Grand Eins   作:アクワ
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操り人形って案外楽なのかも。






奪取

 

 

学校が始まって三日目、リーリス・ブリストルが転入してきた。繰り返す。学校が始まって三日目に転入生、だ。ある者はその美貌に目を奪われ、ある者は唐突な呼び出しに面食らい、ある者はそれに待ったを掛けるも軽くあしらわれ、ある者は転入生の態度に激怒するも何とか取り繕い、俺は溜息をついていた。

 

「さあ九重透流。行くわよ」

 

「ちょ、ちょっと待てって。もう授業始まるぞ。てか始まってるぞ!」

 

「いいのよ。私、《特別》だから。そうでしょう先生?」

 

「ソ、ソウダネー」

 

完全に限界を通り越して今すぐにでも怒鳴ってやりたいが、それが出来ない。うさ先生はそんな表情をしていた。はっきり言って俺もブリストルの阿保がここまで無謀なことをやらかすとは思っていなかった。どう考えても九重はシグトゥーナさんと組むだろ。何故って九重がシグトゥーナさんを放り出して他の誰かと組むような軽薄な人間ではないと思うからだ。それを見抜いているのかいないのかは知らないが、会って早々に拉致なんてやはり馬鹿で阿保だ。単に自尊心が強いだけなのだろうが、これでは好印象なんて持ってもらえるはずがない。

 

そんなことを頭の片隅で考えながらも俺は、最早やけくそで授業をしているうさ先生の言葉にしっかりと耳を傾けていた。

 

「一体多数の状況に陥った時にも基本的な戦術っていうのは絶対に幾つかあるんだけどー……答えられる人いるー?」

 

「はい」

 

「それじゃあぼっち君!」

 

「とにかく入り組んだ地形に逃げ込みつつ敵を分断し各個撃破すべきかと。予め仕組まれていた暗殺の可能性を鑑みるとするならば、罠の発見或いは解除は困難なので正面戦闘のほうが生存率は上がると思います。開けた平地などにおいては正面戦闘だけではなく逃走という手段も考慮に――」

 

「お、おい。有咲の奴こんな状況でも普通に授業受けてるぞ……」

 

「アイツなんなんだ……? 運動も座学も自称ネトゲ廃人ニートのレベルじゃねえぞ……?」

 

「はーい! 大正解! 特に逃走の一手に気が付けたのは凄い!」

 

「うさ先生も普通に授業してるし! この学校どうかしてるだろ! 知ってるけど!」

 

腕を引き続けるブリストル。抵抗する九重。狼狽える橘さんと穂高さん。言いくるめられて歯ぎしりするトラくん。力こぶ作るタツくん。無表情のシグトゥーナさん。無視を決め込む俺。授業どころではないクラス。さて、この中で最も状況を打開できる確率の高いのは誰でしょう? 答えは俺です。皆の授業時間を潰さないためにも、立ち上がれる俺がやるしかない。俺は静かに挙手をした。

 

「はいぼっち君! 質問かな? 分からないところあった?」

 

「特別に、席を立つ許可と私語をする許可を」

 

「――――やっちゃえ!」

 

俺の意図を完全に理解してくれた担任のゴーサインを免罪符に禁忌である授業中の立ち歩きとお喋りの得た俺は真っ先にブリストルの腕を九重から引き剥がし、九重を席に戻した。そして無理矢理ブリストルを廊下に引っ張り出す。

 

「何のつもりかしら。契約に反するのなら貴方との約束も破棄よ」

 

「馬鹿が。これも契約の一部だ。お前、あれで九重がお前になびくと思ってんのか」

 

「当然よ。でも貴方……何か考えがあるの? ふーん、面白うそうじゃない。――続けて」

 

「お前はどうせ自分のやり方でなんて言うんだろうが九重には逆効果だぞ? 九重は誠実で不正を嫌うような根っからのいい奴だ」

 

「それが一体私のやり口とどう関係あるわけ?」

 

「さっきの態度をちゃんとクラス全員に詫びることで誠意を見せろ。結果的にマッチポンプだが……周囲の好感度を上げたうえでお前の実力を他人との比較によってあいつに見せつけたほうが絶対に成功率は上がる」

 

「何でそんな回り道しなきゃいけないのよ。それともそれが正攻法とでも言いたいわけ?」

 

なおも頑なに自分のやり方とやらに固執するブリストルに、俺は用意しておいた魔法の言葉を放つ。こいつの性格上最も効果を発揮する言葉、それは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ブリストルはハッと目を見開く。いい加減気が付いたのだろう。ブリストルはすでに出遅れており、すでに存在するシグトゥーナさんというライバルが油断していい相手ではないということを。事実としてブリストルは聡明な人間だ。ただ彼女自身が自分のことを客観視するのが苦手なだけで、お前は道を間違っていると説いてやれば正しい道を探し出し或いは作り出すことが出来る奴だ。問題はどうやって間違いを認めさせるかだが、それは俺がやってやってもいいだろう。契約は契約だ。

 

「なるほどね……。あの隣の銀髪よりも私のほうがいいってことを()()()()()()()

 

「お前は多少は考えられるんだから考えろ。九重はその……ぶっちゃけるとバカだからな。一緒に何日か過ごしたってだけでも情が動く。だからみんなと同じ空間の中で誰よりも濃厚な時間をあいつと過ごせばいい。学校生活という環境ならたとえ部屋が違ってもそれが可能だ」

 

ブリストルは納得したのか、先ほどよりもより明るく自信のある表情になった。こんないい顔が出来るなら、初めからやっておいたほうがいいと思うのだが根拠なしに言っても聞かないだろう。

 

「なるほどね。確かに貴方の言うとおりだわ。言われてみれば無理矢理に誘っても来てくれなかったし、基本的に鈍いんでしょうね、彼。だからまあ、貴方のアドバイスに従ってみるとするわ。時間を取らせちゃったかしら、戻りましょ」

 

「ホントだよ……。また変な目で見られたら友達出来ないかもしれないだろ……」

 

「本当に青春目的で来てるのね。朔夜から聞いた時は耳を疑ったけど……忠告しておくとこの学校は貴方の望むものとは程遠いわよ?」

 

「それでもいいんだよ。俺は俺の目的を叶えるんだよ。場所がとか時間がとかそういうのはどうでもいいんだ。ま、理解しろとは言わないよ」

 

教室のドアノブに指を掛けると、ブリストルはその手と反対の俺の手を握りながら言った。

 

「もしも、もしも《異能》が私を選んでくれなかったら――――私は貴方を選ぶ。そんな気がする」

 

「お前は特別じゃなくていいと思うけどな。普通にしてるほうがよっぽどいい」

 

「ねえ、最後に一個だけいいかしら」

 

「なに」

 

「何でこじれたのか分からないけど、仲直りしない? リーリスでいいわよ、()()

 

なんとなく不安が風に乗って漂っている気がして少し疑うようにブリストルを見つめるも、彼女には珍しく一切の哀れみがなく、代わりに友好が示されていた。不安の予兆を少し笑って追い払い、俺は扉を開いた。

 

「行くぞ()()()()

 

 

 

***

 

 

 

あっという間に一週間が過ぎ去り、《絆双刃》の登録の締め切りが過ぎ去り、また何日かが過ぎ去り、《新刃戦》本番は間近に迫っていた。

 

結果から言おう。リーリス・ブリストルはユリエ=シグトゥーナに完敗した。あれだけ言い聞かせたというのに結局拉致を敢行するなどリーリスが正気の沙汰では無かったことが原因だ。俺に言わせれば、負けて当然。

 

「何でよ! 何であのつるペタ大平原にこの霊峰が敗北しなきゃなんないのよーっ!」

 

「《絆双刃》だからって組手の授業中に愚痴を言いに来るな。さっさと向こうで対戦相手でも探せ」

 

「嫌ああっ! あんなつるペタに敗北なんて嫌あああっ!!」

 

「お前うるせえよ! 俺はもう行くからな! いつもみんな俺と組んでくれなくて、今日やっと初めてトラくんが相手してくれんだから!」

 

「いいやあああっ!」

 

リーリスを無理矢理引き剥がすと俺は白線の前に立った。向こう側にはトラくんがすでに控えていた。

 

「……夫婦というのは、大変なものなんだな……」

 

「やめろよ、本気で嫌だからやめてくれよ……。とにかく! 俺と組んでくれてありがとう! 俺、頑張るからな!」

 

「ふん。精々その威勢が空回りしないようにするんだな」

 

「始めッ」

 

瞬間トラくんが先制で放った一撃を受け流すと、その力を流用してトラくんの体を空中に浮かべた。当然トラくんは何もできずにそのまま落下する。結構鈍い音がした。

 

「おっ、これで一本かな?」

 

勝負はまだまだこれからと白線に戻ると、トラくんが何やら焦った様子でこちらに詰め寄ってきた。

 

「貴様、さっきの突きは牽制だぞ! そんな力の抜かれた技を一体どうすればあんな真似ができる! そもそも何をされたかも判らん!」

 

「うーん。トラくんて小柄だからどうしてもパワー入りにくいでしょ? だから普段の打ち込みも結構前に体重乗っけて打つようにしてるんじゃないかな。その癖が出て抜いてるようでも必要以上に力が入りすぎてる。君の持ち味は接近戦での高速戦闘なんだから、中距離戦の時は無理して一点集中しないで体重をバランスよく使えるといいかもね」

 

「そうだったのか……?」

 

「それじゃあそれを踏まえてもう一戦行ってみよう! ささ、準備を――」

 

『次は俺だあああああ!!』

 

「ええっ!?」

 

数人の武術経験者がわっと一斉に集まってくる。どうしたんだ? この間までは全然相手にしてくれなかったのに。

 

「おいおいおいそんなに強かったなら早くいってくれよ! 人が悪いぜ有咲!」

 

「本当だよ! トラをあんなに簡単に負かすなんて俺でも出来ないのに!」

 

「な、なあ有咲。私は女子だが手合わせをしてみないか? その、さっきのあれを見てしまうと武者震いが止まらないんだ」

 

「ナナ、私とやりましょう。絶対に満足させてみせます」

 

「ユリエ、お前のその誤解を招く発言はいい加減直すべきじゃないか……」

 

「なぜですか? トール?」

 

楽しい。楽しい楽しい楽しい! 思わずにやける口を全開の笑みへと変えながら俺は叫んだ。

 

「手合わせする人この指とーまれっ!」

 

 

 

***

 

 

 

頭の奥から声が聞こえてくる。何度も聞いたその声は、偉大なる彼のもの。間違うはずがない。

 

「偉大なるゲーテ。数多の英雄の代弁者。今宵は如何なるご用事でしょうか」

 

「美しきものよ、故に生き続けなければならない者よ。まあ、特に用事は無いのだ。お前さんと話したくなってな」

 

「どんな会話をご所望でしょうか?」

 

「あのだな……会話とはそういうものではないのだ。自然な成り行きで自然に出てくる言葉を楽しむ、それこそが会話というものだろうに。お前さんはまるで儂がかつて出会った悪魔だな。取り入るために即物的な何かを押し付けようとする」

 

「申し訳ありません」

 

「冗談じゃよ冗談。お前さんにそんな意図が無いのは分かっている。まあそれにしてもだ。最近のお前さんはますます美しい。ますます輝いている。その魂を磨き終えた瞬間一体どのようになるのか、早く見てみたい」

 

「申し訳ありません偉大なる者。私はそのようなものでは決してありません。私は恐れ多くも貴方がたを不相応にこの身に宿す下賤なものです。私に裁きを。一刻も早く、貴方がた全てによる断罪を、私は望みます」

 

「だが宿すおかげで強さがあり、友人もできそうなのだろう? 我々は全員、お前さんが幸福であることを望んでいる。お前さんを不当に占拠している現状を悔いている。お前さんが壊れてしまうとすれば、それは我々の責任よ。罪があるというのなら、我々は過去の腐りきった産物にしてもっとも新しい英雄の器を持つお前さんを脅かしている。我々がそれを望むと思うてか。否、断じて否だ」

 

「いいえ、いいえ。私はもう――」

 

「今宵はこのくらいでいい。また話にこよう。願わくばお前さんが、お前さんを認められることを――」

 

「待って、待ってください! お願いです! 私は、俺は――」

 

()()()()()()()!!」

 

「どうしましたか!?」

 

「はあ、はあ……」

 

眠っていたはずなのに、気が付けば汗で体中びっしょりだ。朔夜が心配して駆けつけてくれる。

 

「また、夢を見たのですか?」

 

「ああ、俺を許すだなんて、あるはずのない事を仰るんだ。そんなはずが、そんなことがあるわけないのに」

 

「ああ……こんなに顔を青ざめさせて……。何か飲むものを持ってきますわ」

 

「ごめん朔夜。本当に、ごめん。その、お願いしてもいいか」

 

「ええ、すぐに持ってきますわ」

 

暖かいミルクを朔夜と一緒に啜る。少しは冷静になれたし、嫌な汗も徐々に引いて行った。

 

「慣れない環境に連れて来てしまい、本当に申し訳ありません。ですからその、わたくしのことを嫌わないでくれると嬉しいのですけれど……」

 

「ああ。それはない。俺は多分、お前を嫌ったりはしないよ」

 

「そうですか。安心しましたわ。わたくしにとってはそれが一番つらい事ですから。ですが何故? いくら貴方をそのようにしたのがわたくしの父上だからといって、その研究を引き継いでいるわたくしを恨む権利が貴方にはありますのに」

 

それは、どうしてなのか自分でも分からない。別に憎んでなんかいないし、感謝すらしてる。でも理由を聞かれても、よく分からない。分からないのだ。朔夜を見ているだけで自分でも制御できない謎の何かがあるから。

 

「お前の目を見てると、ずっと見ていたくなる。吸い込まれそうになる時があるんだ」

 

「えっ?」

 

「それにお前が笑ってると俺も嬉しいし、悲しんでると俺もすごく悲しくなる」

 

「奈々さん、それは――」

 

「なあ、お前なら分からないか? 何で俺がそうなるのか、知らないか?」

 

何故だか、何でも答えてくれるはずの朔夜は、この時だけは何も答えてくれなかった。

 

 




アブソ最新話です。アニメとはちょっと変化をつけて書いてます。一応は二次創作ですし、お手本に合わせて書くだけでは面白みがない……なんていっちょ前に言ってますが原作はリスペクトしてます。本にできるくらい書けるって凄いと思います。それだけで尊敬できてしまいます。次はSAOのコラボ回でしょうか……。もうすぐ終わると思うと少し寂しくなりますね。

感想その他お待ちしております。






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