異世界放浪記
エレベーターで異世界に
こんなオカルト話を聞いたことがあるだろうか?
エレベーターに乗って、4階、2階、6階、2階、10階・・・
そして5階に降り、女性を1人乗せた後
1階を押すと何故か10階に昇っていき
異世界に通じてしまうという話を。
今回このオカルト話を友人から聞き、さっそく学校帰りに実戦を試みようと考えた。
俺が狙ってる建て物は家の近くのマンションだ。
田舎に10階建ての建物なんて殆どなく、
大型デパートも広い土地を利用し横には大きいが縦には4階ほどしかない。
だから仕方なく深夜のマンションに不法進入して噂の真相を確かめることにした。
緊張していた俺はエレベーターの前にある監視カメラも気付かずエレベーターのボタンを押す。
エレベーターの階層は10階を指しており中々降りてこない。
誰かエレベーターに乗っているのだろうか?現在の時間は深夜の3時半、
普通はこの時間に外に出ないはずだ。
深夜のバイトにしてもこの時間は仕事中のはず、周りにコンビニもない、この時間に外に出る理由がない。
何故この時間にエレベーターを利用しているのだろうか?
そんなことを考えていると、ようやくエレベーターは動き出し、ゆっくり降りてくる。
誰かがエレベーターに乗っていることを警戒し、奥のゴミ捨て場に身を隠す。
このゴミ捨て場にはゴミが散乱していた。
まるで遠くから投げ入れたかのような乱雑さだ。そして近くに非常階段があった。俺はそのゴミ捨て場から顔だけ出して様子を伺う。
これじゃ本当に犯罪者みたいだな・・・
緊張を和らげるために小さな声をだし苦笑う。
エレベーターの階層が降りてくる度に心臓の音が激しく脈打つ
3階・・2階・・っ
息を止め顔も隠す。
扉が開き足音が聞こえる。
この時ハッと気づく、自分がいる場所はゴミ捨て場だ。
この時間に外出する理由がないならゴミを捨てにきたしか考えられない。
鼓動が早くなる、今足音を立てればバレる、だがこのまま動かなくてもバレる。
ここの住人でもない俺が不法侵入をしたとなると警察沙汰になるかもしれない。
いや、むしろ堂々と逃げたほうが良いのではないか?
考えてみたらただの住人がマンションの全員の顔を把握しているはずが無い。
なら逃げるどころか堂々とゴミを捨てていました。と言い訳をしたほうが良いのでは無いだろうか?
このまま隠れたり逃げるほうが悪手、
そう考え勇気をもって堂々と顔を出すことにした。
ところがそこには今時の普通の女の子の後ろ姿があった。
帽子を被っており顔や髪型はよく分からないが服装や体型からして少女というのがわかった。
どうやらゴミを捨てにきたわけではなかったようだ。
少し深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
そして意を決してエレベーターの中に入る。
エレベーターの中には壁に鼠色のマットが貼られていて、全体的に暗い雰囲気を醸し出している。
よし、さっそく階層を押してみようか・・・
あれ?最初は何階だったかな?
懐から携帯をだし確認をする。
最初は4階か・・・
4階のボタンを押して少しずつ体が沈む感覚がし始める。
そういや、エレベーターってボタンを連打するとキャンセル出来るんだったっけ?
ちょっとやってみるか?
4階のボタンを連打っと・・・
ん〜、うまく消えないな。
やっぱり複数押した時限定なのかな?キャンセルできるのは。
4階しか押してないから出来ないのかも。
そんじゃ8階を押して・・・
連打っと。
お、消えた消えた。案外上手くいくもんだな、これならもしもの時も大丈夫だな。
対策ができたことで今まで感じていた緊張が少し緩む、そして4階の扉が開かれる。
そんで次は2階か。
今度は体に浮遊感を感じ始める。
3階、2階かっと。
さっきより早く目的地に到着する。
ははっなんかバカバカしくなってきたな
こんなので異世界に行けますかっての。
そんで次は6階か。
またエレベーターは上昇し体に重みを感じ始める
高く昇るこの感覚が異様に恐ろしく感じる。
まるで体に金縛りに遭ってるような、
そんな感覚。
上に上がるほど一階に戻ってこれなくなるのではないかと不安になる。
今思えば2階の時は地上に近いということで安心感を感じていたのだろう。
エレベーターが4階を過ぎる。
さっきよりも高い位置に自分はいる。
今までより高いところに・・・
そのことを意識し始めると急に悪寒を感じ始める。
6階の扉が開く。
やっぱりやめようかな・・・
いやいや、大丈夫大丈夫、まだ大丈夫。
やめるにしても、せめてギリギリまでやってみよう、そのためにここに来たんだし。
次は2階か・・・
浮遊感を感じ始め少し安心感を得る。
このまま二階の扉が開いたら階段から降りようか?
二階からなら簡単に脱出できる。
そんな弱気な感情を必死に抑え理性に身を任す。
二階の扉が開く。
辞めるならここが最適だ。
次の10階はもしかしたら異世界に通じてるかもしれない。
いや、まだ途中だ。
次に10階、5階、1階に行かないと異世界には行かないはず。
この10階はセーフ
まだ大丈夫。
不安を感じながらも10階のボタンを押す。
だが本当に大丈夫なのだろうか?次に10階を押した後、後戻りは出来るのだろうか?
10階の次は5階。
噂によるとこの5階で女が入ってくるらしい
辞めるなら今じゃないのか?
女が入ってきた後中止をできるのか?
ボタンを押してないのに勝手にエレベーターが動き出すのでは?
いや、まてまて、そもそも女もボタンを押すはずだろ?
あれ?ってことはここが最後のチャンスってことか?
5階を押したら恐らく女が入ってきて勝手に1階を押すだろう。
そうなるとエレベーターは10階に登り始める
辞めるなら今しかない・・・
心臓がバクバク鼓動する
8階、9階、・・・10階
10階の扉が開く。外の景色は今まで通りの廊下だったが、扉の向こうには頑丈な鉄の扉があった。
なんだこれ?入れないようになってる・・・管理人の住んでる階層なのか?
それでこんなものが・・・
だけど困ったな、これだと階段から降りることができない。
次に5階に行ったら女が入ってきて
その後1階を押しても逆に10階まで登り始める。
つまり5階に行った時点で詰みだ。
勿論10階に行く前に8階や9階を押せばいいわけだが、それは危険な賭けだ。
ここで中断したほうがいい
俺の本能がそう警告している
だがエレベーターを使わなければ降りることはできない。
勿論5階に降りなければいいわけだ。
流石にこれ以上はまずいと判断をして
2階のボタンを押す。
1階は念のため回避しておいた。
もしかすると逆に10階まで上って異世界に行くかもしれないと危惧したのだ。まぁ実際ここが10階なのだが念のためだ。
少しずつ階層が降りていき緊張が解けていく。
中止したことでホッとしたのだ
もう終わりだ、やめよう。
まだ何も起きてないが十分に懲りた。
7階、6階と降りていくエレベーターの階層を眺めながらボンヤリしていた。
この時俺は完全に油断をしていた。
冷静に考えればすぐに気がついたはずだ。
女が乗り込んでくるということは
外から女がエレベーターの呼び出しボタンを押しているということを・・・
急にエレベーターが止まる
まるで急停止したかのように。
階層は5階。
俺は2階を押したはずだ。何故5階で止まる?
瞬間体から脂汗が滲み出る。
マズイっどうにかしなければっ
だが何もできない、ここは密室、逃げる場所はない。
少年の焦りを嘲笑うかのように無情にも扉は開き始める。
目があった・・・
・・こんにちは〜
俺の顔を訝しげに見て沈黙が続きそうになるところを嫌な空気を取り払うように挨拶をしてきた。
こ、こんにちは
予想外だった。
てっきり目を隠すほどに髪の長い女か、
白目まで黒く染まった憎悪の化身が出ると思ったが
実際に目の前にいるのはただの活発そうな少女だった。
オレンジ髪に短髪、オカルトとは真逆の存在といってもいいか
そんな少女が気まずげに一階のボタンを押した。
一階のボタンを押してしまったのだ
俺は慌てて一階のボタンを連打する。
このままだと異世界に行ってしまう。
それだけは回避しなければならない。
だがキャンセル出来ない。
始め練習では成功したのに今回は何故か失敗してしまう。
ちゃんと2階のボタンは押したはずだから1階のボタンはキャンセル出来る筈。
だがなんの反応もなく何事もなくエレベーターは降りていく。
あれ?降りてる。
そ、そうか、ただの嘘か
まあそりゃそうだ。ただのオカルトだ
本当なわけがない
当然の結果じゃないか
焦っていた自分がなんだか恥ずかしくなってくる。
背後で不快な視線を感じる
当然だろういきなりボタンを連打したのだから怪しまれるのは当たり前だ。
3階、2階、1階
徐々に地上に近づいてきている。
そのことになんとも言えない安心感を感じてしまう。
さっさと家に帰って寝るとするか。
安心した心でそんなことを考えていると
扉がゆっくり開き始める。
1階についたようだ
あれ?1階?確か2階で止まる筈じゃ?
そんなことを考えながら扉の外を眺めていると
そこには想像していた景色はなかった。
そこに存在していたのは黒だった
比喩でもなんでもない
黒以外の言葉が出てこない。
何もない暗闇が広がっていた。
ここはマンション、一回には照明があるはずだ
こんな暗いわけがない。
いや、ただの暗闇じゃない
全てを飲み込むかのような黒が広がっている
な、なんだよこれ・・・
携帯のライトを使って目の前を照らそうとしたところで
瞬間背筋が凍りつく。
背後から嫌な雰囲気を感じる
目の前の暗闇より恐ろしい何かが
背後にいる。
そんな気配を感じるのだ。
だが背後を振り返ることはできない。
そこに携帯の画面に背後の女が反射で映し出されていた。
まるで鬼のような化け物がそこに写っていた。
少女とは思えないほどの巨体が暗闇で隠れており
巨大な角が此方の四方八方を囲むように生えている
そしてその目は血で濁っており
全てが黒い。
そんな黒い目と目があう。
うわああああああああああっっ!!
その瞬間エレベーターが急上昇をし始める
その勢いに耐えきれずに転げてしまう。
扉を開けっ放しで急上昇をするエレベーターの外には先程とは違い当たり前の景色が広がっていた。
廊下には照明がしっかりついており
先ほどの暗闇が嘘のように輝いていた。
だがそんな景色がとてつもない速さで下に下がっていく。
そして急激に止まり目的地に着いたことを知らされる。
そこはさっきまでいた10階だった
何も変わってはいない、同じ景色。
だがあんなことがあった以上同じとは思えなかった。
背後にはなんの気配も感じない。
振り返ってみると活発そうな雰囲気の少女が下を向き携帯を見ながらブツブツ呟いている。
その姿はまるで何かに取り憑かれているような不穏な気配。
決して関わってはいけない、そんな空気を纏っていた。
だがそんなこと御構い無しに俺は外に逃げる。
噂が正しければこの外は異世界なのだろうがそんなこと知ったことじゃない。
背後の女が気味悪かったのだ。
一刻も早く彼女から距離を取りたかった。
目の前には鉄の扉がある
この扉の先は管理人の部屋なのだろう
だがそんなこと御構い無しに俺は扉を抜けることにした。
その先が決して入ってはならない禁断の場所と知らずに。