Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 作:カチカチチーズ
浅い。ジャンヌ・オルタは不敵に笑った。
この最大にして最後のチャンスでこの程度の、数分もあれば癒える様な傷しか与えられないとは。何たる無様か。
ジャンヌ・オルタは剣を振り切った眼前の騎士に抱いていた評価を過大評価だったと呆れ、その手の旗を振り上げる。
先程の宝具でもはや鎧は煤け最高の騎士という肩書きに合わぬその出で立ちにジャンヌ・オルタは己の勝利を確信した。
だが、ジャンヌ・オルタは知らぬのだ。
「ジャンヌ・ダルク・オルタ。貴公に敬意を払い私はこの一撃を振るった」
円卓の騎士サー・ランスロット。この騎士の宝具の力を。
「この旅においてよもや早速振るうことになろうとは…………彼の弓の大英雄に振るわれるものを貴公に振るうこととなろうとは」
「……何を言って」
ランスロットの振るったのはアロンダイト。本来対軍宝具であるそれをランスロットは今この時ジャンヌ・オルタという個人に振るった。
本来であれば騎士王のエクスカリバーやガウェインのガラディーンの様に光の斬撃となる筈のそれを敢えて放出せずに切り付けた相手の切断面にて解放するソレは本来の歴史において頑強のスキルをEXで所持しているアーラシュ・カマンガーに重傷を負わせるほどのもの。
たとえ傷が浅かろうが切り付けたという事実があるのであれば────
「
「は?……ッ!!??コレは────」
ランスロットの真名解放をトリガーにジャンヌ・オルタに付けられた切断面から湖が如き青い光が迸る。それにジャンヌ・オルタは驚愕に顔を歪ませ、そして。
「ジャンヌには残念だが。ジャンヌ・オルタはここで討つ!!!」
湖光の斬撃に動きを止め、隙を晒したジャンヌ・オルタの胸にランスロットは容赦なく
「ギィッ!!??」
宝具の魔力に自身も削られているが構わずランスロットはアロンダイトをより深く突き刺す。聖杯によって回復されない為に、深く深く柄まで通れ、と。
背後に何かが現れるのを感じとりながらもランスロットは無視し、アロンダイトでこじ開けた傷口に腕を突っ込みジャンヌ・オルタの霊核……聖杯を捕まえた。
「ァ、ァ、アア……!!??」
「悪いな。こちらもまだ死ぬわけにはいかない…………ジークフリートやゲオルギウスに悪いが、この戦いはここで終わらせる」
「ジャアァァアァァァァンンヌゥゥゥゥゥゥゥウウウウウッッッッ!!!???」
ランスロットの後方、ワイバーンより最後のサーヴァントが降り立った。
振り返るまでもない。ジャンヌ・オルタの参謀たるサーヴァントなど彼のキャスターしかいないのだ。
掴んだ聖杯をジャンヌ・オルタより引きずり出し、アロンダイトを切り裂きながら抜き放ちランスロットはキャスターに振り向く。
「おのれおのれおのれぇぇぇぇ、この匹夫めがァァァァ!!!」
その眼を見開き憤怒に顔を染め上げ、激情のままに絶叫するキャスター……魔術王より聖杯を与えられこの第一特異点焼却を命じられた『魔元帥』ジル・ド・レェ。そんな彼に振り返ったランスロットは兜を被り直し、その下で笑ってみせる。
「ああ、悪いな。安心してくれすぐに後を追わせる」
消した盾を呼び寄せ、稼働させる。無けなしのの魔力は盾の中にあるモノを駆動させランスロットを侵している魔女の呪いを消し払う。
次にその手の聖杯よりリソースを引き出し無理矢理に自身の傷を回復させる。調子を戻したランスロットはアロンダイトを軽く振るい回復した身体の動きを確認して一歩歩む。
「ぬかせぇ……!!殺して殺して殺してその亡骸すら辱めて地獄の底に堕としてくれるわァァァ!!!!」
『『『『『『ギィィィィィィ!!!!!!』』』』』』
ジル・ド・レェの言葉が引鉄にその手元で開かれた彼の宝具『
圧倒的な数による物量攻撃。如何に武功に優れようともそれで覆せる数の差をゆうに越える海魔の波にランスロットはあろう事かその兜の下で未だに笑みを浮かべている。
既に聖杯は懐に。
その左手にはアロンダイトを。
その右手には盾を。
なるほど確かに。生前数多くの幻想種や侵略者に反乱者と対峙したランスロットであってもこれほどの数の敵を相手にした事は無い。
激情にかられながらもこのように物量をもってランスロットを殺そうとするジル・ド・レェは腐っても軍の元帥経験者なわけだ。素直にランスロットは感心し、しかしジル・ド・レェは分かっていない。
これほどまでの絶望的な数の差、確かに並の英雄ならば容易く死ぬだろう。だが、だがしかし…………
「貴公は覆せる
懐の聖杯から膨大なリソースを改めて盾の中にあるモノへ回す。
駆動する。稼働する。起動する。
アロンダイトの真名解放によりランスロットはそのステータスのランクを一つ上昇させる。
「本当に悪いと思っている…………彼らの活躍の場を、出番を奪ってしまうのは」
だが、嘗められたままでは円卓の騎士の沽券……もとい王の顔に泥を塗りかねない為。
ランスロットは地面を蹴り、海魔の波へと突貫する。
「円卓の騎士ランスロット・デュ・ラック、ここに武功をたてよう」
ピクト人に比べれば可愛いものだよ、貴公。
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ソレを告げたのはアルトリアだった。
ランスロットの悪癖。彼は自分の生命を無視し武功をたて、誰かを助ける悪癖がある。
アルトリアは現状とランクが下がれども機能しているおのが直感からランスロットのやらんとしている事をその場にいた全員に告げた。
それを聞いた彼らはマリーと共に撤退しているだろうと口々に言ったがマシュと彼のサーヴァントであるヴラド三世はアルトリアの言葉に肯定の意を示した。
未だ召喚して僅かしか経っていないもののヴラド三世はランスロットの人となりを大雑把ではあるが察し、マシュは自身と融合したサーヴァントの霊器からランスロットの悪癖を何となくではあるが理解していた。そして、マスターである立香はそんなマシュを信じた。
ランスロットがいない今ただ一人のマスターである立香にアルトリアは判断を委ねた結果、ランスロットの元へ何人か送る事を決めた。
リーダーであり責任者であるランスロットのやらかしに通信越しにロマニは頭を抱え、帰ったら説教をする事を心に決める。
そして、アストルフォのヒポグリフにアルトリアが乗りランスロットの元へ向かう事となった。当初、立香やマシュも行こうとしたが流石にロマニに止められそして…………。
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「なんだアレは……」
アストルフォとアルトリアが目にしたのは街を覆わんばかりの無数の海魔の群れとそれを単騎で蹴散らさんと戦うランスロットの姿。
「うげぇ……すっごくネチョネチョしてるんだけど」
「…………ジャンヌ・オルタはどうした」
ここに来る途中で見つけたマリーからランスロットはジャンヌ・オルタと更に二騎のサーヴァントと戦っているという事を聞いたアルトリアは件の三騎の姿が見えない事にまず疑問を持ち、次にランスロットから感じる魔力にその答えを見つけた。
「なるほど、あの馬鹿が既に討ち倒し聖杯を奪取したわけか」
「えっ!?竜の魔女を倒したの!?」
では、今戦っているのは三騎目のサーヴァントか新たなサーヴァントというわけだが果たして…………アルトリアは頷き、
「後は任せた」
「え?何、が……って、えぇ!!??」
ヒポグリフから飛び降りた。
ヒポグリフの高度はこの街を俯瞰出来る高度。サーヴァントだからといってもあの海魔の群れに覆われかかってる街に飛び降りるなど自殺行為だ、と思うだろうがアルトリアは問題ないと判断し飛び降りた。
ある程度の高さまで降りたところで海魔たちがその触手をアルトリアに伸ばし喰らわんとそのおぞましい口を開いていくが、無駄だと言わんばかりにアルトリアは魔力放出で足元のそれらを吹き飛ばす。
「────アル」
「何時にも増して悪癖を披露するなランスロット」
都合よくランスロットの近くに降りたアルトリアはその鋭い視線をランスロットに向けるがランスロットはどこ吹く風と海魔を切り裂く。
「風穴を空ける。そこに撃てるか」
「誰にものを言っているつもりだ」
そうか、と笑う。ランスロットの背後にアルトリアは移動し、ランスロットは盾を握りしめる。
聖杯のリソースをアルトリアに回し、ランスロットは海魔の海に突き進む。剣ではなく盾を前に。
「“盲目なる者は聖血を以て光を得たり”」
盾を海魔に押し付ける。
聖言は向かい合う双乙女の盾を駆動させ、その内部より宝具を剥き出しにさせる。
「極光は反転し、その醜悪を滅ぼす」
背後のアルトリアが黒い聖剣に魔力を収束させる。
「『
盾に仕込まれた槍の穂先が放たれる。
其は救世主を貫きその血を浴びた正真正銘の聖遺物。
嘗てランスロットの義父たる漁夫王に癒えぬ疵を与えた嘆きの槍。聖杯という膨大なリソース源を得て放たれた其れはそのまま射線上の海魔たちを消し飛ばしその最奥に居た魔元帥を捉える。
ありえない事態に硬直する魔元帥。アルトリアはランスロットの背を蹴り、敵を見据える。
もはや逃げる事は不可能。
「『
嘆きの一撃。ランスロットの盾に収納された聖血を浴びた槍の穂先を対象に放つ宝具。つまりパイルバンカー
セイバーかシールダーでないと持ってこれない宝具ですね。
久々に本編書いたけども……うん、不安だが大丈夫です。タカキも頑張ってたし、チーズも頑張らなきゃ……
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