終わってしまうのは悲しいですが、終わりの始まりとなります
内容はアレですが、何とか書きたかった話が次話で書けそうです
もう少しだけお付き合いくださるとうれしいです
車に揺られて数時間、冷房のきいた車内から出た豚を日差しが照りつける
直射日光を受けて、人より人一倍汗をかく豚が顔を拭きながら横須賀の鎮守府の門をくぐると、其処には出迎えの青年士官とその秘書艦らしき、気位の高そうな艦娘が居た
青年士官のほうは若い世代特有の力強くまっすぐな瞳をした細身の男前である、年のころは20代前半といったところだろうか
似たような年であるにもかかわらず、何もかも豚とは大違いである
「ようこそお越しくださいました野原大佐、ご案内をおおせつかりました大神少佐であります!」
「ひ、ひ、お出迎えお、恐れ入ります、デュフフフ」
豚の容貌と言動に眉一つ動かさず、好意的に握手まで求めてくる大神少佐
もっとも、後ろの秘書艦である『熊野』は、自分の提督に豚が触れられるのが我慢ならないのか眉をひそめていた
「祖父・・・・・・いや、元帥閣下からお話はかねがね・・・・・・おっと、海軍大臣がお待ちでした。どうぞこちらへ」
「い、いやはや、お、恐れ入りま、ます、ふひ、ふひひひ」
元帥の部屋に向かう途中、大神少佐が口を開き親しげに豚に話しかける
「野原大佐は一期の提督としてさまざまな戦場を経験されたと伺っております。自分も先日四期提督としての教練を終えまして。大佐のように国家の為に提督として粉骨砕身 、提督として努めようと思っております」
本気でそう思っているのか判断が難しいが、少なくとも立派な提督になるという気概は感じられた
今更だが「野原」とは豚の苗字である、ちなみに名前は「丈治」
「ほ、ほほ、そ、それは、こ、こころ強いですのぅ」
豚が適当に話をあわせながら歩いていると、ひときわ立派な扉の前で大神少佐が立ち止まる
こちらです、と彼は豚に言った後、ノックをして大きく声をあげる
「お連れしました!」
「・・・・・・入りたまえ」
どうやら、大神少佐は案内だけだったようで、返事がきた後、部屋には豚一人が通された
豚の執務室よりも何倍も大きく豪華な執務室
その応接スペースと思われる一角に実質この国のトップといってもいい海軍大臣が座っていた
後ろには秘書と思われる黒いサングラスとスーツ姿の屈強そうな男が控えている
「やぁ、遠い所からご苦労だったね。さぁ、掛けたまえ」
「ふひ、そ、それではお言葉にあ、甘えて」
どさりと豚の巨体が豪華なソファーに沈み込む
「いや、今日呼ばせてもらったのはちょっと聞きたい事があってだね」
「ほ、ほほう、な、なんですかな、デュフフ」
海軍大臣はそこでいったん会話を止め、葉巻を取り出し火をつけ一吸いしてふぅと煙を吐き出す
その様子をじっと見ていた豚に視線を戻すと、海軍大臣はゆっくりと言葉を吐き出した
「大阪警備府の様子はどうかね?」
「ふ、ふひひ、せ、せっしゃは補給線の維持く、くらいですからな。ま、まぁ他の鎮守府と比べれば、ばひ、比較的穏やかなものかと」
「いやいや、あの政治的にも拠点的にも色々難しいあの場所をうまく治めてくれている君には頭が上がらんよ」
「ふひひ、きょ、恐縮です」
「どうだい?最近の政治屋や市民団体の様子は」
「お、おとなしいものですぞ。ま、まぁ彼らも、現状自分達の命を握っているのが、だ、大本営である以上。そ、そう馬鹿な事は、しませんでしょうなぁ」
「ここ数年で政治的にも経済的にも、われわれ鎮守府を抜きには各地の運営は成り立たなくなってきているからね」
「ふひひ、お、おかげで、我々はいろいろ、お、おいしい目を見させていただいておりますなぁ」
「我々・・・・・・ね・・・・・・」
どこか含みがあるような言葉を吐きつつ、海軍大臣は後ろで控えていた秘書から書類の束を受け取る
「まぁそういう事なら少し欲が出ても仕方ないのかもしれないなぁ」
「ふ、ふひ?」
ばさりと、海軍大臣は先ほど秘書から受け取った何枚かの書類を机にばら撒いた
「ここ数ヶ月の大阪警備府の資源の移送と、送り先の明細だ」
豚がそれらの書類を確認すると、送り出した物資と到着した物資の数量にずれがある事が確認できた
もちろん豚は知っていた、ばれるようにやったのだから
「さらに横流しされた資材が市場に流れているという情報も確認されている、これらが本当であれば重罪だな」
やれやれ、といったふうにかぶりを振る海軍大臣
もっとも、この程度の事はどこの鎮守府でも行われている事で、豚が特別悪事を犯しているというわけでもない
それこそ、この横須賀をたたけばこれの何十倍もの後ろ暗い何かが出てくるだろう
「何か言い逃れはあるかな?」
「い、いや、こ、これは・・・・・」
「取調べは手荒事になるだろうねぇ、君の体や精神が持てばいいが」
「ぶひ!!」
どもりながらも言い訳を述べようとする豚をさえぎって、海軍大臣が口を開く
「とはいうものの、艦娘の提督をそう簡単に更迭するわけにも行かないし、世間への醜聞もある。そこでだ」
机にゴトリと置かれる拳銃
「君も軍人であるなら、責任の取り方くらい知っているだろう?」
遠まわしに自決を迫る海軍大臣
彼もまた魑魅魍魎うごめく政界だけでなく、数々の戦場を潜り抜けた豪傑であり、だてに混乱期の日本を乗り越え再建させてはいない、その勢いは有無を言わせない迫力があった
提督の更迭
今後の大本営の勢力回復の足がかり、豚の鎮守府と周辺を収める事によって得られるメリット
そして現在の豚の鎮守府は比較的安定していて、こちらの手駒でも十分維持できるという好機
大本営の総意とまではいわないが、特別陣営に組み込むほどの提督でもないし、他の陣営に組していない中立というのも都合がいい
なら他の一期の提督達のように増長する前に多少強引とはいえ処分して元帥にも恩を売ろうというのが、今回豚を召喚した目的だった
しかし提督を更迭するという事は、政治面や経済面のほかに、艦娘の扱いも兼ねるため極めてデリケートな問題でもある
反旗を翻されればそれこそ大事件だ
だが海軍大臣は今日という日を迎えるまでに色々と準備をしてきていた
たとえば大本営から制空権維持のために送られ、豚の鎮守府に配備されている正規空母からもたらされた情報
本人は建造してもらった元帥に世間話をしているくらいにしか思っていないだろうが、彼女は豚の鎮守府の様子を大本営に伝える密偵のような役割を担っていた
そして今回の召喚では軽く様子を見るだけのつもりだったが、召喚状が豚の鎮守府に届いた当日に彼女から送られてきた情報によると
豚が艦娘達を束ねる秘書艦と口論になり険悪な状態になっているという事だった
このチャンスを逃す手は無い
海軍大臣はそう判断を下し、急ぎではあるが豚を失墜、失脚させるために効果が高いと思われる計画の実行を決めた
豚はおびえた様子で黙って拳銃をじっと見ている
「なに、後の事は心配いらないよ。先ほど君を案内した大神元帥の孫でもある新しい提督が、君の後釜として着任する予定だ。君の艦娘達に不便はかけない、どうかね?」
海軍大臣の最後の一押し、彼はこの後の豚の行動をうまく誘導できるだろうと確信していた
沈黙が部屋を包む
秒針が一周した程度の時間が流れた後、豚は顔を上げた
その顔はいつものにごった目、卑屈な表情の一切見られない爽やかな顔をしている
そして豚はとても落ち着いた動きで、銃を手に取りそれを自分の側頭部に向けた
「大臣殿、自分の持ってきたかばんに現在所属している艦娘達のデータ、各鎮守府との連携の状況、それら踏まえた上で引継ぎ後の今後の運営指針など。軽くまとめたものが入っています。あとは秘書艦の長門に聞いてもらえれば大神元帥のお孫さんにスムーズに引継ぎが行えるかと」
いつもと違い一切どもることなく、とても落ち着いた声
急に様子の変わった豚の様子に、狼狽する海軍大臣と秘書
二人の戸惑う姿を尻目に、豚はふっと微笑する
撃鉄を起こす音が驚くほど大きく部屋に響く
「それでは、失礼いたします」
そして眠る前のお祈りのような静けさで
豚は引き金を引いた