ARIA The Extension 作:Yuki_Mar12
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何ともリラックスした時間だった。
ギラギラと照り付ける夏の太陽。その光をいっぱい浴びる。
「藍華ちゃ~ん」
凄まじい暑さではあったが、平気だった。
なぜかと言うと……
「藍華ちゃ~ん」
「ん~?」
「起きてる~?」
「起きてる~」
「寝ちゃダメだよ~」
「は~い」
やれやれ。
灯里が心配して呼びかけてくれたようだ。
話の続き。
わたしは、海にプカプカと、ラッコ然と浮かんで漂っていた。水着姿で、浮き輪はナシで。
全身の力を抜いて、ただひたすら、波に身を任せる。
成るほど、確かに傍目には奇異に映ることだろう。
見る人が見れば水死体である。
のんびり遊泳しているようには見えないと思う。
「眩しい……」
目をくらませる激しい夏日を、わたしは眉をひそめ、手でひさしを作って見つめる。
あぁ、夏だ。夏なのだ。夏、真っ盛り。
その光輝にやがて目がしょぼしょぼと沁み始め、わたしはギュッと目を瞑ると、その勢いで、ザブンと潜水する。
海の浅瀬なので、簡単に底まで潜れてしまう。
厳しい暑さにあって、快い海水の冷たさ。
爽快感に、快哉を叫びたくなる。
プハァ。
水面まで上がって、息継ぎをし、手で目元を拭う。
水が塩辛い。
波の音が、耳のすぐそばに聞こえる。
ビーチには、『お~い』と呼び寄せるように、手を大きく降る少女の姿。
灯里だ。
大きいパラソルの下で、水着の上にラッシュガードのパーカを重ねている。頭には麦わら帽子。
わたしも手を振り返す。
泳がないのかと訊いたら、見てるだけでいいと答えた。
せっかく海まで来て、もったいないと思うけど、人それぞれだ。
泳がないと気が済まない人がいれば、海を眺めるだけで満足だという人がいる。
思うにわたしは前者で、灯里は後者なのだろう。
潮風が立ち、ビーチに並ぶヤシの木々がいっせいに揺れる。
パラソルの陰で長いデッキ・チェアにゆったりと優雅に腰かけ、
そのしっとりした雰囲気を、見るともなしに、わたしは波間より窺う。
ちょっと水分補給にでも行こうかと考えたけど、遠慮されてくる。
邪魔しないでおこう。
灯里は灯里で、わたしとは違う波に身を投じて、プカプカと浮かんで、愉悦を享受しているのだ。
わたしはもう一度、息をたっぷり吸い込み、肺にため込むと、ザブンと潜水し、水中をスイスイと遊泳する。
バタ足で水を蹴り、両腕を大きく使って水を掻いて進む。
息がしんどくなって、水面まで上がる。
深呼吸。
しょっぱい海を軽く舐め、ベタベタの顔の目元を拭って視界を確保する。
海水に冷やされた体に照り付ける灼熱の夏日。
眩しい夏日……。
わたしは目を瞑る。
すると、やさしい疲れが体を覆う。
眠気が頭をもたげる。
水面に漂流しているにも関わらず、ウトウトしてくる。
『寝ちゃダメだよ~』
さっき聞いた灯里の注意が蘇る。
大丈夫。
寝やしないよ。
ただちょっと、ゆっくり休むだけ。
本当に、ちょっとだけ……。
夏の日脚は長い。
また、ヤシの木が潮風にさんざめく。
わたしはハッと目覚める。
そしてすぐさま決まりの悪い気分になる。
寝てしまった。
寝てはダメだと言われたのに。
知らない内に、波打ち際まで流されたようだ。
うつ伏せになって、わたしは波が寄せて引く水際に横たわっている。
顔の半分は砂まみれで、背中はヒリヒリと日焼けして痛い。やれやれ。今夜のお風呂は拷問だ。
あくびを嚙み殺してゆっくりと立ち上がる。
脱げてしまったサンダルを拾い上げ、パラソルがある彼女のもとへと歩いていく。
何だか疲れた。体が重い。遊び過ぎたみたいだ。
一歩進むたびに砂に沈む足を引き上げるのが骨だった。
やがて少女のそばへと至る。
灯里……?
見れば、彼女は、デッキ・チェアの背もたれ一杯に体を預けて、スヤスヤと寝息を立てていた。
無防備に目を瞑り、被っていた麦わら帽子を抱いて。
そのすっかりくつろぎ切った様を目にすると、自然と、微笑とも苦笑とも付かない笑みが口元に浮かんだ。
「寝ちゃったのね」
気が付けば、辺りはうっすらと翳っており、太陽は水平線まで沈もうとしている。
「アンタが見ててくれないから、わたし、海で寝ちゃったじゃないの」
そうぼやいてみるが、彼女は依然、夢の中だ。
わたしはサンダルを置いて、彼女のそばに座る。
日暮れまでは、まだある。
それまでは、こうしていよう。
タオルを取って、首に巻く。
柔らかい潮風の声に、陶然と耳を傾ける。濡れた髪が煽られ、微かに寒い気がしてくる。
ヤシの木がざわめき、海の波は繰り返し、ビーチに打ち寄せては引いていく。
日脚の長い、夏の午後。
日暮れの手前。
無為の時間。
(終)