが間桐のサーヴァントであるのだ、と理解した。
『…………おま、えが相手ならば偽る理由もなかろう……」
靄のような何かが消え始め、ノイズがかった声が段々と鮮明になり青年の声になっていく。
ハッキリと見え始めるその姿とその声にセイバーは一瞬その身体を硬直させる。
「……まさか」
「……サーヴァント・シールダー。此度の聖杯戦争にてバーサーカーのイレギュラークラスとして顕現した。盟友よ、悔いなき戦いをしよう」
「……シールダー?」
セイバーはサーヴァント・シールダーの言葉にその正体を理解し、アイリスフィールはシールダーのクラスに疑問を抱いた。
本来聖杯戦争は
・セイバー
・アーチャー
・ランサー
・ライダー
・キャスター
・アサシン
・バーサーカーの計七つのクラスのサーヴァントが召喚されるはずなのだ。稀にルーラーのクラスが八騎目として呼ばれるらしいが、少なくともアイリスフィールの知識の中にシールダーというクラスは存在しなかった。
そんなアイリスフィールの疑問を察したのかシールダーは話し続ける。
「シールダーは他のエクストラクラス以上にイレギュラーなクラスだ。此度は貴様らアインツベルンが六十年前にしでかした事象故のイレギュラー」
「私たちが六十年前にしでかした事象?何の事を言ってるの?」
「……聞いていた通りのようだな。知らぬというのなら知らない方がいい、知らぬほうが幸せな事もある」
酷く冷静な態度でアインツベルンを非難しつつシールダーはセイバーに黄槍を向ける。
「構えろ盟友よ。此度の出会いもまた何かの因果。久方ぶりに身分を忘れしのぎを削るとしよう」
「……フ、なるほど。ならば私も容赦はしません。その槍は見たことがありませんが……恐らくはランサーより得たのでしょう」
剣を構えるセイバーに槍を構えるシールダー。
セイバーにとっては最初の戦い。
シールダーにとっては連続二度目の戦い。
疲労を考えれば万全のセイバーに軍配は上がるが…………そうもいかないのが聖杯戦争である。
「どのような理由で召喚に応じたかは知らぬが……負ければこちらの軍門に下ってもらおう」
「まさか。その手の剣はジョワイユでしょう?如何にその剣でも私のコレと打ち合えるとでも?」
「武器の優劣でそうも調子に乗るか……面白い、なんならそこらに落ちてる鉄パイプで相手してやってもいいぞ?鉄パイプに負けるお前……御笑い種だな」
「おや、妬みですか?自分の自慢の剣がないから、と。貴方を慕っていた彼女らに言えばそれこそ御笑い種ですよ」
「ァ?」
「は?」
「セ、セイバー?」
段々と不穏な空気がセイバーとシールダーの間に漂っているのを感じ取ったのかアイリスフィールは動揺しセイバーに声をかける。が、それが合図となったのだろうか
「上等だ!アヴァロンに送り返してやろうッ!!」
「それはこちらの言葉ですよ!エレイン姫にでも泣きつきなさい!!」
「セイバーッ!?」
アイリスフィールの驚愕の声を背に、怒りに燃えるセイバーとシールダーによる戦いがいま始まった。
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「まったくシールダーも律儀なものだな。かけ直した魔術を解くとは」
男は戦闘が行われているコンテナ区画の一角を歩いている。
男は自身の相方に呆れた様な言葉を漏らすがその表情には笑みが浮かばれていた。
文句を言うものの相方との日々に少しずつ楽しさを憶えてきた男はこのような事になった時の事を思い出す。
本来ならば相方の精神上、自分はいの一番に滅ぼされるべき存在であるというのに相方は罪深い自分に罪を償う時間を与えるという慈悲を示した。
かつて平和を願う者として駆けたというのにいつの間にかに邪智暴虐の見るに堪えない存在に成り下がった自分に。
「まずはこの戦いを乗り切るか……」
しばし男が歩いていると前方から男の方へと駆ける影。
男はよもやアサシンか、と疑ったが現れたのは目的の人間。その為、男はその人間に声をかける。
「ロード・エルメロイだな?」
「……ッ!き、貴様は何者だ!」
その人間は声をかけた男に過剰に反応する。
そんな反応に男は嘲笑しそうになるがそれを抑え、目の前の人間に手を向ける。
「他のサーヴァントと契約させるわけにもいかんのでな、死んでもらう」
「!貴様、あのサーヴァントのマスターか……丁度いい貴様を殺してその令呪を持って再び私は戦うとしよう……何故ならこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトの聖杯戦争はまだ終わってないのだから!」
「…………」
自分の勝利を疑わないケイネス・エルメロイ・アーチボルトに男は流石に表情を歪める。
ああ、この男は駄目だ、と。
アーチボルトには決定的に挫折が無い。やる事なす事その輝かしい結果は当たり前、世界は己を中心に回っている。
そんな憐れな魔術師なのだと男はアーチボルトを断じ、一瞬だけ自嘲する。
結局は私も同じ穴の狢であったろうに、と。
男がそんな事を思っている間にアーチボルトはその手に何やら銀色の液体の様なものが入った試験管を取り出し
「Fervor,mei ッガ!?」
起動術式だろうか、悠々と詠唱しそして途中でアーチボルトの喉が裂けた。
「────ヒュー、ヒュー」
「言葉による術式起動、喉を潰せばいとも容易く封じることが出来る。どうした、その程度の事に対策は出来ていないのか?」
喉が裂け、空気の漏れる音しか出ないアーチボルトは怒りの形相で男を見る。
喉が裂けた事で相当の激痛が襲っているというのにそんな事が出来ることに男はズレた感心をする。
「考えうる最悪に対する対策を用意する……当たり前の事だというのに……たかだか二百年そこらでこうも魔術師とは惰弱になるものなのか?」
「────!!」
男の言葉に返ってくるのは空気の漏れる音だけ。
「では、さようならだ。アーチボルトの小僧」
その言葉が合図かコンテナ区画のあちこちから現れた無数のむし、ムシ、虫、蟲がアーチボルトに殺到し、更にはアーチボルトの突如裂けた喉からも数匹の蟲が湧き出す。
聞こえるのは蟲たちの咀嚼音のみ。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはただ蟲たちの血肉となった。
明日明後日は忙しいので休みます。
zeroルートは基本的に浮かんだら時々放り込むので気長にお待ちを
あくまでメインはGOなので