豚と呼ばれた提督   作:源治

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■いつか消される長い前書き■
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もらった感想を見て躁鬱の乱高下です今日この頃
正直イムヤの件や未消化の疑問含めて描写と設定、その他もろもろの説明不足の力不足でやっちまったなと、一件感想を見てベランダで一本タバコすって、一件見てベランダの往復してます

十話に向かって気持ちよく突っ走って、十二話で最高にワクワクする終わり方でフェニッシュし歓声を受けてカタルシスを味わっていたところで後ろを振り返ると撒き散らしたいろいろなものが残ってて、片付けろよ、と怒こられてる感じです、ええ

まあでも、そんな中でも上記の不足を気にせず楽しんでもらったり
また想像で補ってもらい、作者が考えるよりも色んな事を想像し楽しんでくださったという感想も見て救われたというか、ほんと書いてよかったなと思えました

結論として、なんだかんだで豚の物語をそこそこ楽しんでもらえてよかったじゃないかなと自己完結して番外編でぼちぼち拾っていこうかと、多分拾いきれないですが

小説かくって大変だなぁ
次が有るならうまくやりたいです

後、最終話まで書き終えたので、1~12話の前書き後がき整理すると思います
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残された艦娘達のその後です、感想を参考にさせていただいた事が多くあります、また、どうしても書くのが難しかった話に関しては他の方のお力を借りたりしています、詳細は後がきで

ありがとうございました


※五十鈴に関しては本当に悲しい話になると思うので苦手な人は注意してください


番外編 艦娘達のその後

■ 番外編 香取と鳳翔 ■ 

 

 

 

居酒屋鳳翔

 

そこで透明なグラスに注がれた日本酒を飲む、美しい女性の姿があった

練習巡洋艦の艦娘『香取』である

長い髪を後ろで束ね、品のいいめがねをかけたその姿は、彼女が軍服を着ていなければとても「鬼教官」とよばれる艦娘には見えないだろう

 

「五十鈴さんがね、出て行ったわ。行き先は言わなかったけど多分、呉の鎮守府かしらね」

「まぁまぁ、それはさびしくなりますね」

 

空になった香取のグラスに酒を注ぐのは、この居酒屋の主である軽空母の艦娘『鳳翔』

普段からやさしい笑みを絶やさない穏やかな女性だが、今だけは少しさびしそうに見えた

 

「もう貴方と私だけになっちゃいましたね、ここに飲みに来る古い仲間は」

「そうですね、潜水艦の皆さんも気がつけばどこかに行ってしまわれましたから」

 

新しい提督の着任を待たずに、豚の直属艦隊であった潜水艦たちは佐世保に移籍していた

三年以上前に建造され戦場をかけた仲間は、今この鎮守府に残っているのはこの場にいる二人だけになった

育成の専門家として即戦力では無い香取と、怪我によりすでに前線から退いていた鳳翔だけだ

 

「香取さんはどうされるんです、誘われてるんでしょ?舞鶴の提督様から」

 

鳳翔の問いにグラスに入った透明の酒を見つめながら香取は答える

 

「私は・・・・・・頼まれちゃったんですよね、あの人から・・・・・・」

 

それですべてを察したのか、鳳翔はあらあらと少しうらやましそうに香取を見つめる

 

「水くさいですよね、ほんと」

「まぁ、彼女達も思うところがあるんでしょう」

「わかってて言わないでくださいよ鳳翔さん、わかるでしょ私が言いたい事」

「・・・・・・結局、あの人は最後まで何がしたいのか打ち明けてくださいませんでしたね」

「・・・・・・ほんと、ね」

 

現在最も苛烈な提督として名をはせている呉の提督

人当たりのいい笑顔に隠された冷酷な計算高さを持つ舞鶴の提督

深海棲艦を串刺しにして海岸に並べ壁とした、恐ろしい逸話を持つ佐世保の提督

激戦がなお続く北海で覇者として君臨する大湊の提督

 

しかし香取に言わせれば、もっとも冷酷でおそろしかったのはあの豚提督だ

あの提督は香取が必死に教練して送り出した教え子達を、データを取るためにあらゆる状況での戦闘に投入し、必要であれば轟沈させたのだ

眉一つ動かさず、普通なら血のつながった家族のような愛着がわくはずの自分の初期艦ですらだ

 

だが、彼が調べなければ現在必須とされる運用法や戦術など、数多の方法は誰も見つけられず、今も泥沼の戦争は続いていただろう

 

 

そして、この鎮守府の場所も悪かった

当時東京が崩壊し、京都に陛下が遷り、この港を抜かれれば御所が爆撃圏内という状況

だが当時政治のごたごたのせいで、横須賀の艦隊は、淡路方面に進攻してきたほとんどの深海棲艦の大艦隊をうちもらす

そして大阪湾内への進入を許してしまった

 

絶対に抜かれるわけには行かない戦場で時を稼ぐために、豚は戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐、潜水艦

彼が建造して愛着を持って育てた艦娘達、沢山たくさん居たすべてを逐次投入した

 

歴戦の艦娘達がどれだけ沈めようと、次から次へと深海棲艦はやってきた

キルレシオを知るのが嫌になるようなめちゃくちゃな戦場

 

土下座し、出撃を懇願する豚を見て、彼の艦娘達は少し困った顔をしていた

でも、最後は笑顔で出撃していった

 

 

 

そして、香取達以外、全員沈んだ

 

 

 

その戦いを最後に、豚は新しい艦娘を建造しなくなった

ここにいるのはいろんな所からあぶれたりダブった艦娘ばかり

結果、軽巡や駆逐ばかりの所帯となった

 

昔の豚を知らない艦娘達に、豚が馬鹿にされる姿を見ても、生き残ったものは誰も正さない

豚はそれが罰だと思ってる節があったからだ

 

「ほーんと、水くさいわよね」

「ふふふ、香取さんはあの人が何をしたかったのか、お分かりになりますか?」

「そうですねぇ、まぁ漠然とした感じなんですけど、贖罪とかそういうのではないとは思うんですよ」

「そうなんですか?」

「ええ、なんというか何がしたいって言うのじゃなくて、何かを見つけようとする感じじゃないかなって」

「何かを見つける?」

「うーん、そう、いろんな事を試して。定義があいまいな何かそんな感じを見つけようとするみたいな」

「あー、はい、確かにそういうところありましたね」

「でしょ、やってる事に一貫性が無いんだけど、多分やった事を集めたら答えになるみたいな?」

「なにを見つけたかったんでしょうかね、あの人は」

 

コップに残っていた酒をぐっとあおり、香取は答える

 

「そうですね、まぁ、もうそれを知る機会はないんですけど」

「・・・・・・」

 

自嘲気味な笑みを浮かべる香取を心配そうに見つめる鳳翔

 

「笑っちゃいますよね、おんぼろ漁船で護衛の艦娘も無し、それで横須賀から出港したらしいですよ」

「それはっ!?」

「今頃は海の藻屑かもしれませんね・・・・・・」

 

それを聞いて、いつのまにかかなり強い力で前掛けを握り締めていた事に鳳翔は気がついた

ゆっくりと前掛けから手を離し、何も言わずにグラスを二つ用意して酒を注ぐ

一つを自分で持ち、もう一つを香取の隣、豚がよく座っていた席に置いた

 

「・・・・・・帰ってきますよ、きっと」

「・・・・・・ええ、こんなに心配かけて。かえってきたら、少し厳しいしつけが必要ですね」

 

静かな夜の店で三つのグラスに注がれた酒

三つのうちの一つの中身はいつまでも無くなる事は無かった

 

 

 

■ 番外編 大阪警備府の艦娘達  ■ 

 

 

 

大阪警備府に着任した『二代目』は確かに有能だった

基地へ到着後、早々に建造を行い、ダイヤモンド・シスターズ全員を揃えるという離れ業まで披露している

 

紅茶戦艦を筆頭とする高速戦艦は駆逐艦や軽空母らを率いて次々に海域攻略し、それは成果を結びつつあった

 

そうした中、長門は喧騒の合間を縫って釣糸を海面に垂らしている

 

ぶっちゃけ、いつの間にか閑職になっていた

 

決戦兵器ともてはやされていても、出番はめっきり減っている

社交性が高く面倒見のよい紅茶戦艦に主座を奪われ、奪還は事実上困難だ

ビッグセブンはぼんやり考える

私はなにか間違った選択をしたのだろうかと

 

あの日あの時あの場所のあのイムヤ

苛酷苛烈な緒戦を生き延びた歴戦艦

彼女の涙は真実にしか思えなかった

見えなかったが故に提督を断罪した

 

だが、提督が放逐されると決まり、嬉々として彼についてゆく彼女を見てふと思った

 

私はたばかられたのではないか、と

五十鈴や他の潜水艦達も出ていった

 

香取と鳳翔の他に残るは豚、野原提督の昔を知らない艦娘

 

「なにしょぼくれてんのよ、ビッグセブン。」

 

振り返るとツインテール空母がいた

 

「新入りに立場を奪われたくらい、なんだって言うのよ。那珂の爪の垢くらい煎じて飲んだら?」

 

五航戦は真っ直ぐな軽巡洋艦の名前を出した

あの娘は日本に希望をもたらすべく、今も奔走している

今は豚の代わりに海軍、民間問わず、あちこちのファンが力を合わせて彼女を支えていた

 

まさにアイドルだ

 

「そうだな、いつまでもくすぶっている訳にはいかないな。」

「そうよ、あの豚提督を慕う気持ちはわかるけど、切り替えも必要よ。」

「な、な、なにを言っているのだ! 断じてそのような感情は持ち合わせていない!」

「おーおー、ムキになっちゃって。プププ。」

「き、貴様こそ、野原元提督の性格の影響を多大に受けているのではないか?」

「なんですってー! 言ってはいけないことを言ったわね!」

 

そこへ龍驤がてくてくやって来た。

 

「なにしとんねん、キミら。大神提督が呼んどるで。はよ行き。」

 

まるでオカンのような貫禄だ

顔を見合わせた両名は屋内に向かった

 

この後、長門は逆境をバネにたゆまぬ努力を続け、結果主座を取り戻す

また瑞鶴は大阪警備府の空母達をまとめるリーダーとして活躍するも、未だ姉の翔鶴は着任していないのを嘆いていた

 

 

二人の姿を見送り、軽空母は晴れきった空を見上げる

 

 

「あんたらがおらんくても、ここはちゃんとしたるから安心し。」

 

 

言葉が空に溶けてゆく

駆逐艦たちが彼女を呼びに来る

全員、屋内へ走り出す

賑々しい笑い声が聞こえてきた

 

 

 

大阪警備府は今日もかしましい

 

 

 

■ 番外編 五十鈴  ■ 

 

 

 

国家、いや、人類の存亡をかけた戦い、絶望を打破する希望として集められた十人

 

当時の彼らの認識は一致していた

よくわからないもの相手によくわからないものを使い戦う

 

経験も実績も無く、意思さえ持ち合わせているか怪しい、ただ資格があっただけの十人

その中に豚と虎瀬の姿があった

 

「と、虎瀬殿は生物の多様性における生存戦略のは、話を知っておられるか?」

「弱者を肯定する腑抜けた論の事か?」

「ふひっ、あれはとある問題に対してあらゆるほ、方向からトライ&エラーを行う事により問題の解決方法を模索すると、か、考えれば、わ、我々十人の人選も、う、うなずけるというものですな、ふひ」

「くっく、であれば豚、お前は真っ先にエラーとして処理されるであろうな」

「ぶひ、そう、そうとは限りませぬぞぉ。深海棲艦という正体不明の存在に対して艦娘という前例の無い存在を用いて戦うのが我々である以上。よくわからない存在が生き残る可能性がゼロと断言できますかなぁんんん?」

「ほぅ、ぬかすではないか。面白い、ではこの戦争で生き残って証明してみるがいい」

 

 

 

そんなやり取りをしたのはいつだったか、虎瀬は視線を書類に注ぎながら沈めていた意識を現実に戻す

そして目の前に立っている艦娘の『五十鈴』に視線を向けた

 

呉鎮守府

国内最強と名高い戦力が集結する、その鎮守府の最重要区画

虎瀬提督の執務室に彼女は居た

 

豚がいた鎮守府を離れ、唯一ここの扉をたたいた艦娘である

 

「ふん、豚から貴様の話は聞いている。もし自分の潜水艦隊を沈められるとしたら・・・・・・うちの五十鈴だけだとな」

「はッ!過分なお言葉です」

 

僅かでも気に障ることをしたら首をはねるかのような鋭さを持つ虎瀬が、微動だにせず直立している五十鈴を見ながら胡散臭げに言葉をぶつけた

 

「とは言うものの、実際の所どうなのだ。元の飼い主はずいぶんと貴様を買っていたようだが・・・・・・?」

「・・・・・・」

 

虎瀬の問いに一切の答えず沈黙を貫く五十鈴

その様子に気分を害したのか、ピクリと虎瀬の片眉が上がった

 

「黙殺か・・・・・・良い度胸だな」

 

虎瀬が片手を上げ、その合図を受け護衛の『那智』と『足柄』が戦闘態勢をとる

 

「そのなめた態度がどんな結果を招くかわからぬ訳ではなかろうに 。・・・・・・たいしたものだ、度胸だけはな」

「・・・・・・お褒めに預かり光栄です閣下。」

「・・・・・・」

「しかし五十鈴は答えようのない問いに答える手間を省いたにすぎません」

「・・・・・・何が言いたい?」

「この五十鈴の有為無為は働きによって明らかになること、口舌での証明はいたしかねます。仮になしえたとしても閣下にご納得いただけるとは思いません。それゆえ返答を遠慮いたしました」

「・・・・・・ふん。つまり貴様はこういうわけか、オレに知恵の足りない質問をするなと」

 

その問いかけに、五十鈴はどこか豚に似た、人を食ったような笑みを浮かべて返答する

 

「ご賢察、感服つかまつりました。虎瀬少将閣下」

 

不知火と護衛の二人が息を呑むのが伝わった

 

「――――――――、・・・・・・悪くない。悪くないではないか、この軽巡」

 

(そ、そうでござろう?)

 

虎瀬の耳に居るはずの無い豚の声が聞こえた気がした

 

「ああ・・・・・・悪く、ない・・・・・・」

 

瞬間、虎瀬は腰の拳銃を抜き五十鈴に向けて引き金を引く

乾いた銃声が一発

正確に眉間に向かってきた弾丸を、五十鈴は瞬き一つせずに艤装を展開し防いだ

 

「・・・・・・迷わず展開するか、顔色一つ変えん。鎮守府の掟を知らんのか?」

 

鎮守府並び一般建物内での艤装の展開は建物への負荷が重く、崩壊を起こすためこれを禁ず

また、鎮守府内での艤装を使用した私闘行為は厳罰に処す

 

「存じております」

「知った上で知った事かと言いたいわけか・・・・・・くっ。くっくっく」

「・・・・・・提督」

 

不知火がどこか問うようで心配そうな声を出す

 

「見逃せ、こいつは仕掛けられて防いだだけ、俺は戯れただけだ」

「・・・・・・はい」

 

何事もなかったかのように展開した艤装を収納し、再び直立の姿勢に戻る五十鈴

 

「悪くない・・・・・・五十鈴、だったか・・・・・・軽巡」

「はっ、御記憶ありがたく存じます閣下」

「ふん、生意気な・・・・・・悪くない。いちいち癪に障る・・・・・・忌々しい奴だ、っくっくっく」

 

虎瀬は銃を腰に戻し、秘書艦である不知火に命じる

 

「不知火」

「はッ!」

「対潜と対空に秀でた駆逐艦と補佐の軽巡を選抜しろ。こいつに一個水雷戦隊の指揮を任せる」

「・・・・・・了解いたしました」

 

能力も人格も未知数で、さらには突然やってきた新入りの軽巡に、世界最強と謳われるこの呉の一個水雷戦隊を任せる

そんな無茶な指示を命じられても、不知火は疑問を口にしない、反対意見も述べない

求められた事を汲み取り、求められた以上にこなす事が出来なければ虎瀬の秘書艦は務まらないからだ

 

「失望させてくれるなよ」

「はッ!寛大なお心に感謝いたします」

 

後ほど詳細を連絡すると指示を受け、五十鈴は退室を命じられた

虎瀬の執務室から出て、しばらく歩いた所で立ち止まった五十鈴は、愉快そうに口元をゆがめて言葉をこぼす

 

「ふふっ。十分だわ。・・・・・・これで戦える! 」

 

それはうれしそうなのに、暗い、どこまでも暗く冷たい声色だった

 

 

 

この二年後、五十鈴は南方反攻作戦で呉最強の水雷戦隊の旗艦とし最先陣を駆け、全ての艦娘が続く事になる進軍航路を開く

 

その戦果はすさまじく、五十鈴単独の戦果でも二の戦艦、二十の駆逐、軽巡級と百以上の潜水艦を沈め、さらに二百以上の艦載機を撃ち落した

 

結果、五十鈴はこの作戦で最大の戦果(MVP)を挙げるも、最後は別の作戦海域からはぐれて迷い込んだ艦娘をかばい、五発の魚雷を受け轟沈する

 

しかしその状態でも反撃し相手を沈めたのが彼女の最後の戦果であると記録されていた

 

庇われ、五十鈴の後ろでその様子を泣きながら見ていた【かつて同じ鎮守府だった】艦娘いわく、最期の言葉は満ち足りた幸せそうな笑みを浮かべながら、とても穏やかな口調で

 

「・・・・・・ここはもういいから行きなさい。・・・・・・少し休めば、大丈夫。だって私の提督は野原丈治だったのよ・・・・・・」

 

という壮絶な最期には似つかわしくない、のろけにも似た感じの言葉だったらしい

 

 

かばわれた艦娘が混乱しつつも何とかその場を離れ、しばらくして振り向いた時

五十鈴の周りに浮く、燃え盛る深海棲艦の破片を目印に撃ち込まれた大量の砲撃が着弾する

そして大きな水柱が幾つも幾つも、海域全体に上がり、その中に消えていく五十鈴の姿を見た

 

 

それが、五十鈴の最期

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、彼女の戦果報告になります」

 

そういって読み上げた資料を机に置き、不知火は虎瀬と向かい合う

 

「そうか」

 

虎瀬は特に興味がないように一言で切り捨てた

だが、珍しく何かを迷うようにその場に立ち続けている不知火を怪訝に思い虎瀬は口を開く

 

「なんだ、まだなにかあるのか」

「その、彼女の部屋に野原提督に宛てた手紙のようなものがありまして」

 

そういってためらいがちに不知火は封筒を虎瀬に手渡す

虎瀬はそれを受け取り、乱暴に手紙を開いた

 

 

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野原提督へ

 

五十鈴です、水雷戦隊の指揮ならお任せ!なんてね

 

貴方がこの手紙を見てるって事は、五十鈴は沈んで貴方は生きてたって事ね、おめでとう

 

ちなみに五十鈴には幸運の女神が付いてるの、五十鈴の見込んだ人は必ず出世するんだから、貴方がまだ普通の提督なんてやってたら許さないんだからね、必ずえらくなってる事!

 

まぁ、色々思うことはあったけど、五十鈴は五十鈴で戦果を挙げて見せるわ、きっとものすごい戦果を挙げてるんだから、後で調べてびっくりしなさい

 

あと、また新しい五十鈴が貴方の指揮下に入ったらよろしくしてあげて

 

・・・・・・なんかそれ考えると腹立ってきたわね

 

やっぱ無し、貴方の五十鈴は一生、五十鈴だけにする事、いいわね

 

最後に、ずっと考えてたけど、貴方が何に悩んでたのか五十鈴には最後までわからなかったわ

でも、もしまだそれで悩んでるようなら、いい加減あきらめてその悩みと一生付き合っていきなさい

 

貴方がまたへこたれた時に、そばに居てあげられないのだけが心残りだけど

 

 

・・・・・・じゃあね、バイバイ

 

 

野原提督の五十鈴より

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読み終えた虎瀬は、開封の時とは違いひどく尊いものを扱うように丁寧に手紙を封筒にしまってから不知火に渡した

 

「遺品と一緒に処分して置け」

「・・・・・・よろしいのですか?」

「何度も言わせるな」

「はっ!」

 

敬礼を一つし、不知火は執務室を出ようとするも、扉に手をかけたところで

 

「・・・・・・不知火、もし遺品の中にお前の判断で必要そうなものがあったらもらっておけ、どうせ死者には不要のものだ、特に艦娘にはな」

 

不知火は虎瀬の言葉を聞いて「はい」と短く返事をして部屋を出て行った

 

虎瀬はしばらく考え事をするように目を閉じていたが、やがてある場所に向かった

 

 

 

夕暮れ時の呉鎮守府敷地内にある場所に向かうとある海沿いの坂道

虎瀬は簡素な花束を手に歩いていた

 

そして目的地も半ばという所で突然虎瀬は立ち止まる

 

「・・・・・・く、っくっくく、まさかこの俺が後悔とは・・・・・・くだらん、くだらんな!!」

 

そして持っていた花束を海に投げ捨てる

 

「後悔なんぞ死んでからでも出来るというのに、俺とした事が!・・・・・・まったく。俺も先は長くないかもな・・・・・・・だがな豚、それまでは俺は戦い続けるぞ、戦い、戦い、勝つだけだ!!」

 

彼は元きた道を戻りだす、その姿は呉の魔王と呼ばれるだけの力強さにあふれていた

 

 

そして虎瀬が向かおうとしていたその先、そこには呉の艦娘戦没者慰霊碑があった

 

数多く刻まれたナンバーの一つ、そのなかに五十鈴の艦娘建造ナンバーが刻まれている

 

 

『043A01』

 

 

この世で始めて建造された五十鈴の生涯はこうして幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------とある南方の海底

 

・・・・・・コポ

 




あとがき
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大阪警備府の艦娘達の話は

『はこちん!』の作者様である輪音さんがほとんど考えてくださりました

また影から支え励ましアドバイスをしてくださった事
この場を借りてお礼申し上げます

本当にありがとうございました

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・以下五十鈴の話についてになります

五十鈴と虎瀬提督の会話はがっつり元ネタがあります
二人に当てはめて会話を構築してみると思ったよりはまってしまいました
虎瀬提督の元ネタでもあったりするので、知ってる人はニヤニヤしてみててください
虎瀬提督は作るにあたって、他の好きなキャラとブレンドさせては見たものの、元ネタが強過ぎてどう見てもすぎる
だけど元ネタのキャラが好き過ぎて、この過酷な世界で豚と肩を並べて戦わせられるという妄想をしたとき、強烈にあふれ出てたぎるものがあった、正直書けて最高に気持ちいい

また、竜崎提督がちらりと言っていましたが、人間に三大欲求の欲望があるように、艦娘にも個体差はあるが『提督のために戦果を上げたい』という生まれ持っての欲望があるんじゃないかなとなんとなく感じました

五十鈴はその欲望にストイックなまでに、ただただ忠実に生きたんだと思います

そして彼女が幸せそうな笑顔を浮かべたのはMVPを取るほどの戦果を上げたのが一つと

普通ならかばわないはずの艦娘をかばった理由
豚の「うちの艦娘達を頼む」という意味にも取れる執務室で聞いた言葉
その命令にも似た最後のお願いを守れたからだと思います

※かばわれた艦娘が明記していないのは、どの名前を入れてもその艦娘が好きな方に不快な思いをさせてしまう可能性があったのを避けるためです

ぐぬぅ、しかし自分で書いておいてなんだけど、やっぱり悲しいなぁ

ちくしょう

・・・・・・ちくしょう、私には五十鈴を救えないのか

最後の描写は、いつかせめて誰かが五十鈴を救うための一粒の希望の種になればという思いで蒔きました
また回収されない伏線設定作ってすみません、でも・・・・・・


次は日本の未来が思ったより暗くないとわかる、一期提督達のあかるい番外編になると思います
 

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