豚と呼ばれた提督   作:源治

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四話 妖精炉

鎮守府には必ず妖精炉という設備がある

主にそこで艤装の解体や艦娘の建造、そして資源の生産などが行われる

ゆえに最重要区画として、そこを預かる専門の『明石』と呼ばれる艦娘が駐在していた

 

そして豚の朝は早い

どれ位早いかというと、その二十四時間体制で妖精炉を管理している『明石』と呼ばれる艦娘よりもだ

 

朝、明石が妖精炉の火が消えていないか確認するためにそこに行くと

必ず妖精炉の火が見える丸窓の前でぼけっと座っている豚の姿があるのだ

 

「提督、おはようございます。どうですか妖精炉の様子は?」

 

いつの間にか明石は、長い桃色の自分の髪を纏めながら、毎朝豚にこう語りかけるのが日課となっていた

 

「ひ、ひひひ、きょ、今日は一段と機嫌がよさそうですなぁ、デュフフ」

 

振り返る豚の様子は相変わらず、自分が妖精炉と同時に建造された時のままである

不衛生な髪や服装、はちきれんばかりの肥満

そして度が入って無いであろうメガネの奥のにごった瞳

 

明石はそんな豚に対しては複雑な感情を抱いていた

自分の提督として、そして一期の英雄としての尊敬や敬意はもちろんある

だがそれ以上に、今のひょうきんな姿とは別の、豚の【戦争初期の彼の行動】を見てきて、果たして彼にとって自分達艦娘は一体どういうものなのだろうという漠然とした不安のようなものがぬぐえずにいた

 

「それはよかった、提督の周りの妖精さんたちもご機嫌そうですね」

「ひ、ひひひ。そ、それはそれは、きょ、今日はお菓子でもご馳走させていただきますかな?」

 

豚の肩や頭の上に乗っていた妖精達が、それを聞いて嬉しそうに飛び跳ねる

不安がぬぐえないながらも明石は、艦娘とごく限られた提督にしか見えない妖精にとても好かれてるあたり、豚がそんなに邪悪なものでもないんだろうなという折り合いをつけていた

 

「といっても妖精さんは提督の傍ではいつもご機嫌そうですが」

「ふひひ、それがしと彼女らとは、な、長いつ、付き合いなので」

 

実際妖精の数や能力は提督の能力と比例するといわれ、新米の提督と、熟練の提督では建造される艦娘や装備の種類、一日で生産される資源の量などはデータとして明確に差がある事が確認されていた

 

(まぁ、いてくれるだけでも十分ありがたいって事よね・・・・・)

 

提督がいなくなれば鎮守府設備から妖精たちの姿は徐々に消え、艦娘達の艤装を動かす妖精達もいなくなり、ついには妖精炉の火が消えて活動を停止する

実際そういう事例もあり、最悪の場合は鎮守府そのものが物理的に崩れると推測されており

そうなれば再び妖精炉を作るために、現在妖精を見れる唯一の提督で世界最初の提督である海軍元帥の手が必要になる

鎮守府の建設とは一般人の想像を超える手間と資材が必要とされていた

 

「さぁさぁ、今日も建造や開発はしないんでしょ、邪魔になるから出てってくださいな」

 

そういって持っていたスパナで豚をたたく明石

明石の手にぽよんぽよんと弾力のある感触が返ってくる

 

「ブヒィー」

 

隷下の艦娘に邪魔扱いされて追い出される提督が居た

豚だった

 

 

 

■□■□■

 

 

 

呉鎮守府

ここは横須賀とともに対深海棲艦戦争における最重要拠点であり、戦況が落ち着いた国内にあってなお激しい戦闘を繰り広げる鎮守府でもあった

 

その呉鎮守府のトップである提督、虎瀬(とらせ)は印刷された資料を見て忌々しそうに顔をゆがめた

秘書艦である不知火がその様子を見て問いかける

 

「どうかされましたか?」

 

虎瀬提督は資料から目を上げ不知火を一瞥し、再び資料に目を落とした

 

「豚からの返事が来た、用意のいい事にこちらが何を聞くか完全に予想していたようだ。まったく忌々しい・・・・・・」

 

そうこぼす虎瀬提督、しかし不知火は彼が豚と呼ぶその提督に対して、ある種の信頼を抱いている事を知っていた

というよりその提督以外で、苛烈な気性を持つ主と対等に付き合いのある人物を不知火は知らない

 

強いて挙げるなら、いい意味で対立しているといえる舞鶴鎮守府の提督や、佐世保鎮守府の提督か

 

(南方反攻作戦に関する会議は半月後、作戦実行は下手すれば年内、それまでに一手打つ・・・・・・か)

 

虎瀬も豚が送ってきたシミュレーションを信じるならこの作戦には反対である

そして彼はそのシミュレーションを否定する材料も持ち合わせていなかった

 

(その際、自分に関して何が起ころうと一切関せずの立場を貫いてほしい・・・だと?馬鹿にしてくれる)

 

机の上に資料を放り投げ、窓の外を見る虎瀬

 

資料には南方反攻作戦を行うに当たっての不確定要素、作戦実行後に起こりうる補給線の破綻、結果国内でおこる経済効果にいたる崩壊予想から民衆心理の推移までがわかりやすく簡潔にまとめられていた

 

「戦争からそう簡単に足抜けできると思うなよ、豚・・・・・・」

 

悪態をつきながらも、その言葉に普段の主には似つかわしくない、ある種の感情が混じっている事を不知火だけが感じ取っていた

 

 

 




妖精炉の説明は艦これの世界の設定を何とかふわっとしたレベルまで固めようと考えました

あと艦これSS書く上で最も目を逸らしたい闇の深い設定
建造、解体、近代化改修、ダブりの扱いですが、この話では一応
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・建造
(出来る、でも資源関係で週一回位、失敗もあって失敗するとペンギンが出てくる)

・解体
(出来ないというかする余裕がない)

・近代化改修
(出来るけど、意識や記憶が混じって不安定になるので基本しない)

・ダブりの扱い
(同じ見た目、同じ性格で生まれてくる他人だけど、近づくと脳波共鳴が起こり、意識が混濁するので同一艦隊には配備できない、鎮守府内でも同じ固体が存在するのは避けること推奨)
----------------------------
という扱いです

あと、見えなくても豚が頼めば妖精さんは妖精炉作ってくれると思います
 

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