魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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どうにか更新が出来たかな……?
アルビオンに潜入まで書くつもりだったんですが、直前で文字数がいい感じに。

人数が多くなると、どうしてもセリフばっかりになっちゃうなぁ。どうしたもんか。

では、第20話いってみよう


ゼロの旅20

 

 

 

 ラ・ロシェールにある『女神の杵』亭。

街で1番上等だと言うこの宿の一階にある酒場で、私達は一日中馬に乗っていて溜まった疲れを癒していたです。本当はお風呂にでも入りたい所なのですが、時間的にもう沸かしてないそうですし我慢するしかないです。

 

「アルビオンに渡る船は、明後日にならないと出ないそうだ」

 

「急ぎの任務なのにぃ………」

 

 ルイズがここまで来ての足止めにブーたれてますが、正直助かったです。まだお尻がジンジンしてますし、もう少し休んでいたいと言うのが私の本音です。

 

「私はアルビオンに行った事がないから分からないんだけど、どうして明日は船が出ないの?」

 

 キュルケの質問に、私もそう言えばどうしてかと考えました。痛みの方に気が散っていて気付きませんでしたが、それなりに交易のある国に定期便がない訳がないですし、戦争中だから毎日出せないといった所でしょうか?

 

「明日の夜は月が重なる『スヴェル』の月夜だ。その翌朝がもっともアルビオンが近づく時なんだ。風石もタダではないからね。そうやって飛ぶ距離を減らして風石を節約するんだ」

 

 なるほど。燃料節約の為だったですか。

相手が動いているからこそ、タイミングを見計らって行かないと無駄に燃料を使ってしまう訳ですね。急ぎの身としては困りますが、流石に仕方ないでしょう。体調的にも休憩が取れるのは嬉しいですし、明日1日ノンビリさせて貰いましょう。

 

「さぁ、とりあえず今日は寝よう。しっかり疲れを取ってくれ」

 

 ワルドさんはそう言って鍵束をテーブルの上に並べました。

 

「二人部屋しかなくてね、誰かが1人で使って貰う事になるが、どうする?」

 

 ふぅむ。私は特に拘りはないですし、皆に任せましょう。あぁ、才人さんやギーシュさんと同室だけはやめて貰わねば。別に何かされるのを心配してる訳ではないですが、乙女としては譲れません。

 

「じゃあ、私はユエと一緒」

 

 そう言って鍵を取るタバサ。

 

「あら、ユエとがいいの?」

 

「キュルケと一緒だと、イタズラされる」

 

 ザワっとざわめき、私達は一斉にキュルケに注目します。

 

「きゅきゅキュルケ!? あんた見境ってものがないの!?」

 

「キュルケ、それはダメです」

 

「ちょ、ちょっとタバサ! 誤解を招く言い方しないで!」

 

 キュルケが慌てていますがとりあえず拘束しないといけませんか?

 

「前に一緒に寝てた時、服を脱がされた」

「キュルケ!?」

 

「あぁ、タバサにベビードールを着せようとしてた時ね」

 

 寝てる所に勝手に着せ替えようとしたのなら警戒もされるです。

 

「キュルケ、ちょっと自重した方がいいわよ?」

 

「でもね、ヴァリエール? 見てよ、このタバサのパジャマ。色気もへったくれもないじゃない。思わずセクシーなの着せたくなるでしょう?」

 

 実はタバサは何故かパジャマ姿です。なんでもキュルケが寝ている所を起こして連れてきたせいで着替える暇も無かったらしいです。しかし、ハルケギニアにもパジャマはあったのですね。キュルケしか寝姿を知らなかったので誤解してたです。ナイトキャップまであって、完璧なパジャマ姿です。

 

「だからって寝てる所でこっそり脱がすなんて変態みたいよ?」

 

「別に変な所は触ってないわよ?」

「触ってたら衛兵を呼ぶわ」

 

 とりあえずタバサは私と一緒の部屋ですね。タバサの貞操的にもその方がいいです。

 

「じゃあ、私はルイズと一緒? 大丈夫かしら?」

 

「私のセリフよ! 何かしたら承知しないわよ!?」

 

 なんとも不安になるコンビです。きっと言い争いで体力を使い果たすでしょう。

 

「いや、ルイズは僕と一緒の部屋だ。婚約者だからな。同然だろう?」

「いえ、却下です」

 

 なにかアホな事を言ってるハレンチ子爵をバッサリ却下します。

 

「しかし……」

「却下です。だいたいそれではキュルケが才人さんかギーシュさんと同室になってしまうです」

 

「私はダーリンと一緒でいいわよ?」

 

 キュルケは放っておいて話は進めます。

 

「ルイズとキュルケは同室にしますが、ケンカしないようにお願いしますね。才人さんとギーシュさんを同室にしましょう。知り合いですし、疲れを取らないといけない時に初対面の人と同室では逆に疲れてしまうかもしれませんし」

 

 そんな訳で部屋割りは私とタバサ、キュルケとルイズ、才人さんとギーシュさん、そしてワルドさんが1人部屋です。

 

「いや、ルイズと大事な話があるんだが……」

 

「同室じゃなくても出来るです。じゃあ、皆さん移動しましょう。私はもう疲れたです」

 

 

 こうして私達は自分に割り当てられた部屋に移動します。1日中馬に乗るなんて初心者にはキツイ事をやったせいで身体中ガタガタです。

 ここ『女神の杵』亭は貴族専用の宿らしいので、普通の部屋でも内装から何からかなり上等です。ベットも大きくて、なかなか寝心地が良さそうです。

 

「あー………疲れたです」

 

 ゴロンとベットに横になってみましたが、予想通りなかなか寝心地いいですね。でも、この学院の制服のままではその寝心地も半減してしまうです。お風呂に入れないのは仕方ないとして、せめてパジャマに着替えるとしましょう。

 

 私はポンと着替えを取り出しモソモソと着替えます。

乗馬はかなり激しいスポーツなので汗も酷いです。明日はお風呂を使えるそうですし、それまで我慢するしかないですね。

 

「タバサ、明日もパジャマのままでいるですか?」

 

「着替え無い」

 

 まぁ、荷物を持ってなかったですし、着替えも無いですね。ふむ……

 

「じゃあ、私の服を貸すですよ」

 

 タバサが本から顔を上げてこちらを見たので、倉庫からポンと服を1着取り出します。卒業してもなんとなく持ってきてしまっていた麻帆良女子中等部の制服。私の人生のターニングポイントを共に疾走した制服です。

 

「明日はこれを着るといいです」

 

「……ありがとう」

 

 タバサは渡された制服をマジマジ見ています。気に入って貰えたでしょうか。

彼女とはサイズもほとんど同じですから、ちゃんと入るでしょう。

 

「それではタバサ、おやすみです。寝る時には灯りを消すですよ」

 

「うん。おやすみ」

 

 あー……電車やバスと言う文明のありがたみが分かった1日でした。移動方法はどうにかしないと体が持たないかもしれないです。ふわぁ〜ぅ………明日1日休んで、翌日は空中都市アルビオンに出発します。しっかり休んで英気を養っておかねば。目的地は戦場の真っ只中。あの魔法世界で体験した決戦のような光景が広がっているのでしょう。何が起こるか分からないですが、何が起こっても対処出来るようにしておかねば。もう二度と、目の前で友達が消える所は見たくないですから。

 

 私はタバサのページをめくる音を子守唄に、ゆっくり夢の世界に落ちて行きました。

外からルイズと才人さん、そしてキュルケの声が聞こえて来るですが、何してるんでしょうね?

 

 

 

 翌朝、疲れていたからか、いつもより長く寝ていたようです。

外を見るといつもより日が高くなってます。とりあえず顔を洗いに行ったですが、その帰りに何処かに出かけるルイズと出会ったです。

 

「おはようです、ルイズ」

 

「お、おはようユエ」

 

 ちょっと戸惑っているようですが、どうしたんでしょう?

 

「どこに行くですか?」

 

「や、あの、ワルドに中庭に来いって言われたから今から行く所なの」

 

「ほう?」

 

 こんな朝早くからどんな用なんでしょうね?

少し興味があるです。愛の語らいとかでないならついて行きたい所ですね。

 

「私も行っていいですか?」

 

「え! ユエも? 1人で、とは言われてないから良いとは思うけど……」

 

 私は、ルイズについて中庭に向かいました。

昨日は分かりませんでしたが、結構な広さで樽や箱が沢山置かれていて、端の方には何に使ったのか分からないですが苔生した台が佇んでいるです。そんな中庭の中央に、10メートルほど離れて才人さんとワルドさんが向かい合って立ってます。才人さんはデルフさんを抜いていますが、何をしてるんでしょう。

 

「来たかい、ルイズ。……おや、君も一緒だったのか」

 

「すいません。顔を洗いに出たらルイズに会いましてね。興味があったのでついて来たですが、お邪魔なら退散するですよ?」

 

「いや、構わない。君にも見ていて欲しいとは思っていたからね」

 

 見ていて欲しい? 何をする……いえ、この雰囲気、稽古と称して嬲ろうとするエヴァンジェリンさんに似た雰囲気を出しています。剣を抜かせている所から、才人さんと手合わせでもするつもりなのでしょう。

 

「ワルド……。来いって言うから来て見たけど、何をするつもりなの?」

 

「彼の実力が気になってね。試したくなったのだよ」

 

 予想通りでした。才人さんはデルフさんを持っていればかなりの速さで動けるですから、どれくらい戦えるのか気になってはいたです。これはいい機会ですね。

 

「もう! そんなバカな事はやめて。今はそんな事してる場合じゃないでしょう?」

 

「そうだね。でも貴族と言うのは厄介な性分をしていてね。強いか弱いか、それが気になるとどうしようも無くなってしまうのさ」

 

 エヴァンジェリンさんも、相手の実力を図るのが好きな人でしたね。この手の人達特有の性質なんでしょうか?

 

「私も興味あるです。才人さんの速さはかなりのもの。ワルドさんの実力なら、彼の全力を見られるかもしれないです」

 

「ユエまで何を言ってるの!? サイト! やめなさい。これは命令よ?」

 

 言われた才人さんは何も答えず、ただワルドさんに向かってデルフさんを構えています。

 

「何なのよ、もう!」

 

 才人さんの構え見て、ワルドさんも杖を抜いてフェンシングの様に前方に突き出す構えを取ったです。

 

「では介添人も来た事だし、始めるとしようか?」

 

「俺、不器用ですから、手加減とか出来ませんよ?」

 

「構わん。全力で来たまえ」

 

 才人さんの言葉にワルドさんは薄く笑って答えるです。彼の実力なら大半の相手を下せるでしょうし、その自信も分かるです。思えば才人さんは魔法使い相手の実戦はこれで2度目。これから戦場に行くと言う時に、実戦形式での訓練が出来るのは儲け物ですね。才人さんはここに来るまでは普通の一般人で、格闘技などもやっていなかったそうですし、闘い、と言う物に慣れていないのでこう言う訓練は今後の為になるはずです。

 

 そして、手合わせが始まりました。

気合いを込めて才人さんが斬りかかるです。10メートルと言う距離を一足飛びに詰めて、ワルドさんに肉薄しますが、ワルドさんは軽々と杖で受け止めました。細身の杖ですが、恐ろしく頑丈ですね。おそらく固定化の魔法が掛かっているのでしょう。ワルドさんは少し後ろに下がったかと思うと、驚く速さの突きを繰り出してきました。

 

 ふぅむ、なかなか速いですね。まだ手加減してるようですが。

 

 才人さんが突きを払い、ワルドさんはその勢いに逆らわないように飛びすさり構え直しました。距離は先ほどとほぼ同じです。1度仕切り直しですか。

 

「す、すごい。サイトもワルドも……」

 

「速さは互角と言えるですね。しかし、才人さんには隙が多過ぎるです」

 

「す、隙?」

 

「攻撃されたら反応出来ない弱点とでも言いますかね。才人さんは速さ以外は素人です。長年訓練した軍人相手に、速さだけで勝てると思う方がおかしいんです」

 

 まぁ、その速さも雷の速度を出すとか人外レベルなら、同じ人外以外には対処出来ないでしょうが。才人さんの速さは普通の人間相手なら十分超人と言えるですが、しっかり訓練した人間なら対処出来ない速度ではないです。つまり、後はどれだけ戦う技術があるかで勝敗が決まるですが……

 

 才人さんが風車のようにデルフさんを振り回したり、素早い突きを放ちますが、ワルドさんは難なく避け、受け流し、隙の出来た後頭部に杖で強打しました。その威力に堪らず倒れこむ才人さんを見てルイズが飛び出そうとしたので腕を掴んで止めます。

 

「ユエ離して!」

 

「まだ終わってないですよ。気絶した訳でも、降参した訳でもないですし。こういう物は勝負がつくまで手を出してはいけないです。堪えて待って、終わったら抱きついて下さい。でも、今飛び出すのはダメです」

 

「だだ抱き付いたりはしないけどっ!」

 

 才人さんは弾けるように立ち上がり、ワルドさんに斬りかかります。薙ぎ払い、切り上げ、突き、がむしゃらに剣撃を繰り出しますが、ワルドさんはヒョイヒョイと軽々避けてしまっています。予備動作も大きいですし、攻撃は単純ですから速さに気を取られず落ち着いて見れば、簡単に避けられる攻撃です。このままでは絶対に勝てないですね。

 

 ワルドさんがとうとう攻撃に転じました。

常人には分からないだろう速度で繰り出される突きを、才人さんはどうにか凌いでいますが、そんな攻撃をしながらワルドさんは魔力を練っていきます。どうやら魔法を使うつもりのようですね。

 一定のリズムを刻みながら繰り出されて行く突きを必死で凌いでいく才人さんですが、魔法に対応する暇がなさそうです。そして、ワルドさんの呪文が完成しました。

 

 ボンッ!!

「ぐぅっ!?」

 

 才人さんの横で爆ぜた風に吹き飛ばされ、10メートル以上離れた樽の山に突っ込みました。その勢いでデルフさんが飛ばされてしまい、拾おうとした所で、デルフさんを踏みつけ拾えない様にしたワルドさんに杖を突きつけられたです。

 

「ふむ。勝負あり、ですね」

 

 才人さんは剣を奪われ、杖を突き付けられて完全に詰んでます。崩れ落ちた樽を避けながら彼らに近付くと、ワルドさんから声が掛かりました。

 

「勝敗はどうだい?」

 

「ワルドさんの圧勝ですね。まだ半分も実力を残した上での」

 

 ルイズと才人さんが驚いてこちらを見ますが、私の見立てでは3分の1も出してないと思うです。

 

「そこまで読まれてたか。君とも手合わせしてみたくなったな」

 

「女に杖を向けるのが貴族の嗜みと言うのならお受けしますが?」

 

「まさか」

 

 そう言ってワルドさんは杖をしまい、ルイズに向き直りました。

 

「分かったろう、ルイズ? いくら伝説の使い魔でも、彼では君を守れない」

 

 ………おや? 何故才人さんが伝説の使い魔だと知ってるのでしょう?

 

「だって……だってあなたは、あの魔法衛士隊の隊長じゃない! 陛下を守る護衛隊。強くて当然じゃない!」

 

「あぁ、そうだよ。でも、アルビオンに行ったら敵なんて選べない。強力な敵に囲まれた時、君はそいつらにこう言うのかい? 私達は弱いです。だから杖を収めて下さい、と」

 

 まぁ、まず通らないでしょうね。エヴァンジェリンさんなら、情けない、とか言って捨て置くくらいするでしょうが、普通はそのまま殺されるか、捕らえられるかです。

 

 ルイズは何も答えられず才人さんの方をじっと見つめます。そして、ハンカチを取り出し彼の額から流れる血を拭う為近付こうとすると、ワルドさんに腕を掴まれました。

 

「さぁ、行こうルイズ」

 

「で、でも………」

 

「とりあえず1人にしておこう。それに彼女も居る」

 

 ワルドさんがチラリと私見て、それからルイズの背を押してこの場を去ろうとします。ルイズは才人さんを見ながら唇を噛み締め、しかし何も言えず彼に促されるまま去って行きました。後に残ったのは、膝をつき項垂れる才人さんと、転がるデルフさん。そして私だけです。

 

「いやぁ、負けちまったな」

 

「見事に負けましたね」

 

 少し明るめに言うデルフさんに合わせて、私も軽い調子で話しかけるです。

 

「しっかし、あの貴族は強いな。気にすんな相棒。あいつは相当の使い手だよ。スクウェアクラスかもしれねぇ。負けるのは恥じゃねぇよ」

 

「そうですね。かなりの実力者です。昨日今日剣を握ったばかりでは勝てなくてもおかしくありません」

 

「惚れてる女の前で負けちまったのは、そりゃあ、悔しいだろうが、あんまり落ち込むなよ。俺まで悲しくなりゃぁ」

 

 どうにか慰めようするデルフさんを拾い、才人さんに近寄り手渡そうとしますが、彼は動きません。とりあえず軽く治療の魔法を掛けて額の傷を治し、ついでに他の擦り傷なども癒していきます。

 

「おーおー、嬢ちゃんもなかなかの使い手だな。まるで先住魔法じゃねーか」

 

「分類的には先住魔法に入るようですよ、私の魔法は。本当は精霊魔法なのですが」

 

「ほほぉ、言い方はエルフみたいだな」

 

「エルフの皆さんは、先住、とは言わないのですか?」

 

「あぁ。あいつらは無粋な呼び方だって嫌ってるからな」

 

 無粋、ですか。

まぁ、せっかく名前があるのに一緒くたにされたら嫌がりますよね。

 

 そんな感じでデルフさんと話していたら、才人さんがのそっと起き上がり、トボトボと歩いて行ってしまいました。デルフさんを置いて。

 

「ちょ! 相棒! 忘れてる。俺っちを忘れてるぞ!」

 

 聞こえてないのか、聞く元気がないのか、そのまま行ってしまう才人さん。ルイズの前で負けたのが相当ショックだったみたいですね。今回は実力の差があり過ぎたですし、負けて当然だと思うですが。

 

「ありゃあ、相当堪えてるな」

 

「ボロ負けでしたからね」

 

「嬢ちゃんなら勝てたか?」

 

 デルフさんの問い掛けにしばし考えてみます。そして、そのまま軽くデルフさんを振り、想像のワルドさんと一戦してみるです。

 

 ビュッ! ザッ! ババッ!

 

 振り上げ、払い、そして蹴りを放ち、一通りやってみましたが、彼のほんの一部分しか見ていないので、何が繰り出されるか分からずシミュレーションが上手くいきません。

 

「いやぁ、そのちっこい体のどこにこれだけ振り回せる力があるんだ」

 

「ちっこいは余計です。……ふぅ、しかし……」

 

「勝てなかったか?」

 

「まだまだ隠している実力があるでしょうから、今の段階ではなんとも言えませんね」

 

 彼の動きは十分対応出来る速さでしたが、魔法の腕はかなりの物。それに対応出来なければ負けてしまうでしょう。無詠唱の技術がないと言うのがせめてもの救いですね。

 

「とりあえず、才人さんの所に行きますか。抜き身のまま剣を持ってると不審者みたいですし」

 

「はっはっはっ! 確かになっ!」

 

 私はデルフさんを抱えて、才人さんが歩いて行った方向を目指します。さーて、どこ行ったですかね。ギーシュさんに、フーケのゴーレム。回数は少ないですが連勝していたおかげで付いていた自信が木っ端微塵になってしまったですからね。少しフォローしてあげないといけないです。

 

 才人さんにあてがわれた部屋をノックしてみますが、反応はありません。どこか他所にでも行ってるのか、街に出てるのか分かりませんが。鍵も掛かってるです。

 

 パチン ガチャ

「よし、開いたです」

 

「いや、嬢ちゃん。『開けた』の間違いだろ」

 

「些細な事ですよ」

 

 魔法で鍵を開けて中に入ると、才人さんはベットに転がってじっと天井を見つめていました。なんです、やっぱり居るじゃないですか。

 

「才人さん。デルフさんをお忘れですよ?」

 

「ひでぇぜ相棒。俺様を忘れるなんて」

 

 私は壁に立て掛けてあった鞘を取り、デルフさんが喋れるように少し出した状態で納めました。

しかし、才人さんは一切反応せず、天井を見たままです。私はデルフさんを抱えたまま近付き、彼の顔を覗き込みます。

 

「何か考え事ですか?」

 

 ゴロンと寝返りを打って、私から顔を背ける才人さん。相当いじけてますね。

 

「貴方が勝てなかったのは当然ですよ?」

 

「……なんでだよ?」

 

 顔を背けたまま、才人さんは私の言葉にそう返してきました。

 

「彼は。ワルド子爵は魔法衛士隊の隊長。軍人なんです。何年も訓練して来て、いろんな手柄を立てて、ようやくなれる地位に居る人です。昨日今日剣を握ったばかりで、今まで訓練なんてした事の無い一般人であった貴方が、どうして勝てると言うんですか。軍隊と言うのはそんな甘い所ではないです」

 

「………伝説の使い魔なのに、か?」

 

「当然です。私はやったことは無いですが、才人さんならあるでしょう? スイッチを入れて、始まったばかりのゲームで、勇者はいきなり魔王の所に行けますか? 下手をすれば最初に出会ったスライムにやられてゲームオーバーです。まぁ実際のスライムは結構強いんですが、そこは置いておくです」

 

 才人さんは今だ動かず寝転がったままです。

 

「今回の事はいい訓練になったです。能力のおかげで並の相手なら負けない才人さんは、本当の実力者相手でなければ全力も出せないですし、弱点も分からない。そのまま戦場に行って、ワルドさんのような相手と出会っていたら……」

 

「俺は死んでいた……って、言いたいのか?」

 

 むくりと起き上がり、胡座をかいて座る才人さんの質問に、私は無慈悲に答えます。

 

「えぇ。手も足も出ないまま、貴方も、ルイズも殺されてしまったでしょう。いえ、ルイズは私の友人にして護衛対象。守ってみせますが」

 

 私のセリフを聞いて、また才人さんは黙ってしまいました。しばらく待っていても喋ってくれないので、デルフさんをベットの上に置いて、私は部屋を出る事にしました。

 

「……夕映なら、……あいつに勝てたか?」

 

 出ようと扉に手を掛けた所で、才人さんからそんな質問をされました。私はさっきやって見たシミュレーションを思い出しつつ、どうせならと少し誇張して答えます。

 

「あれ以上隠し球がなければ、勝てます」

 

「そうか………いいな。夕映は強くて。俺は伝説の使い魔とか言う奴なのに、こんなにも……弱い!」

 

 ガキン!

 

 才人さんがいきなり斬りかかって来たので、私は素早く杖を取り出し受け止めます。

 

「こんな簡単に受け止められるのかよ……!」

 

「女の子にいきなり襲いかかるのは、いかがなものでしょう?」

 

 ギン! と言う音を響かせて才人さんを押し返し、彼の出方を見るとします。

 

「夕映はどうしてそんなに強いんだ? この前もオーク鬼とか言う化け物を1人で退治しちまったし、ルイズはあんな事出来るメイジは、軍隊にも居ないって言ってたぜ!?」

 

 セリフが終わったと同時に踏み込んで来た彼を素早く避けて、部屋の真ん中まで移動します。そのまま更に向かってくる才人さんの剣撃を、時に受け止め、払い、避け、そして受け流して凌いでいきます。しかし、なかなか速いですね。身体強化が出来なかったら対応しきれなかったかもしれないです。

 

「や! はぁっ!! このっ!!」

 

 速度自体はかなりのもの。しかし、力は一般人レベルですし、動きは先ほどのワルド戦同様素人の域です。使い魔としての能力以外はまったく普通の人ですね。

 

「才人さん、貴方の攻撃は動きが読みやすいんです。だから避けられ受け止められ……反撃されるです!」

 

 上段から振り下ろされた剣を避けながら彼の後ろに周り、軸足を払って引き倒します。ダン! と言う大きな音を立てて倒れこんだ才人さんに杖を突き付けて勝負ありと言った所ですかね。

 

「それと、私はそれほど強くないですよ?」

 

「嘘つけ。こんなあっさり勝っちまったくせに」

 

 大きく息を吐いて才人さんがボヤきます。

 

「当然です。私はこの半年を血の滲む、いえ、血反吐を吐くような修行に明け暮れて来たんです。昨日今日剣を持ったばかりの貴方に負けたら、師匠に殺されます」

 

 杖をしまい、才人さんが起きるのを待ちますが、彼は寝転がったままで起き上がりません。そんなに強く投げてはいないと思ったですが。

 

「あー……才人さん? もしかして強く投げ過ぎました? 治癒魔法掛けます?」

 

「いや、ちょっと頭冷やしてるだけだ。悪い、いきなり斬りかかって」

 

 良かった、脳震盪とか起こしてる訳では無かったようです。

 

「次からはせめて言ってからにして下さいね?」

 

「そうする……」

 

 そう言ってのそっと起き上がった才人さんは、そのままベットに倒れ込んでしまいました。

 

「なぁ、夕映……」

 

 うつ伏せのまま、才人さんが呼び掛けて来ます。

 

「なんです?」

 

「さっき凄い修行をしたって言ってたけど、どうしてそんな事をしようと思ったんだ? しかも、魔法使いになんてなって」

 

 どうして……。うーむ、難しい質問ですね。いくつか答えはあるですが、1番の理由はこれですね。

 

「初恋の男の子の役に立ちたい。ただそれだけです」

 

 私の答えが予想外だったのか、ガバっと起き上がりこちらを見る才人さん。いろいろな理由の中でも1番大きなものですし、私の原点です。ネギ先生の手助けが出来ればと思って杖を取ったですが、結局戦力になれずにここまで来てしまいました。私のこの目標が達成出来るのは、いつになる事やら。

 

「そ、そんな事で血を吐く様な修行をしたって言うのか?」

 

「えぇ。私にとってはとても重要かつ絶対の理由ですよ」

 

 何か呆れ顔で見てくる才人さんに、私は誇りを持って答えます。才人さんはしばらく私を微妙な顔で見てましたが、その後また、ポフっと倒れ込みました。

 

「…………ちょっと寝るわ」

 

「はぁ……おやすみです」

 

 やはりまだ落ち込んでいるのか、テンションが低いまま才人さんが寝に入ったので、私は部屋を出て行く事にします。扉を閉め、1度ため息をついてから、とりあえず自分の部屋に向かうです。歩きながら肩をトントンと叩いていると、角からワルドさんが出て来ました。

 

「なかなか手厳しいね? 僕はてっきり抱き締めたりして慰めるんだと思ってたんだが」

 

「それは私の役目ではないので。しかし、隊長さんは覗きが趣味とは思いませんでした」

 

「言いがかりはやめてくれ。あんな音を立てて暴れてたら誰でも気付く。迷惑にならないよう、『サイレント』を掛けてたんだ」

 

 割と大暴れしてたんですね。あれだけやって誰も来なかったのは、そう言う訳でしたか。

 

「彼をどう思う?」

 

「才人さんですか? 速さだけは1人前で、技術は拙過ぎます。ついこの間まで、剣を持った事すらなかったんですから仕方ないでしょうが、戦場に放り出すのは危険かもですね」

 

 私の評価に、ワルドさんは腕を組んで唸っています。この人の目的はなんなのでしょう? 最初は、ルイズと才人さんを引き離すつもりかと思ったですが、なんだか才人さんの評価が低いのが気に入らない様子ですし。

 

「ふむ、良く分析出来ているね。先ほどの戦い方といい、実に素晴らしい」

 

「はぁ…、ありがとうです」

 

「許されるなら、是非とも君が欲しい所だ」

 

 思わず立ち止まってワルドさんを凝視します。この人はルイズの婚約者だと言うのに、私にまでコナを掛けて来たですよ? あれですか? 女性なら何人でも、ってタイプの人ですか? しかも、ルイズや私を、と言うのは……

 

「小さい女が好みなのですか?」

「ブフォッ!! ち、違う! 衛士隊に欲しいと言う意味だ! ま、まぁ、軍は女人禁制なので実現はしないだろうが、君の強さは、我が隊の中でも上位に入りそうだ。それに魔法の腕も良さそうだし、十分軍でもやって行けるだろうと思ったんだ」

 

 なんだ、ただの勧誘だったですか。ビックリしたです。もしや小さい子が好みの変態さんかと思ったです。

 

「言葉に気を付けないと、誤解されるですよ?」

 

「まさか、そう取られるとは思わなかったがね……」

 

 まさかも何も、誰でも誤解するセリフだったです。まったく、ハレンチ子爵は困りますね。それから、私が自分の部屋についたので扉を開けようとしても、ワルドさんが後ろについたままです。はて、何か用でしょうか?

 

「何か用ですか? 私はこれから、部屋で昼寝でもするつもりなのですが?」

 

「あぁ、いや。何でもないよ。一応極秘任務なので、宿からは出ないようにしててくれ。目立ってバレたら意味がないのでね」

 

 そう言ってワルドさんも部屋に戻る為か引き返して行きました。それだけを言う為にわざわざここまでついて来たですか? よく分からない人です。とりあえずワルドさんの事は放っておいて、部屋の中に入ります。中ではタバサが昨日貸した麻帆良の制服を着て本を読んでます。思った通り似合うですね。サイズもピッタリなようですし、貸して正解でした。青い髪と麻帆良の制服のおかげで、ちょっと亜子さんを思い出したです。

 

 私は自分のベットに寝転がり、伸びをしてから目を閉じます。明日には戦場に立ってるかもしれないですから、しっかり寝て体力を回復させねば。

 

 

 




ふぅー……とうとう第20話まで来たか。いきなり才人が斬りかかるとか変じゃねと思ったでしょうが、弟子入りフラグの前段階なんで、こんなになりました。

そうそう、まだ本決まりとはいかないんですが、夕映の強さをラカン式で出して見ました。ゼロ魔勢の強さがイマイチ分からないので、こいつはここじゃね? って思ったら教えて下さい。


クラス 数値 該当者・該当物
     
SA   12000 ラカン(自称)
   
    10000  ネギ(最強モード)  フェイト(覚醒後)
     8000   リョウメンスクナノカミ
     
     
AAA 3200 フェイト・アーウェルンクス(数値は数倍の可能性有)
     3000    カゲタロウ
     2800   鬼神兵(大戦期)
     2200  闇の魔法・術式兵装のネギ
    2000   高畑・T・タカミチ(本気か怪しい)
    2000? フェイト・パーティの魔道師
    1500    イージス艦
    1500? 月詠
     1100 闇モードのネギ
     
AA 700 新ネギの基礎体力
   650 竜種(非魔法)
   500 魔法世界に来た頃のネギ  才人(デルフ+ガンダールブMAXハート)
A 400 夕映
  300 麻帆良学園 魔法先生(平均)
     本国魔法騎士団団員(平均)
     高位と呼ばれる魔法使い
B      スクウェアクラス
C 280 サイト(ガンダールブ有り)  タバサ
  250 トライアングルクラス
D 200
  100 戦車
     魔法学校卒業生
  30~50 旧世界達人(気未使用) ラインクラス
  10~20 ドットクラス
  2 魔法使い(平均的魔法世界人)
  1、5 才人(ガンダールブ無し)
   1 長谷川千雨
  0.5 ネコ
  0  
 
一応こんな感じですかねぇ。夕映はそのうちもっと強くなる予定ですが、ゼロ魔勢の強さが上手く想像出来なかったです。これからちょくちょく変更して行こうと思ってます。

では、次回に続くっ

誤字脱字を修正。報告感謝です

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