魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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 夕映のSS、全然増えないですねぇ。誰か書いてくれないかなぁ………

 このSSを読んで、これくらいなら書けるぜぃ。と思って書いてくれないかなぁ。

 では、第十六話れっつごぉ


ゼロの旅16

 

 

 

 

 「ふっ、ん~~~っ!! はぁ~、疲れたです」

 

 優先的に整備清掃した大浴場で手足を大きく伸ばして疲れを取ります。

今まで維持管理されていた別荘しか知らなかったので、大いに荒れてしまった別荘に衝撃を受けたです。それでも、廃墟と言う程にはなってなかったのが流石はエヴァンジェリンさんの持ち物だと思うです。

 

 お爺様の話からして、少なくとも40年は放置されて来たはずですが、草木が奔放に育っていたり、プールにゴミが沈んでいるくらいで、建物自体は修繕する必要がなかったのは助かったです。

 

 流石に修繕までは自力では出来ないですからね。

 

 掃除をしながら別荘を見て回ったですが、これが何故時間と次元を越えて、ここハルケギニアに来たのかは一切分かりませんでした。ただ、妙に片付いていて、埃が積もっている以外はモデルルームのように綺麗でした。

 

 そして更に不可解なのが、エヴァンジェリンさん秘蔵のスクロールなどが納められた書庫の壁の一部が焼けていた事ですね。何を焼いたのか、何故そこでなのか分かりませんが、天井まで煤が届くほどの火の手が上がっていたようです。この別荘が、そこ以外片付いている事と何か関係があるのでしょうか。

 私の覚えている別荘の様子とほぼ変わらないはずですが、どこか引っ掛かるです。留学の為、魔法世界に向かう前日にも訪れた別荘と何かが違う。そんな気がするのですが、それが何なのかが分からないです。

 

 ……はふぅ。

考え事をしてたせいか、少しのぼせて来たです。掃除中に被った埃も流せたですし、そろそろ上がるとしましょう。

 

 「タオルをどうぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 掃除中に見つけたエヴァンジェリンさんの魔導人形の一体からタオルを受け取り体を拭きます。地下の方を見に行った際、待機室にいた彼女達を見つけられたのは僥倖でした。彼女達がいなかったら、たった三日で別荘を掃除しきるのは不可能でしたからね。

 

 発見した三体の魔道人形は、どうも契約が解除されたせいで魔力が空になり、終には機能を停止させるに至ったようです。私は、アーティファクトからドール契約の項目を呼び出してみて、自分でも契約出来ないか調べてみたです。その結果、三体なら私の魔力でも十分契約可能と分かり、早速契約する事にしました。起動の際に魔力をギリギリまで吸われたですが、その後は別荘に満ちた魔力だけで十分動けるようなので、実質ほぼ負担無しで彼女達を動かす事が出来たです。もっとも、戦闘機動を行うには少し足りないので、3体同時にやると私自身が全く動けなくなりますし、別荘の外では多分1体が限度でしょう。ここは要訓練ですね。

 

 とにかく私は起動させた彼女達を伴い、手分けして掃除する事にしました。一人でやるには広過ぎるですからね、この別荘は。彼女達と共に居住区や大浴場の掃除を終わらせると、次に上から地下までを順に綺麗にして行くのですが、流石に箒とちりとりだけでは時間が掛かり過ぎると言う事で、魔法で風を起こし、それを竜巻状にしてチリを吸い寄せ集めて行くサイクロン掃除機方式を採用してみた所、かなりの時間短縮が出来ました。魔力効率化の訓練にもなって一石二鳥です。我ながらいい事を思い付いたものです。

 そうやって修業を織り交ぜつつ、別荘内の時間で一週間、ようやく私の知る綺麗な別荘になったきたです。ここで一旦外に出て日常生活に戻る事にするです。余り別荘を使い続けると一人だけ余計に歳を取ってしまうですし、外ではもう夜も明ける時間のはすです。授業の為にも外に出なければいけません。

 

 「マスター、ゲート開放まであと二時間です」

 

 「分かったです。時間まで上で休憩するとします」

 

 ゲート開放、1日が終わり外へ出られるようになるまで二時間ですか。せっかく汚れを落としたので掃除の続きをするのもなんですし、時間までダラっとしてましょう。

 

 「お飲物は必要ですか?」

 

 「……ん? 何かあるのですか?」

 

 まだそこまで沢山持ち込んだ訳ではないので食糧はもう空だと思ったのですが、まだ残っていたのですかね。

 もしや、こちらに来る前に貯蔵していた物ではないでしょうね? お爺様が拾って40年、缶詰だって消費期限切れになるです。飲み物など、開けるのも憚られる腐海の毒と化しているでしょう。

 

 「ワインセラーが生きていました。確認した所、十分お飲み頂けると判断いたしました」

 

 ワインはそんなに日持ちするんですねぇ。お酒には詳しくないので、本当にそうなのか分かりませんが、彼女が言うのですから大丈夫なのでしょう。

 

 「……なるほど。では、適当な物を一本お願いするです」

 

 「かしこまりました、マスター」

 

 私を主としてドール契約したせいで、マスターと呼ばれるようになってしまいました。呼ばれる度にむず痒くなるので名前で呼んでくれと頼んだのですが、私達の御主人様なので名前で呼ぶなど畏れ多い、などと言って聞き入れてくれませんでした。

 

 私にとってマスターとはエヴァンジェリンさんを指す言葉だったので、なんとも妙な気持ちです。

 

 

 いつも修業の合間に皆で食事をしたり、お喋りに興じたりする闘技場横のテラスにて、潮風を感じながらワインを一口飲んでみます。

 

 「おぉ、これは美味しいです」

 

 「気に入って頂けたようで何よりです」

 

 こちらに来てからワインを飲む機会が多くなったですが、その中でも上位に入る美味しさです。まぁ、素人ですのでどう違うのかなどは分からないのですがね。

 

 そうしてのんびりとワインを飲みながら、私は餞別として渡された封印箱を手に取り眺めます。これは魔法世界のゲートポートで武器などを持ち込む際にも使われている物で、小さいながら容量は大きく、重量なども気にならない便利な代物です。今回の様に餞別を贈るのに使われるとは思わなかったですが。

 

 「色々あって開ける暇も無かったですが、一体何が入っているのでしょう?」

 

 私はテーブルから離れ、何が出てきても良いように闘技場で開ける事にしました。はてさて、一体何が出て来るやら。

 

 開封するとポンッと小気味いい破裂音を響かせて、封印箱は中身を吐き出します。そうして、まず目に入ったのは私でした。

 

 「な!? 私!? 」

 

 それは私の姿を模して作られた銅像でした。

何やら妙なポーズを決めた姿で佇む私の姿を見て、思わず頭を抱えます。このポーズ、ハルナが描く同人誌に時折出て来たものですね。ということは、これは確実にハルナの仕業です。しかも銅像になっていると言う事は、これを作ったのはいいんちょさんに違いないです。よもやあの二人が手を組んで来るとは思わなかったですね。本来の予定通りアリアドネーで開けていたらどうなっていた事か、考えたくもないです。

 

 とりあえず銅像はおいておくとして、他にも沢山あるのでそっちを確認しましょう。

どうやら他のは割とまともな物ばかりで助かったです。お菓子の詰め合わせセットにデコピンロケットのセカンドCD、バンドエイドのセットに猫の写真集。バスケットボールにリボン。この辺りはチア部の三人と運動部の四人ですね。

 

 新体操用のリボンを手に取ってちょっと回して見るですが、すぐ絡まってしまったです。よくまき絵さんはこんな物で色々出来るですね。これだけで十分魔法使いを名乗れるです。

 

 さて、次はこのやたらと高級そうな箱を開けてみましょう。私の身長ほどの長さがある箱で、とても重厚な造りになっています。もしかして、のどかの餞別はこれですか? 箱の造りを見ただけでも相当高い物ではと予想出来るですが、こんなのを本当に貰ってもいいのでしょうか?

 とりあえずその蓋を開けて中を確かめると、一本の見事な杖と指輪が入ってました。先端に三日月が付いていて、黒塗りのすらっとした杖と、細かい装飾がなされたこれまた見事な指輪のセットです。まず杖は、手に取ってみると見た目に反してズッシリと重く、それでいてとても手に馴染む肌触りです。かなりバランスよく作られているようで、軽く回したり振ったりしてみても、余計な力を入れないで取り回せます。そしてこの指輪も、しっかり私のサイズで作られたようで、中指にピッタリ収まったです。表面の細かい装飾は、素人目にも熟練の職人が手間暇かけて彫り込んだ物と分かる見事な細工で、これだけでも相当な価値があると思われます。

 

 これ、本当に貰っていいのですか?

 

 とりあえず箱の中に杖を戻すと、蓋の内側に貼られた手紙を見つけました。「ゆえへ」と書かれたそれを開き再生ボタンを押すと、手紙にのどかの姿が映し出されます。

 

 [ゆえ。 無事アリアドネーには着いたかな? ゆえが留学するって言った時はほんとに驚いたよ。でも、好きな事はとことん頑張るゆえだから、多分そうなるんじゃないかなとは思ってた。ほんとは一緒の高校に通いたかったけど、ゆえの夢の為だし我慢して応援する事にするね。アリアドネーでも頑張って。ゆえならきっと大丈夫だから。

 この杖と指輪は私達皆で材料を集めて、エヴァンジェリンさんに頼んで作ってもらった特別製のものなの。多少荒っぽく使ったとしても一生使えるくらいとっても頑丈に出来ていて、発動体としては最高レベルの出来なんだって。えへへ。気に入ってもらえたかな? もしそうなら皆で頑張って集めた甲斐があったかな。

 じゃあ、無理はしないで、体に気を付けてね。夏休みになったら皆で遊びに行くから、その時はアリアドネーを案内してね? のどかより。]

 

 のどか………。

こんな凄いものを作れる材料なんて、そう簡単に手に入らないはずですし、相当苦労したでしょうね。皆さん、私の為に本当にありがとうございます。絶対大事に使わせてもらうです。

 

 私はもう一度杖を手に取り、早速契約の呪文を唱えます。

契約する事で自分と杖との間に魔力のパイプラインが出来上がり、市販品をそのまま使うより魔力効率などが大幅に上昇するのです。杖などを失くしても、意識を集中させれば、そのパイプラインを通してどこにあるか分かるうえ、自分の所まで引っ張ってこれるようになるです。まぁ、余り離れすぎると出来ないですが。

 

 契約し終わった杖を亜空間倉庫に仕舞い、指輪は左の中指に嵌めます。うん、とてもしっくり来るです。一体どんな素材で作ったのでしょう? それともエヴァンジェリンさんの技術の高さ故でしょうか? どちらにしても、のどか。私は大いに気に入りました。もし貴女が目の前に居たら、感謝の余り抱き締めたうえでキスでもしてる所ですよ。って、なんだかキュルケに毒されてる気がするです。

 

 「マスター。そろそろお時間です」

 

 「んあっと、そうですか。では、私は一旦外に出るです。あとは任せましたよ?」

 

 頭の中でのどかに感謝の念を示していたら、もう出る時間になってしまいました。

私は散らばっていた細かい餞別をささっと倉庫にしまい、銅像をテラスの入り口脇に安置しました。自分の像を飾っているみたいで、かなり恥ずかしいです。いいんちょさんとハルナには文句を言ってやりたい所ですね。

 

 「ハッ。お任せ下さい」

 

 「お気を付けて」

 

 「行ってらっしゃいませ、マスター」

 

 私が契約した三人の魔道人形がそれぞれ挨拶してくれます。

せっかくですし、別荘の掃除が終わったら外に出して一緒に過ごすのもいいですね。まぁ、いきなり三人もメイドが現れると驚かれるでしょうから、その辺りを考えてからですがね。お爺様に私付きのメイドであるとでも説明して貰えば大丈夫でしょうか?

 

 そうです、それなら名前が無いと不便ですね。

 

 「そうそう。貴女達の名前を教えてくれませんか? いつまでも貴女や、貴女達では不便ですし」

 

 そう言うと、彼女達は一様に動きを止めました。はて、どうしたのでしょう?

 

 「マスター。私達には個別の名前はありません」

 

 どうやら彼女達は人形でしかないので、ナンバリングはされていても個人名に当たるものは無いのだとか。エヴァンジェリンさんなら、喜々として茶々なんたらと付けていると思ったのですが。仕方ないです、名前がないのは不便ですし、こうなったら私が勝手に付けさせて貰いましょう。

 

 「ふむ………。では、貴女はミリィと。そして貴女にはユメミと。そして貴女はイツミと名付けましょう。これからはそう名乗って下さいです。いいですね?」

 

 私は左に居る黒髪の彼女をミリィと、真ん中の金髪の彼女をユメミと、そして右の茶髪の彼女をイツミと名付ける事にしました。やはり番号などで呼ぶより、名前があった方がいいですからね。これから長い付き合いになるでしょうし。

 

 「「「は、ハッ!! 了解しました!!」」」

 

 いきなり名前を付けられて戸惑ったようですが、すぐに嬉しそうな雰囲気で了承してくれました。表情は無いですがそれでも分かるのは、契約主故でしょうか。私はそんな三人に見送られながら魔法陣に乗り、別荘を後にしました。

 

 

 

 外は予想通り夜明け間近と言った時間でした。

窓から見える景色はまだ真っ暗ですが、東の方は少し明るくなってきてます。

 

 「せっかくですし、ちょっと御来光でもお拝みますか」

 

 私は貰ったばかりの杖を取り出し横座りで乗ると、窓から飛び出して明け方の空を登っていきます。だんだん白くなって行く空をのんびり飛びながら、眼下のハルケギニアを眺めです。この辺りは民家が殆どないので、一面草原と言ってもいい風景が広がっているです。壮大とも言えるこの景色だけでも、ハルケギニアに来た甲斐があったと思えるです。

 こうして明け方の空を飛んでいると初めて空を飛んだあの日を思い出すです。

ネギ先生に乗せてもらって飛んだあの時の感動は今でも忘れません。あの時はネギ先生に掴まるしか出来ませんでしたが、今では自力で飛べる様になったと思うと人間進歩するものですね。

 

 1時間ほどの遊覧飛行を終え、朝食に間に合うようにと戻ってきた所、いつも洗濯をしてるシエスタが居らず、金髪が眩しいメイドさん、ローラが居たです。

 

 「あっ!ユ、ユエ様、おはようございます!」

 

 「おはようです、ローラ。貴女がこの時間に洗濯とは珍しいですね?」

 

 いつもこの時間はシエスタの仕事だったと思ったですが、シフトでも変わったのでしょうか?

 

 「あ、はい。実はシエスタの奴、あのサイトさん? って人の朝食を作りたいって言い出しまして。可愛い妹分の為に一肌脱いでやりますかと、朝の仕事を代わってあげたんです」

 

 「ほへぇ〜〜、才人さんの、ですか」

 

 仕事を代わって貰ってまでも作りたいとは、結構才人さんの事は本気だったのですね。

 

 「えぇ、だからしばらくは私が朝の洗濯当番です。いやぁ、あの人の事を考えてるシエスタは可愛くてですね。つい応援したくなっちゃいまして」

 

 クスクス笑うローラを見てると、シエスタの良い友達なのだと分かるです。シエスタより二歳程年上らしく、同室の彼女を妹の様に可愛がっているとか。

 

 「ふふっ。シエスタも良い友人を持って幸せでしょう。お礼を言うと逃げて行くですが」

 

 「ああん! ユエ様! もう忘れて下さいよぅ!」

 

 バイトの真似事をしてた才人さんが追われていったからと、代わりにお茶を持って来た彼女にお礼を言ったら、物凄く慌てて逃げて行ったです。あの時の慌てようは、中々見ものでした。まぁ、彼女としては早く忘れて貰いたい事のようですが。

 

 「いやはや、中々の慌てようだったので早々忘れられないです」

 

 「あ、あの時は、貴族様にお礼を言われるなんてって、凄くビックリしたせいなんですよぅ。しかも、お茶を持って来ただけで普通言わないですもの」

 

 しどろもどろで釈明する彼女を見てると、からかうのが楽しくなってくるです。

………からかうのが楽しいとか、最近キュルケに毒され過ぎかも知れません。少し自重しませんと。

 

 その後、シエスタが夜遅くまで料理の研究をしてる事などを聞きながら顔を洗い、私は朝食の為に食堂に向かいました。いつもは床に座らせて食べさせられて居た才人さんですが、時折ルイズにイタズラをしては罰として食事抜きにされ、食堂に来ない事もあります。その頻度は2,3日に一回の割合で、よくもまぁ懲りないものだと、逆に感心するくらいです。

 

 「ユエ、おはよう」

 

 「おはようです、ルイズ。……今日も才人さんはいませんね?」

 

 食堂で席に着き、隣のルイズに挨拶しますが、また才人さんの姿が見えません。今日もイタズラをして食事抜きにでもされたのでしょう。

 

 「あいつはしばらく食事抜きよ」

 

 「今度は何をしたんですか?」

 

 「歩いてる時にパンツのゴムが切れたわ。おかげで階段を転げ落ちたわよ。見て、このタンコブ!」

 

 そう言って頭を見せるルイズ。

確かにプックリとしたタンコブが出来てますね。中々痛そうです。私は彼女の頭を撫でるようにして、無詠唱で治癒魔法を掛けます。ルイズは、突然撫でられた事に驚いたようですが、すぐ痛みが無くなったので治療していると分かったらしく、頭を差し出したまま大人しくしてます。

 

 「ありがとう、ユエ。でも、こんな所で使って大丈夫なの?」

 

 「見ても分からないようにしましたので。端から見たら私がルイズを撫でてるだけにしか見え無いはずです。しかも、ルイズは撫でられてうっとりしてる可哀想な子に見えるだけで、治療してるとは思えないでしょう」

 

 「なっ! それはそれで何かヤダ!」

 

 バッと辺りを見回すルイズ。それに合わせて顔を背け肩を震わせている人数名。見られてた事に気付いたルイズは、顔を赤くしながら恨めしそうに睨んで来ます。頬を膨らませて睨むルイズは、怖いと言うより可愛いと言えるですね。思わずもう一度頭を撫でてしまいます。

 

 「もう! 撫でないの!」

 

 「あはは。すいません、つい」

 

 プリプリ怒るルイズにデザートを渡す事で許して貰い、本を持ったままのタバサを抱えてきたキュルケも合流して朝食になりました。

 いつも通り豪勢な食事を、1部タバサに分けながら食べ切り、その後は教室で授業です。こちらの魔法理論はだいたい分かって来たですが、まだ精霊魔法に応用するには至ってません。別荘も使えるようになってきたですし、これまでより人目を気にせず練習が出来るです。早い所、[偏在]の魔法をものにしたいですね。戦術のヴァリエーションが広がりますし。

 

 午前の授業が終われば軽い昼食を摂り、午後の授業までは食休みとしてのんびりカフェで読書しながらお茶を飲むです。なんとも優雅ですが、こちらの人達にしたらこれが普通らしく、今も中庭のカフェはほぼ満席です。さて、どこに座ろうかと見回していると、

 

 「おや、ユエ君じゃないか。良かったら一緒にお茶でもどうだい?」

 

 そう言って少し先のテーブルに座るギーシュさんが声を掛けてくれました。一緒に座っているモンモランシーは少し呆れ顔でしたが、仕方無いと言う風に手を振ってくれました。

 

 「お邪魔してすいません」

 

 「なぁに、構わないさ。女性を助けるのが僕の使命だからね!」

 

 いつぞや聞いたセリフと共に、彼が椅子を引いてくれたのでそこに腰を下ろします。

 

 「ほんと、すいません」

 

 「まぁ、こう言う奴だからね。もう諦めたわ」

 

 デートの邪魔をする形になってしまい、モンモランシーには本当に申し訳ないです。

 

 「貴女いつも本を読んでるけど、何読んでるの?」

 

 「今日のは水の秘薬に関しての物です。この魔法を混ぜ込む技術に興味がありまして」

 

 そう言って本をモンモランシーに見せます。こちらの技術で習得したいものの上位に入るものなので、ここ数日はずっと秘薬に関係する本を漁ってます。中々難しいですが、これは覚えたらすぐに応用出来そうなので、優先する事にしたです。

 

 「水の秘薬に関してなら、私もいい本を持ってるから、あとで貸してあげようか?」

 

 「え、本当ですか? それは助かるです」

 

 「これでも水のメイジとしては名門なのよ、うち。だから、その手の本はいっぱいあってね。きっと参考になるわ」

 

 なんでも王家が水の精霊と古い盟約で結ばれているらしく、その交渉役を彼女の実家、『水』のモンモランシ家が代々務めている関係もあり、水の魔法に関しては詳しいのだそうです。その手の本も、他所よりは沢山あり勉強する為に実家から沢山持ってきているのだとか。モンモランシーは、その持ってきた本の中から水の秘薬の事が詳しく書いてある本をいくつか貸してくれると言ってくれました。

 

 「本当にありがとうです。モンモランシー」

 

 「いいわよ、それくらい。私はもう読んじゃったものだし」

 

 こちらの人達には感謝のしようが無いですね。いつ本を取りに行くか話していると、

 

 「ギーシュ! ちょ、ちょっと!!」

 

 「な、なんだね? ちょ、引っ張らないでくれないかっ!?」

 

 なんか慌ててやって来たレイナールさんがギーシュさんを引っ張って行きました。あんなに慌ててどうしたんでしょうね。

 

 「なんか連れて行かれましたよ?」

 

 「………まぁ、いいわ。女同士で楽しみましょう」

 

 注文していたケーキが来たので、それを突きながら二人でお喋りです。

まぁ、内容は水の秘薬やそれに関係する魔法の事だったので、なんとも色気の無い話ではありますが。

 

 

 

 夜、タバサの訓練を終えて夕食を済ませた後、私はまた別荘に入りました。

早く完璧に仕上げて、お爺様やキュルケ達を招待したいものです。

 

 「「「おかえりなさいませ、マスター」」」

 

 中に入るとドール達、ミリィ、ユメミ、イツミの三人が出迎えてくれました。

一列に並んでお辞儀をしつつ言われて、ちょっと気圧されたです。いつもこんな出迎えを受けて平気でいるいいんちょさんの精神の強さが羨ましいです。早い所慣れないといけないのですが、ちょっと自信がないです。

 

 「マスター。別荘の清掃はほぼ完了致しました」

 

 「別荘内の設備、全て使用可能です」

 

 そう言ってミリィとイツミが報告してくれました。

別荘内では15日程経っているので、彼女達3人でも十分終わらせる事が出来たそうです。殆ど押し付けてしまったようで申し訳ないですね。

 私はユメミにマントを預け、闘技場のテラスに向かいながら更なる報告を聞きます。

 

 「浴場、プールなどはいつでも使用出来ます。ベットルームは、マスターのお部屋以外はその都度寝具を整える必要がありますが問題はありません」

 

 「地下のプラントにて、夏野菜の生産が可能です。ただ、今まで手付かずだったので、一度整える必要があります」

 

 地下のプラント?

聞いた事の無い設備ですね。

 

 「そのプラントとはどう言う物です?」

 

 「ハッ。この別荘内の気候や魔法による室温調節などを利用して野菜を育てる事が可能です。ただ、ここ何年も手付かずだったおかげで、野菜のジャングルと化してます。一度伐採して、新しく畑を作り直す事が必要です」

 

 この別荘にそんな設備があったんですねぇ。

確かに使わせて貰う時に、色々食事もさせて貰ったですが、どこから食料を調達してるかなど気にしてなかったです。多分外で買ってくるのだろうくらいの認識でしたが、まさか別荘内で作っているとは。

 

 「その畑の整備にどれくらい掛かるですか?」

 

 「伐採は1日もあれば。収穫までならば、一番早い作物でも数ヶ月掛かります」

 

 魔法の設備でもそう簡単には作物は作れませんか。

まぁ、1時間で1日進む別荘内なら、実際にはそれほど時間が掛かるものではないですね。一週間で168時間、だいたい5ヶ月強になります。それだけあればいくつかの野菜は作れるでしょう。いえ、実際に手を加える人にとっては大変でしょうが。

 

 「こちらは私達にお任せ下さい」

 

 「すいません。私では知識が足りませんし、お任せするです」

 

 優秀なメイドさん達で助かります。農業関係の本など見た事ないので、どう手を出せばいいかすら分からないです。

 

 

 この別荘内で一番重宝しているのが、この大きな浴場でしょう。

学院の寮にも浴場はあるですが、水が貴重なので毎日入る事は出来ません。だいたい3日に1度くらいですか。毎日入るのが当たり前だった日本人の私にしては、それはかなり耐え難いものでした。この別荘のおかげで毎日入る事が出来て感謝のしようが無いです。浄水システムなど、どうなっているのか分かりませんが、何か魔法的な手段がなされているのでしょう。常に熱いお湯で満たされていて、掃除前でも湯垢さえどうにかすれば、すぐ使えるほどでした。これが大魔法使いエヴァンジェリンさんの別荘じゃなかったら、こうは行かなかったでしょう。

 

 1日の疲れを流した私は、先程聞かされた生産プラントとやらを見に行く事にしたです。

この別荘も、それなりに長く訪れていますがそんなプラントは見た事無かったですからね。調理を人任せにして来たせいかもしれないですが。

 

 イツミの案内で塔の下層にある一つのフロアで私が見たのは、確かに野菜のジャングルと言える光景でした。さまざまな蔓が絡まり合い、さまざまな作物が実っているこの光景は、中々凄まじい物があります。長らく放ってあったので伸びに伸びて、収穫されずに腐り、それが土や肥料となって更に伸びる。そんな工程を経て、このジャングルが出来たのでしょう。しかし、これは40年ではきかない情景です。人の手が入らなくなってどれだけの時間が経ったんでしょうか。

 

 「なんとも凄いですね」

 

 「はい。幸いこの状態でも育っている作物も多いので、そこから新たな種や苗を用意出来ます」

 

 植物の生命力に思わず脱帽です。

 

 入り口付近から中に入れないので、近くにあったトマトとキュウリを採ってプラントを後にします。1度伐採して耕し、もう一度畑にするのはかなりの重労働ですね。これは私も手伝わなければ。そう思ったのですが、手伝いを申し出るとお願いだから自分達にやらせてほしいと言われたです。何かこだわりのやり方があるのでしょう。まぁ、1度任せると言ったんですから、任せましょう。

 

 水が外に流れて行く水路がある食堂にて、ワインを飲みながら野菜ジャングルで採って来たトマトとキュウリをかじって見ますが、手が入っていないにも関わらず中々美味しいです。これほどの味なら、伐採しないで通路を確保するだけでもいいかもですね。

 

 「マスター。ワインの在庫は余り多くありません。1度仕入れる事を提案します」

 

 保存されていた物の中で、飲めるものも多かったようですがやはり飲めなくなっていた物もあるようで、それを処分したら半分以上が無くなったそうです。他にも野菜以外の食糧は無いので、その辺りの仕入れも必要とか。

 どうしましょうかねぇ。お金は平民の人が半年暮らせるだけの金額を渡されているので、それを仕入れに使えばいいのですが、私は授業があるですし、ドール達だけでは買い物に行けないでしょう。また厨房に言ってその分を多く仕入れて貰うしか無いですかね。

 

 「私達だけで仕入れに行く事も出来ますが?」

 

 「街はここから歩いて半日は掛かるです。馬車などの運転は出来るですか?」

 

 「はい。問題ありません」

 

 そう言えばエヴァンジェリンさんは中世の生まれ。その頃に作られた彼女達も、馬車などの運転は出来て当然ですね。むしろ、私なんかよりこの世界に馴染むんじゃないでしょうか。

 

 「ならば、今度知り合いに頼んで貴方達を連れて行って貰いましょう。流石に道までは分からないですしね」

 

 「はい、マスター」

 

 この前街まで行った時は、飛んで行ったので陸の道は分からないです。しかも彼女達は初めて外に出るのですから、街まで一人で行ける訳がないです。1度行けば覚えるでしょうし、最初は道案内を誰かに頼むとしましょう。

 

 これからの方針が決まったので、この日はもう休む事にしました。

次の日、起きて野菜だけのある意味健康的な朝食を摂ってからは、出られる時間まで魔法の訓練です。気絶寸前まで魔法を撃ち込み、効率化を意識しながら呪文構成や魔力運用を確認して、また撃ち込みをします。別荘の掃除はドール達がほとんどやってくれたので、もう私が手を出す事が無くなりました。ちょっとの掃除くらいならやってもいいのですが、マスターが自分達の仕事を取らないでくれと言われたら、大人しく魔法の訓練でもしてる他ありません。こう、傅かれる人生を送ってこなかったので、すこぶる居心地が悪いです。しかし、彼女達のマスターになったのですから、こう言う感覚にも慣れないといけないのですよね。

 

 魔力が空になったのでテラスで休む事にします。

休みながらも、モンモランシーに借りた水の秘薬について書かれた本を読みこむです。やはりこの技術は有効ですね。1度作ってみたいですが、材料も設備も無いので試せないです。今は術式などを覚えるだけにしましょう。アーティファクトにも写してあるので、いつでも試せますし。

 

 「マスター。魔法薬を製造する設備ならございますが?」

 

 「なんですと?」

 

 どうやらエヴァンジェリンさんが魔力を封じられている時に使う魔法薬を作る設備があるそうです。なんとも都合がいいですが、せっかくですから使わせて貰いましょう。材料は今度買いに行けばいいですし、別荘のおかげで時間も気にせず出来ますし、これなら色々好きに試せるです。私の仲間達に追いつくと言う、無謀とも言える目標の達成の実現も近いかもしれません。

 

 試しに見てみた魔法薬の製造設備は、かなり充実してました。

流石に材料の大半は使えない物になってましたが、ビーカーやフラスコはヒビ一つないですし、このまま十分使用可能です。棚という棚を開けまくり、使える物と使えない物を分別してたら時間になったので、今日はこれで終わりです。

 ドール達に見送られながら別荘を出て、服を着替えてベットに入ります。

中々に1日が忙しくなってきたですが、これはこれで楽しいです。やはり私は魔法が好きなのですね。これまでの人生で、これほどのめり込めた物は無かったです。ネギ先生の役に立ちたいと言う想いはまだあるですが、それ以上に魔法使いとして上を目指したいと言う想いが強くなって来たです。私のようなヒヨッコが生意気ではあるですが、いつかはネギ先生のような、エヴァンジェリンさんのような、そんな凄腕の魔法使いになりたいです。このハルケギニアに来てしまったのは、きっと私の糧となるでしょう。いえ、確実に糧にして見せます。

 

 とりあえず、明日はお爺様にドール達を紹介して、自由に学院内を歩く事や、買い出しに行く際に馬車の使用を認めてくれるように頼まなければ。

 

 そう予定を立てながら目を閉じるです。

 

 

 なんか、下の階から人の悲鳴が聞こえるですが、また才人さんでしょうか?

 

 

 






 てな具合に、第十六話でしたぁ。

 別荘にプラントがあったり人形があったりワインセラーがあったりは、全部この小説独自の設定です。まぁ、言われなくても分かるわいと言われそうですが。

 第二巻に突入する予定だったのに、突入出来なかったです。残念。

次は第二巻に入ります。皆大好きアンリエッタの登場です。

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