気が付いた時は病院のベッドの上だった
目を覚ますとそばにいた母は泣きながら抱きついてきた
父は先生を呼んでくると病室から出て行った
そして、父が出て行った扉の横には、真っ白な和服を着た初老の男がこちらを見ていた
「あの人は誰?」
母に尋ねてみるが、疑問符を浮かべるだけで誰のことを言っているのか本当にわかってないようだ
私以外には見えていないのか・・・
私は自然に笑みが漏れた
そこには恐怖心はなく単純な好奇心だけがあった
先生がやってきて軽く診察をする
今日は安静のため入院して明日退院ということになった
母と父と先生が病室から出て行ったあと、私は彼に声をかける
「あなたは誰?」
彼はふと笑いこう言った
(名前は捨てた。我は神の一手をただ追い求めるもの)
彼の口から発せられていることはわかるが、その声は直接脳に響いた
(おぬしは碁を打つのか?)
「ううん、まだ打ったことない。でもやってみたいと思ってる、勝ちたい奴がいるの」
(そうか、ならば我が碁を教えてやろう。その代わり我にも碁をうたせろ)
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翌日私はいつも通り学校に行った
進藤が救急車に乗せられた次の日はクラスは大騒ぎになったが、私が倒れたところで誰も騒ぎはしない
尤も私が倒れたことを知ってる人はクラスでは担任くらいだろうけどね
授業中、幽霊さんはとてもおとなしかった
何をするでもなくただただ私の斜め後ろに立っていた
さて、囲碁をするとは言ったものの困ったことがある
倒れたことからおじいちゃん家への出入りがしばらく禁止となってしまった
碁盤は家にはないので囲碁をすることができない
どうすれば良いかわからず私はあかりちゃんに相談してみた
どうやらあかりちゃんは近所の囲碁教室に通っているらしい
私もついて行っていいかと聞いたところ、いいよと言ってくれたので、放課後に行くことにした
大喜びしたあかりちゃん可愛かったな
放課後になると私はあかりちゃんと囲碁教室に向かった
囲碁教室ではプロの先生が丁寧に基礎を教えてくれた
その後、あかりちゃんと対局することになった
対局といっても9路盤という時間のかからないやつだ
1局目は何をやっていいのかまったくわからず手も足も出ないまま負けた
ただそこで分かったことがある
私が明かに間違った手を打ったときに幽霊さんは露骨にがっかりするということだ
事実、私の石があたりになっていることに気付かず別のところに置いたら
幽霊さんは「ああっ」と声を出してしまっていた
この幽霊さん威厳のあるたたずまいをしているけども結構お茶目だ
その後あかりちゃんと2局ほど打ったあたりで
幽霊さんがそろそろ我にも打たせろと言ってきた
しかも19路盤で打たせろってさ、わがままだね
あかりちゃんは19路盤ではまだできないといって代わりに進藤を連れてきた
進藤は初心者の私の相手をするのが嫌なのかあまり乗り気ではなかったが対局してくれることになった
黒番は私、幽霊さんが指示した場所に石を置く
数手ほど進んだところで進藤が次の手をなかなか打たなかった
顔を上げると、進藤は驚いた顔をして私の方を見ていた
しばらくして進藤は次の手を打った
今度は幽霊さんの手が止まる
進藤や幽霊さんが何を考えてるのか今の私にはまったくわからない
それがとても悔しかった
すると幽霊さんが私に話しかけてきた
(アンよ、この小僧は何者だ?)
(何者って、ただの同級生だけど…)
(この小僧、かなりの打ち手だ。指導碁でもしてやろうと思ったがこの石の流れ・・・
先ほど教えてもらったコミのことも考えると、本気でかからなければ負けるやもしれん)
がっかりだ
幽霊さんは200年前の碁打ちだったらしいが、
碁は200年の間に進化しているところもあり昔の手が今は通用しないということは知っていた
でも、囲碁を始めたばかりの進藤に幽霊さんが勝てないってのは残念だ
碁が好きとか言っておきながら大したことなかったのね
そこから激しい闘いが始まった。いや、始まったらしいかな
私にはわからないけれども白と黒の石がどんどん増えていき盤面を覆いつくした
「これで終局だな」
進藤がそう言って白石を打った
それに対し幽霊さんも頷き終局となった
黒:54目、白:55目半
1目半の差で負けた
こんな子供に負けて幽霊さん悔しいだろうなと後ろを見ると
幽霊さんはとても満足そうな顔で涙を流していた