ARIA The Extension 作:Yuki_Mar12
***
拝啓、――様。
厳しい冬の寒さがやっと和らぎ始め、鳥のさえずりがさやかに聞こえ、萌え出る草木の色が目に見えるようになりました。褪めていた日の光が煌めきを帯び、その恵みを浴びる全てがキラキラ、ピカピカと輝いています。
そちらでも同じく、新しい季節があちこちでほころび始めていることでしょう。
この度は、ご結婚おめでとうございます。
お美しい方を連れ添われて、わたしのように冴えない女は、ただただ恥じ入り、かしこまるばかりです。
何年にも及ぶ恋愛の末のゴールインということで、末永くお幸せにお過ごしください。心より祝福の拍手をお送り致します。
またお会い出来たら嬉しいと存じます。ぜひゴンドラに乗りにARIAカンパニーにおいでください。心待ちにしております。
よく通うお店から心ばかりの品を別途送らせていただきます。粗品ですが、どうぞお使いください。
書面にて、お祝い申し上げます。
敬具
水無灯里
――様
(可愛らしいデザインの二つ折りの
中身は、食器だった。新婚夫婦が使う、ペアの食器だ)
◇
――えっ?
いえ アハハ ちょっと鼻の具合がよくないんでしょうね 最近すごく寒いから
泣いてるように 聞こえますか? ――そう言われると たしかにわたし 悲しんでいるかも知れません
――なんて 冗談ですよ フフッ 黙らないでください 本気にしないでください わたしは 大丈夫だから
――もしもし? もしもし?
聞こえますか? わたしの声が聞こえていますか?
あぁ よかった 安心しました すごく 安心しました
……さんの声 とても好きです 耳にすると 気持ちよく響きます
どういう風にかって くわしく言おうとすると難しいんですけど たぶん 答はシンプルで 要するに好きだから 気持ちいいんでしょうね
ずっとこうして電話で話していたいって 思うくらいです
あっ 照れくさいですか? そうですか エヘヘ 照れる……さん すごく魅力的です
すみません また鼻の具合が――
ごめんなさい まだ切らないでください もう少し はひ あと五分でもいいから 話させてください じっと黙っていてくれてもいいですから
あっ いや ひとつだけ 訊かせてください
また ARIAカンパニーに来てくれますか?
――来てくれる あぁ よかった
本当は 分かってたんです ……さんが結婚するということ 最初は 知らなかったんですよ? ……さんに恋人がいるってことも 知らなかった だから 好きになったわたしは 喜んであなたにどんどん近付いていった
――こういう話 つらいですか?
わたし まだ十四なんです そしてあなたが わたしの初恋なんだと思います だから出会って親しくなったことが とびきり嬉しかったし あなたが別の誰かと一緒になると知って 夜 寝られなくなるほど しょんぼりした
あなたの隣をわたしの居場所にしたかった でも わたしより早くあなたの隣を占有した人がいるなんて すごくすごく ショックだった
いえ 謝らないでください 謝られたら わたしはますます惨めになってしまう 涙が 止まらなくなってしまう――はひ ホントは泣いているんです 悲しいのは 冗談じゃなかったんです
奥さんのことは ぜんぜん恨んでなんかいません むしろすごく綺麗だから ……さんが羨ましいと思うくらいです 奥さんは アリシアさんみたいに綺麗です
振られて終わった恋じゃないのが ちょっと悔しいところですけど アハハ いいんです わたし へっちゃらです 次の恋に向けて レッツゴーです
ごめんなさい そして ありがとうございます ……さんと話せてよかったです 本当によかった 胸に溜まった
はひ またARIAカンパニーでお会い出来たら と思います わたし 待ってますから
奥さんによろしくお伝えください この度はご結婚おめでとうございます 近い内に お祝いのお手紙をお送りします
では また今度
はひ さようなら――
(終)