豚と呼ばれた提督   作:源治

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二話 マスコミとアイドル

 

 

 

「こ、これだからBBAは・・・・・・」

 

海面に白い服を着た巨大な肉塊が浮いていた

豚から海坊主にクラスチェンジしたかのような容貌のこの男こそ、この鎮守府の提督である

 

「青葉聞いちゃいましたー」

 

そんな提督を先ほど提督が立っていた波止場から見下ろす健康的なポニーテール姿の水兵服の女性

彼女こそ全国区青葉ネットワークを構成する情報通の重巡洋艦艦娘『青葉』である

さすがに軍事機密等はNGなので自粛されているが、彼女達の運営する青葉通信は艦娘たちの貴重な情報源だった

 

「ふ、ふひ、せ、せっしゃは何も間違ったことなど言ってませぬぞぉ」

「はいはい」

 

と言いながらつんつんと落ちていた枝で豚を突っつく青葉

 

「提督もまめですよねぇ、遠征でも出撃でも必ずこうやって見送ってますし」

「ふひ、駆逐艦は女神、め、女神に祈りをささげるのはと、当然なんだな」

「あたし達もそれくらい愛してくれても・・・・・・あ、やっぱいいです」

 

この鎮守府のほとんどの艦娘からの豚への評価は平等に残念であった

おおむね『まぁ生きて帰れるだけの指揮が出来るだけのましな提督』という評価である

 

「それよりもですね、青葉聞きたい事があるんですが」

「ふ、ふひ、その前にひ、ひきあげて」

 

豚は浮いていた、脂肪が多いってこういう時得だなと思う青葉はその言葉を無視して続ける

 

「近々大規模な反攻作戦があるって小耳に挟んだんですけどー。・・・・・・本当ですか?」

 

豚の濁った目が細まる

 

「あ、青葉・・・・・・」

 

じつはこの豚、青葉ネットワーク設立の協力者であったりする

当時いち早く艦娘の精神状態と戦闘能力の関係を掴んでいた豚(有能)は、鬱屈した精神の解消のため娯楽としての青葉通信の設立に協力し、サーバーの確保などに奔走した

 

ただし、運営するに当たって約束したのが軍事機密に関しては絶対に漏らさないこと、建造時に配布される艦娘ナンバーを使った登録制にすること、その他いくつかの決まりを守る事

 

軍事機密は何が抵触するかグレーな所などはあったが、了承した青葉は豚によって用意された各鎮守府の青葉たちとの情報交換方法を使って、青葉通信を運営する事になった

結果として娯楽を提供された艦娘たちは精神を持ち直したものも多く、また副次効果として情報交換の活発化により装備や設備、戦術技術等の問題提起、改善方法等、万金に値する現場の生の声を集める事にも役立った

結果、見えない所で豚は鎮守府全体の戦力の維持に尽力したのである(有能)

 

「い、いやいやー、やだなぁ提督ー、ちょっと聞いてみただけですよー」

 

珍しく低い豚の声にあせった青葉は否定するように手を振る

 

「ふ、ふひ」

 

青葉から視線をはずした豚はうまく反動をつかって体を持ち上げ、その身を波止場に上陸させた

 

「もしお、おこれば・・・・・・、ふひひ」

「はい?」

 

聞き取れないほどの小声でつぶやいて豚は執務室へ歩き出す、その姿に青葉は軽く不安を覚える

その僅かな不安を振り払うかのように青葉は頭を振りカメラを構えた

 

パシャリ

 

どこかすすけた哀愁漂うその姿を青葉のカメラが捕らえる

しかしながらやっぱり豚なので漂う哀愁はドナドナっぽい

 

「こんの豚提督!!見つけたわよぉおおおおおお!!」

「デュホホホホッホ!!」

 

そして瑞鶴に見つかった豚は転がるように逃げ出した

 

 

 

なぉ、無事逃げ切った模様

 

 

 

■□■□■

 

 

 

夕暮れに染まった鎮守府前広場

そこに置かれた朝礼台に立つ艦娘の姿があった

 

「はーい!艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ!」

 

軽巡の艦娘『那珂』

艦隊のアイドルを豪語する艦娘である

 

「フォオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

気合の入った鉢巻とはっぴ、両手に八本のサイリウムを持つ肉塊の姿があった、豚だった

 

「ありがとー!じゃあ一曲目、いっくよー!」

「L!O!V!E!らぶりぃなかちゃぁああああああんん!」

『L!O!V!E!らぶりぃなーーーかーーーー!』

 

那珂ちゃんの歌にあわせて機敏な動きでオタ芸を披露する豚、そしてその左右には那珂と同じ制服を着た二人が声援をあげている

 

舞い散る汗、震えるぜ脂肪、されどその動きはキレッキレである

 

観客は豚と那珂の姉妹艦の艦娘である『川内』と『神通』だけではあったが、そのパフォーマンスの動きは極まっており、それにつられて那珂ちゃんのテンションも上がり、歌に力が入る

 

どうでもいい事のようでどうでもよくない事だが

豚、実は那珂ちゃんファンクラブの創立者だ

 

今でこそ運営は海軍直轄の運営事務所がやっているが、当時コツコツと那珂ちゃんの動画をアップし、生写真などのグッズを販売、その運営資金を元にファンクラブを設立

まめな広報活動等でバックアップしながらもファンとして最前線に居続けた豚は、ついにはアイドルとして世間に那珂ちゃんを認めさせたのである

 

結果、豚は民衆達に感謝されてはいたが、強大な力で恐れられ畏怖されていた艦娘という存在を民間に浸透させ、受け入れられる土壌の一部を作り、ついには協力的にまですることに成功した(有能)

 

本来は軍広報部がやるようなことを一人でやっちゃったのであるからして、傍から見れば偉業であるのだが、豚がやりたいことをやったようにしか映らなかった為、実際の所豚を評価しているのはごく一部である

 

「ありがとー!」

 

那珂ちゃんの歌が終わり、肩で息をしながらもさっと那珂ちゃんにタオルとドリンクを差し出す豚

その動きは熟練マネージャーのそれである

 

ファンにしてマネージャーにしてプロデューサー

 

どこぞのアイドルなマスターのPとためを張れるレベルだ

 

「はぁはぁ、あ、提督にそんな事やっていただくわけには・・・」

「いや、あれ絶対喜んでやってるからやらせてあげたほうが良いんじゃない。って提督スタミナありすぎでしょ・・・・・・」

 

その後ろでは川内と神通が応援しすぎてへばっていた

 

「し、仕上がりは上々のようですな、ふひひ」

「うん!次の鎮守府開放日のイベントもこれでばっちりだよ!」

 

満開の笑顔でピースサインする那珂ちゃん

 

那珂ちゃんの豚に対する好感度はこの鎮守府内では高いほうである、が、まぁ残念なことに、やはりあくまでファンとしてしか見られていない辺りさすが豚である

ちなみに川内と神通の好感度も地味に高いほうである、地味にだが

 

「ふひ、つ、疲れが残らないように、お、お風呂で汗を流して、ゆっくりお休みくだされ、ぶふぉ」

「そうだね、リハに付き合ってくれてありがと!」

「な、那珂ちゃんファンクラブ会員ナンバー1としてはは、と、とうぜんですぞぉ」

「そうだね、ふひひ、もしこの戦いが終わった暁にはその功績を称えてブーちゃんを名誉永久会員として認定してあげるよ!」

「きょ、恐悦至極!その折にはた、退職金と年金全部使って那珂ちゃん記念館を設立させてもらいますぞぉ!」

「えへへー、いいねそれ。その時はレアなグッズをいっぱい寄贈しちゃうよ、きゃは!」

「うはwww夢広がリングwww」

 

などというたわいも無い雑談をしばらくして、豚は艦娘寮に帰っていく那珂ちゃんと川内、神通を見送った

 

余談だが艦娘には歌って踊れる人材が極めて多い、ソースはネットに上がってるMMD、個人的には白露型達のユニットが好きです、俺は詳しいんだ

ライバルは多いぞ那珂ちゃん、がんばれ

 

そうして那珂ちゃん達が無事寮に入っていくのを見届けた後、豚はある場所に向かう

 

着いたのは朝に艦娘たちを送り出した波止場であった

彼女達の帰還にはまだ時間が有ったが、豚はそこに腰をおろして待っていた

 

いつの間にか手には釣竿

 

たらしていた糸に反応があり引き上げる

針の先にカプセル状のような物がくくりつけられていた

 

慣れた手つきでそれを取り外し、中を確認するとポロリと小さい紙切れのようなものが出てくる

その紙切れにはこう書かれていた

 

【求む 南方反攻作戦に関する私見と実行後の予想シミュレーション】

 

その内容を予想していたのか、豚はポケットからUSBメモリを取り出し、そのカプセルに入れてもう一度糸をたらす

糸に反応があり引き上げてみるとカプセルはなくなっていた

 

桃色に近い赤の影が沖に向かっていく

潜水艦の艦娘である伊168だ

 

そしてまた糸に反応

 

引き上げると同じカプセルがくくりつけられていた

中身を開けると先ほどの紙と同じような事が書かれていた

 

そして同じようにUSBメモリをそのカプセルに入れまた糸をたらす

今度は桃色の影が沖に向かって行った

潜水艦の艦娘である伊58

 

続けざまに 伊19 伊8 も現れ、同じようにカプセルを持ってそれぞれの目的地へ向かって行った

 

その姿を見送る豚

 

「ふ、ふひ・・・・・・」

 

ちょうど潜水艦たちと入れ違いになるように、水平線の向こうから元気に手を振りながら帰ってくる第六駆逐隊達、遠征組の姿が見えた

 

 




ふわっと設定不思議

サーバーとかネットワーク関係の設備、ライブ設備やアイドルグッズ生産に費用や人員を割ける余裕が人類に有るのか?

答え:多分無いから妖精さんが何とかしてるんだとおもうの


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