週1で出すなんて言って置いて、大いに遅れてしまいすいませんでした。
最近仕事が忙し過ぎて書く時間が余り取れなかったのが原因でして、はい。
でわ、どうにかこうにか第13話れっつごぉ
朝早く、と言っても朝食を食べた後なのでそこまで早くないですが、昨日の大胆泥棒を見た私達は、侵入された宝物庫の中に呼び出されて、何故か教師達の責任のなすり合いを眺めてます。
「土くれのフーケめ!魔法学院にまで手を出してくるとは、随分とナメてくれる!」
「衛兵は何をやっていた!?」
「衛兵など所詮平民、あてにならん!それより当直は誰だったんだね!?」
当直として詰めていればこんな事にならなかった等と言って、昨日の当直だったはずのシュヴルーズ先生を責めています。
そんな事してる間にあの泥棒がどこかに逃げてしまったら、捕まえる事も出来なくなるです。あの泥棒が今まで逃げ切れていたのは、腕がいいのもあるですが、皆こんな感じで時間を食っていたからではないでしょうか。
そんな不毛な事をしている彼らから目線をずらすと盗まれた物があった所の壁に書かれた泥棒の犯行声明が見えます。
[破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ]
なかなか粋ですね。これがカードとかだったらとある大泥棒みたいです。やり口はかなり強引ですが。土くれのフーケ、衛兵の詰所にも手配書があるほど貴族達の財宝を盗んで回っているメイジの泥棒、ルイズの話ではトライアングルクラスのメイジらしいですが、魔法使いならもっとスマートに出来たのではないでしょうか。ここの扉の鍵を魔法で開けるとか中に直接転移するとか。あぁ、ここの魔法に転移は無かったですね。
「なぁ、夕映。あれってなんだと思う?」
一晩立ってようやく復帰した才人さんが、退屈なのか宝物庫に展示されている物を指差し一体どんなものか等と聞いてきます。なかなか話が進みませんし、暇つぶしに付き合うとします。
「んむ、見たところ兜みたいですが、変なトサカが付いてますね」
「あっちのあれって絶対ガラクタだぜ?なんで宝物庫に?」
「お爺様の、オスマンさんの趣味で集めた物なのでは?」
「あんた達、なんでそんな緊張感がないの?」
キュルケが宝物庫の奥を見ながら談笑している私達に声を掛けて来ます。
「あれを見てても意味ないでしょう?」
「いや、まぁ、そうなんだけど……」
なすり合いが、シュヴルーズ先生への責め合いに変わってしばらくすると、お爺様がやって来ました。
「これこれ、そんな風に女性を責めるもんじゃない」
「しかしですな!オールド・オスマン!彼女は当直をサボって部屋で寝ていたのですぞ!」
「ミスタ・バトー、君は怒りっぽくていかんな」
「ギトーです!オールド・オスマン!!お忘れですかっ!?」
お爺様、前もコルベール先生の名前を間違えてたですね。持ちネタなのか、ボケ始めているのかで今後の接し方を変えないといけないです。
「おぉ、そうじゃったそうじゃった。ギトー君、君は怒りっぽくていかん。この中でまともに当直をした事のある者は何人おられるかな?」
聞かれると教師達は一様に目線をそらしたです。真っ直ぐ見ているのはコルベール先生くらいで、他の教師は頬をかいたり、下を向いたりして誤魔化そうとしてます。
コルベール先生が信じられないと言った感じで周りを見回してます。彼は他の教師と違って真面目なようですね。
「さて、これが現実じゃ。儂等の誰もがこの魔法学院に賊が入るなど考えもしなかった。言うなれば今回の事は慢心していた儂等全員の責任と言う他ない」
魔法が使えるのは自分達だけじゃないと言う事を忘れていたのが、今回こうも簡単に盗まれた原因と言えるです。お爺様もそう認識しているから全員の責任と言ったのでしょう。
「さて、それで犯行現場を見ていた者たちがおるそうじゃな?一体誰じゃね?」
「この4人です」
コルベール先生の声に才人さんと宝物庫の鑑賞をしていた私は、お爺様の方へ向き直ります。才人さんが数に入っていないのは彼が平民で使い魔だからでしょう。ここでは平民と言うだけで軽く見られるのに更に使い魔ですからね。数に入らないのも仕方が無いようです。
「ふむ、君達かね」
お爺様が興味深そうに私、そして何より才人さんを見ています。彼に何かあるのでしょうか?
「詳しく説明してくれんかの?」
その声にルイズが一歩前に出て説明を始めます。
「大きなゴーレムが現れてここの壁を壊したんです。そして、肩に乗っていた人物が中に入って行って、出てきた時は何かを抱えてました。多分あれが破壊の杖だったんだと思います。そしてそのままゴーレムの肩に乗り外壁を越えて逃げて行きました。ユエがすぐに追ったのですが、追い付いた時にはすでにゴーレムは崩れ去り、乗っていたメイジも姿が無かったそうです」
追い付いた時、周りに隠れる所も無かったと言うのに犯人を見つける事が出来ませんでした。もしかしたらゴーレムが逃げて行く時、既に犯人はいなかったのかもしれないです。手品で何でもない方の手を大きく動かし注目させておいて、隠したもう片方の手でタネを仕込むと言う事をやりますが、そんな風にゴーレムに注目させておいて自分は逆方向に逃げると言う手段を取っていたとしたら、私はただの間抜けですね。
「間違いないかね?ユエ君」
「はいです、お爺様。追い付いた時、そこにはゴーレムの残骸だけが残り、犯人の姿はどこにもありませんでした」
「なるほどのぅ………」
お爺様がふむふむ言いながら考えている時、チョコチョコとルイズ達が寄ってきて、
「ね、ねぇ?なんでオールド・オスマンの事をお爺様って呼んでるの?」
「ルイズ達には言ってなかったですか?私に身寄りが無いのは不憫だと言って、お爺様が養女にしてくださったんです。だから、こうしてここの生徒をしていられるんですよ」
「えぇ!?ちょ、聞いてないわよ!?」
よく考えたらルイズ達には言って無かった気もしますね。あとでここに来た経緯を詳しく話すとしますか。彼女達なら構わないでしょう。
「ふぅむ、後を追おうにも手掛かり無しか。困ったのぅ……」
遺留品の一つでもあればそこから何かしらの手掛かりを探せるかもしれないですが、あるとしてもゴーレムの材料だった土くらいで、しかもそれは学院の周囲にあったもの。なんの役にも立たないです。
「む?コルセット君、ミス・ロングビルはどうしたんだね?」
「コルベールです。ミス・ロングビルは朝から姿が見えませんで」
そう言えば、教師の全員が集まっているのにロングビルさんだけ姿が見えませんね。仕事ぶりは真面目と言える彼女が、無意味とはいえこうやって皆が集まっているのに自分だけ来ないというのは変ですね。
「この非常時にどこ行ったのじゃ」
「さぁ?どこなんでしょう?」
見渡してもあのメガネの知的美人の姿はないです。彼女が常にお爺様の側にいなければならない理由はないですが、これだけ集まっているのですから何か他に仕事があっても何事かとこちらに来てもいいと思うですが。
あぁ、そう言えばここは電話などがない世界ですから、衛兵などに通報するのも自分で出向かなければいけないですし、そう言う事で席を外しているのかもしれませんね。
「ただいま戻りました」
噂をすれば影が差すです。
集まった教師達の間を縫ってロングビルさんがやって来ました。
「ミス・ロングビル!一体どこに行っていたのですか!大変ですぞ!事件ですぞ!大事件ですぞ!!」
コルベール先生がようやく現れたロングビルさんにまくし立てるようにそう言ったです。事件なのは見れば分かりますが、そんなにまくし立てる事もないでしょうに。
「申し訳ありません。朝から急いで調査してたもので、来るのが遅れました」
「調査、ですと?」
「えぇ、そうですわ。今朝起きてみたらこの騒ぎではないですか。宝物庫もこの通りですし、壁にあるサインで、今国中を騒がせている盗賊の仕業と分かり、直ぐに調査を開始したのです」
起き抜けでそこまで動くですか。
「仕事が早いのぅ、ミス・ロングビル」
「そ、それで結果は?」
「はい。フーケの居場所が分かりました」
「な、なんですと!?」
コルベール先生が驚きの声をあげます。他の教師達も驚きでざわつき出しました。
それはそうです。仮にも国中を騒がす大泥棒だというのに、個人がちょっと捜査しただけで見つかったなどと言われれば、誰でも驚くです。
「一体どう捜査したんだね?ミス・ロングビル」
「近在の農民達に聞き込んだ所、近くの森の廃屋に入っていく黒いローブを着た人物を見たそうです。おそらくですが、その人物がフーケで、廃屋はフーケの隠れ家の一つではないかと」
「黒いローブ…?それはフーケです!間違いありません!!」
服装だけで決めつけるにはどうかと思うですが、手掛かりの無い今の状況では少しの情報も無駄に出来ません。近所に住んでいる農民が怪しいと言うのなら、少なくても彼らが知っている人物では無いと言う事でしょう。ふむ………
「お一人で捜査したですか?」
「えぇ。皆さんなにやらお忙しいようでしたので。聞き込みくらいなら、私一人でも出来ますしね」
にっこりと笑って答えるロングビルさん。
確かに聞き込みは一人でも出来るでしょうが、それで国が追っているほどの泥棒の居場所が分かるなんて、本当ならどれほど衛兵が無能なんだと言う話になります。
「その廃屋は近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬で4時間といった所です」
「直ぐに王室に報告しましょう!王室衛士隊に頼み、兵隊を差し向けましょう!」
コルベール先生は直ぐに通報しようと言いますが、今の話、少しおかしくないですか?
歩いて半日、馬で4時間なんて行って帰ってくるだけで一日潰すほどの距離です。彼女も魔法使いですし、魔法でどうにか出来るでしょうが、それでも聞き込みの時間は短縮出来ないはず。朝動き出して、この時間に全てを終わらせて戻ってくるなんて出来るはずがないです。協力者が居るならそれも可能かと思ったですが、一人でやったと言うですし。………ふむ。
「ばっかもん!王室なんぞに知らせてる間にフーケは逃げてしまうわい!その上、自分達に降りかかった火の粉を自分で払えぬようでは魔法学院の恥じゃ!盗まれた物は魔法学院の宝、当然儂等自身で解決するのじゃ!衛士隊なぞ必要ない!」
お爺様が高齢とは思えない迫力でそう叫びます。
一喝された教師達が黙り、皆居住まいを正します。その様子をニッコリ笑ってロングビルさんが見ています 。満足そうなその表情から見るに、この展開は予想していたようですね。
お爺様は咳払いをしてから教師達の前で更に声を張り上げます。
「では、捜索隊を編成する!我はと思う物は杖を掲げよ!」
そう言って隊員を募りますが、困った様に顔を見合わせるだけで誰も杖を上げません。
「どうした、誰も居らんのか!?フーケを捕まえて名をあげようと言う貴族は!」
こうまで言っても誰も動きません。先ほどまでの勢いはどうしたのか、皆沈黙しています。
誰もが動きを見せない中、スッと私の隣に居たルイズが杖を上げました。
「ミス・ヴァリエール!?何をしているのです!貴女は生徒ではありませんか!ここは教師に任せていれば……」
「誰も掲げないじゃないですか。ならば貴族として、私がやります!」
確かに、誰もが尻込みしている教師達を見てれば、自分で動こうと思うのも当然です。ルイズは特に貴族としての誇りを大切にしているようですし、動かない教師達にあきれてしまったのでしょう。きゅっと唇を結び、真剣な顔でコルベール先生に言い返します。
その姿はとても凛々しく、整った容姿も相まって、一枚の絵画のようです。隣にいる才人さんも彼女に見惚れているようでポカンとしています。
「ミス・ツェルプストー!?君まで何を!?」
「ヴァリエールが行こうって言うのに、私が行かないなんて家名に傷が付きますわ」
更にキュルケまで杖を上げました。ライバル視しているルイズが行くのに、自分は行かないと言うのは、つまり自分の方が劣っていると言うことになる。そんな風に考えて居るのでしょう。誰もそこまでは思わないでしょうが、それでも彼女には行く理由としては十分のようです。
そんなキュルケ達を見て、タバサも杖を上げます。
「タバサ?あなたは別にいいのよ?」
「心配」
彼女達が心配と言いたいようですね。短い言葉の中にも、彼女達を思いやる気持ちがこもってるです。キュルケも感動したのか、そんなタバサを抱きしめてます。
「……タバサ、ありがとう」
ルイズも友達思いの彼女にお礼を言います。しかし言われたタバサはと言うと、キュルケが抱きしめ頬ズリしながら振り回すせいで答える余裕がなさそうです。まぁ多分、気にしなくていいとか、そんな事を言うでしょう。
お爺様がうんうんと微笑ましそうに彼女達を見て、その目がついっと私に向きました。
みんなが行くのに、一人だけ残る訳にはいかないでしょう。私もその視線を見つめ返しながら、月の付いたいつもの杖を掲げます。
「ミス・ファランドール!君まで行こうと言うのですか!?」
「ミスタ・コルベール。みんなが行くのに、私だけ行かない理由は無いです。それに……」
「それに……何だね?」
「この程度の困難から逃げているようでは、私の仲間達に笑われてしまいます」
国を騒がせるほどとはいえ、たかが泥棒相手に、世界を滅ぼそうとする秘密結社と全面衝突した
「オールド・オスマンよろしいのですか!?生徒達をそんな危険に晒すなど!私は反対です!」
「ふむ。では、君が行くかね?ミセス・シュヴルーズ」
「い、いえ……。私は体調が優れませんので、ちょっと……」
正義感あふれる麻帆良の教師とはまるで違うですね。彼らはむしろ自分が自分がと言って、結局全員で任務に当たろうとする位ですからね。
「彼女達は敵を見て居る。それにミス・タバサはこの若さでシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いて居るが?」
シュヴァリエ、騎士ですか。彼女には戦闘経験があるだろうとは思ってたですが、騎士とまで呼ばれるほどなら納得です。むしろ、彼女の技量でただの生徒だったらその方が驚きでしょう。
「本当なの、タバサ?」
キュルケも驚いて顔を覗き込んでます。親しい友人である彼女にも言ってなかったとは。隠していたのか、ただ言う必要の無いことだったからなのか。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を多く排出している家系の出で、彼女自身もかなり強力な炎の魔法を使うと聞くが?」
タバサの顔を覗き込んでいたキュルケがその声に顔を上げ、得意げに髪をかき上げ周りを見回します。今まで火を使う魔法使いはアーニャさんやカッツェ達くらいなものでしたから余り詳しくはないですが、戦闘で非常に有効な属性である事は知っています。彼女の魔法も十分戦闘に耐えられるものですし、荒事になっても接近さえされなければ問題にはならないでしょう。
「そして、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを排出するヴァリエール公爵家の息女で、彼女自身も将来有望なメイジであり……えー、更に!彼女の使い魔は平民でありながら、グラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンと決闘をし、勝ってしまう程の剣の使い手である!」
ルイズの魔法は、爆発しかしないせいで軽く見られがちですが、その威力は半端ではないです。簡単な障壁とは言え軽く越えてくるその威力は、命中さえすればだいたいの相手を一撃で倒せるほどの物です。この三人がパーティを組めば、そこらの野盗程度ならかすり傷すら負わずに倒せるでしょう。
「最後にユエ君。ミス・ファランドールは、東方から留学してくる際、ドラゴンの群れに襲われるも、船を守るために単身飛び出し見事救ってみせる程のメイジじゃ。この4人が揃っているなら、いかにフーケと言えども手も足も出まい。この中でこの4人に勝てると言う者が居るならば、一歩前に出たまえ」
もう誰も文句を言いませんでした。私の紹介はおまけみたいな物でしたが、キュルケ達3人の肩書きは教師達をうならせるには十分な代物だったようです。
「魔法学院は、君たちの努力と貴族の義務に期待する。任せたぞぃ」
お爺様が威厳ある声でそういうと、ルイズ達は真顔で直立し、「杖にかけて!」と唱和しました。そういうのがあるなら事前に教えてほしいです。才人さんも慌てた様子で、スカートをつまんで礼をする彼女達に合わせ、服の裾をつまんでお辞儀をします。いえ、それはどうかと思いますよ、才人さん。
私も少し遅れてですがアリアドネー式の敬礼をします。
本来は剣を持ってやるものですが、ここで剣を出す訳にもいかないので、杖を持って行います。もうちょっと長い物ならそれでも格好が付いたのですが、このサイズの杖ではちょっと締まりませんね。
ほら、ルイズ達の視線がちょっと変です。やっぱり剣を出してやるべきでしたか。
「では、馬車を用意するのでそれで向かうのじゃ。魔法は目的地まで温存して置きたまえ、何かあったとき魔法が使えんじゃマズイからの」
「オールド・オスマン、私が案内致しますわ」
「おぉ、そうしてくれるか、ミス・ロングビル。実力は問題ないが、やはり生徒じゃしな。彼女達を手伝ってやってくれ」
「元より、そのつもりでしたわ。オールド・オスマン」
ニコリと笑って礼をする彼女。その美貌の裏で何を考えているのでしょうか。
私たちはロングビルさんの運転する馬車に乗って早速出発しました。
馬車と言っても、馬で引く荷車です。何かがあって飛び出さないといけない時に、出入り口が一つでは都合が悪いですから、全方位が開いているこの馬車になったです。
「ミス・ロングビル、御者なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
黙々と手綱を握るロングビルさんにキュルケがそう声をかけました。
「いいのです。私は貴族の名を無くした者ですから。これくらい自分でやらないと」
そう微笑みながらロングビルさんはキュルケに返します。
貴族の名を無くしたとはどういう事なのでしょう。そういえば家を捨てたりなんたりで貴族じゃなくなる人も居ると言ってたですね。彼女の性格が見た目通りではない可能性もありますが、勘当されたとは考えにくいですし、何か別の理由があるのでしょう。
「でも、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょ?それなのに、ですか?」
「えぇ。でも、オールド・オスマンはそういう事に拘らない方ですから」
確かに、身分じゃなく人柄や能力を重視しそうですね。貴族平民と言う身分を気にせず、仕事がこなせる能力があれば構わない。現代にも通じる考え方です。さすがお爺様。
「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
どうして貴族の名を無くしたのか気になったらしいキュルケがそう聞きますが、ロングビルさんは軽く笑うだけで答える事はありませんでした。余り言いたくはないのでしょう。
「いいじゃないですの、教えて下さいな」
それでも興味が尽きないのか、キュルケは彼女ににじり寄りながら再度問います。一度興味を持つと、全部知らないと気が済まないと言う人種も居る事は知ってましたが、キュルケもそうなのですね。ハルナ的性格な上に、朝倉さん要素も持っているとは、忙しい人ですね、キュルケ。
「ちょっとよしなさいよ、昔の事を根掘り葉掘り聞くなんて」
「何よ、ヴァリエール。暇だからおしゃべりしようと思っただけじゃない」
「あんたのお国じゃどうか知らないけど、トリステインじゃ聞かれたくない事を無理矢理聞き出そうとするのは恥ずべき事なのよ」
犯罪者でも黙秘権なんてものがあるですしね。今回のはキュルケが悪いと言えるでしょう。キュルケも自分の行いが悪い事と分かっているからか、ぶすっとした表情で足を組んで荷台にもたれ掛かりました。
「ふぅ、じゃあ、どう暇をつぶそうか。タバサも本を読んでて相手してくれないし、ルイズでもからかってようかしら」
「あのね……、そういうことは本人に言う事じゃないわよ?」
今からからかいますと言ってからかう人なんて居ないですしね。
「そうだ、ユエ。さっき学院長室でやってたアレってなんなの?こう、杖を立てて、左手をこうしてやってた奴」
「あぁ、あれは私が入っていた騎士団の敬礼です。本当は剣を持ってやる物なので、少し不格好になってしまいました」
「あぁ、昨日言ってた奴ね」
納得と言った様子で頷くキュルケ。やはり
「んん?ユエって、騎士団に入ってたの?」
「そうらしいわ。なんでも女だけが入団出来る部隊なんだとか」
「へぇ……。あんな訓練してるユエが入る騎士団って、どれだけ強いのかしら?」
「どうでしょう?私が入っていた時は、訓練兵としてだったので警備の仕事しかしませんでしたし、実際に戦っている所を見た事はないです」
訓練兵として入ったばかりだった上に、世界の行く末を決める大決戦が始まったものだから、結局中途半端な感じで帰ってきてしまいましたからね。本来、どれほどの物なのかと言うのは、結局知らずじまいでした。まぁ、一国の正規騎士団です。弱いはずはないでしょう。
カッポカッポと馬の蹄の音を聴きながら、所属していた当時の事を話します。
初仕事だと張り切って出撃してみれば、暴れていたのは知り合いだったとか、見たい拳闘試合がある時に警備の仕事が入って見れなくてガッカリしたなどと、他愛ない話をして退屈な移動時間を楽しみます。
「これから泥棒退治をしようって時に緊張感がないなぁ」
「まぁ、そうですが。暇なのはどうしようもないです。なんなら本でも読みますか?」
私は日本から持ってきた本の幾つかを取り出し才人さんに渡します。相当数持って来たので、いくらでも貸せるです。
「なになに……、[存在の意味 存在を証明する為の計算式]。……なにこれ?」
「存在とは何か。存在を証明する為には何が必要なのか。などを計算式を使って説明している本です。中々興味深い内容なので、時間を忘れて読めますよ?」
「………ごめん。勘弁して。」
パラパラっと数ページめくっただけで拒否反応が出たのか、げんなりした表情で返して来ました。まぁ、この手の本は人を選ぶので仕方ないとは思うですが、もう少し頑張って欲しかったです。
「漫画とかない?」
「漫画は余り読まないので。文学書や哲学書、あとは魔法書くらいですね」
「魔法書読みたい」
荷台の端に座って本を読んでいたタバサが、一瞬で数センチほどまで詰め寄って来ました。目を輝かせて魔法書への期待を募らせています。
「か、構いませんが、私の国の本なので字が読めないかも知れないですよ?」
「大丈夫」
まぁ、そうまで言うならお貸しするです。私は軽く手を振って本を取り出し彼女に渡しました。受け取ったタバサは、大事そうに抱えて端まで戻り読み始めました。小さく呪文を唱えているようですが、なんの呪文でしょう?
「あれはリードランゲージっいうコモンマジックよ。文字の意味が分かる様になる効果があるわ。まぁ、読めるだけで書ける様になる訳じゃないけどね」
私が不思議そうに見てたからか、ルイズがそう解説してくれました。つまり、翻訳魔法の文字ヴァージョンと言う訳ですか。私がここの文字が読めるようになったのも、その魔法が掛かっているからでしょう。文字まで翻訳出来ると言うのは、結構凄い事だと思うのですが。
「あ~あ、これで読み終わるまで何してもタバサは本から目を離さないわ」
「何しても、ですか?」
「そうよ。前に凄く探してやっと見つけたって言う本を読んでた時は、服を全部脱がしても全く気付かなかったわよ?」
「キュルケ、あんたそれ犯罪よ?」
「お風呂に入れる為にやったのよ。ずっと読んでて、入ろうともしなかったから」
「そこまでですか。早まったですかね?」
「まぁ、この子も今の状況は分かってるはずだし、着いたら動くでしょ」
キュルケはそう言いながらタバサの頭を撫でてます。確かに、読書に夢中で泥棒退治出来ませんでした。なんて笑い話にしかならないですしね。
「……あら、ダーリン?私の下着、お気に召して?」
「うぇえっ!?」
組んだ足の隙間から少しだけ下着が見えていたようで、だらしない表情を浮かべて覗いてた才人さんに、シナを作りながら笑いかけるキュルケ。余り同世代の男性と関わらなったので分かりませんが、皆こうもスケベだったでしょうか。それとも才人さんが特別スケベなのか。ルイズも事態に気付き、才人さんを鞭で殴りに掛かります。
「何考えてるのよ!下着を覗くなんて、このスケベ!しかも、よりによってツェルプストーのなんかを!!せめてユエにしなさい!」
「ち、違うぞ!?見ようとしたんじゃなくて、たまたまだな……っ!え!?夕映ならいいの!?」
いい訳ないです。
不穏な事を言いながら、常備していた乗馬用の鞭で才人さんの頭を何度も叩くルイズ。状況に応じて使い分けるとは。怒りながらも、嬉しそうな表情がとても気になります。
「いいじゃない、別に。私は見られても平気よ?そりゃあ、恥ずかしくはあるけど、ダーリンが見たいって言うなら構わないわ」
そういって才人さんを見ながら足を組み替え、腕で胸を押し上げるキュルケ。その大きな胸が更に強調されるのと比例して、才人さんの鼻の下が更に伸びます。
「え~い!やめなさい、このおっぱいお化け!サイトも何鼻の下のばしてるのよ!!」
「いた!痛いって、ルイズ!でも、普通の痛みで少し安心……」
才人さん………、もう手遅れですか?
「……やっぱり、私も鞭を一本手に入れた方がいいかしら?ダーリンの趣味に合わせるためにも」
叩かれて安心したように笑う才人さんを見て、キュルケが真剣に考え込んでます。
「イヤ、俺叩かれるのが趣味じゃないからなっ!?」
まるで説得力のない才人さんの叫びが聞こえます。きっと空耳でしょう。
「ねぇ、ユエ。やっぱり鞭持った方がいいかし………、そうだ!忘れてたわ!」
私に鞭を持つべきか否かを聞こうとしてたっぽいキュルケがいきなりそう叫びだしたです。
「な、何よキュルケ。いきなり大声出して……」
「ふっふーんっ、すっかり忘れてたけど、暇つぶし出来る話題を思い出したのよ。さぁ、ユエ………」
ニヤリと笑って私の肩を抱き、キュルケがすり寄ってきたです。
「あなたの恋のお話、今こそ聞かせてもらうわよ!!」
いつぞや食堂で口を滑らせたアレを今持ち出してきたですか!
もうすっかり忘れてくれて居たと思ったら、逃げ場のないこんな所で思い出すとは!
「え?なになに?ユエの恋の話?それどんな話なの?」
むむむ。ルイズもやはりお年頃だからなのか、やたらと興味津々で聞いてきます。
これはピンチです。一体どうやって逃げ切れば………
「い、いえ私の話なんてつまらない物です。目的地に着くまで昼寝でもしてましょう。ほら、せっかくこんなにも良い天気なのですから!」
「ふっふっふっ、そんなことでは誤魔化されないわよユエ?」
キュルケが私にぴったりとくっつき、頬を突きながら笑います。
「ユエの恋かぁ………。ちょっと興味あるわねぇ。一体どんな相手だったのかしら?」
ルイズまで私の隣に移動してきて聞き出しにかかります。味方は、味方は居ないのですか!
タバサは未だに本を読んでますし、才人さんはあてになりません。
「み、ミス・ロングビル。疲れたでしょう、御者を代わるですよ!」
このまま荷台に居たらずっと質問攻めになることはすぐ予想出来ます。少しでも距離を稼がなければ、根掘り葉掘りネギ先生との事を聞かれる事になるでしょう。これで実っているならともかく、振られた事を話すなどむなしいだけです。
「いえ、大丈夫ですので、着くまで楽しくおしゃべりをしてて構いませんよ?」
にっこり笑う彼女は、私が逃げようとしてる事に気づいてるようですね。その上で逃げ道を取り上げるとは、この馬車に味方は居ないようです。
「ほーら、ユエ。言わないとスカートめくっちゃうわよ?」
「やめるです!私に露出趣味はありません!タバサ、助けて下さい!」
「がんば」
巻き込まれるのを恐れてか、弟子にも見捨てられました!
本格的に味方が居ないです。才人さんは相変わらずポケッとしてますし、ロングビルさんは我関せずを貫く姿勢。こうなったら………
「さぁさ、時間はたっぷりあるのよユ………」
パチンッ パタッ
指を鳴らして発動させた無詠唱の
「え?ちょっ……スゥ…」
「ふぅ………、これで良し……」
ぐたっと倒れて眠る二人を脇に押しのけて一息つきます。
初めからこうしておけば良かったです。まったく、無駄に疲れました。
「ちょ、夕映?……二人は一体どうしたんだ?」
「さぁ、疲れて眠ってしまったのでしょう。気にする事はありません」
「いや、今あきらかにおかしかったぞ?魔法でも使ったんじゃない……」
パタッ
要らない追求をしてくる才人さんも夢の世界へご案内です。
これで一安心です。タバサは変な事をいちいち聞いてきませんし、ロングビルさんは御者に専念してるようですし?
「そろそろ半分くらいは来たですかね?ロングビルさん」
「え、えぇ。そうですね。ちょうど後半分と言った所でしょう」
魔法を使って強硬手段に出た私に若干引いてる様な態度で返してきましたが、見捨てた仕返しなんてしませんので安心して下さい。
「もう全員寝てしまいましたし、私も昼寝でもしましょうか。あ、疲れたのなら言って下さい。御者代わりますよ?」
「えぇ、大丈夫ですわ。着いたら起こしますので、それまでお休みになっていてもいいですよ?」
ちらりとこちらを振り返り、ロングビルさんがそう言います。良い天気ですし、風も穏やか。景色は草原が広がりとてものどかで、昼寝にはぴったりのロケーションです。しかし、その前に少し確認しておきましょうか………
「ところで盗まれた破壊の杖とは一体どんな物なのですか?」
「破壊の杖、ですか?私は良く知らないのですが、昔オールド・オスマンが旅先で見つけた宝杖だそうですよ?」
「よく知らない、ですか。見た目とかも分かりませんか?」
こちらに軽く目を向けながら彼女は質問に答えてくれます。
「以前、宝物庫の目録を作ろうと中に入った時に見たのですが、ずんぐりとしていて、くすんだ緑色の太い杖だったと記憶してます。普段持って振り回すには、少し重そうな見た目でしたわ」
緑で太い杖ですか。
一体どんな代物なのでしょう。破壊の、と言うくらいですから相当な威力を発揮するのでしょうが、それはどう発揮されるのか。魔法が増幅されるのか、はたまたその杖自体が何かの魔法を発動させるのか。
「しかし、何故そんな良く分からない物をわざわざ盗み出したのですか?朝ちらっと見ただけでも、それなりの価値があると素人目にも分かる物が多数あったと言うのに、破壊の杖だけを盗み出すとは。その杖がどういう物か知っていたとか?」
「……泥棒の考える事は分かりかねます。おおかた、どこかの好事家に売りつけようと思ったのかも知れませんわ。そういう物好きは、ほしい物には糸目を付けないそうですし」
コレクターとは確かにそんな感じですね。
ハルナが見ていたサイトではどう考えても高すぎると思える値段で同人誌が売り買いされてましたし、フィギュアも何万なんて値段が付いている物もあって、しかもそれが当然だと言ってたですし、そういう人達はほしい物はどんな事をしても手に入れようとするのでしょう。ちょっと無理にバイトしてみたり、盗品と分かっていても手を出してみたり。
「そういえば、フーケとやらの性別はどちらなのですか?男性?女性?はたまた両方?」
「りょ、両方ってなんですか……。一般的には男だと言われていますが、それが一体?」
「いえ、男性と女性では考え方が違ってきますので、フーケの次の行動を予測するには性別などの情報も知っておいた方がいいと思いまして」
私は前を見たまま手綱を操る彼女を見ながらいろいろな質問をしていきます。
巷に流れているフーケの特徴やどんな犯行をしてきているのか等、考えつく限りの質問をしました。そのどれもに淀みなくさらりと返してくる彼女。優秀な秘書を越えて、もはやフーケマニアと言えそうなほど詳しいですね。
「あの………、何故そんなに詳しく聞くのですか?」
あまりにいろいろ聞いたせいか、困惑した様子でそう聞いてきます。
「私は、フーケに関して余り知りませんので。知っての通り、このトリステインに来たのもつい先日ですからね。衛兵の詰め所にフーケの手配書が張ってあったのを見た程度でしかありません」
後は昨日見た人影と巨大なゴーレムくらいです。
暗かったので顔も見れませんでしたが、少なくとの細身の体型だというのは分かりました。まぁ、ハルケギニアでは太っている方が珍しいようですが。
「それにしても、随分詳しいですね。フーケマニアですか?」
「ブフッ!な、なんです?マニアって。聞き込みをする為に調べたのですよ。これから聞こうと言うのに、何を聞けばいいか分からないようじゃダメですからね」
まぁ、そうですね。リンゴを知らない人が、リンゴの事を聞こうとしてもどう聞いたらいいか分からないですし、理にかなってます。
「……森が見えて来たですね」
「あの森の中にある廃屋がそうです。もうじきつきますよ」
なかなか深そうな森です。地元の人間でも早々入って行きはしないのではないでしょうか。道はどうにかありますが、余り手の入って居ないようでかなり鬱蒼としています。
「竜種などが住んでいない事を祈るです」
「こんな人里近くに竜はいませんよ」
「油断大敵です。いきなり現れて、服を全部吹き飛ばしたりしますからね」
「どんな変態ドラゴンですか」
カマイタチブレスで服を吹き飛ばされた恨みはまだ忘れていません。角を折って一応借りは返したですが、まだまだ足りないです。またいつか出会ったら、今度は一人で倒して見せるです。
「そろそろ皆さんを起こした方がいいのでは?」
「そうですね。フーケに寝ている所を襲われたらマズイですし。……結局昼寝は出来ませんでしたね」
パチンと指を鳴らし、ルイズ達に掛かっている魔法を解除します。そろそろ木の根などのせいで馬車も進みづらくなってきたですし、降りて歩いて行ったほうが良さそうです。
「んあ………、あれぇ……?」
「ルイズ起きるです。そろそろ目的地ですよ」
寝ぼけ気味に目をこすっているルイズに声を掛けていると、他の二人も起き出しました。
「ん………?何で私寝て……?」
「……目が覚めたら森の中かよ」
三人が、状況が分からずぼーっとしている間に、馬車は森の中へと続いている小道の前で止まりました。昼間だと言うのに薄暗く、かなり不気味な雰囲気です。夜には来たくないですね。何か出そうです。
「ここからは歩いて行きましょう。馬車では通れません」
ロングビルさんの言葉に私とタバサはさっと降りますが、起き抜けの三人は動けないでいます。
「ほら、三人とも。目を覚ますです。いつ出てくるか分からないんですから」
「何で急に寝ちゃったのかと思ったけど、ユエの仕業ね?魔法で眠らせるなんてヒドイじゃない」
「はてさて、なんの事にゃら」
誤魔化そうとしてたら頬を引っ張られたです。加減してくれているので痛くはないですが、ちゃんとしゃべれません。
「はぁ、まったく。また今度、絶対聞かせてもらうわよ」
次もこの手で行きましょう。
私たちはそのまま森の小道を進みます。細い獣道と言った感じですね。光もかすかにしか入ってこない森の中はやはり不気味です。得体の知れない物がいきなり飛び出してきたりしそうですね。幽霊程度ならまだいいですが、見ただけで怖気が走るような奇妙な生き物が出てきた時には、取り乱さない自信が無いです。変なエンカウントをしない事を祈ります。
「お、開けてきたぞ?」
細い小道を抜けると開けた場所に出ました。
学院の中庭ほどもある広場で中央に小屋が建ってますが、結構ボロボロですね。いくつか薪が残ってるものの、使わなくなってずいぶん立つのでしょう。
「私の聞いた所では、あの建物の事だったはずです」
「なによ、ただの炭焼き小屋じゃない。アジトって言うからもっと要塞みたいなのを想像してたわ」
あれがフーケの隠れ家ですか。実際に使っているかは知りませんが、隠れる事を目的とするなら十分でしょう。どうやら他に人の気配はありませんし、共犯が潜んでいる可能性は考えなくて良さそうです。
「中を確かめてみましょう。フーケ自身は居ないでしょうが、何か手がかりになる物があるかも知れません」
朽ち果てた炭焼き用の釜や壁板の外れた物置などを見ても、普段誰かがここに住んでいるという事はないですね。今回の為に急遽探してきた物件なのでしょう。特に警戒することなく近づく私に、キュルケ達も慌てて付いてきます。
「ちょっと、そんな無防備に近づいて、罠でもあったらどうするのよ?」
「私なら、罠を仕掛けてここを使っている事を教えるなんてマネはしません。国中でメイジ相手に暴れ回り、未だに捕まらない様な相手です。そんなマヌケな真似はしないでしょう」
罠を仕掛けるという事は、そこに誰か居たと教えるようなものですからね。これだけボロボロなのに、近所の農民が出入りしてるという事はないでしょうし、農民が家に罠を仕掛けるのはおかしいです。仕掛けるなら、せめて森の中にするでしょう。それに小屋を守るために仕掛けたと言うのもあり得ません。それだったらまず小屋の修理をするはずですから。つまり罠があったのなら、それは農民以外の誰かがここに来たと言う事の証明になるです。
「一応魔法で罠がないか調べてみましょう?タバサお願い」
ルイズがそういうと、タバサは小さく頷き小屋に向かって杖を振りました。
タバサは、魔法の効果を2,3回頷きながら確認して、
「罠はないみたい」
と、報告しました。
それを聞いて私達も小屋に近付きます。周囲や小屋の中に人の気配はないですが、一応杖を構えてから扉を開けます。
中はホコリだからで、歩いた所がすぐ解るほどです。廃屋になるくらいですし、相当長い事使ってなかったのでしょう。何故ここを選んだのか。
「うっはぁ、ほんと埃だらけだな。何年掃除してないんだろう」
「何かありましたか?」
「いんや、何にも。そっちはどうだ?」
「こっちも何もないわ。本当にフーケのアジトなのかしら?」
そんなに広くない小屋の中ですから、探すところはそれほど多くありません。動き出すのを待つしかないですね。
「私は外を見張ってるわ」
「では私は周辺を見て来ます。ここ以外に何かあるかも知れませんから」
そう言って、ルイズは小屋の外に、ロングビルさんは森の方へと歩いて行きました。
私がそれをじっと見ているとタバサが近寄ってきて、
「見つけた」
「へっ?」
見れば緑色でタバサの足と同じくらいの長さの箱を持ってます。
「これが破壊の杖ですか?」
「え!?見つけたの!?」
「まじかっ!?」
キュルケと才人さんも慌てて近寄ってきます。フーケを探していたら、いきなり本命の盗品を見つけました。なんて運の良い。
「確認してみましょう」
私はタバサから受け取った箱を床に置き、開けてみました。
中に入っていた物は、確かにロングビルさんが言っていた通りにくすんだ緑色をした太い一本の………
「って、ロケットランチャーじゃねーかっ!?」
実物は見た事ないですが、映画とかでたまに出てくるあのロケットランチャーでした。何故にこんな物が破壊の杖なんて名前を付けられてここにあるのか。私の様に飛ばされて来たのか、あるいは外見が似てるだけの別物なのか。
「これが破壊の杖ですか………?」
「ええ、そうよ。私見た事あるもの。結構前だけど、宝物庫を見学したときにあったわ」
どうやら間違いないようです。なんでまたこんな物が。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
私がロケットランチャーを見て首をひねっていると、外からルイズの悲鳴が聞こえて来ました。その声に驚いてドアの方を振り向くと、大きな音を立てて屋根が吹き飛びました。
「な!屋根が!?」
「ゴーレム………フーケだわ!」
屋根が無くなって外が良く見えるようになると、そこには巨大なゴーレムが立っていました。どうやらその大きな手を振り回し小屋を吹き飛ばしたようですね。
ふむ、早速動き出しましたか。
「ルイズ大丈夫かっ!?」
才人さんがルイズの安否を確認している間にタバサが魔法を放ちました。
杖の先から放たれた竜巻はゴーレムに命中しましたが、軽く弾かれました。かなり強力な魔法のはずですがビクともしません。
更にキュルケが胸の谷間から杖を抜き呪文を唱えます。というか、どこにしまってるですか。
ドォン!
キュルケの魔法がゴーレムに命中しましたが、まるで効かないです。火に包まれても意に介さず、軽く腕を振るだけで掻き消してしまいました。
「無理よこんなの!」
キュルケがそれを見て叫びます。確かにこれは厳しいかもです。
「退却」
タバサがそう呟き、キュルケと揃って下がります。
タバサが指笛を吹き、シルフィードを呼び出しました。一拍置いてやって来たシルフィードにキュルケとタバサが乗って飛び立ちます。ゴーレムの周りを周回しながら魔法を撃ちますが、崩された部分が勝手に再生されていき、まるで効果がありません。
「逃げろルイズ!」
ゴーレムの背後から魔法を撃っていたルイズを才人さんが逃がそうとしますが、ルイズは聞き入れません。
「イヤよ!ここで逃げたら何の為に来たのか分からないじゃない!それにあいつを捕まえれば、もう誰もゼロのルイズとは呼ばないでしょ!?」
ルイズがとても真剣な目でそう怒鳴りました。
ゴーレムの近くに立ち、杖を構えながらルイズはなおも逃げずに居ます。ゴーレムがキュルケ達に向いてる間に逃げて貰わないと、動き出したら踏まれてしまうかもしれないです。
フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ
ゴーレムの頭を狙って
「ルイズ!あの大きさじゃどうやっても勝てねぇって!一旦逃げるぞ!」
「いやって言ってるでしょ!?私はね!あいつを倒して胸張ってユエの友達だって言いたいのよ!ただ横にいるだけの取り巻きじゃなく、対等の友達だって!それに、ここで逃げたらまたゼロだから逃げたんだって言われるわ。そんなの我慢出来ない!」
……ルイズ。
何度も魔法を放ちながら、自分の気持ちを曝け出す彼女は、過去の、そして今ここに居る自分と重なります。やはり自分も対等に仲間だと言いたい、言えるだけの実力が欲しい。私が仲間と居る時に思っていた事を、今ルイズは私と居てそれを感じていたのですね。
「そんなの言わせて置けばいいし、夕映はそんな事で友達やめるような奴じゃないだろ!?」
「そう言う問題じゃないのよ。これは私のプライドの問題なの。誰がなんと言おうと、私が納得出来なきゃ意味は無いのよ」
分かります。皆が仲間だと言ってくれて、私もそうだと思っていますが、それでも一緒に居ていいのか不安になるんです。それだけの価値が自分にあるのか、分不相応ではないのか、そんな事ばかり考えてしまいます。仲間が信じられないと言う訳では決してありません。ですが、出来得るなら、仲間達とちゃんと肩を並べて居たい。私が留学を決意した理由の一つです。留学する所がないルイズにとってはこれはチャンスなのでしょう。自分が納得出来るだけの事をしないと、前に進めないから。
「ルイズ!一旦離れるです!そこでは近すぎます!距離を取らないと踏み潰されますよ!?」
飛び回るキュルケ達からすぐ近くに居るルイズにゴーレムが標的を変えました。
一歩で近づき、その大きな足で踏み潰そうと足を振り上げてます。
「危ねえ!」
「きゃ」
踏み潰される寸前に、デルフさんを握った才人さんがルイズを抱きかかえて飛びすさりました。
今のは間一髪ですね。間に合わなければ二人揃って死んでいたです。このままではマズイです。急いで倒さなければ、魔力切れを起こしてやられてるしまいます。
ゴーレムは更にルイズ達を踏み潰そうとしていますっ!
フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!
振り上げた足を撃ち砕き、一瞬動きが止まりました。しかし、それもすぐに再生して今度はルイズ達に向けて拳を振り下ろします。これでは切りがありません。やはり先にフーケを捕らえた方が早いかも知れないですね。
「これでどうよ!」[ファイヤーボール!!]
ルイズが迫り来るゴーレムに向かって魔法を放ちますが、相手が大きすぎるせいか、威力が強いはずの彼女の魔法でもイマイチ効果があがりません。そのまま拳で潰しに掛かるゴーレムの前に飛び出しルイズ達が逃げられるように盾になります。
全力で対物理障壁を展開してゴーレムを押し返すです!
くぬっ、流石にこのサイズはキツイですか。
「ユエ!?」
「今のうちに急いで!ぐっ!?」
どうにか右手を抑えたですが、連続で使えないと言う弱点のおかげですぐに来た左手での攻撃をモロに食らってしまったです。私は小屋を薙ぎ倒し、森の中にまで吹き飛ばされてしまいました。
やってくれますね。
しかし、好都合な事に少し離れた所に木に隠れてルイズ達を見ながら杖を振るロングビルさん、いえ、土くれのフーケを見つけたです。再生するゴーレムを倒すには、1に核を潰す事。2に術者を倒す事。ルイズ達相手にゴーレムを操作するのに集中していてこちらの事に気付いていない今なら簡単に倒せます。
私は気配を消してゆっくりと彼女の背後に移動します。障壁のないこの世界の人間では、至近距離で放たれた捕縛魔法を凌ぐ事は出来ないはずです。
静かに剣を装備して、捕縛結界弾を装填します。どんな奥の手を持ってるか分かりませんし、念には念を入れて行きます。
ドーンと言う爆発音が響いたと同時に、一気に距離を詰めて剣を突き付け、
「そこまでです」
軽く剣を背中に当ててから声を掛けると、彼女は驚いた様子でこちらに目を向けました。
「……一体何の真似ですか?」
「杖を捨てて下さい。とぼけても無駄ですよ。土くれのフーケさん?」
そう言うと観念したのか、ぽいっと杖を投げ両手を上げました。
「どうして分かったのかしら?」
「貴女の行動が不自然でしたからね。何かあると疑っていたのです」
「……気を付けていたつもりだったのだけどね」
上げていた手でメガネを取り、髪を下ろすフーケ。ゆっくりと振り返った彼女の顔はいつもの優しげな秘書ではなく、裏で生きる盗賊として相応しい鋭さを持っています。
「行動云々だけで私がフーケだって分かった訳じゃあないでしょ?」
「そうですね。秘書の仕事では無いはずの捜査、しかも衛兵が見つけ切れないフーケの足取りを掴んでしまう。いつ調べたのか、かなり詳細な情報。一個人には出来過ぎです。最初は協力者がいるのかと思いましたが、それは最初に否定されましたし。
一つ一つなら疑問にも思わない事ですが、全て揃うと最早怪しいですと言いふらしてる様にしか思えません」
それが全てではないですが、彼女を疑う様になったのはそんな理由からです。フーケは、私の話を興味深げに聞きながら左右に目を動かしています。多分、この状況からどう逃げ出すか考えているのでしょう。私は注意深く彼女の挙動を観察しながら、いつでも捕縛結界弾を撃てる様に構えます。そう簡単に逃がすつもりはありません。
その時、逃げようと隙を伺っていたらしいフーケがビクリと体を揺らし、目を見開いて私の背後を凝視し始めました。なんて古典的な手を出して来るですか。
「なんです?そんな古典的な手に引っかかるほど私は間抜けでは…………っ!?」
突然背後から殺気が叩き付けられ、私は考えるより早く飛びすさりました。
ドゴンッ!
巨大な棍棒がついさっきまで私が居た所に叩きつけられ、大きく地面を陥没させました。
木の葉が舞う中、棍棒の持ち主を見ると、身長2メートルはある二足歩行の豚でした。醜く太り、ブヨブヨなお腹を揺らしながら棍棒を持ち直すその姿は、少し鳥肌が立ちました。ここまで接近されるまで気づかなかったとは、フーケに集中しすぎたですか。
「お、オーク鬼………。なんで、こんな所に……?」
「これがオーク鬼ですか。この森が住処だったのでしょうか?」
「そんな訳ないでしょ?こんな首都近くにオーク鬼が居たら、城の衛士隊が退治に来るはずだし」
確かにこんな獰猛そうなモンスターが街の近くをウロウロしてたら気になって仕方ないですね。馬で何時間も掛かる所が"近く"と言っていいのか疑問ですが。
「1体くらいなら倒してしまいま………」
剣を構え直し、踏み込もうとしたら、更に後ろからゾロゾロとオーク鬼が出て来ました。二足歩行する豚さん、キャラクターとしてならば可愛く思える物ですが、実際に見ると、なんて言ったらいいか、その、気持ち悪いです。
私はいろんな亜人の方と出会い、何人も友人になって来ましたが、この人達とは仲良くなれる自信が無いです。いえ、話してみたらいい人だったりするかもしれませんが。
「あ、あのぅ、お邪魔してます……?」
「ぷぎぃ、ブヒィィッ!!」
声を掛けたら更にいきり立って、棍棒を一斉に振り上げたです!
私は急いで剣をしまい、フーケを横抱きにして、森から飛び出しました。あんな木が密集してる所では戦いづらいです。
ゴーレムの残骸らしき土の山の側で嬉しそうに手を振っているルイズ達の所まで、全力疾走します。
背後の気配は更に増えてる気がしますが、今は合流し、この事を伝える方が先決です。
目の前で揺れる大きな山を羨ましく思いながら、更に足に力を入れました。
こんな感じの第13話でしたぁ。
本当はもっと論理的に夕映が気付くはずだと思うのですが、自分の頭ではこれが精一杯。すいませんです。
最近誤字などより、ちゃんと書けたかの方がすこぶる気になるです。
もうちょっと自信を持って投稿できるように精進したいと思います。
でわ、また次回頑張りますのでよろしくお願いします。