魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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 遅くなりましてすいません。ようやくの投稿です。

一度崩れるとなかなかペースが戻りませんね。次はもっと早く出来るよう頑張ります


でわ、第12話れっつごぉ


ゼロの旅12

 

 

 

    <ルイズ>

 

 

 ユエ・ファランドールは、私にとってここ数日で仲良くなった大切な友達。魔法が使えないからといつもバカにされて来た私と仲良くしてくれて、長年の悩みを解決する糸口をくれた恩人。魔法もそこらのメイジでは歯が立たないだろう腕前で、剣を振れば金属製のゴーレムが宙を舞う。容姿も結構整っていて育ちの良さが見て取れるわ。紫がかったその髪は、とってもサラサラしていてお手入れが行き届いている事が分かるし、爪なんかも綺麗に整えられている。詳しく聞いた訳じゃないけど、かなり身分の高い家の生まれなんだろうと思うわ。

 

 そんな大切な友達の彼女が今……足を片方突き出した状態で瓦礫に埋まっている。

 

 「はっ、早く助けなきゃ!ユエが潰れちゃうっ!」

 「とりあえず杖はしまえ!発破は人命救助には使えない!」

 

 「レビテーションで瓦礫をどかして行くしかないわね」

 

 「慎重にやらないと崩れる」

 

 キュルケとタバサがレビテーションの魔法でゆっくり瓦礫をどかして行く。廊下の壁になっていた部分はほぼ崩れて山のように積み上がっていて、そんな山から白い足がちょこんと出ているのが、切迫した状況なのになんとも微妙な気分にさせてくれるわ。瓦礫となった石壁は、一つ一つが結構な大きさで重さも相当あると思う。一個だけなら耐えられるかも知れないけど、あんなに沢山乗っていたらその重さで潰れてしまうわ。私も手伝いたいけど、私の魔法は爆発しかしないから使えばユエまで巻き込んじゃうし、指を咥えて見てるしかない。

 

 「ユエだけ避けて石を爆発させられたらいいんだけど……」

 

 「そんな器用な事出来るのか?」

 

 「んー………余波でユエまで吹っ飛ぶかも」

 

 「はい却下」

 

 やはり重いせいかポンポンとはいかないみたいで、一個降ろすのにも結構時間がかかってる。私も何かしたいけど今何かやっても邪魔にしかならなそうね。キュルケに頼らないといけないなんて屈辱だけど、ユエの為に我慢して大人しくしてよう。

 

 「おーい、さっきの凄い音はなんだったんだい?」

 

 「ちょっと、芝生が凄い抉れてるじゃない。何があったのよ?」

 

 さっき衝突した時の音を聞きつけてきたのか、ギーシュの奴とモンモランシーがやってきたわ。ちょうどいいから、手伝わせよう。

 

 「ギーシュ、モンモランシー!ちょうどいいわ!手伝って!」

 

 「ちょ、ちょっと一体なんなんだい?」

 

 「何よ、これ。またルイズの仕業?」

 

 む!この洪水め、失礼な事を言って!でも、今はそれよりもユエよ。文句は助けたあとでいくらでも言えるわ!

 

 「なんでもいいから、この瓦礫をどけるの手伝って!ユエが埋まってるの!」

 

 「ユエ?ミス・ファランドールが埋まってるって………この瓦礫にかい!?」

 

 「どうやったらこうなるのよ!?」

 

 「そういうのは後でいいでしょ!」

 

 驚く暇があったら手伝いなさいよ、もう!

もう埋まって結構立ってるし、酷い怪我もしてるだろうし、急がないとほんとに危ないかも。

 

 「ほら!早く!」

 

 「分かったから、放してくれ。魔法が使えないじゃないか」

 

 「ちょっとルイズ、落ち着きなさいよ!」

 

 「なんでもいいから、手伝うなら早くして欲しいんだけど!?」

 

 一個一個瓦礫をどけていたキュルケが、揉めてる私達に早くするよう急かしてくる。下手にどかして崩れたら、更にユエを押し潰すかもしれないから慎重にやらないといけない。そのせいで全然作業が進まなくて苛立ってるみたい。

 

 「ほら、早く早く!ユエが死んじゃうじゃない!」

 

 「一体なんでこんな事になったのか分からないけど、瓦礫をどかしてミス・ファランドールを助ければいいんだね?」

 

 「えぇ、そうよ!」

 

 「まぁ、任せたまえ。[錬金](ワルキューレ)!!」

 

 ギーシュがいつもの気取ったポーズを取って錬金の魔法を使った。

ユエの上の瓦礫が次々いつもの女騎士の形をしたゴーレムになって上からどいた後、そのまま更に別の瓦礫を持って離れて行く。そのままテキパキと瓦礫をどけて行くから、すぐに山のほとんどが無くなったわ。一個一個どけてたのがバカみたいに思えるくらい簡単に片付いたわね。

 むぅ、ユエが助かったのはいいんだけど、なんか納得出来ない。

 

 「へぇ、ギーシュやるじゃない?」

 

 「ミス・ツェルプストー、君にそう言って貰えて光栄だよ」

 

 「うーむ、ギーシュってただのナルシストじゃなかったんだな。見直したぜ」

 

 「……君、ちょっと酷くないかい?」

 

 「はっはっはっ!まぁ、気にするな」

 

 「ふん、まぁいい。仕上げだ、ワルキューレ!」

 

 ギーシュがもう一度バラの杖を振ると、ユエを横抱きにした状態でゴーレムがせり上がって来た。多分ユエの下にあった瓦礫を錬金したのね。砂埃で薄汚れちゃってるけど、そこまで酷い怪我はしてないみたい、よかったぁ……

 

 「ユエっ!大丈夫!?」

 

 「えぇ、大丈夫です。助かりました」

 

 声もしっかりしてるし、本当に大丈夫そう。

 

 「まったく一時はどうなる事かと思ったわ」

 

 キュルケ達もユエが無事と分かってホッとしてるみたいね。あんな風に埋まって無事ってのも凄いけど。

 

 「すいません。手足が挟まってしまって杖が取り出せなかったもので」

 

 それで動かなかったのね。魔法が使えたらユエならすぐ出てこられるはずだもの、おかしいと思ったわ。ゴーレムから降ろしてもらったユエは、しっかりとした足取りで立ち、私達に向かってペコリと頭を下げた。

 

 「心配を掛けまして、すいません」

 

 「まぁ、気にするな。怪我が無くて良かったぜ」

 

 「ギーシュさんもありがとうございました。助かったです」

 

 「なぁに、これくらい僕にとっては簡単な事さ。それに女性を助けるのは僕の使命だからね」

 

 ユエにお礼を言われて、前髪をかき上げながらポーズを決めるギーシュ。今回はほんとに役に立ったから感謝はしてるけど、なんか釈然としないわ。

 

 「それでなんでこんな事になったのよ?」

 

 ユエといい感じになってるのが気に入らなかったのか、モンモランシーがギーシュを押しのけて原因を問いただしてくる。この二人、この間喧嘩別れしてたのに、もうよりを戻したのかしら?モンモランシーも、一体どこがそんなにいいって言うの?

 

 「実はタバサの使い魔と競争してまして、それで……」

 「タバサのって、あの風竜!?なんて無謀な事を」

 

 いやぁ、確かに驚くわよね。ドラゴンの中でも最速と言われる風竜と勝負なんて普通は考えないし、出来ない。だって勝負にならないもの。スタートと同時に置いていかれて、ゴールまで姿が見えないなんて事になるのが普通なのに、ユエってばもう少しで勝てる所まで行ったんだから。

 

 「一体どうやってあんなのと競争出来るのよ?貴方、えっと名前でいいかしら?」

 

 「えぇ、構いません。私もモンモランシーと呼ばせてもらうです」

 

 「えぇ、いいわ。で、ユエって授業でよく前に出てまで実践するけど、一回も成功しなかったわよね?おかげで一部の男子どもが、第二のゼロ。ゼロツーとか呼んでるのよ?」

 

 ゼロツーって、0なのか2なのかはっきりしなさいよ。

まったく知らないって怖いわね。ユエはそこらのメイジでは歯が立たないほど強力なメイジなのに、私と同じだと思ってるなんて。もし、本当のユエを知ったら腰を抜かすでしょうね。ちょっと見てみたいかも。

 

 「ゼロツー、ですか?」

 

 「なんかありきたりだな。捻りがないぜ」

 

 「バカが考えそうな名前ね」

 

 「3点」

 

 タバサ、なんの点数よ。

だいたい点数付けるにしても私だったら0点にする所よ?

 

 「何点満点での点数なの?タバサ」

 

 キュルケが不思議そうにタバサを見て聞いてるわ。私としては3点も入ってる事の方が不思議なんだけど。

 

 「10点中3点」

 

 「なんでよ?」

 

 「ちょっとかっこいい」

 

 ……この子の感性が分からないわ。

 

 「で、そんな貴方がどうやって競争するのよ?勝負にならないんじゃない?」

 

 まぁ、普通そう思うわよねー。

でも、箒に乗ったユエは物凄く速かったのよね。ユエの魔法で飛んでた訳だけど、むしろ見た目的にもそう言うマジックアイテムだって言われた方がしっくり来るわ。あんなの直接見ないと風竜と互角に飛べるなんて思いもしないでしょうね。

 

 「まぁ、簡単に言えば、飛ぶ為のマジックアイテムがありまして、その性能は風竜にも負けないと言う触れ込みだったので試してみたんです」

 

 「で、墜落して壁にぶつかったと」

 

 「そういうことです」

 

 ユエはあの箒をマジックアイテムって事で通す事にしたみたい。正直に説明しようとするとユエの魔法が先住魔法だって事がバレちゃうものね。

 

 「失敗すると学院が壊れるのはルイズの専売特許だと思ってたけど、ここにもいたのね」

 

 「悪かったわね!?」

 

 まったく洪水は失礼な事しか言わないわね!あっと……

 

 「まったく洪水は失礼な事しか言わないわね!」

 

 「香水よ!間を開けといて間違えないでよ!!」

 

 やっぱ声に出して言った方がいいわ。溜め込むのは性に合わないもの。

 

 「君達、先程の大きな音はなんだったのですか!?」

 

 モンモランシーと睨み合ってたら、慌てた様子でミスタ・コルベールが走って来たわ。彼一人しか来てないけど、あの音は学院中に響いただろうし、他にも人が集まってくるかも知れないわね。早目に退散しなくちゃ面倒な事になるかも。

 壊れた原因がユエの魔法だから、説明したら彼女の魔法が先住魔法だってバレちゃうし、そしたらユエが異端審問にかけられてしまうかも!あの速さで飛べるユエなら軍隊が出てきても逃げ切れそうだけど、それじゃあもう私達が会えないし、ここは一つ私が一肌脱いで誤魔化すしかないわね。ちょっと形は違うけど、お礼しないとって思ってたしちょうどいいわ。

 

 「すいません、私が魔法を失敗しまして、それで渡り廊下が壊れてしまって……」

 

 って、考えてたらもうユエが話し始めちゃったわ!ここから私一人のせいにするには不自然よね?という事は、ユエの話を踏まえて原因は私という事になるよう話さないといけないわね。

 

 「魔法を失敗してこうなるのですか?しかし、これでは……」

 「ミスタ・コルベール!私が説明します!」

 

 「おぉっと!あ、あぁ、任せますよ?」

 

 素直に説明すると、ユエの先住魔法の事まで話さないといけなくなるし、私がやったとなればそれはいつもの事。少しのお叱りとここの片付けを言い渡されてお終い、ってなるはずよ。

 何か言いたそうなユエやキュルケ達に目配せしてからミスタ・コルベールに事情を説明する。

 

 「ユエが授業で魔法を失敗してたのは覚えてますでしょうか?使えないのが悔しいと、今も練習してたのですが、私達で見本を見せようと言う話になりまして。キュルケやタバサと一緒に見せていたのですが、私が魔法を使ったらこうなってしまいまして……」

 

 「あぁ、なるほど。ミス・ヴァリエールの失敗魔法の仕業だったのですか。勉強熱心なのはいいですが、余り学院を壊さないで貰いたいですな」

 

 「すいません」

 

 ミスタ・コルベールは他の教師と違って失敗に関しては余り文句は言わないわ。前に叱られた時聞いたけど、何事も失敗しなければ分からない事は多い、だから失敗することは悪い事ではないから怒る必要がないのだ。なんて言ってた。まぁ、失敗を繰り返すのは悪い事だとも言ってたけど。

 

 「さっきユエの魔法でっていってなかもがっ!」

 

 後ろで余計な事を言おうとしたモンモランシーの口をキュルケが塞いでる。人が誤魔化そうとしてるのに邪魔しないで貰いたいわね。

 

 「事情は分かった。まぁ、学生の本分を全うした結果であるし、ここの片付けをちゃんとやれば不問にしましょう」

 

 「ありがとうございます!」

 

 ミスタ・コルベールが話の分かる人で良かったわ。ミスタ・ギトーとかだったらきっとネチネチ言って来たに違いないわ。

 

 「それでは学院長には私から言っておくので、ちゃんと片付けておくのですよ?」

 

 「「「はーい」」」

 

 教室吹っ飛ばすより規模が大きいから結構怒られるかもと思ったけど、なんとかなったわ。早目に片付けて他の教師が来る前に退散しましょ。

 

 「ルイズ、すいません。私のせいですのに」

 

 「いいのよ。私ならいつもの事で済むし、ユエの魔法を説明するのはまずいでしょ?」

 

 しかも教師にしたら大騒ぎになるわ。ミスタ・コルベールだけならまだ大丈夫かも知れないけど、他の教師は絶対騒ぐわ。それならちょっと前科が増えるくらいなんでもないわ。それだけ借りも多いしね。

 

 「まぁ、ルイズの仕業にすれば皆納得するし、いい手かもね」

 

 「いつもの事で悪かったわね」

 

 「褒めてるのよ?よくすぐ思い付いたわねって」

 

 なんか嫌味ったらしいのよ、キュルケの言い方は。

 

 そんな言い合いをしながら片付けを始めようと瓦礫の山に向き直ったら、そこにはほぼ片付け終わって、廊下も殆ど直っていた。

 

 「あ、あれ?なんでもう直ってるの?」

 

 「あんた達が先生と話したりキュルケとイチャついたりしてる間に全部ギーシュがやっちゃったわよ」

 

 「誰がイチャついたのよ!やめてよ、ほんと!鳥肌が立つじゃない!」

 

 「そうよ。ルイズとイチャ付くくらいなら、ユエとイチャ付くわよ」

 

 「やめて下さい」

 

 まったくこの洪水は気持ち悪い事を言って!

洪水は置いておいて、すっかり片付いた廊下を見てみる。そこらに転がってた瓦礫はすっかり無くなっていて、緑色の芝生がしっかり見えるようになっている。廊下も崩れた所がほぼ直っていて、あとは屋根の方が少し開いているだけでそれ以外はだいたい元通りになってる。

 

 「ギーシュがこれ全部やったの?」

 

 「あぁ、まぁね。僕の錬金を使えば簡単だし、ミス・ファランドールの為だって言うからね。少々張り切らせて貰ったよ」

 

 「本当にありがとうです、ギーシュさん。あと、私の事はユエでいいですよ?」

 

 「本当かね!?いやぁ、光栄だな。ではこれからは名前で呼ばせてもらうよ」

 

 むむむ、なんかユエとギーシュが仲良くなってる。ユエを助け出すのだけ協力してもらうつもりが、片付けまでやって貰っちゃったから、余り文句も言えないけど、なんかモンモランシーが睨んでるわよ?お二人、と言うかギーシュ?

 

 「しかし、よくこれだけ壊したものだね?しっかり固定化も掛けてあったから、並の衝撃では壊れないはずだよ?」

 

 そうよね、もう粉砕って感じだったもの。確か学院の固定化ってスクウェアクラスのメイジが掛けてるって聞いてるし、そう簡単には壊れないはずなのよね。そんなのを壊して擦り傷だけって、ユエはほんと規格外ね。

 

 「貴方、本当に大丈夫なの?……って、ここ変に色が変わってるわよ?」

 ツン。

 「うひゃぁっ!?」

 

 モンモランシーが触った瞬間、ユエが大声を上げて飛び上がった。

 

 「え!?一体何事!?」

 

 「モンモランシー、昼間っからどこ触ってるの?スケベねぇ」

 

 「腕触っただけよ!!ほら!この色が凄い事になってるとこ!」

 

 そう言ってモンモランシーが指差したユエの腕は、赤黒く変色してかなり腫れているのが分かった。え!?なにこれ!?

 

 「ちょっと!なにこれ!?なんか酷い事になってるじゃない!?」

 

 「うあ、なんか痛そう。夕映、大丈夫なのか?これ……」

 

 「え?あぁ、大丈夫ですよ。ただ折れてるだけですから」

 

 「なぁんだ、折れてるだけか。それならよ………くないわよ!?」

 

 ことも無げに言うから流しかけたけど、折れてるって、骨がってこと!?

 

 「全然大丈夫じゃないじゃないの!!なんで言わない、と言うか平気そうにしてるのよ!?」

 

 「そうよ!おかげで私が変な事したと思われたじゃない!」

 

 モンモランシー、今それどうでもいいわ。

 

 ユエは赤黒く変色した腕を見ながら、なんか平気そうにしてるけど、絶対あれ痛いわよね?だって骨が折れてるんでしょ?なんで涙の一つも見せないでいられるのよ!?

 

 「これくらい訓練ではよくやったですし、もう慣れたです。治せば治るレベルの怪我ですから、わざわざ騒ぐほどでは……」

 「こんなの慣れるはずないでしょ!?こっち来なさい!救護室で手当てするわよ!」

 

 モンモランシーがもう片方の手を握ってさっさと救護室に連れて行く。彼女自身も水のメイジだし、ユエの怪我は任せましょう。

 

 「まったくユエは………骨が折れても気にならないなんて」

 

 「俺なら痛くて転げ回るぜ?凄いな、夕映は」

 

 「我慢強いんだね、彼女は」

 

 ギーシュ、そう言う問題じゃないと思うわ。普通は我慢がどうのって話じゃ済まないのよ?

 

 「私達も救護室に行きましょう。ここはギーシュが全部やってくれたし、もう大丈夫でしょ」

 

 もうすっかり綺麗になった渡り廊下を見て、キュルケが自分達も行こうと提案する。あとは固定化の魔法を掛ければ完全に元通り。爆発しかしない私の魔法よりよっぽど役に立つわ。ギーシュなのに……

 

 「それで、どうやって壊したんだい?ミス・タバサの風竜と競争してぶつかったとか言ってたが、それでどうして廊下が壊れるのかさっぱり解らないんだ」

 

 「そ、それはまぁ……それだけ勢い良くぶつかったのよ。それより私達もユエの様子を見に行きましょ」

 

 マジックアイテムって事にしたけど、流石に箒に乗って飛んでたら落ちたなんて説明じゃ信じないだろうし、そもそも先住魔法だから知られたらまずいし、どうにか誤魔化さなきゃ。

 

 「さっさと行くわよ、サイト。って、あれ?いない……?」

 

 どこ行ったのかと辺りを見回してたら、向こうの方に腕を組んで歩くサイトとキュルケを見つけた。人が話してる間に何してるのよツェルプストーはぁっ!

 

 「こらー!あんた達何してるのよ!?離れなさい!!」

 

 「あら、別にいいじゃない。腕組むくらい。ねぇ、ダーリン?」

 

 「え?……あぁ、そうだな」

 

 腕を組んで密着し、サイトにむむむ胸を押し付けるキュルケに、サイトは鼻の下を伸ばしてニヤついてる。ユエが怪我してるって言うのに、これはとりあえずお仕置きね。

 

 「うふふふふ、まさかこんなに早くこれの出番が来るとはねぇ………」

 

 「え?ちょっとルイズ?それって剣も折れるって言ってなかったっけ?」

 

 「うふふ、大丈夫よ?この先の金属紐の部分は外してあげるから。これでタダの鞭になったわ。頑丈なだけの、ね」

 

 シュルルっと太腿のホルスターから今日買ったばかりのブルウィップと言ってた鞭を抜き、一発ピシンと打ち鳴らして伸ばす。この持っただけで、自分の腕が延長されるような感じが物凄く気に入ったのよね。振り回すだけでも楽しいこの鞭を、実際に使ったらどれほど楽しいのか、サイトで試させてもらうとしましょうか!

 

 「感謝なさい、サイト?初めての相手にあんたを選んであげた、私の慈悲に」

 

 「いやいやいや!落ち着けルイズ!俺はただ救護室に行こうとしてただけで!だいたいそんな剣も折るようなので叩かれたら死んじまうよっ!」

 

 手を振りながら後ずさるサイトだけど、逃がしてあげないんだから。

 

 「ちゃぁーんと手加減してあげるわよ。死んじゃったらお仕置きにならないものね?」

 

 きゅっとハンドルを握り込み、もう一度鞭を打ち鳴らす。腕が届く範囲が意識しないでも分かるように、この鞭の届く範囲もすぐに分かったわ。あと二歩前に出るだけでサイトは逃げられない。

 

 「さぁ、サイト。映えある一発目を喰らいなさい!」

 「断る!!」

 

 そう言ってくるりと振り返り全力疾走していくサイト。ふふふふふ、逃がさないわよ。二度とキュルケなんかに尻尾を振らないように躾てやるんだから!

 

 「まちなさぁ〜いっ!逃げても無駄よ!!」

 「待てと言われて待つ奴がいるかっ!そんなので叩かれるなんてゴメンだねっ!!」

 

 「素直に叩かれて、ありがとうございますと言いなさい!!」

 「言うか!バカタレ!!」

 

 「誰がバカだぁーーーっ!?」

 「うわぁっ!?アブねぇ!?」

 

 くっ!この無駄にすばしっこい犬め!ご主人様をバカ呼ばわりとは、許せないわ!素直に謝るまで、一晩中だって叩いてやるぅぅっ!!

 

 「まーーてーーーっ!!」

 「またなぁーーーいっ!!」

 

 絶対、ぜーーったい逃がさないわよっ!!

 

 

 

 

   <夕映>

 

 

 「何かルイズが絶叫してる気がしますが、どうしたんでしょう?」

 

 「知らないわよ。いいから大人しく治療を受けなさいよ」

 

 モンモランシーに救護室に連れこまれて、添え木と包帯で腕をグルグル巻きにされたです。来た時、救護室には誰もおらず、とりあえず応急処置をと言う事で包帯を巻かれたですが、そうそう怪我をしないお嬢様に包帯の巻き方が分かる訳も無く、かなり雑な巻き方になってます。

 

 「ほら、動かないの。ヒーリング掛けるわよ?」

 

 まぁ、魔法で治すにしても、このかさんのようにどんな状態からでも元通りに出来るほどの治癒魔法は使えないので、どの道包帯は巻かないといけなかったので良しとしましょう。漫画のように包帯で団子が出来てる訳でもないですし、気にしないでもいいですね。

 

 イル・ウォータル・デル

 [ヒーリング]

 

 モンモランシーが呪文を唱えると共に魔力が集まってきて私の怪我を包み込みます。魔力の出処は違いますが、効果の出方には余り違いがないように見えるですね。私達の魔法では治癒の仕方や効果を設定する魔法陣を出してそれを操作しながら治すですが、こちらの魔法はその設定を全て魔力のさじ加減でやって行くので結構難しそうです。簡単な治癒なら魔法陣は要りませんが、骨折を治すならそれでは不十分です。おそらく、その魔法陣の役割が水の秘薬なのでしょう。

 

 「まったく何でこんな怪我して平気そうな顔が出来るのよ」

 

 「さっきも言った通り、これ位の怪我はいつもしてたので余り気にならなかったんです」

 

 「気にしなさい!何で貴族の娘が頻繁に骨折するのよ!?」

 

 「訓練中ヘマをした時なんかで、ちょくちょくと」

 

 エヴァンジェリンさんの攻撃を受け損ねたり躱し切れずに直撃を貰った時なんかでよくやりました。おかげで骨折程度では狼狽える事なく次の行動に移れるようになったです。女の子としてはどうかと思うですが。

 

 「一体何の訓練してるのよ。女は軍に入れないし、必要ないでしょ?」

 

 「いえ、私の所は女性でも軍に入れるですよ?それに以前候補生として所属していた部隊は、女性のみで構成されている部隊でして、むしろ男性では入る事が出来ないです」

 

 名前からして戦乙女旅団ですしね。男性が入るとしたら女装でもしないといけないです。いえ、女装したからと言って入れる物ではないですが。

 

 「なにそれ?そんな部隊聞いた事……って、そう言えば貴方東方から来たんだったわね。見た目ちっさいのに軍隊に入ってたの?意外ね」

 

 「ちっさいは余計です」

 

 三角巾で腕を吊って処置完了です。部屋に帰ったら治癒魔法でさっさと治しましょう、片手ではいろいろ不便ですからね。

 

 「ユエー?どう治った?」

 

 救護室のドアを開けながら、キュルケが怪我の具合を聞いてきます。

 

 「あのねぇ、キュルケ?骨折がそう簡単に治る訳ないじゃないの」

 

 「魔法で治せばいいじゃない。あなただって水のメイジでしょう?」

 

 「これを治すなら水の秘薬が必要になるわ。わざわざ買うと高いのよ?あれ」

 

 ルイズも水の秘薬を何個の買ってたら懐が寒くなると言ってたですし、相当高いのでしょう。

 

 「なぁに?ヒーリングだけじゃ治らないの?」

 

 「結構酷いからね。私のレベルじゃ無理」

 

 これくらいなら私の魔法でも十分治せるので構わないのですが。

こう言う怪我をしてもこのかさんがすぐ治してくれるので、正直酷い怪我とは思えなくなってたですが、よく考えたら大怪我と言ってもいいレベルなんですね。

 

 「それなら教師はどうなのよ?」

 

 「どっちにしても秘薬がいるわよ。わざわざ買わなくても、時間をかければヒーリングで十分完治するし、問題ないでしょ?」

 

 余り自由に出来るお金がないのでその方が都合がいいです。水の秘薬を使う所を見たいとは思うですが、その為に高いお金を出す余裕が無いです。また次の機会と言う事にしましょう。

 

 「後で自分でも治癒魔法を掛けますから大丈夫ですよ。それよりタバサはどうしたんです?一緒だったのでは?」

 

 ここに来た時から、いつもキュルケの隣にいるタバサが見当たりません。もう、いつも練習してる時間になってるですし、先に行ったんですかね?

 

 「ん?あぁ、タバサだったらあなたが墜落した時にばら撒いた剣とあの箒を回収するって行って中庭の方に行ったわよ?」

 

 なるほど、そう言えば救護室に連行されたせいで回収しにいけなかったです。剣はともかく、箒の方はいろいろ付いてて少々メカニックですし、ただの箒には見えないので騒がれたらマズイですね。早めに回収しなければ困る事になります。

 

 「そうですか。なくなると確かに困るですし、回収はタバサに任せましょう」

 

 「見つけたらここに持ってくるって言ってたし、来るまで待ってましょう?動いて行き違いになったら面倒だもの」

 

 確かにお互い探し回る事になりそうですし、タバサには悪いですがここでゆっくりさせて貰いましょう。

 

 「剣って、ルイズの使い魔が決闘した時のあれよね?じゃあ、箒って何?」

 

 「さっき言ってた空を飛ぶマジックアイテムですよ。私が入ってた軍の正規装備なんですよ」

 

 あの箒と動甲冑、そして大剣のセットが標準装備で、それを着込み編隊を組んで飛ぶ姿は魔法世界の女学生憧れの的なのです。と、会ったばかりの頃のコレットが騒いでました。

 

 「変な軍隊ね、箒が正規装備なんて。メイド服でも着て戦うの?」

 

 多分彼女は掃除に使う箒を思い描いているんでしょう。

メイド服を着てなんてちょっと面白いですが、当事者としては心外です。

 

 「なぁに、軍隊って?」

 

 「あぁ、キュルケには言ってなかったですね。私が前に所属していた騎士団の事です」

 

 「ユエ騎士団に入ってたの!?」

 

 キュルケが大袈裟に驚いてるですが、候補生としてで正規の隊員ではないのですよね。なのでちょっと頑張ればどうにかなるものです。

 

 「ちょっとの間だけですよ」

 

 「でも女の身で騎士団なんて東方ってなんか凄いわね。こっちでは女が軍に入るのも許されないのよ?」

 

 法令でそう決まっているそうです。戦うのは男の仕事で女は家を守れと言う事ですかね。その辺りの事も調べておかないと、知らず知らずの内に違反を犯して身柄を拘束されるなんて事になりかねません。気を付けましょう。

 

 「結構凄い訓練してるのは見たけど、そんなユエが入る騎士団ってどんな凄腕集団なのよ?」

 

 「凄い訓練?さっきも骨が折れるのも当たり前とか言ってたけど、そんな凄いのしてるの?」

 

 「少なくてもこの学院に居る人間で、あの訓練が出来るのは居ないわね。教師こみで」

 

 キュルケがこの間見せた訓練の様子を思い出して語りますが、余り詳しく話すといろいろ秘密にしてるのがバレるですよ。

 

 「ユエって、魔法使えなかったわよね?アイテム頼りで騎士団に入ったの?」

 

 魔法の種類が違うだけで使えない訳では無いのですが、知らないのでそう思うのも仕方ないですね。

 

 「あー………どう言えばいいか……」

 

 さて、どう言ったものか。魔法の事を教えてしまえば全部説明出来るですが、それはいろいろマズイ訳で。まぁ、モンモランシーがそう簡単に言いふらすとは思えないので、言っても問題無いと思うですが。

 

 

 「ユエ君、怪我はどうだい?」

 

 どう言うべきか悩んでいたらギーシュさんがタバサと共に入って来ました。機動箒と剣も回収出来たようでよかったです。

 

 「怪我はもう処置しましたし、問題無いですよ。タバサも回収ご苦労様です」

 

 タバサが軽く頷きながら差し出す機動箒を受け取ります。

 

 「それがさっき言ってたマジックアイテム?」

 

 私が受け取った機動箒を見ながらモンモランシーが聞いてきます。掃除用の箒を想像していたら全然違う物が出て来て戸惑っているようです。

 

 「あとユエ君、この剣も君のだろう?受け取ってくれたまえ」

 

 そう言ってギーシュさんが浮かべている剣を私の前に移動させました。何故わざわざ浮かべてるのでしょう?

 

 「ギーシュ、なんでレビテーション掛けてるの?」

 

 「モンモランシー、実はこの剣かなり重たいんだ。持てはするんだが、ここまで持ってくるのは大変でね。こうして魔法で浮かせて来たのさ」

 

 結構大きい剣ですからね、重量もかなりあります。

普段持つ時は身体強化して持つので、重さを意識する事も少ないですが、素の力だけで持とうとすると、流石に振り回すまでは出来ません。

 まぁ、持って歩くくらいは私でも出来ますが。

 

 「そんなに重いの?ユエ、ちょっと持たせてくれる?」

 

 「構いませんが……」

 

 魔法の事はもういいみたいです。興味が移り忘れてくれるなら、それはそれで助かるのでいいのですが。

 

 「どうぞです。気を付けてください」

 

 「大丈夫よ。これでも、そこらの娘よりは鍛えられてるもの。薬草を取りに森に行ったりしてね」

 

 「薬草ですか?」

 

 「えぇ。買うより自分で採って来ればタダじゃない。あんまりお金がないから節約出来る所は節約しないとね………って、何これ!めちゃくちゃ重いじゃない!」

 

 話しながら受け取ったモンモランシーが、剣の重さに耐えきれず床に叩きつけてしまいました。その程度では刃こぼれ一つしないので問題ないですが、彼女はその衝撃で手がしびれたようで、手を離してプラプラ振ってます。

 

 「重いと言っても10kgほどですし、そこまでではないはずですが」

 

 「10kgもあれば十分重いわよ。普通剣は4,5キロくらいしかないはずよ?」

 

 どんな状況にも耐えられるように丈夫に作ってあるので重量もそれなりにあるのです。そのまま振り回すには相当鍛えないといけないでしょう。

 

 「騎士団に入ってたって言うのは伊達ではないわね。こんなの振り回せるんだもの」

 

 「ユエの事でいちいち驚いてたら身が持たないわよ?モンモランシー」

 

 キュルケ、失礼です。

 

 「……そういえばルイズがいないですね。どこに行ったんでしょう?」

 

 「ルイズならサイト君を追いかけて行ったよ。鞭を嬉しそうに振りながらね」

 

 「嬉しそうに……ですか?」

 

 やはり変な趣味に目覚めてしまったのでしょうか?

二人がそれで幸せなら私がとやかく言う事でもないですが、どうか真っ当になってください。

 

 「治療も終わったし、私は部屋に帰るわ」

 

 「えぇ、治療ありがとうございました」

 

 「これからはもう少し気を付けるのよ?女の子なんだから」

 

 「……善処します」

 

 ひらひら手を振りながらモンモランシーが帰って行きます。

 

 「僕が送るよ、モンモランシー」

 

 「いいわよ、すぐそこなんだから」

 

 「あぁ、待ってくれよ。ミス・モンモランシー!」

 

 そんな彼女をギーシュさんが追いかけ行きました。仲が良いのはいい事ですね。

剣と機動箒を亜空間倉庫にしまい、杖を取り出します。このままでは不便ですからさっさと治してしまいましょう。

 

 フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ

 汝が為に(トゥイ・グラーティアー)ユピテル王の(ヨウイス・グラーティア)恩寵あれ(シット)

     [治癒](クーラ)

 

 魔法陣も出して怪我を一気に治して行きます。治癒魔法は今まで機会が少なかったので、練習する事が出来なかった魔法の一つです。治癒魔法のエキスパートになりつつあるこのかさんが居ないこの地では、こんな軽い怪我でもいい教材になるです。

 

 「へぇ……なんか凄いわね、それ。それが東方の治癒魔法?」

 

 「えぇ。私では瀕死から一瞬で回復させるなんて事は出来ないですが、だいたいの怪我は治せるです」

 

 「瀕死から一瞬でなんて、誰も出来ないわよ……」

 

 このかさんのアーティファクトなら出来るですが、あれを呪文だけで再現出来たら便利でしょうねぇ。でもあの威力はこのかさんの魔力による所が大きいので、私では難しそうです。

 

 「よし、これでOKです」

 

 「もう治ったの?ヒーリングも出来るなんてほんと規格外ね、あなたは」

 

 「一通り出来るよう訓練しただけです。専門の人には何一つ勝てません」

 

 戦闘ではネギ先生達の足元にも及びませんし、治療もこのかさんとレベルが二つ三つ離されてます。ダンジョンの攻略はのどかに軍配が上がるでしょう。こうして考えると何一つ優っている所が無い気がするです。

 

 「帰る頃には誰にも負けないと自信を持って言える何かを手に入れたいですね」

 

 ただ強くなるだけでは、彼らの仲間である意味がありません。それでは私である必要がないですからね。

 

 「そんなに焦らなくてもいいわよ。留学がいつまでかは知らないけど、一月二月で帰る訳でもないでしょう?ゆっくり探せばいいのよ」

 

 「えぇ、そうですね」

 

 キュルケの言う通り、留学は三年の予定でしたし、帰る方法も無い今焦っても仕方が無いですね。

 

 「さ、私達も部屋に帰りましょ」

 

 「ルイズ達はどうします?」

 

 確か鞭を振り回しながら才人さんを追いかけ回してるそうですし、回収しておかないと近所迷惑です。

 

 「ルイズはともかくダーリンは捕まえないとね。部屋に呼べないもの」

 

 「それで何か騒動になったと聞いたですが?」

 

 「いいのよ。魅力が無いのが悪いんだから」

 

 そういうものですか。

 

 私達は救護室を出て中庭へと移動します。

追いかけられているらしい才人さんが逃げ回るには、寮の中か中庭にある林の中のどちらかだろうと予想します。しかし、寮内では人が多いので、何処かに隠れてもすぐ見つかってしまう可能性があります。その点林では隠れる所は少ないですが、誰かに見咎められる事も無く隠れていられるでしょう。未だ見つかっていないのなら林の中に居るのではと判断しました。もっとも、既に仲直りして部屋に帰っている可能性は否めませんが。

 

 「さぁって、ダーリンはどこかしらー?」

 

 「居ない」

 

 日も落ちて暗くなった林の中で、人一人探すのはかなり難しいです。何かしら見つけやすい目印などがあれば話は別ですが。

 

 シュッパァンッ!!

 

 「いまのは……?」

 

 林の奥で何かの破裂音がしたです。

暗い林の奥で鳴り響く破裂音。怪しいです。自然界でこんな音、早々出ませんし、誰かしら人間が居ると思って間違いありません。

 

 「行ってみましょう。もしかしたらルイズ達かもしれないです」

 

 ヒュンッ ヒュンッ

 

 何かで空気を切り裂く音が聞こえてきます。これは確かルイズが武器屋で鞭を振り回していた時に聞こえた音に似てるですね。つまり、この先にルイズが居るのでしょう。暗い中探し続けるのは大変ですし、早めに見つかってよかったです。

 

 

 「んふふふふっ。あぁ、才人?ご主人様以外に尻尾を振る浅ましいバカ犬よ。もうご主人様以外には尻尾を振るのは禁止よ?分かったなら返事をしなさい?」

 

 「……わん」

 

 ………見つかりはしたですが、どうやら取り込み中のようです。

木の根に腰掛けて足を組んでいるルイズが、正座している才人さんと向き合いながら鞭を振っています。左右に振る毎にヒュンヒュンと音を立てる鞭にビクビクする才人さんと、それをにっこり笑いながら眺めるルイズ。二人は確実にステップを上がっているようで、もはや後戻りは出来ない所に行ってしまっています。

 

 「……ん?あ!ユ、ユエ!?キュルケ達も!?」

 

 「ヴァリエール……あなた、もうそんなプレイまで……」

 

 「ルイズ……その……」

 

 「変態?」

 

 彼女達の今の状況を見ると、そう言う趣味の人達にしか見えないです。

 

 「へん!?ち、違うわよ!!誰が変態なのよ!?」

 「……わん」

 

 才人さんが何も考えてなさそうな顔で犬の鳴き真似をしてます。順調に変態の道を歩いてますね。前からそうだと思ってました。

 

 「ユエ!違うわよ!?これはサイトがすぐ他の女に媚びを売るから、躾けてただけなんだからっ!」

 

 「ヴァリエール、その台詞だけでも十分ダメって分かるわよ」

 

 「超変態」

 「うるさいのよ青いの!!」

 

 あぁ、ルイズ。

 

 「私が武器を勧めたりしたからこんな事に……」

 「違うったら!!」

 

 「……わん」

 

 もうどうすればいいのか。さすがのキュルケも微妙に引いてますし、ルイズは自分のしていた事を自覚して大慌て。……才人さんは未だ戻って来ません。

 

 「ユエ、違うのよ?サイトが悪いんだからね?」

 

 私の肩に手を置いて必死に言い繕うルイズですが、その言葉に説得力がないです。先程の情景を見る限りそう言う趣味の人にしか見えないです。私が武器を勧めずにそのまま帰るようにしていればこんな事にはならなかったかも知れないというのに。私のせいで大事な友人が一人、道を踏み外してしまいました。

 

 「大丈夫です、ルイズ」

 

 「え?」

 

 「貴女がどんな性癖を持っていても、私は貴女の友人である事には変わりません。だから安心して下さい」

 「いやだから違うって…」

 

 「……わん」

 「あんたはいつまで鳴いてるのよ!?」

 ズガンッ!!

 

 犬の鳴き真似をしていた才人さんが誤解に拍車をかけていると感じてか、素早く杖を抜き魔法を打ち出すルイズ。ツッコミに魔法を使うのは危ないのでやめたほうがいいですよ?

 

 打ち出された魔法は才人さんに当たる事はなかったですが、杖の向きからだいぶずれた学院の壁が爆発しました。ツッコミする為だったからか、詠唱を適当にやったからか、まるで見当違いの所が爆発したです。まぁ、狙い通り才人さんに当たっていたら、彼が木っ端微塵になってたですし今回はそれでいいのですが、狙い通りにいかないのは何故なのでしょう。何かしらの理由があるのか、単に彼女のセンスが悪いのか、その理由いかんによっては、今後の練習の仕方を変えていかなければいけないですね。

 

 「ルイズ、落ち着くです。私はちゃんと分かっています。貴女の趣味はちゃんと理解してますから。でも、叩かれる事を喜ぶ事が出来ないので、一緒に楽しむなんて事は出来ませんが、それは許して下さい。貴女がどうしてもと言うなら一回くらいなら付き合いますが、しかし……」

 「だから違うって言ってるでしょ!?ユエ!」

 

 ズドンッ!!

 

 ルイズとそんなやりとりをしていたら何か巨大な物が地面を踏みしめる音が聞こえました。以前聞いた鬼神兵の足音にも似た重量感ある音でした。

 

 「今のなに!?」

 

 「学院の方から聞こえたわね」

 

 「行ってみるです」

 

 私達は音の正体を知るべく林を抜け学院まで急ぎました。

中央にある本塔が見えてくると、そこには巨大な人影が立っていました。

 

 「ゴーレム!?」

 

 「なんて大きさ!あんなのトライアングルクラスのメイジじゃないと作れないわ!」

 

 鬼神兵ほど大きくはないですが、それでもかなりの大きさを持つゴーレムが、本塔の上部に向かってパンチを繰り出しました。大きな音を立てて壊れた壁に黒いローブを着た何物かが入っていくのが見えたです。

 

 「今誰かが入って行ったです」

 

 「あそこ宝物庫」

 

 「え!?じゃあ、泥棒!?」

 

 巨大なゴーレムで壁を壊し物を盗んでいくとは大胆な泥棒ですね。普通もっとこっそりやるものじゃないですか?壁から出てきた泥棒らしき人影は、巨大ゴーレムの肩に乗り、そのまま学院の壁を跨いで出て行こうとしています。

 

 「このままじゃ逃げられちゃうわ!」

 

 「私が追います!」

 

 身体強化して一気に中庭を走り抜けます。距離を詰めて行く間にゴーレムは倒れこむように崩れ、姿を消しました。どうやら目立つゴーレムを隠すつもりで解除したのでしょう。壁を飛び越えてゴーレムの居た辺りを見てみると、こんもりと土が盛ってあるだけで、他には特に何もないです。既に泥棒は逃げたあとと言う事ですか。目の前に居たのに逃げられるとは。

 

 このまま土山を見ていても仕方ないので一旦戻り、ルイズ達と相談することにしました。

 

 「とりあえず教師に報告ね。今追いかけても見つからないだろうし」

 

 「一体何を盗んでいったのかしら?」

 

 何を盗んだか知らないですが、あんな大胆な方法で盗んでいくとはよほど自信があったのでしょう。盗める自信と、それだけの価値がある物があると言う自信が。

 

 騒がしくなり始めた学院に戻り、慌てている教師達に報告をすると、明日全員揃った所でもう一度話をするよう言われ、今日は解散となりました。

 

 

 の、呑気ですね………

 

 

 

 







 っと、第12話でしたぁ。
本当はフーケやら舞踏会やらが終わるまで書こうと思ったんですが、1話で3万文字とか書きすぎだと言われそうなので半分残しました。
 次でようやく原作一巻分が終わるのかな?
このペースで行くと、原作全部が終わるのに5年かかる計算に………


もっと早く書けるよう精進しよう。でわ次回もよろしくです

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