豚と呼ばれた提督   作:源治

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十話 一粒の麦

一粒の麦

地に落ちて朽ちらずば

唯一つにしてあらん

もし朽ちなば多くの実を結ぶべし

 

 

豚は人を恐れ、社会を恐れ、世界を恐れ 、過去を未来を恐れ、何もかもを恐れて家に引きこもっていた

きっかけがなんだったかは思い出せない

気がつけば豚は引きこもりながらも、恐れにあらがおうと必死に力と知識を溜め込んでいた

幸か不幸か豚の記憶力は常人よりも優れ、幸か不幸か豚の頭は恐ろしいまでの思考能力を持っていた

そうして必死になって備え、世界中に地獄がやってきてからも引きこもり続け、生き延びていた

 

あの日、国防適性検査と称して行われた強制連行の日までは

 

思えば、集まった十人に共通するのは、誰も彼もが何も大事なものなど持っていない人間だった気がする

そんな人間を集めて戦えと命令する当時の軍、いや世間

 

軍人であるなら?笑わせる

 

誰一人として志願して軍にはいった訳ではないというのに

 

だけど

 

その十人全員が艦娘という存在に出会って

何か一つ、どうしても護りたいものを見つけていたように見えた

 

豚もまたたった一つ、ちいさな、けれど大事な大事な約束をし、それを護ろうと決めた

大事なものだった

 

 

 

そしてあの日、豚の初期艦は轟沈した

 

 

 

犠牲に意味はあったのか?

 

 

彼女の・・・・・・彼女達の

・・・・・・・・・・・犠牲に・・・

 

 

戦争初期、情報が無さ過ぎた、それを調べる時間も僅かだった

その性質上艦娘は提督以外に誰も調べる事が出来ない

 

普通の船とは違う、普通の兵器とは違う、普通の兵士とは違う、艦種が同じでも個体によってなにもかもが違う

誰も彼も、軍も彼女達自身ですら自分達の効率的な運用方法も、整備方法も、メンタルケアも知らなかった

 

誰かが、何かを犠牲にして調べなければならない事が多すぎた

だから戦いながら実験を行い、豚は調べた、現在の安定した艦娘の運用はほとんどが豚が取ったデータに基づいて構築されている

 

彼が調べなければそれら数多の方法は誰も見つけられず、今も泥沼の戦争は続いていただろう

 

 

そして三年前、豚の持つ全ての戦力を投入したあの戦い

敗れれば国家の維持が不可能となり、もう巻き返しが不可能になるあの海戦は・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

理由はあった、そうしなければならない理由が

だが、意味は・・・・・・?

 

あの夜から豚は問い続けた

毎朝毎昼毎夜、五年間

問い続けなければならなかった

 

夢の中でさえ問い続けた

あれは無駄ではなかったのか?と

 

自分は誓いを裏切った

護ると誓った初期艦を、そして彼女達も

護りきる事が出来なかった

 

豚は逃げた

 

報いを、法の裁きを受ける事を拒んだ

それに意味があるとは思えなかったから

 

艦娘達の前に身を差し出し、許しを請う事などできなかった

意味がなかったと認める事になるから

 

だから道化を演じた、意味を求め続けた

それは見るものが見れば闘ってる様にも見えたかもしれない

 

そして今も逃げ続けている

 

 

 

今日も豚は己に問う

 

 

 

犠牲に意味はあったのか

 

 

 

 




 
なんだか感想を見て、豚がどれだけ愛されていたのかとすごく驚きました
この話で豚という存在がなんなのか少し明かされた思います

ちなみにこの小説「豚と呼ばれた提督」はまずこの話をふわっと考えてからぺたぺたと肉を付けて増やしました

つまりこれが私が書きたかった話になると思います

以下まじめなあとがきになってしまいました
あまりそういうのを求めていない人は目次に戻って見なかったことにしていただけると幸いです














 

艦これはサービス開始から何年かたってから始めました

幸いwikiの情報が充実していたので特に不自由なくプレイを楽しめたのですが、ふとwikiを見ていて情報がほとんどない艦これ開始直後の提督たちの姿が浮かびました
間違いなく手探りでプレイし、初期艦を轟沈させた提督もいたと思います

それでもあきらめず後に続く提督たちのために戦い、wikiに情報をまとめ続けたその姿を想像するとなんだか湧き出るものがありました

あまり自分の感情を言葉や文章にして形にした経験は有りませんでしたが、この感情はなぜだか形にして残さなければならないと思い、全ての提督(プレイヤー)たちの姿を思い描きながらこの話を考えました

そして豚というキャラクターを作るに当たって、【wikiを書き込んでくれてる沢山の方達】を受け入れる大きな器(肉体)に放り込んで、この悲惨な世界状況を作り、解き放ったのが豚です

豚が巨体という設定はそのあたりに起因しています(明かされる予定の無かった設定)

豚というキャラクターはそこそこしっかりキャラを作ったお陰か書いてる人を無視して大暴れです、かってに動き回ってくれたので話を書くのは楽でしたが

そして書いている途中、まったく意図してなかったのですが、豚の提督としての素質を本人が

『逃げ続ける事』

と言いました

でもそれを見て私は、本当は多分

『答えを探し続ける事を決してあきらめない』

なんかじゃないかなと気づき、自分の湧き出した感情はそういった人たちを美しいと感じた心なんじゃないかなと漠然とですが結論付けました

自分に湧き出た感情の正体を知るために書いた小説で、その答えが見つかって満足しています
(自分の感情がわからないからいちいち小説にしたとかドンだけ労力使ってるんだよ)


本当はこの小説は特に投稿せず、自分の感情を模索するために使う道具みたいな目的で書き始めましたが、投稿させていただいてよかったと今では思っています

例えば感想で多くの方が「これ俺だw」と自分と豚と重ねてくださった事、私の思いを感じていただけたような気がしてうれしいような悲しいような複雑な気持ちでした
そうだよ、この悲しい男は艦これをプレイする俺達の姿なんだ、と思ったからです

そして書いてる人自身ですら気がつかないこの世界と豚を見て受ける印象や、感情などを感想やメッセージで沢山いただけたお陰で、なるほどなぁと思って、当初書いていた内容を修正したりする事が沢山ありました

そしてその結果、上記で出した答えが導き出せたんだと思います
多分一人で書いていたら答えにたどり着けなかったと思います



正直たいした物語ではないのですが、この話を誰かにささげるなら
感想やメッセージ、お気に入りや、どんな数字の評価でもいただけた読者様
この話を書くために読み漁って参考にさせていただいた、ハーメルンの艦これSSの作者様

そして過去未来現在のwiki情報をまとめ続けている提督たちに送りたいです

なんか書きたい事は全部書いてしまったので、以降の話の後書きは最後までいつもの通りな感じだと思います

では、後二話で終われると思うので、もうちょっとだけお付き合いしてもらえると幸いです



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