なかなか出だしが書けなくて予定から遅れてしまいました。
さぁ、第17話いってみよぅ
「うむ、ダメじゃ」
「いえ、あの、お爺様?」
「結婚など許さん!!」
「そんな話はしてません!!」
スパァーン!!
学院長室に居たお爺様に、「紹介したい者が居る」。そう言ったらいきなり結婚は許さんと言われたです。あまりのボケに、思わずハリセンで叩いてしまいました。
「ほっほっほっ。すまんすまん。いつか言ってみたいと思っておったセリフでの。紹介したいとか言うから、今がその時か! と思ってつい言ってしもうた」
「なんでそう思うですか……。だいたいそんな重要な話なら、こんな時間がない時にわざわざ話さず、どこかちゃんとした場を設けて話すはずです」
そんな予定はまったく無いですが、私ならこんな朝食と授業とのわずかな時間で話したりはしないです。
「若い内はむしろそれくらい思い切った生き方をした方がいいと思うがのぅ」
「それは思い切りとは違う気がするです。それに……私は割と思い切った生き方をしてると思うです」
魔法の世界に飛び込むのはよほど思い切った行動でしょう。なにせ、今までの常識を全て捨て去るようなものなのですから。
「ほっほっ! 確かにの。……それで、そんなユエ君が誰を紹介してくれるんじゃな?」
「あ、はい。では、入って下さい」
「「「失礼します」」」
私は扉の前に待機させていたドール達に部屋に入るよう促し、私の隣に並ばせました。
「ほぅ? その子達は?」
「彼女達はあの別荘内で発見した魔導人形でして、右からミリィ、ユメミ、イツミと言います。紹介したいと言うのは彼女達の事でして」
「なんと、魔導……人形とな? どう見ても普通の人間にしか見えんのじゃが……」
お爺様がドール達を信じられないと言った様子で見つめてます。確かに、知らなければ人間と見間違えるほど精巧に作られているので仕方ないでしょう。なにせ彼女達を作り出したのは、あの
「彼女達を作り出したのは、私の世界でも有名な人形使いでしたからむしろ当然です。その人は、全盛期に約300体ほどの人形を操り、軍隊すら一蹴したそうです」
「それは凄いのぅ。この出来、ガリアのガーゴイルすらオモチャに見えるわい」
お爺様はとても興味深そうにドール達を眺めています。
ガーゴイルと言うのは土系統の魔法で作られた魔法人形の事で、擬似的な意思を持っていて、魔力を供給すれば自律行動も出来るそうです。ガリアの方では、このガーゴイルに関する技術が高いそうで宮廷の衛兵として使ったりもするそうです。
「近づいても、違いが分からんわい………どれ……モミモミっと」
「何してるですかっ!?」スパンッ!!
近くでドール達を見ていたお爺様が、いきなりユメミの胸を揉み出したです。私は本日二度目のハリセンを繰り出し、その痴漢行為をやめさせます。
「いや、見た目人間にしか見えんから触り心地も似てるのかと思っての。いやはや、ちゃんと柔らかいとは思わなんだ」
「だからっていきなり胸を揉まないで下さい!!」
このドール達は、人形と言っても肌の感触なども柔らかく見た目はほぼ人間です。多分茶々丸さんのようにハカセさんが改造でもしたのでしょう。魔力による発熱で、体温があるかのように思えるですし、自らの意思もあるので人間だと言って紹介してもすぐにはバレないでしょう。でも、だからと言ってセクハラして良い訳ではないですが。
「まったく、初めて会った時の威厳あるお爺様はどこへ行ったのやら」
「ほっほっ。この歳じゃからの。いつもいつでも張り詰めておっては、すぐにガタが来てしまうんじゃ。そこは諦めておくれ」
「………せめて、セクハラするのだけは自重して下さい」
悪びれもせず笑うお爺様からそれとなくドール達を離し、続きを話す事にします。
「ふぅ、それでですねお爺様。彼女達に学院内外で活動する許可を頂きたいのです。これから彼女達も出歩く機会が増えるので、いきなり知らないメイドが学院を歩いていたら要らない騒動が起こるでしょうし」
「ふぅむ。 確かに不審者と間違えられると面倒じゃの。ここには重要人物も多いし、身元不明の使用人がいるのは問題じゃ」
「はい。彼女達は別荘の維持管理が主な仕事なので、基本別荘から出て来ません。しかし、これからは諸事情により外に出る事もあるでしょうし、無用な混乱を避ける為にもこうして早めにお爺様の許可をお願いに来たのです」
お爺様は考え込むように唸りながらドール達を見ています。何か難しい問題でもあるのでしょうか?
「お爺様、何か問題でも?」
「うむ……。いや、いいじゃろう。本来は個人的に使用人を連れて来るのは禁止しとるのじゃが、この子達は魔法人形な訳じゃし問題ないじゃろう」
なるほど。確かに変な前例を作ってしまうと色々問題ですから、慎重になるのも分かるです。生徒達全員がメイドを連れて来たら、すぐ学院が人で溢れてしまうですからね。
でも、どうにか許可が貰えたので良かったです。これで、別荘の整備に必要な道具や、皆を招待する時に使う食材などを仕入れる事も出来るようになるです。
「ありがとうございます、お爺様」
「うむ、構わんよ。しかし、こんなめんこい娘達があの中に居たとはのぅ。あれを見つけて数十年、眺めるだけだったのが悔やまれるわい」
あれは入場に使う魔法陣が無ければ綺麗なボトルシップでしかないですから、何か分からなければ眺める以外出来ないので、無理は無いですね。
「もうすぐ整備も終え招待出来るようになるですから、楽しみにしてて下さい」
「おぉ、とうとうか! 何か必要な物があったら言うんじゃぞ? なんでも手に入れてやるからの」
長年お気に入りだったダイオラマ魔法球に入れると聞いて、子供の様に喜ぶお爺様。こう言う所だけでいいのに、時折スケベ心を出すのが玉に瑕です。
「欲しい物は今の所ないですが、馬車の使用許可をお願い出来ますか? 彼女達がトリスタニアまで買い出しに行く時に使いたいのですが」
「それは構わんよ。馬番に言えば誰でも使える物じゃしの」
そうだったですか。すっかり色々許可や手続きが必要なんだと思ってたです。
「そうだったですか。では、使う時はそうするです」
「うむ。さ、そろそろ授業が始まるぞぃ? 急いで行くといいじゃろ」
思いの外時間が掛かってしまったです。せっかくの授業ですし、遅刻する訳にはいきません。
私は急いで教室に向かう為、そそくさと学院長室を後にしようとしたですが、
「おっと、ユエ君。彼女達は置いていっておくれ。少し用事があるのでの」
「………何するつもりです?」
「いや、待つのじゃ。そう言うおちゃらけた用事じゃないぞぃ? 一応他の使用人達と顔合わせなどをせんと混乱するじゃろ?」
あ、あぁ。なるほど、確かに1番接する機会があるのは彼等ですし、それは必要ですね。
すぐにそっちの事を考えてしまって申し訳ないです。
「すいません、お爺様。てっきりドール達にイタズラしようとしてるのかと思ったです」
「ぐふっ! い、いや、そう思われる事をしたこちらも悪かったし、それはいいんじゃよ、うん」
ほんとすいませんです。久しぶりに赤面物のミスです。
「では、儂は彼女達を他の者たちに紹介しに行くので、君は授業に急ぎなさい。しっかり勉強するんじゃぞ?」
「はい、行ってきます。貴女達はお爺様の指示に従って下さい」
「「「了解しました」」」
ドール達の顔合わせはお爺様にお任せして、私は教室に向かいます。一応セクハラしたら怪我しない程度に迎撃するよう念話をしておきます。時折出るスケベ心さえ無ければ良いお爺様なのですが。歳に反して気持ちは若いのが原因ですかね。まぁ、いつもいつも、と言う訳でもないですし、信じて任せましょう。
思った以上に時間が掛かったので、学院長室から階段を飛ばし飛ばしで降りて行き、ものの数分でいつもの教室までやって来ました。この重厚な扉を開けるようになってはや数週間、結構慣れてきましたね。タダの一般人だった私が、今は貴族と混じって魔法の勉強。人生なんて分からないものです。
また新たな魔法知識が得られる事を期待しつつ、ガラッと扉を開けて、
「いたい? 『わん』でしょ? 『わん』でしょーがっ! ほら、『わん』と言いなさい!!」
「キャインキャイン!」
ピシャン
ネギ先生、のどか……ついでにハルナ。
異世界で出来た級友が、公衆の面前で鞭を振り上げイケナイ遊びに耽っていた場合、私はどうすればいいのでしょう?
こんな事態は今まで読んだ本の中にも無かったですし、色々おかしな事が起こる麻帆良でも遭遇した事はありませんでした。おかげで、波乱万丈な人生を生きている自負のある私でも、どう対処すればいいのかわかりません。
しばらく扉に手を掛けたままどうしようか考えてましたが、意を決してもう一度扉を開けます。
「ほら、ほらほら、『わん』って言いなさい!」
「…………うぅ……わん」
「そうそう、バカ犬は『わん』と言うだけで………ハッ! ユエ!?」
そこにはやはり見間違いじゃなかったようで、ルイズが才人さんを鎖で引っ張りながら鞭で叩いてました。興奮して顔を上気させたルイズが、犬耳と尻尾を着けた才人さんを叩きながら笑っています。これは、杖を失くしても大丈夫な様にと武器を持たせた私の責任でしょうか?
私が薦めなければきっとこうはならなかったはずですし。
二度目でも衝撃的なその光景を見ていたら、ルイズこちらに気付いたようで、ポイっと才人さんを放り投げて居住まいを正しました。
「し、しつけはここまで!」
どうやらさっきまでのはルイズの性癖によるイケナイ遊びではなく、何か才人さんがイタズラをしたので、そのお仕置きをしてたと言いたいようです。しかし、周りの人達は皆微妙な表情でルイズを見ています。まぁ、ちょっと見ただけでもそう言う人のそう言う遊びにしか見えなかったですからね。
「ルイズ………きっと皆さんが言いたいと思ってるでしょうから言いますが、そう言う遊びは自分の部屋だけにして下さいね?」
「違うわよ!? こ、これは才人が悪いんだからねっ!!」
「隠さなくても大丈夫です。もう、皆知ってますから。ね?」
「そう言う事じゃないのよ!!」
どうにか誤魔化そうとしてるルイズを宥めていると、もう授業の時間のようでギトー先生がやって来てしまいました。
「いつまで喋っているんだ! 授業を始めるぞ! 早く席につけ!」
ガラッと扉を開けそう言う彼の言葉に急かされて席に着きますが、ルイズはまだ小声で「さっきのは理由が…」などと言ってます。
「ほらルイズ、ちゃんと聞いてないと怒られるですよ?」
「聞いてよぅ。あれは才人が私のベットに忍び込んできたから、お仕置きしてただけなのよ」
なんでも寝てる所にベットに入って来て抱き着き、胸に顔を擦り付けていたんだそうです。それであの剣幕だったのですね。寝てる所を襲われたらそりゃぁ怒るです。むしろ、女性に夜這いを掛けておいてよく命がありましたね。
「そこ! 静かにしろ!」
おっとっと、喋りすぎたです。
ギトー先生は教室の前にある教壇に立ち、私達を見回し静かになった事を確認して満足そうに頷きます。
「では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
ピンと張り詰めた雰囲気の声でそう自己紹介して、今日の授業を始めます。
「さて、最強の系統は何か知ってるかね? ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
『虚無』とは、今は失われた系統で、どんな魔法があったのかまったく知られていない伝説の系統だそうです。
「伝説の話をしてるのでは無い。現実的な話をしてるんだ」
「ならば『火』に決まってますわ、ミスタ・ギトー」
キュルケがその大きな胸を突き出して、自信満々でそう答えたです。ここの魔法使い達は自分の属性に相当の自信を持つようで、その例に洩れずキュルケも己の『火』に自信を持ってるようです。
「ほほぅ。どうしてそう思うんだね?」
「全てを燃やし尽くせるのは炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
キュルケが髪をかきあげながらそう言いますが、ギトー先生は首を軽く横に振り杖を引き抜きました。
「残念ながらそうではない。試しに君の得意な『火』の魔法を私に撃ってみたまえ」
ザワッと教室中がざわめく中、ギトー先生が戸惑うキュルケにもう1度声を掛けます。
「どうしたのかね? 君は確か『火』系統が得意だったのではなかったのかね?」
キュルケを挑発するように言うギトー先生に、キュルケも目を細めて言い返すです。
「火傷じゃすみませんわよ?」
「構わん、本気で来たまえ。有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないならな」
その言葉にカチンと来たらしいキュルケは、珍しくいつも浮かべている笑みを消しました。
スルっと性懲りも無く胸の谷間から杖を引き抜き、魔力を高めます。その圧力で彼女の赤い髪が燃え盛る炎のように逆立ちました。
これは、中々の練り具合ですね。どうやら自分の自慢の赤毛を貶された事が相当頭にきたのでしょう。
彼女は杖を振り、小さな火の玉を作り出した。
更に呪文を唱えて火の玉を大きくしていき、その大きさは直径で1メートルほどになったです。
呪文が完成したのを見て他の生徒達は机の下などに避難して行きます。キュルケは手首を回転させた後右手を胸元に引きつけ火の玉を押し出しました。呪文としてはファイヤーボールですが、以前訓練場で見せてもらった時より大きいです。それだけ怒り心頭だったのですね。
ギトー先生は、自分に向かって飛んで来る魔法を避けようともせず、落ち着いた様子で杖を振り魔法を発動させるです。烈風が吹き上がり、キュルケの撃った火の玉が掻き消されて、そのままキュルケも吹き飛ばされました。
中々の威力の魔法ですね。呪文が短かったと言うのに撃ち出された魔法の威力はキュルケの魔法を軽く凌駕していました。これだけで、彼の実力は相当高いと分かりますね。以前トライアングルとスクウェアとの差について色々聞いた事があるですが、その差は相当なものだそうです。例えるならば、そうですね………何の力も無かった時の私。まだ魔法を知らなかった中等部2年の時の私と、未熟者とは言え魔法が使える今の私くらいの差があるそうです。
っとと、壁にぶつかる前にキュルケを受け止めなければ。
私は瞬動で飛んで行ったキュルケの所まで行き受け止めます。まぁ、この程度の距離と高さなら怪我もしないですが、一応友人ですし助けられるなら助けるべきですね。
「あ、ありがとうユエ」
「いえ」
キュルケを下ろし席に戻りますが、なんか皆の視線が集まってますね?
「えーっと、ユエ? 今の………どうやったの?」
席に戻る途中にモンモランシーがそう聞いてきたので、ようやく何に注目してたのか分かりました。
「ただ速く動いただけですよ。私の国の武術の一つでして」
「へ、へぇ……?」
モンモランシーはなんだか分からないと言った表情で首を傾げてますが、構わず席についてギトー先生に続きを促します。
「先生、続きをお願いします」
「う、うむ。 諸君。私は『風』こそが最強の系統であると考える。何故ならば、『風』は全てを薙ぎ払うからだ。『火』も『土』も『水』も。残念ながら試す事が出来ないが、『虚無』さえも吹き飛ばすだろう。それが『風』だ」
キュルケは両手を広げてて不満そうにしてますね。まぁ、どの属性が最強かなどと言うのは状況次第で変わってくるのでどう議論しても答えは出ないものです。興味はあるですが、今はその時ではないですし、黙って授業を受けるです。
「目に見えぬ『風』は見えずとも諸君らを守る盾となり、必要ならば敵を吹き飛ばす矛となる。そしてもう一つ『風』が最強たる所以は……」
彼は杖をもう1度振り上げ呪文を唱え出しました。
あ、この呪文は[偏在]のものですね? スクウェアであるギトー先生もやはり[偏在]が使えるようです。これはしっかり見ていなければ………
ガラッ
「あやややや、ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ!」
ギトー先生が呪文を唱え切る前に扉を開けてコルベール先生が妙な格好をして入って来ました。ロールさせた金髪のカツラを頭に乗せて、ローブはレースや刺繍で飾られていてやたらとめかし込んでいます。せっかく[偏在]を見られそうだったと言うのに、邪魔されたです。
「授業中ですぞ?」
ギトー先生が、授業の邪魔をされたからか機嫌が悪そうに眉をひそめて注意します。
「おっほん! 今日の授業は全て中止であります!」
ギトー先生のジトっとした視線を無視してコルベール先生が重々しく告げると、教室中で歓声が上がりました。どの世界でも授業が詰まらないのは同じようです。私は非常に残念ですが。
「えー、皆さんにお知らせですぞっ」
勿体ぶった調子で胸を張った拍子に、彼の頭に乗っていたカツラがズルっと滑って床に落ちて行きました。ただ乗っけていただけだったせいでしょう、中々のタイミングで滑り落ちたその場面を見た生徒達がクスクス笑ってます。
「滑りやすい」
1番前に座っていたタバサが、コルベール先生の頭を指差しながら小さく呟くと、先生の言葉を聞くために静かにしていた教室が一気に笑いに包まれました。
タバサ、ダメですよそんなこと言っては………プフッ。
「黙りなさい! ええいっ、黙りなさい小童どもがっ! 大口開けて下品に笑うとは貴族にあるまじき行い! 貴族は可笑しい時には下を向いてこっそり笑うものですぞ!?」
怒るポイントが違う気がするですが?
「皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって良き日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶほどのめでたい日です!」
コルベール先生は横を向いて手を後ろで組み更に胸を張って言葉を続けます。
「畏れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」
アンリエッタ姫殿下、ですか。
この国のお姫様とはどんな人でしょうね?
「従って、粗相があってはいけません。急な事ですが、今から全力で歓迎式典の準備を行います。その為に本日の授業は中止。生徒諸君は正装し、門に整列すること!」
教室の皆は緊張した面持ちで一斉に頷きます。
王女様と言うのは結構慕われているようで、皆さん授業の時より真剣そうです。そんな彼らの姿に、満足そうに頷くコルベール先生は、更に声を張り上げます。
「諸君らが立派な貴族に成長した事を、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるようにしっっかりと杖を磨いておきなさい。よろしいですな!?」
結局カツラは手に持ったまま、コルベール先生はすったか教室を出て行きました。生徒達がざわつく中、少しため息をついてギトー先生も教室出て行きます。せっかくの[偏在]でしたが残念です。今度ちゃんと見せて貰いましょう。
皆と一緒に正門に並び、やって来た王女様の一行に向かって杖を掲げます。
私は、のどか達に貰った新しい杖をアリアドネー式で掲げて、馬車が止まりメイドさん達が絨毯を敷き詰めるのをぼんやりと眺めるです。こう言うのは候補生の時、オスティアでもやったですが同じ体勢で居るのは結構大変なんですよね。
「ユエのそれって、見た事ない杖ね? いつ変えたの?」
隣に居たキュルケが、私の持っている杖が違う事に気付いて話し掛けてきます。彼女自身は、杖を軽く顔の前にあげるだけで、他の人達ほど気合いを入れてはいません。
「これは親友が留学の餞別にとくれたものでして。材料集めから自分でやって作ってくれた代物なんです」
「へぇ〜……。綺麗な杖ね。何を素材に作ったのかしら?」
「それが何も言わなかったので分からないです。凄く丈夫な材料を使ったとだけで」
魔法処理されているこの漆黒の杖は、今まで見た事無いものです。重さから、タダの木ではなさそうですが石材と言うほど重くはないです。まぁ、気に入っているので材料とかはどうでもいいですがね。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなぁーーーりぃーーーっ!!」
そんな掛け声と共に停められた豪華な馬車から出てきたのは、手足も痩せ細った、しかし、背筋はピシッとしている老人でした。
「まさか、王女と言っておいてお爺さんだったとは。あれですか? 心は乙女と言う意味ですか?」
「ブフッ!? あっはははっ! 違うわよユエ。あれは枢機卿のマザリーニ、通称『鳥の骨』。今のトリステインでは実質最高権力者になるわね」
「おぉ、そうでしたか。いや、世界が違うとお姫様まで変わるのかとヒヤヒヤしたです」
そうこう言ってる内に、一層大きな歓声が上がったので目を向けてみると、そこには馬車から出て来た綺麗な女性が、歓声を上げる生徒達に向かって手を振っていたです。
「あっちがアンリエッタ王女様ね。王女は初めて見るけど、私の方が美人じゃない?」
そうキュルケが言うので王女様とキュルケを交互に見ますが、清楚可憐な王女様と豪気妖艶なキュルケ。タイプが違い過ぎて比べられないですね。
「方向性が違い過ぎて比べる事が出来ないですよ、キュルケ。胸の大きさでは勝ってそうですが」
「むぅ……。ねぇ、ダーリンはどっちが美人だと思う?」
地面に転がって、鎖に繋がれたままで居る才人さんにキュルケがそんな質問をします。というか、才人さんはいつまで鎖で繋がれたままで居る気なのでしょうか? やっぱりそう言う趣味が……?
「わん」
「わんじゃ分からないわよ。ほら、どっち?」
キュルケは腕で胸を挟み、谷間を強調させるポーズを取りながら才人さんの下顎を撫でます。そんな事をされた才人さんはデレっとした表情を浮かべてなすがままでいます。なんて言うか、人はこうまで落ちるのですね。
見ていられないのでルイズの方を見ますが、彼女はどこかを見てポーーっとしてます。ネギ先生を見る時ののどかのようなその表情に、はて何を見ているのやらと視線をたどると、そこには羽飾りのついた帽子を被り、グリフォンに乗った立派な髭を蓄えた貴族がいました。どうやらあの髭の人に見惚れているようですね。私にはそこまで格好良く見えないですが、見ればキュルケもぽけーっと見惚れてます。こちらの人は、ああ言う人が好みなのでしょうか?
お姫様が正面玄関で待っていたお爺様と挨拶して、そのまま学院内に入って行きます。
そして、何人かの従者が付いて行ったのを確認したのち、生徒達に解散の礼が掛けられましたが、ほとんどの人がその号令に従わず、王女様の護衛としてついてきた衛士隊面々に憧れの眼差しを向けているです。候補生として勉強してた時、他の生徒が騎士団員を見てた時と同じ目をしてるですね。きっと、頭の中では衛士になった自分を想像してるのでしょう。コレット達もそんな感じでしたし。
「ユエとタバサは相変わらずだな」
「何の話です?」
足元に転がったままの才人さんが唐突にそんな事を言うので、視線を向けて聞いてみると、才人さんは指でルイズやキュルケを指して、その後向こうに見えるあの髭の貴族を指差します。
「ルイズ達はあの貴族に見惚れてるのに、二人はいつも通りじゃんか」
「はぁ、まぁそうですね」
何処か不貞腐れた感じの才人さん。はてさて、どうしたのでしょう?
よく分からず、一緒に相変わらず呼ばわりされたタバサを見やると、彼女はルイズ、キュルケ、と視線を動かし、やがて才人さんを見つめるとポツリとこう言ったです。
「三日天下」
今まで構ってくれてた人が自分を見てくれないので落ち込んでたのですね。まぁ、わんわん言ってる人がモテるとも思わないですが。
タバサの言葉にガクっと項垂れてる才人さんを放っておき、私はタバサに向き直り小声で呼びかけます。
「タバサ、授業がないならこれから訓練でもしますか?」
「行く。もうすこしで掴めそう」
身体強化もまずまずの出来になってきたタバサは、私の囁きに張り切って返事をします。
授業が無くなったのは残念ですが、いつも以上に訓練に時間を掛けられるのは感謝です。本当は、タバサを別荘に連れて行き訓練する方がいいのですが、今日は夜までは無理そうです。
何故かお爺様の後ろに控えて、お姫様達に対応してるドール達が見えたので、しばらく返して貰えなそうですし。居ないと食事もままならないので、別荘には入れません。私は今だに見惚れて動かないルイズ達と、地面に崩れ落ちている才人さんを放って、タバサと訓練場に向かいました。夕食までの時間は約8時間。タップリ出来るです。
「んっ、やっ、とっ」
タバサはいつもの様に地面に描かれた円をケンパしながら飛んでいきます。
始めた当初に比べるとその円の間隔はかなり広がっています。既に身体強化は完璧と言えるほど出来るタバサは、ここからスピードを上げていき瞬動の特徴である瞬間移動と見紛う速度を目指して行くのですが、未だに私も完璧には出来ないのでここからは一緒に頑張って行く必要があります。
目指すは楓さんの縮地です。目指すのは高い方がいいとは言え、その目標に出来る人達が全て自分と同じ歳か下ばかりだと言うのは恵まれているのかいないのか。あの人達と自分ではこれまで生きてきた時間の使い方がまるで違ったので仕方ないのですが、時々嫉妬してしまいます。
普通の中学生だった私がそんな事を思うようになるとは、思えば遠くに来たものです。
「ユエ、どう?」
練習していたタバサがその出来を聞いてきますが、練習を始めてまだひと月も経ってないと言うのにその出来はかなりの物です。才能もセンスもあるので、その伸びは目を見張るものがあるです。半年で最強レベルに達したネギ先生に匹敵するでしょう。このまま私が教えていて大丈夫か、そっちの方が心配ですね。
「もう完璧ですね、タバサ。身体強化も十分出来ているですし、あとはスピードを上げて行く事ですね。……ちなみに瞬動の完成形、縮地はこんな感じです」
私はアーティファクトに録画されていた楓さんの縮地を見せてみます。
あまりレベルの高い物を見せて心が折れてしまうと困るですが、彼女はそんな柔な精神はしてません。食い入るように楓さんの映像を見て、イメージを自分の中に落とし込むタバサ。そのうちネギ先生の様に最強と言われる人達の領域に行くのでしょうか。
「この人はどんな人?」
「私と同じ歳の楓さんと言う人です。こちらで言う[偏在]のような技術を使う、私の友人の中でも最強クラスの人です」
「このレベルまで行くのは相当大変ですが、一歩ずつ進んでいけば、いつかは辿り着けるはずです」
「うん。頑張る」
楓さんの映像に触発されたタバサは、1度目を閉じて集中したのちスタート位置に着きました。そして、深呼吸して気持ちを落ち着かせ………
ザッ ザシッ! ズッ ズシャーッ!!
一瞬消えてゴール付近に現れたタバサは、着地を失敗したのかそのまま転んでしまい、勢いのまま飛んで行ってしまったです。入りは上手く行ったですが、抜きで足が滑ったようですね。瞬動の難しい所です。
「タバサ、大丈夫ですか?」
「うん、平気」
「でも、だいぶ出来てます。あとはメリハリをつける事ですね」
この辺りからはもう慣れが必要な所なので、何度も練習するだけです。
私も曲がりなりにも瞬動を会得出来たのも、皆に教えて貰いながらやり続けた結果ですからね。
「タバサ。瞬動の練習を兼ねて、鬼ごっこをしましょう」
「……鬼ごっこ?」
「そうです。私の世界でもやっている子供の遊びではあるですが、それを瞬動を使ってやるです。片方が逃げ回り、もう片方がそれを追い掛けて相手に触れたら勝ち。触れられた方が負け。負けた方は、今度は追い掛ける側になり、勝った方を追い掛ける。そんな遊びです」
これは楓さんに教えて貰っている時にやったもので、実戦中に盛り込んで練習するより瞬動自体に集中でき、鬼ごっこの性質上長時間瞬動を繰り返す必要があるので練習にはもってこいです。ただ黙々と瞬動するよりは集中出来ますから、上達も早くなるです。
「やってみる」
ルールを理解したタバサと10メートルほど距離を置いて向かい合います。
「では、行くですよタバサ。制限時間は15分間です。最初は私が追いかけますので、身体強化と瞬動を使って逃げ切って下さい。私に捕まったら負けですよ?」
「わかった」
「では………始めです!」
合図と共に私とタバサは鬼ごっこを始めました。
瞬動で彼女の後ろを取ろうとしたら、すぐに瞬動を使って逃げられてしまいました。入りは上手く行くようですが、やはり抜きが出来なかったようで、ピタッと止まらずに転ばないように踏ん張りながら滑って行きます。私はそれを見ながら、止まる寸前でまた後ろを取りに行きます。
まだ上手く出来ないタバサに最初から本気でやるのもどうかと思うので、初めのうちは逃げやすいように少しだけ遅れて追い掛けるようにして行きます。
しかし彼女も飲み込みが早く、5分ほど追い回すと抜きも上手く出来るようになり、どんどん瞬動の精度も上がって行きました。二人して身体強化した状態で訓練場を走り回り、子供の遊びだったはずの鬼ごっこを超スピードで繰り広げます。
そろそろ時間ですか。
「………今っ!」
「!?」
着地した時に出来た一瞬の隙を突いてタバサを捉えました。最後の方はかなり本気にならないと追いつけない位、タバサの瞬動は洗練されてました。こんなに一足飛びに上達するとは、少し悔しいですね。
「ふぅ、どうにか捕まえられたです」
「残念」
いつもは表情の変わらないタバサも、少しだけ悔しそうな顔を見せています。
「たった一回やっただけで、随分上手くなったですね」
「本当?」
「えぇ。最後の方は本気を出してたですし」
今度は嬉しそうな顔です。
「さぁ、次はタバサが追い掛ける番ですよ? 手加減はしませんので、覚悟して下さいね?」
「望む所」
私達はその後、延々鬼ごっこをして過ごす事になりました。
最初のうちはタバサの訓練としてやっていたので、少し力を抜いてやってたですが、いつの間にか彼女の瞬動も私と遜色ないレベルになって来たのでかなり白熱したものになったです。才能もセンスもある人が本気になると凄まじいですね。おかげで私も瞬動の精度がかなり引っ張り上げられたです。なにせ、虚空瞬動が何度か成功しましたから。
タバサが強請るので虚空瞬動についても教えてあげ、暗くなるまで鬼ごっこを続けました。
まさか16にもなって、時間を忘れて鬼ごっこをするとは思わなかったです。
「あー……、多分もう食堂も閉まってるですね」
「32戦10勝22敗。負け越した」
暗くなった道を学院まで二人で歩きながら今日の訓練の成果などを話します。
これは最近の恒例となっています。こうしてあれは良かった、これはこうした方が良かった等と話をして、反省や次への意欲を高めるです。ただ疲れた、と言って終わってしまっては身に付くのも遅くなるですから。
それにしても、どうにか勝ち越せたですが、この調子ならすぐに負けてしまうかもしれないですね。もっと精進しないといけません。一応タバサの師匠なのですから、そう簡単に負けるようでは沽券に関わるです。吹けば飛ぶような頼りない物ですが。
「私はシルフィードを見に行ってから帰るから、先に行ってて」
タバサがそう言い、部屋に入れる事の出来ない大きな使い魔達を置いておける獣舎へと向かいました。今日一日会ってなかったですから、顔を見に行ったのでしょう。
私はそれを見送ってから自分の部屋へと向かいます。
部屋は高い塔の5階。エレベーターなどないので、自分の足でえっちらおっちら登って行かなければいけないのが、少し不便ですね。
「おや……?」
寮塔の入り口付近に何やら人影が見えるです。
晴れているおかげか月明かりだけでも結構見えるので、目を凝らしてみるとそれは確かに人でした。黒いローブを纏って顔を隠し、コソコソと寮塔に入ろうとしている人影。もしや、また泥棒でしょうか? ついこの間フーケが学院で暴れたと言うのに、なんでこんなに簡単に不審者を侵入させられるんですか。まったく反省してないですね、ここの警備は。
私は瞬動で寮塔に入ろうとしていた人影の前に飛び出しました。相手には急に私が現れたように見えたのでしょう。驚き、慌てた様に数歩下がりました。
「さて、夜の女子寮に忍び込もうとしている不審者さん。大人しく帰るか、捕まるか、選んで下さい」
私は指にハマった発動体を撫でて確かめたのち、魔法の準備をします。相手が何かしようとしたら瞬時に魔法が撃てる様に魔力を集め、相手の次の動作を待ちます。顔を隠しているだけで不審者確定なのですから、このまま攻撃しても構わないかもしれないですが、まだ何もしてない訳ですし、このまま逃げるなら見逃しすのも構わないと思うです。さて、どうしましょ……!?
相手がローブの中に手を入れて何かを出そうとしてるです。
杖でも出してくるつもりでしょうか? しかし、そんな挙動を見逃してあげる理由はないです。
先手必勝と行きます。
詠唱省略!
無詠唱で繰り出した武装解除によって杖を吹き飛ばして反撃出来ないようにして、取り押さえるつもりです。
「………あれ?」
杖だけ吹き飛ばすつもりだったですが、何故かローブから何から全部吹き飛んだです。
杖は飛んで行っただけですが、ローブや着ていただろう服は全部花弁のような形で粉々になって飛んで行きました。服を飛ばされた不審者さんは、何が起きたのか分からないようでキョトンと自身の体を見下ろしています。白い肌に二つの大きな山……おや、女性でしたか。
しかし、服まで飛ばすつもりは無かったですが、何故こうなったのでしょう?
ネギ先生のように魔力が知らない間に増えたと言う訳でもないですし、制御もきちんと出来ていたはずです。一体何故………?
「あぁ、そうです。こちらの人は障壁がないんでした」
障壁を抜いて杖を飛ばすつもりで魔法を撃ったので、その分威力が上がっていたのでしょう。おかげでこんな所でストリップさせてしまいました。まぁ、不審者ですし、構わないですね。
「へ? きゃあぁっ!? な、なんで服がっ!?」
「さて、不審者さん。ちょっと予定とは違う展開になってしまいましたが、杖も失くした状態で抵抗は無駄です。大人しく捕まってもらうですよ?」
ようやく自分が裸になっている事を認識した不審者さんが必死に手で要所要所を隠そうとしています。意外とボリュームがあるせいで、隠しきれずにこぼれてますね。なんとも羨ましいものです。透けるような白い肌で、出る所と出ない所とのメリハリが素晴らしく、理想的なスタイルをしています。私があーなるには何年かかるか、もしくはいつまでもこのままか。……いえ、考えるのはやめましょう。
「あっ、あのっ! 私はですね、」
「女性と言う事は、女子寮で不埒な真似を、と言うつもりでは無かったと言う事でしょうか? やはり女子寮に住む生徒達が持つ装飾品などを狙ったのですか?」
「ち、違います! 私はその、ルイズに会いに来ただけで……」
「ルイズに?」
この不審者さんはルイズの知り合いなのでしょうか?
しかし、それなら何故コソコソとする必要があるのです? 暗くて顔がしっかり確認出来ませんが、この学院に通っている生徒ではないようですし、彼女は一体誰なのでしょう?
よく顔を見ようとしたら、月に雲が掛かり辺りが暗くなってきてしまいました。仕方が無いので
左手を上げて光を生み出し、辺りを明るく照らします。おかげで不審者さんの顔もしっかり見えるようになりました。
往来で素肌を晒してしまい、顔を真っ赤にしながら体を隠している不審者さんの顔を良く見ると、どこかで見た事があるような………?
「……えー、貴女は?」
体を隠すのに必死だった不審者さんは、こちらの問い掛けに体を隠しながらもまっすぐに私を見て名乗りました。
「私はアンリエッタ。アンリエッタ・ド・トリステインです」
不審者だと思っていた女性は、昼間仰々しいパレードで学院にやって来たこの国の王女様、アンリエッタ王女でした。
王女様が何でコソコソしてるですか………
と言う訳で第17話でしたぁ。
アンリエッタはほんのちょこっとになっちゃったw
ネギまの代表的魔法の最初の犠牲者に選ばれたアンリエッタ、これからの活躍にご期待下さい。
タグを増やしました。
そろそろ原作とは変わってきているので、独自設定と、魔改造のタグが増えました。
こんなん違うとか言われる前にねw