DoubleSteps   作:小竜

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#4 それぞれの1歩

 

 

「1ヶ月頑張ってリターンの練習してきたんだ。あとはやるっきゃない……」

 

 ベンチに腰をかけた栄一郎がノートへ虚ろな視線を送り、なにやらブツブツと言葉を漏らしている。緊張を必死に落ち着かせようとしているが、傍からみたら完全にあぶない人である。

 

「エーちゃん、大丈夫かな?」

「まだ戦ってもない相手に飲まれてるなあ。無理もないだろうけど」

 

 栄一郎を心配そうにみつめるナツがいる。

 どうしてナツがこの場にいるのか? 答えはシンプルに勝負を見届けたいから、というものだった。情報収集を手伝ってもらった手前、拒否することも出来なかった。

 

 本沢テニスコートの真上に太陽が昇り、燦々と輝いていた。青々と広がる大空を見上げていると、吸い込まれそうな気持ちになる。

 向かい側のベンチにはタクマが座っていた。敵意に満ちた眼光が向けられる。春人は笑顔で、手をひらひらと振ってやる。

 

「おい、タクマっ! ダブルフォルトはどういう扱いにすんだ?」

「あん? てめえ、俺がこの勝負でダブルフォルトすると思ってんのか?」

 

 タクマの周囲に、メラっと燃えるものが生まれた。

 

「ありえないとは言い切れないだろ? その場合は球数の減少は、ノーカウントってことでいいか?」

「そうなったら、てめえらに勝ちをくれてやるよ」

 

 タクマならそう言ってくれると信じてたよ。

 常に気持ちよくサーブを打たれたのでは、こっちはたまったもんじゃない。

 タクマを冷静にさせてはいけない。さらに小さな積み重ねではあるが、プレッシャーを掛ける。もしもフォルトが出れば、その後の1球にチャンスが生まれるかも知れない。

 

「エーちゃん」

「スイングは最小限に、体重移動も忘れない、タクマ先輩のサーブのリズムは――」

 

 いかん。試験直前に最後の詰め込みをする学生みたいになってる。春人は両手で、栄一郎の頬をほにゃっとつまんだ。ハッとする栄一郎。

 

「自分で努力した以上のものが出ないのは、勉強もテニスも一緒だ。でも、エーちゃんは1ヶ月間、やれることはやってきた。自信を持て」

「う、うん。そうだよね」

「やることはシンプルだ。来た球をよく見る。相手のコートに打ち返す。難しいことは考えなくていい」

 

 ここまでくれば、身体に叩き込んだ練習を信じるしかない。

 春人は栄一郎の背中をポンっと押して、戦場へと送り出す。

 

 

 勝負開始である。

 

 タクマがボールをあげて、膝に溜め込んだ力を解放し、ラケットをもつ腕を鞭みたいにしならせ――。

 来るっ!

 

「だぁああー!!」

 

 回避に専念する栄一郎がいて、矢のようなボールがコートを跳ねていく。

 

「め、めちゃくちゃ速いっ! これがタクマ先輩のボール……」

「やっぱり動画で見るのと、目の当たりにするのじゃ違うわな」

 

 栄一郎が口をあんぐりと開けている。

 春人は顔に手を当てて、ため息をついた。タクマのサーブが速いと頭では理解していた。

 しかし、これほどとは。

 コート外から見ても、予想以上の体感速度である。やはり時速170km、いやそれ以上か? サーブだけならプロと比べても遜色ないだろう。

 だが、タクマがフラットサーブ主体で攻めてくると確信した瞬間でもあった。さらに慢心もある。サービスコートに入ればどこでもいい、そんなサーブの打ち方だ。

 

 タクマがサーブを叩き込む。

 

 栄一郎がスイングをするが、すっかり逃げ腰だった。見ごたえのある空振りをする。もっとも、当たらない理由はタクマの打球の質にもある。

 フラットサーブと呼ばれるものは、しかし完全に無回転ではない。球速重視の1球にわずかなトップスピン回転がかかることで、速度がありつつ少しだけ下に落ちる軌道となる。さらに弾んでからの推進力を生み出す。

 しかも、タクマのサーブはキレがいい。勢いと伸びがあるため、打ち返しにくいのである。

 

 声を掛けるべきか。そう思って、しかし春人はどっしりとベンチに腰をかけて、行方を見守ることにする。

 もう、ここまでくれば外野があれこれ言うより、当事者が感じて動くしかない。この場で与えられたアドバイスは、栄一郎の混乱を招く危険性がある。

 事前に伝えられることは、栄一郎に話してある。あとは、当人がどう考えて動くかだ。

 3球目のボールが栄一郎の右足近くを通りすぎていく。

 

「あれ? エーちゃん、スイングしないよ?」

 

 ナツが首をかしげた。

 ビビって動けなくなったのか? いや、それは違う。

 栄一郎は最後までボールの軌道を目で追っかけていた。『見』に徹しているのだ。

 タクマの球に対応するには、がむしゃらに振ればいいというものではない。打ち返す選択を捨てる勇気が必要なときもある。

 

 4球目。バシッ! サービスコート中央にサーブが決まる。

 5球目を打ち込んだ直後に、タクマの眉間にシワが寄った。眼光に鋭いものが宿る。だが、ボールを見送り続ける栄一郎は、口をしきりに動かすだけ。春人からは、「1・2・3」と何度も数字を刻んでいるように見えた。

 

「すいません、ちょっとノートに書いていいですか?」

「勝手にしろよ」

 

 吐き捨てるように言うタクマ。

 春人はベンチにあったノートを、栄一郎へ渡してやる。

 栄一郎は真剣な表情でノートに書き込み始めた。そして春人にノートを預けて、コートへ戻っていく。

 春人はノートの中身を見せてもらい、やっぱりと納得した。

 タクマが打ち込んだサーブのコースを詳細に記してある。あの速さでも栄一郎には、見えているのだ。

 しかもページを変えれば、動画にあったタクマのサーブまで描いてあった。フラットサーブ、スピンサーブ、スライスサーブ。ともかくタクマが打ったものは全てだ。さすがというべきか予習にも余念がない。

 

「あっ!」

 

 ナツが歓喜の声を漏らした。栄一郎のラケットのフレームに当たって、ボールが転がっていく。

 栄一郎は表情を明るくした。タクマの舌打ちが響いた。

 第一段階は突破といったところか。

 だけど、ここから気合いをいれなきゃならない。

 

 6球目。強烈な打球音。栄一郎が咄嗟に駆ける。ボールがシングルスサイドラインをかすめていった。腕を伸ばすも間に合わない。

 今の一撃は速度こそわずかに落ちていたが、きちんとライン上を狙っていた。油断が削ぎ落とされていく。ここからはタクマも徐々にコントロール調整をしつつ、速度もあげてくるだろう。

 果たして栄一郎は、タクマの調整を上回って対応出来るだろうか?

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 25球目。

 タクマがトスを上げて、膝を曲げる。溜め込んだ力を上半身へと効率よく伝え、ラケットを通じて爆発的なエネルギーをボールに込める。

 栄一郎の反応は速い。タクマのラケットがボールに触れると同時。彼は地面を蹴っていた。

 

 最小限(コンパクト)なスイング。

 

 栄一郎のラケットがボールを捉える。だが、わずかにタイミングが遅い。球威へ圧されてる。

 跳ね返ったボールは春人とナツへ突っ込んできた。ナツの身体がわずかに強張る。

 

「あぶないっ!」

 

 反射的にそばにいたナツを抱え込む。春人の後頭部に衝撃が走った。

 

「おい、ナツ。大丈夫だったか?」

「……」

「ナツ?」

「あ、うん。だ、大丈夫だよ」

 

 腕の中におさまってるナツが、ぎこちない笑みを浮かべた。やっぱり急に飛んできたボールに驚いたかな。

 

「ご、ごめん! 怪我とかなかった?」

 栄一郎が心配そうに尋ねてくる。

 

「これ以上は馬鹿になんないから大丈夫だ」春人はナツから離れ、栄一郎に笑いながら話しかけた。「気にせず続けてくれっ」

 

 それにしても、栄一郎のリターン精度がかなりあがってきた。目の良さを活かして、瞬時に打点を見極めることも出来ている。あとはタクマのサーブを観察し続けたことで、タクマのフォームから打球が飛んでくる方向がわかりかけているようだった。

 予想以上の展開に、春人は夢中になっていた。

 

「これならエーちゃん、マジで1球くらい返せるかもな」

 

 ナツに向かって話しかけるも反応がない。

 ぼんやりとしたナツがいる。

 

「ナツ? どうした?」

「あはは、ちょっとびっくりしちゃって」

「そうだよなあ。あんだけ速いボールが急に来たら驚くよな」

「……そっちじゃなくてね」

「でもそれだけタクマの球威に押されず、ボールを捉えて返し始めてるってことだよな。あいつ、本当にすごいな」

 春人は栄一郎へ、賞賛の眼差しを送った。

 タクマにアカデミーを辞めろといわれても、続けたいと願った栄一郎。

 

 

 26球目。リターンしたボールがベースラインを超えてアウトになる。

 勝負に巻き込んでしまったのは春人だったが、タクマに自分を認めてもらいたいからこそ戦い続けている。栄一郎の闘志は衰えるところを知らない。どうやれば返せるのかを、情報を書き込んだノートを頼りに考え続けている。

 それはどこまでも真剣に、タクマと向き合っていると言えないだろうか。

 

 

 27球目。ラケットで捉えたボールが、ネットに当たって勢いを失う。

 春人は思う。自分はそこまで爽児と向き合ったことがあっただろうか。自分がイップスになった時、爽児の足枷になりたくないとテニスを辞めたけど、あいつがそう望んでいたのか? 全てはただの自己満足だったのでは?

 

 

 28球目。打ち返した打球が、シングルスサイドラインよりボール2つ外れて、相手のコートを弾んでいく。

 自分がやるべきことは対話だった。もしも、追いつくのを待ってくれているとしたら、お前は先に海外へ行けと背中を押せば良かったんじゃないか?

 

 

 29球目。タクマの高速サーブを、栄一郎が綺麗に弾き返す。ネット上ぎりぎりに当たって跳ねた。惜しくも栄一郎側のコートへボールが落ちた。

 過去をなかったことには出来ない。今、できることはなんだろう?

 それは爽児と話し合うことではないか。まずは謝らなきゃいけない。勝手にテニスを辞めたことを。

 

 

 

 

 そして運命の30球目。

 

 

 

 

 春人の握りこんだ手には汗が滲んでいた。

 栄一郎が重心をわずかに落として、どんな球にも反応してみせると集中している。

 タクマが手のひらをズボンに擦りつけた。ボールをコートに弾ませながら、息を長く吐いていく。タクマは決して力んでいない。かといって脱力しすぎてもいない。

 なぜだろう。雰囲気に違和感を覚える。

 栄一郎を1人のテニスプレーヤーとして、相手にしている真剣味がタクマの瞳にあった。

 

 まさか、あいつ……。

 

 春人にはわかってしまった。タクマは次のサーブを、勝つために打ってくると。それはフラットサーブではない。スライス回転か、スピン回転の一撃。

 ここまでフラットサーブのリズムに慣れきっている栄一郎。他のサーブを打ち返す経験はないし、想定外であろう球に対応できるはずもない。

 だが、真剣勝負をしている2人の間に、割り込むようなマネは出来なかった。

 

 タクマがボールを宙へと放る。

 

 放たれたのはフラットサーブよりも、わずかに緩いボールだった。シングルスサイドライン目指して飛んでいく。軌道からするに、おそらくはスライスサーブだ。横回転が掛かっており、バウンド後に外へ逃ていくだろう。

 栄一郎がボールとの距離を詰めていく。フラットサーブを返す時にいつもならスイングを開始する距離まで詰めて、そして――。

 

 栄一郎はもう2歩、踏み込んでいった。

 

 偶然かもしれないその2歩は、バウンド後に外へ逃げていくボールを迎え撃つのにドンピシャの距離だった。だが、スライスサーブはあまり跳ねず、滑るように動いていく。その軌道の違いを、スイングで捉えきれるか。

 栄一郎は浅く引いたラケットを、不格好ながらも振り抜いた。

 ラケットのフレーム近くに、ボールが当たる。

 打球はふらふらとした弧を描き、相手コートへと飛んでいって……。

 タクマの目の前に、落ちたのだった。

 その場の誰もが言葉を失って。

 

「入った、よね?」

 

 ナツの口からこぼれた一言が、世界に音を取り戻す。

「マジかよ……」春人は力強くガッツポーズをとった。「うおおっ、エーちゃん! やったじゃんかぁぁぁ!」

 栄一郎へと駆け寄って、春人は思いっきり抱きついた。肩で息をする栄一郎は、まだ現実が追いついてないようだった。

 

「なんだよこれっ! すげえよっ! ありえねえぇぇぇ!」

 

 あのタクマが勝つための1球を打ってくると確信したとき、勝てる可能性は潰えたと思った。

 だというのに、こいつはっ!

 春人は栄一郎の髪がぐしゃぐしゃになるまで撫で回す。

 

「なんで最後の球が、フラットサーブじゃないってわかったんだ?」

 

 あの踏み込んでいった2歩は、サーブの時点で予期してないと出来ない動きだった。

 

「はあっ……はあっ……、タクマ先輩のサーブの動作がなんか違うなって思って……。そしたら他のサーブが頭をよぎってね。動画を見てたとき、スライスだったら逃げてくから踏み込んで行こうとか、スピンだったら大きく跳ねるのを覚悟して返そうとか。イメージをしたことがあったんだ」

 

 そうか、と春人は思った。動画のサーブの全てを、栄一郎はノートに書き込んでいたじゃないか。それはスライスサーブのリズムも、こいつは予習していたということ。それを土壇場で行動に移したのである。

 だが、それでも初見であわせるなんて、奇跡のリターンである。

 

「スライスかスピンかってのも、わかってたのか?」

「正直そこまでは判断出来なかったから……。最後はもう勘に頼ったんだ」

「エーちゃんてば、意外にギャンブラーだな」

「おい……」

 

 大きな影が栄一郎をおおう。気づけばすぐそこにタクマがいた。

 汗をかいたタクマが何かを言いたげにしている。だが、言葉が出てこない。

「タクマ先輩」口火を切ったのは栄一郎の方だった。

「ありがとうございましたっ」

 きっちりとした美しいお辞儀をする。

 

「なんでてめえが頭を下げんだよ……」

「いや、オレなんかのために30球もサーブを打ってくれて……。すごい勉強になりましたっ」

「てめえが勝ったんだろうが。そりゃ皮肉か?」

「ひ、皮肉じゃないですよ」

 

 栄一郎が頭を上げる。表情にはからかう色は微塵もない。

 

「それに勝ったなんて言えないですよ。だって実際の試合だったら、最後の球なんて打ち返されて終わりじゃないですか。それに春人くんがあれこれ教えてくれたから、ここまでやれたんです。オレ1人じゃ、タクマさんの足元にも及ばなかった……」

 

 その場の誰もが栄一郎の言動を見守った。

 

「でも、タクマ先輩がサーブを打ってくれて、どうにかリターンしようって考えた時間は、すっごい楽しかったです……。だから感謝したくて……」

 

 どこまでとタクマと向き合って、最後まで気持ちを伝えようとする栄一郎がいる。タクマは大きなため息をついたあと、背を向けた。

 

「……先輩はつけんな。なんかムズ痒いからよ」

「え?」

「 STCで俺の名前を呼ぶときは、先輩をつけんなって言ってんだ」

 

 その言葉の意味を噛み締めた栄一郎が「はいっ!」と返事をした。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 番号を押して、あとは通話ボタンへ指をそろりそろりと伸ばして。

 やっぱり、ダメだっ!

 春人は携帯電話を放り出して、ベッドに仰向けになった。

 ナツから教えてもらった爽児への連絡先。だが、春人はまだ電話をしていない。

 

 『第一声はどんな風に言葉をかければいいんだ?』とか。

 『きっと怒られるだろうなあ』とか。

 『どうやって謝ろうか』とか。

 

 頭の中で色々と考えるほどに、不安が風船のように膨らんでいくのだ。

 どうしても電話を掛けられない。試みては諦めて、その繰り返しを数えるのに、両手の指では足りなかった。

「仕方ない……。また明日にでも……」

 そう思ったが、ふとナツの一言が思い出される。

 

 ――相手の気持ちを知りたいなら、聞いてみないとわからないよ?

 

 そうだった。勝手に怯えてても仕方ない。爽児の気持ちは、爽児にしかわからないんだから。

 春人は意を決して今度こそ通話ボタンを押した。呼び出しのコール音が続く。

 

『はいはい、どちら様?』

 

 聞き間違えるはずもない。爽児の声だった。

 

『もしもーし? イタズラ電話か?』

『あ……』春人は我に返る。『俺だよ、俺……。久しぶりだな、爽児……』

『あん? 知り合いにオレ君なんていねえぞ? 新手の詐欺なら切るぜ』

『ちょっと待て。切るな。金山春人だよ』

『カネヤマハルト? 誰だっけっか?』

 

 くっくっくっと楽しそうに笑う爽児の声がする。

 

『嘘だっての。本当は声を聞いた瞬間にわかってたぜ。……ハル、久しぶりだなっ』

『なんていうか、お前は変わんないな』

 

 太陽みたいな明るさが、電話越しでも伝わってくる。

 

『ハルは随分と湿っぽくなったんじゃね?』

『ちょっと前までは、カビが生えてたかもしれないな』

 

 やりたいことに嘘をつき、対峙すべき現実から逃げ続けていた自分は、周囲から見れば情けない姿だったかもしれない。

 だけど、ここからまた1歩を踏み出そう。

 

『爽児……、ごめんっ!』

『おいおい、いきなりどうした?』

『テニスを勝手に辞めたことを謝りたくて……。俺なりに色々と考えた結果だったんだけど、それでも爽児に相談しないで決めるべきじゃなかった』

 

 わずかな空白の時間を経て、爽児が口を開く。

 

『1つ教えて欲しいんだけどよ、あの時にテニスを辞めたのって、俺のせいか?』

『爽児のせいっていうか……。お前、俺との約束を果たすために、外国行きを延期してただろ?』

『あー……、ちょっとそーいうとこもあったな』

『俺が待たせてるなって思ってさ。足引っ張るのが嫌で、それで……』

『そんな風に考えてたのかよ。いや、でもよく考えりゃ俺のほうが結構なプレッシャーかけてたんじゃね? 怪我した相手に俺は待ってるぞとかさ。反省してたんだわ』

『……そうなのか? でも俺は、爽児のせいでテニスを辞めたなんて思ってないから。むしろ約束を裏切って悪かったと思ってた。それで爽児に電話したんだ』

『マジかよ? 謝る必要ねーって。裏切られたとか、思ったことねーし』

『……なんだよ俺たち、どっちもズレたところで悩んでたのか』

 

 お互いが吹き出して、笑ってしまった。話し合ってみれば1年越しの悩みは、どうってこともなかった。

 

『それで? ハル、やっぱりテニスを辞めちまうのか?』

『前言を撤回するようで悪いんだけど……』

 

 春人は大きく息を吐いて、心を落ち着かせる。

 ナツを助けるためとはいえ久々にやった試合は、その夜に眠れなくなるくらい楽しかった。タクマと栄一郎が勝負を見ていて、ワクワクしてしまう自分がいた。同時にタクマの相手をするのが自分だったらと、何度も脳裏をよぎった。

 テニスを忘れて生きるなんて出来ない。

 

『俺、やっぱりテニスが大好きみたいだ』

 

 爽児が息をする音だけが電話越しに聞こえる。春人は唾をごくりと飲み込んだ。

 

『だよなっ、だよなっ! テニス馬鹿のハルが、そんな簡単にテニスを辞められるはずねえよなっ!』

 

 爽児の嬉しそうな声が響いた。

 

『だけどよー、いきなり辞めるとか言われた時は、寂しかったんだかんな? おわびに今度そっちに行った時、なんか美味いもんでも奢りやがれ』

『わかった』

『あとは、また一緒にテニスしようぜ』

 

 春人からは見えないけど、夏の陽射しみたいな笑顔を爽児が浮かべた気がした。

 

 

 

 




 読んでくれた皆様、今日もありがとうございます。
 びっくりしたのですが、9月2日の日間ランキングでこの作品が1位となっていたようで……。
 誰よりも私自身が1番驚いています(笑)
 これも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
 
 そんなわけでエーちゃんVSタクマ戦は終りました。まあ試合じゃなかったですし、今後も何度も顔を会わせる組み合わせになるでしょう。ハルの参戦で、エーちゃんの進歩もみられた話でしたね。
 それにしても誰かが新たに一歩を踏み出す決意を描くのは、なかなか難しいですね。ナツとエーちゃんのおかげで勇気をもらえた! そんな雰囲気が少しでも伝わればいいなあとは思います。
 次回は特訓&恋愛シーンあり?になっております。ナツがかなり目立つこと間違いなしですね(^^)

 
 そんなわけで今日はこのあたりで失礼します。
 またお会いできると嬉しいです!
 ではではー(^^)/
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