Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】   作:カチカチチーズ

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 新年あけましておめでとうございます。
 今年もこのチーズをどうかよろしくお願いします。



セプテム:3

 

 

 

 始まった戦いはやはり、サーヴァントとりわけ高ランクステータス保持者であるシャルルマーニュという明らかに規格外の存在により、彼ら敵兵士らが尽く叩きのめされていく。

 無論、相手が怪物であるわけでもなく、サーヴァントであるわけでもなく、討つべき邪悪であるわけでもなく、ただの現地人の兵士である以上シャルルマーニュは多少の手心を加えて戦っていた。

 そうして半分程を一人で打ち払ってから、シャルルマーニュは一度下がって戦況を読もうと考え──────

 

 

「っと、アレは……!」

 

 

 誰よりも先にソレに気がつき、地面を蹴った。

 目指すはマシュと彼女に護衛された尊大な少女がいる前線。

 サーヴァントの脚力で迅速にその場へ迎えば、ちょうどソレが彼女らの前に姿を表したのと重なり、そして同時に念の為持っていた通信端末からロマニの声が上がる。

 

 

『サーヴァントだ、マシュ、立香ちゃん!!一体のサーヴァント反応を確認した!』

 

 

 シャルルマーニュの視線が捉えたのは浅黒い肌に黄金の鎧を着込みさらに深紅のマントをつけた蒼い髪の男。

 剣は無く、弓は無く、槍は無く────クラスはその外見からは判断する事は出来ない。故にシャルルマーニュは一縷の望みをかけて通信端末に耳を傾ける。

 

 

『───戦闘は行っていないから、正確なクラスは不明だな。情報が足りん……いや、伯父?なるほど』

 

「伯父つうと……」

 

『なら、該当するのは』

 

 

 通信端末越しに少女と件のサーヴァントの会話を拾い上げ、ランスロットが速やかにサーヴァントの真名を理解し、シャルルマーニュもまた大きなヒントとなるワードから該当するであろうクラスと真名が脳裏に浮かび上がった。

 

 

「如何なる理由かさ迷い出でて、連合に与する愚か者!」

 

 

 少女とマシュの近くに着地し、サーヴァントへと睨みを利かせるシャルルマーニュを無視して少女はサーヴァントの真名をその罪と共に糾弾した。

 

 

「……カリギュラ……!!」

 

 

 ああ、やはり。

 通信端末越しにそう零すランスロットの言葉を耳にしながら、シャルルマーニュとマシュはすぐさまカリギュラについて頭を働かす。

 ガイウス・ユリウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス。

 ローマ帝国三代皇帝であり、彼の第五代皇帝ネロの伯父と言われる悪名高き皇帝。暴虐と淫蕩、悪行と倒錯の限りを尽くし、恐怖で帝国を支配していたもののそれも長くは続くことは無く、元老院をはじめとする勢力を中心とした多くの人々の叛意の刃によって暗殺された四年程の在位期間の皇帝。

 しかし、彼の暴君としてのソレは当時のローマの価値観にからして曰く、月に愛されてしまった。ということであるらしい。

 その言葉が表すのは狂気。

 すなわち彼は月に愛されたが故に狂気に身を堕としたのだ。

 ならば、彼に該当するクラスなど一つしかあるまい。

 

 

『マシュ、シャルルマーニュ、アストルフォそして立香。これはこの時代において初めてのサーヴァント戦闘になる』

 

「はい……行けます!」

 

 

 カリギュラの姪である彼女を含めた三人の後ろ、アストルフォに抱えられて飛んできた立香にランスロットの警告が入るが、立香に一瞬であるが緊張が走るがしかしすぐにその緊張を抑え、目の前のサーヴァント・カリギュラを見据える。

 

 

「余の、───。余の、振る舞い、は、運命、で、ある。捧げよ、その、命。捧げよ、その、体。

すべてを 捧げよ!!

 

「くっ……!伯父上、何処まで……!」

 

 

「来ます!サーヴァント戦闘です!マスター、指示を!」

 

 

 彼女らの間で話は終わったのか、カリギュラはその拳を握りしめながら一歩前へとでた。

 その歩みは決して無視出来るようなものでは無い。

 ただの歩みではなく、アストルフォやシャルルマーニュなどの歴戦の騎士でなくとも理解が出来る戦いの為の一歩。その事にしっかりと気づけた立香は無意識に唾を飲み込んだ。

 

 

 そんな中、真っ先に突撃したのはシャルルマーニュ。

 白い閃光と化して、カリギュラへと迫りそのジュワユーズを頸目掛けて振るう、だがしかしカリギュラはその一撃を正しく紙一重で避け、その拳をシャルルマーニュの端麗な顔面目掛けて振るった。

 シャルルマーニュのステータスにおいて敏捷はBランク。それに対して、カリギュラのソレはB+。それが表すところはすなわち────

 

 

「(俺より、あっちの方が速い……!!)」

 

 

 本来、サーヴァントのステータスにおいて『+』という値はそのステータスにおいて瞬間的に倍の数値を出す事が出来るものであり、通常時においてはシャルルマーニュとカリギュラの敏捷ステータスに差というものは存在していない。

 だが、あくまでそれは通常時の話でありこの戦闘時で速度が同じなどとは考えるのは致命的となる───と言ったところでそもそもが話、キャスタークラスの中でもとりわけ特別なサーヴァントでもなければ、サーヴァントが敵対サーヴァントのステータスを覗くことなど不可能でしかなく、その為シャルルマーニュはカリギュラの敏捷ステータスをAランクであると誤認していた。無論、過小評価するよりかはマシである。

 さて、シャルルマーニュさ自身の保有スキルである魔力放出を行い、顔面への攻撃を回避しそのまま距離をとった。

 

 

「シャルルマーニュさん!」

 

「マシュ……アイツ、存外速いぞ」

 

「なんだ、アレは……伯父上はあそこまで速かったのか?」

 

 

 自分の記憶の中にある伯父の動きではない、と少女が驚愕する中、冷静にマスターである立香はカリギュラを見極めようとしていた。

 底辺の魔術師という訳でもない一般人の彼女ではサーヴァントの戦闘を視認し続けるのは無理であろうがしかし、それでも第三者的視点でもってカリギュラから情報を得ようと立香なりに動いていた。

 

 

「ああっぎいぃい!!」

 

 

 地面が炸裂し、カリギュラが飛び込んでくる。それに対して、マシュはその盾を構えながら、立香と少女を護るように躍りでそれをカバーするようにアストルフォとシャルルマーニュが迎え撃つ。

 刃と拳がぶつかり合い、普通ならば有り得ないような硬質的な激突音が戦場に響き渡る中、対峙するシャルルマーニュはその頬に汗を垂らしていた。

 

 

「(こいつ……!速い、速いが……ただ速いわけじゃない!!攻撃の瞬間に加速しているが時折加速せずに撃ってくる……緩急が付けられていて、見分けにくい……!)」

 

「うぅぅむぅぅうっ!!」

 

 

 下段からの一撃、中段からの連続攻撃、上段からの叩き落とし、バーサーカーとは決して思えない程の巧みな足運びと緩急付けた攻撃の組み合わせにシャルルマーニュは舌を巻き、防戦一方である。

 トップサーヴァントであるシャルルマーニュだが、その耐久ステータスはCランク止まりであり、カリギュラの攻撃を無視して討つというのは難しい。故にシャルルマーニュは自分のマスターが打開策を見つけるのを信じて────

 

 

「アストルフォ!!」

 

「OK!!!行っくよォ!!」

 

 

 立香の指示が始まった。

 呼ばれたアストルフォが自分の役割を理解し、その手に自らの宝具である黄金の馬上槍を持って死角からカリギュラへと迫る。

 

 

「ぅぅああ!!」

 

「『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』」

 

 

 死角から迫ったアストルフォであるがしかし、すぐさまカリギュラはそれを対処する為に自分へと放たれた突きを馬上槍の側面を叩き弾く事で回避し、そのまま武器を弾かれながら致命的な隙を晒して突っ込んでくるアストルフォの顔面めがけてその拳を振るう。

 

 

「なんっ!?」

 

 

────はずだった。

 踏み込んだ筈の脚は無く、視線を向ければ膝から下が霧散していた。

 両脚を失ったカリギュラは身体を落としていき、その場を飛び退いたアストルフォの代わりに致命的な隙を晒すカリギュラへとシャルルマーニュの『輝剣』が放たれる。

 凄まじい速度で迫る『輝剣』に対して、カリギュラは迎撃ではなく防御を選んだ。

 理性なきバーサーカーであるが、本能がそれを選んだのだろう。

 膝から下を失い、落下している途中である為に『輝剣』と身体の間に両腕を滑らせたカリギュラはそのまま吹き飛ばされる。地に足付かず、背中で地面を削りながら吹き飛んでいくカリギュラを見ながら、シャルルマーニュは剣を握りしめる。

 それなりのダメージはあるだろうが、まだ死んではいないと理解しているからだ。一瞬、後方の立香を一瞥すれば視線がかち合った立香は頷き、その意図を理解してシャルルマーニュは『輝剣』を数本新たに創り出す。

 

 土煙が晴れ始め、薄らいでいく土煙の中に立っている人影が見える。

 アストルフォの表情が歪み、シャルルマーニュは『輝剣』を何時でも打ち出せる用意をする。

 

 

「あ、あ……。我が、愛しき……妹の……子……。なぜ、捧げぬ。なぜ、捧げられぬ」

 

 

 完全に土煙が晴れ、そこにいるのは両腕を覆う黄金の篭手諸共ズタズタとなり、血を流している誰が見てもボロボロな姿のカリギュラ。

 ボロボロだからと言って気を抜くことは出来ない。

 相手はバーサーカークラス。自分の負傷を無視して暴れる可能性は充分にあるのだから、故にシャルルマーニュは次の『輝剣』を放とうとして、

 

「美しい、我が……。我が……。我が……。我が……。我が…………」

 

 

 何かを呟きながら、カリギュラはその姿を消した。

 

 

「き、消えた……?伯父上……」

 

 

 消えたカリギュラに少女は驚き、シャルルマーニュとアストルフォはしばし警戒をするが、完全に撤退したのだろうと理解しその肩を落とした。

 

 

「はふぅ……」

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「うん……大丈夫。緊張が解けただけだから……それにしてもバーサーカーなんだよね?多分」

 

 

 ため息を着きながら、その場にしゃがみ込んだ立香をマシュは心配して声をかけ、それに立香は応えながら先程のカリギュラについて思考を回す。

 彼女の中で生まれた疑問、それはバーサーカーのサーヴァントがボロボロになったとはいえ大人しく撤退したことについて。

 そんな彼女の疑問に答えるように通信端末からロマニの声が響く。

 

 

『多分マスターがいるんだろうね……オルレアンの清姫みたいにバーサーカーでもある程度の思考能力があるサーヴァントもいるけど、あのサーヴァントはそこまで思考能力があるようには感じなかった』

 

「マスター……」

 

「ん。むむ?」

 

 

 と、立香とロマニの会話に挟み込むように少女が疑問の声をあげた。

 それに、立香は何か不味いことでもあったか?と顔を強ばらせ、マシュが不安げに少女へと質問する。

 

 

「な、なんでしょうか」

 

「さきほどから声はすれど姿の見えぬ男がいるな。雰囲気からして魔術師の類か?」

 

 

 少女の言葉にカルデア一行はその表情が固まるがしかし、すぐさまロマニが少女に答えた。

 

 

「魔術をおわかりとは話が早い。そう、ボクたちとその二名はカルデアという組織の───」

 

「まあよい。そこの四名、いや、五名!姿なき一名はよく分からんが皆見事な働きであった。改めて、褒めてつかわす!」

 

 

 ロマニの言葉を遮って尊大な態度でそう告げる彼女にカリギュラの時から頭の中にあった彼女の名前がそうなのだ、と改めて理解して。

 

 

「氏素性を尋ねる前にまずは余からだ。余こそ────真のローマを守護する者。まさしくローマそのものである者!

必ずや帝国を再建してみせる。そう、神々・神祖・自身、そして民に誓った者!

余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである───!!!」

 

 

 

 

 


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