魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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1日遅れでどうにか投稿。残す所あと1日で、今年も終わりです。

年内にどうにか投稿できて良かったです。

クオリティ? なんです、それ? オイシイの?

では、22話レッツゴー


ゼロの旅22

 

 

   <ルイズ>

 

 

 朝から落ち込んでるサイトをしし心配して見に来たんだけど………

 

「あんた、なんで部屋の中で剣なんて振ってるのよ?」

 

 お昼頃はずっと寝てて起きないってギーシュが言ってたから時間を置いてみたのに、来てみればなんかハァハァ言いながら剣を振って辛そうにしてる。何してるんだか……

 

「ハァハァ……。あぁ、ルイズか。なんでと言われてもさぁ。俺って、ワルドに手も足も出なかったじゃん? 俺って弱いんだなぁ……って思って落ち込んでたんだけど、夕映がさ……」

 

 え? なんでそこでユエが出て来るの?

 

「負けて当然だって言うんだよ。悔しくてさぁ、でも、夕映はあんな多勢のオーク鬼を1人で倒しちゃうくらい強い訳じゃん? 言われて当然かなぁ、でも悔しいなぁ、って思ってたら気付いたらデルフで斬り掛かってた」

 

「ブッ!! 何してんのよあんたはっ!!」

 

 こいつは、どうしたらユエに斬りかかるなんて事になるのかしら!

 

「い、いや、気付いたらやってたんだよ! でも、流石だな。簡単に受け止められた上に、どんなに斬りかかっても全部避けられたよ。終いにはポーンと投げられてハイ終了、ってね。その時に聞いたんだ。なんでそんなに強くなれたんだってね」

 

 なんだか凄くスッキリした顔をしてサイトは剣を立て掛ける。そのままベランダに行くサイトについて行くと、サイトは一つになった月を見上げてため息をついてる。

 

「聞いたらなんだったのよ?」

 

「聞いて驚け。初恋の男の役に立ちたかったから、だとよ」

「ふぇ?」

 

 クックックッと笑うサイトに、私は思わず呆けたわ。いや、なんて言うか意外って感じ? ユエって、どちらかと言うとそういうのから遠いと思ってたから、まさか男の為に強くなろうとしたなんて。

 

「俺も最初聞いた時は驚いたぜ。男の為に、なんて乙女チックな理由でなんで強くなる必要があるんだとも思ったけどな。だけど、そんな理由だけであれだけ強くなるなんて、どれだけその男が好きだったんだろうな」

 

 確かに、それは気になるわね。

オーク鬼を十数匹退治するなんて、何人ものメイジで編成した部隊が数日がかりでやる大仕事なのに、準備もなしに討伐しちゃう程強くなった理由が、好きな男の為だなんて。どちらかと言うとキュルケとかに似合う理由よね。ユエはもっとクールなイメージだったけど、意外と熱い性格してたのね。でも、そんなユエがそこまで好きになった男って、どんな人なんだろう……?

 

「気になるわねぇ。どんな人だったのかしら?」

 

「だなぁ。あの夕映がそこまで惚れるんだ。きっとすげぇいい男なんだろうな」

 

「あのユエが、キュルケみたいにぽや〜っとしてる所が想像つかないけどね」

 

 ちょっと想像してみるわ。ユエがキュルケみたいに『イヤーン、好き好き』ってやってる所を……。

 

 うん、悪いけど、似合わない。

 

「それで、なんで剣の素振りなんてしてるのよ?」

 

「夕映が言ってたんだ。その好きな男の為に血反吐吐きながら頑張ったって。すげぇよなぁ。言うほど簡単じゃないぜ? 俺なんて体育の授業でマラソンさせられただけで死ぬ死ぬ言ってたくらいだし」

 

 マラ……ソンが何か分からないけど、なんだか楽しそうにユエの話をするサイトを見てると、なんだかこう………イライラするっ!

 

「………で? 平民で使い魔のあんたは無駄な努力をしてみようと思った訳ね?」

 

 なんだかすっごくイライラしてきて、思わずキツイ言い方になっちゃった。案の定サイトはムッとしたみたいで、しかめっ面で私を見てくる。

 

「無駄な努力ってなんだよ……。俺はお前の為に頑張ろうと思ってやってるのに」

 

 うぅ……私の為? い、いや、そうよね。使い魔だもん。ご主人様の為に頑張るのは当然よ!うん。

 

「ふ、ふん! 努力すればユエみたいになれると思ってるの? ただの平民が、ちょっと訓練したからって強くなれる訳ないじゃない」

 

「な、なんだよ。やって見なきゃ分からないだろ!?」

 

「分かるわよ! 確かにあんたは凄い速さで動けるけど、それだけじゃない! いい!? 平民は平民らしくしてればいいの! 変に訓練したってメイジには勝てないんだから!」

 

 むしろ、多少強くなって貴族に目を付けられたらすぐに殺されちゃうんだから。貴族は誇り高いし、平民を見下してるのも多いわ。それなのに、下に見ていた平民が自分よりずっと強くて目立ってたら、きっと変な理由をつけて捕らえに来るわ。いえ、そのまま無礼打ちとか言って殺されるわね。ギーシュみたいに、負けた後普通に付き合っていられる貴族なんて居ないんだから。

 

「あんたは私の使い魔だけど、平民なんだから、変な事しなくていいの! ただでさえ平民が使い魔で目立ってるのに、それがユエみたく強くなってみなさい。生意気だって言って嫌がらせしてくるわよ? もしくは適当な理由をつけて無礼打ちね」

 

「………あれ? お前、もしかして心配してる? 目立って生意気だってイチャモンつけられるかもだから?」

 

「なっ! ななな! ち、違うわよ!!へへへ変な事言わないでよね! 使い魔の癖に調子に乗るなって言ってるのよ!!」

 

 ここここいつ、何ニヤニヤしてるのよ! だだ誰が心配なんてしてやるものですかっ!!

 

「ふ、ふふん! いいわよ、あんたがどこで無礼打ちされても助けてあげないんだから! ワルドと結婚したら、あんたなんて必要なくなるしねっ!」

 

 あ、なんか凄い傷付いたって顔した! あ、あれ? なんか失敗したような……?

 

「……あぁ、そうかよ」

 

「ぅ……えぇ、そうよ! あの人、頼りがいもあるし、きっと安心よ。あんたが分不相応に強くなろうとしても無駄なんだから!」

 

 あぁ……自分の口なのに、勝手に動くわ! 落ち込んでたから慰めに来たつもりだったのに……いやいや! なんで使い魔にそんな気を使わないといけないのよ! で、でも前にユエがギーシュとの決闘の時に、『パートナーを思いやり、信じてやるのが、偉大なメイジとしての仕事』って言ってたし、それで慰めようと思ったのは間違いじゃないはず。ででで、でもなんか怒ってるわ! キツイ訓練なんてしなくていいって言っただけなのに!

 

「……!? ルイズ!!」

「へっ!?」

 

 いきなり飛び掛かって来たサイトに抱えられて、そのままベットに押し倒されたわ! ちちちょっと! 何を急に! へへへ平民の分際で! 使い魔の癖に!! ごごごご主人様をおお押し倒すなんて、何考えてるのよ!?

 

「ななな! 何するのよ! こ、この変態! ご主人様をおおお、押し倒すなんて、無礼にも程があるわ! ここ心の準備とか要るのよ、女にはっ!」

   ッズガァアアアアッンッ!!

「ひぇ?」

 

 押し倒して来た無礼者に文句を言ってたら、さっきまで居たベランダに雷が突き刺さって粉々に壊された。い、今のは[ライトニング・クラウド]? もしくは[ライトニング]? どっちにしても魔法攻撃、メイジの仕業ね? ………って、事は………

 

「襲撃!?」

「みたいだな」

 

 見れば辛うじて残っていたベランダの所に、仮面をつけたメイジが杖を抜いて立っていたわ。今の魔法はどうやらこいつの仕業ね? あのまま居たら、雷の直撃で真っ黒焦げになってたかも。

 

……サイト、助けてくれた?

 

「何もんだ、あんた!?」

 

 サイトが怒鳴るけど、仮面のメイジは何も言わずにスッと杖を上げて小さく呪文を呟く。微かに聞こえたこの呪文は……

 

「さ、サイト![ エア・ニードル]よ! 剣みたいに突き刺す為の魔法!気を付けて!」

 

「おう! 分かった!」

 

 いつの間にか剣を抜いていたサイトが、仮面のメイジに向かって構える。まるで待ってたかの様に構え終わったサイトに向かって、物凄い速さで杖を突き出すメイジ。サイトも、それをどうにか凌ぎながら斬り掛かるけどヒラリヒラリと簡単に避けられちゃってる。あのメイジ、かなり強いみたい!

 

「サイト!?」

「危ないから、ドアの方に行ってろ!!」

 

 私を守ろうとしてるのは分かるけど、このままじゃサイトが危ないわ! でも、私じゃ何も出来ないし。ユエみたいに強かったら一緒に戦えるのに……。いえ、このまま指を咥えたままで良い訳がないわ! ラ・ヴァリエールの女はそんな腰抜けじゃないんだからっ!

 

 私は静かに、敵に気付かれないよう慎重に呪文を唱えて、サイト達がバッと離れた瞬間に魔法を撃ち込む準備を始める。サイトは相手の突きをどうにか避け切って、大きく剣で横薙ぎに斬り掛かる。仮面のメイジは大きく飛び退いて、最初に入って来た窓際まで後退した。……うん、今ね!

 

「サイト! 下がって!!」

 [ファイヤー・ボール]!!

 

 私の声を聞いたサイトがバッと壁際まで下がったと同時に、私は全力の[ファイヤー・ボール]を仮面のメイジに撃ち込んでやった。しっかり丁寧に詠唱したおかげか、きっちり命中して、

 

  ッドガァアアンッ!!

 

「………あ、あれー?」

 

 命中したっぽいけど、仮面のメイジごと、窓際全体が吹き飛んじゃった。ち、力入れ過ぎたのかしら?

 

「るるる、ルイズさま? 部屋ごと吹き飛ばすのは、やり過ぎだと思うんですが……? いや、敵だし、いいんだけどね? いいんだけどね?」

 

「わ、ワザとじゃないもん! い、いいのよ刺客だし! それより、みんなと合流しましょ! 他も騒がしいし、皆の所も襲撃されてるのかも!」

 

「ま、まぁいいか。よし、下に行くぞ!」

 

 そう言って私の手を握って引っ張って行くサイトに、少し胸がうるさくなった。

 

 

 

 サイトに引っ張られて一階に降りたけど、そこには傭兵がわんさかやって来ていてキュルケ達に矢を放っていたわ。ギーシュとキュルケと、何かどこかで見た事ある服を着たタバサが魔法で応戦してるけど、街中の傭兵が集まっているのかってくらい沢山居るせいで手に負えないみたい。しかも、向こうはメイジとの戦いに慣れているみたいで、魔法射程を見極めて、その射程外から矢を放ってくるので、こちらも手が出せなくなっている。

 

「キュルケ! 俺達も上でメイジに襲われた!」

 

「こっちは急に傭兵達が襲って来たわ。やっぱり昨日の連中はただの物盗りじゃなかったみたいね」

 

 そろーっと顔を出して連中の様子を見てみるけど、すぐに矢が飛んで来て顔を引っ込める事になった。

 

「いやはや、参ったねこれは」

 

「魔法を使おうと立ち上がったらすぐ矢が来るから、上手く撃てないのよね」

 

 傭兵は、数人なら簡単に蹴散らせる平民なんだけど、あれだけ沢山居ると精神力が持たないわ。今出来ることは、向こうに私達を襲ったメイジみたいなのが他に居ない事祈るくらいね

 

「さっき、大きな音がした」

 

 タバサが私の方を見てボソリと呟く。この子が長く話している所を見た事ないけど、長く話すと死んじゃうとかあるのかしら?

 

「あぁ、俺達の所に仮面をつけたメイジが襲って来たんだ。それで、ルイズが魔法をぶっ放したんだけど」

 

「それであんな音がしたのね。ビックリしたわ」

 

「ベランダ側が殆ど吹き飛んだからな。襲撃者ごと」

 

 キュルケ達がこっちに振り向くけど、私は悪くないもん。うん。

 

「ヴァリエール。力加減くらいはしなさいよ」

 

「う、うるさいわね。いいのよ、敵なんだから」

 

「まぁ、そうでしょうけど……」

 

 むぅ……! キュルケが呆れたって顔で見てくる。むかつくわ!

 

「それで、ワルド子爵とユエ君はどうしたんだい?」

 

 ギーシュに言われて気付いたけど、ここにはまだワルドとユエが来てない。他のテーブルにでも居るのかと思って見渡してみても、フロアには誰もいないし、カウンターの所に数人の貴族達が震えてうずくまっている。他には、うちの店に何するんだと言って立ち上がったら店主が、矢を腕に受けて転げ回ってるくらいで、ユエ達の姿が見えない。

 

「居ないわね」

 

「ま、まさか!?」

 

 いきなり声を上げたキュルケが、キッと天井を見上げる。

 

「まさか何よ?」

 

「まさか、あの2人。部屋でオカシナ事をしてて気付いてないんじゃないかしら? ないかしら!?」

 

 キュルケがいきなり変な事を言い出したわ。

あの2人がそんな事する訳ないじゃない。もう少し考えて物を言って欲しいわね。これだからゲルマニアの女は困るのよ。

 

「オカシナ事?」

 

「そうよ、タバサ! きっと部屋に[サイレント]でも掛けてオカシナ事をしてるに違いないわ!」

 

 矢が飛び交っているこんな所で、いつものような妄想が出来るキュルケが、不覚にも羨ましくなったわ。全然この状況が堪えてない。

 

「それは何?」

 

「うふふ……それはそれはオカシナ事よ? あなたもそのうち分かるわ」

 

 ニコニコしながら子供に言い聞かせるように言ったキュルケは、優しげにタバサの頭を撫でる。やっぱりこの2人は親子みたいよね。

 

「キュルケ。多分それはないぜ。夕映には好きな人が居るみたいだからな。あの強さも、その人の役に立ちたいから身に付けたものらしいぜ?」

 

「まぁ! まぁまぁまぁ!! そうなの!? ユエって、そんな情熱的だったの!?」

 

 この非常時にキュルケはなんだか楽しそうね。矢が飛び交っているって言うのにいつもの調子ではしゃいでるわ。

 

 私が呆れてはしゃぐキュルケを見てると、階段の方から風のようにワルドが走って来た。

 

「………君たち、なんだか楽しそうだな?」

 

 襲撃の中、サイトが楽しそうにユエの話しをして、キュルケがそれをはしゃぎながら聞いているなんて状況に、合流したワルドが呆れながら呟く。気持ちは分かるわ。

 

「んふふっ! もう最高よ!」

 

「………襲撃されているって言うのに、頼もしい事だな」

 

 ヒュコッ。なんて音を立てて、矢が近くの壁に突き刺さった。こんな状況ではしゃげるキュルケの方がおかしいのよ。私達全員がそんな変な性格してると思われてないかしら? っと、私達と言えば、ユエが居ないわ。

 

「ねぇ、ワルド。ユエを見なか………って、その杖!! ワルド、それ貸して!」

 

 私が声を上げ、身振りも加えて杖を渡すように伝えて、ワルドが持っていた黒くて月の付いた杖を渡してもらった。その杖をマジマジ見て確認すると、やっぱりユエが使ってた杖だった。私が騒いでいると、キュルケ達も私が持っている杖に気付いた。

 

「それって……ユエの杖よね? そんな見事な杖、そうそう無いもの」

 

「ワルド、どうしてこれを持ってたの?」

 

 私達がワルドに注目すると、彼は私が持っていた黒くて大きい杖を見やりながら答える。

 

「それは廊下に落ちていたんだ。何故落ちてたかは分からない。いや、もしかしたらこの襲撃は彼女が指揮しているのかもしれないな」

 

「な! 何言ってるのよワルド!? そんな訳ないじゃない!」

「そうよ! ユエがそんな事する理由がないわっ!」

 

 私がワルドの言葉に驚き怒鳴ると、キュルケも同じように怒鳴る。今回ばかりは同じ意見でも文句はないわ。ユエが襲撃者のボスなんてあり得ないもの。

 

「落ち着け、可能性があると言うだけだ。だが、可能性はゼロではない。どんな事でもな。杖が落ちていた廊下はかなり荒れていた。だから彼女が襲撃者と争った時に落としたと言う事も考えられる」

 

「なるほど。ユエ君が襲撃者にやられてしまい、杖を落としたと言う可能性もあるんだね」

 

 ギーシュがそう言うけど、それこそあり得ない。だって、オーク鬼数十匹をいっぺんに相手出来るほどの腕を持つユエが、そう簡単にやられる訳わ。

 

「それはない……」

 

 さっきから傭兵達が放つ矢を魔法で弾きつつ、たまに攻撃したりと牽制していたタバサがボソリと反論した。タバサも私と同じ意見だったみたいね。やけに鋭い目をしてるけど、なんでかしら?

 

「と、とにかく夕映を探さないとヤバイんじゃないか!? 大事な杖を落としたままでいるって事は、怪我して動けないでいるかもしれねぇし!」

 

「確かに、すぐ処置しなければいけない状況だったらマズイね」

 

 私達は頷き合って誰が上に向かうか話し合い始める。ユエの強さを私やキュルケ達は知ってるけど、それでも万が一って事があるもの。でも、それにワルドが待ったをかける。

 

「いや、今は彼女を探しに行っている場合ではない。この場を切り抜けて任務を遂行しなくては」

 

「なんで!? ユエを見捨てろって言うの? ワルド!」

 

「ルイズ、これは遊びじゃない。姫殿下勅令の任務だ。こうして襲撃が激しくなった今、急がなければ船にも乗れなくなるかもしれない。アルビオンは空の上だ。船を押えられたら手も足も出なくなる」

 

「でも……」

 

 ワルドの言葉に、私は何も言えなくなった。確かに姫さま直々に与えられたこの任務を遂行出来なくなるのは困るけど……

 

……私はどうすればいいか分からず手の中の杖を撫でる。こうして持つと、ユエの杖はずっしりと重くてとても頑丈そうに見える。何で出来てるか分からないけど、これだけの杖はそうそうない。エキュー金貨にすると、千枚二千枚とかするかもしれない。

 

「諸君、こう言う任務では、部隊の半分が辿り着けば成功と言われている」

 

 っと、私がいろいろ考えている間に話が進んで、任務の成功条件の話になっていた。

タバサが、ユエの杖を見つめながら私とサイト、そしてワルドを指差して、

 

「桟橋へ」

 

 と、ポツリと言って、今度は自分とキュルケ、ギーシュを指差して、

 

「囮」

 

 なんて呟く。この子は簡潔に言い過ぎて何が言いたいのか微妙に分からないわ。

でもワルドは意味が分かったのか1度頷いてからタバサに向き直る。

 

「時間は?」

 

「今すぐ」

 

 そんな短い受け答えでワルド達は話し合いを終えたみたいで、私達を見渡して指示を出してくる。

 

「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」

 

「え? え? どう言う事? ユエは?」

 

 余りにポンポン話が進むからついて行けなくなって、私は慌てて聞き返す。

 

「ユエは私達が探す」

 

「そう言う事だルイズ。今から彼女達が敵を引き付ける。その隙に僕らは裏口から出て桟橋に向かう」

 

 矢継ぎ早に言われた言葉に、私は慌てて皆を見渡した。

 

「まぁ、仕方ないわね。私達はアルビオンに行って何すればいいか分からないし。ユエも探さないといけないしね」

 

「で、でも……」

 

 キュルケ達はもう覚悟を決めたようで、杖を片手にやる気を見せてる。ユエも心配だけど、このまま囮として置いて行くのも心配だわ。いえ! ツェルプストーの事じゃないわよ!?

 

「うーむ……。ここで死ぬのかな? どうなのかな? 死んだら姫殿下やモンモランシーに会えないなぁ。無礼打ちにされてもいいから、あの時姫殿下に抱き付いておけば良かったかなぁ。あの豊満なお胸に顔を埋めたかったなぁ」

 

 ………こっちも別にいいか。

頭の中で姫さまに抱き付く妄想をしているらしいギーシュを、一発叩いて目を覚まさせてから、私はタバサの方を見る。

 

「行って」

 

「大丈夫なの?」

 

「私はユエに訓練して貰ってる」

「「え!?」」

 

 タバサの答えに、聞いてた私とキュルケは驚きの声をあげた。一体いつの間にとか、どんな訓練をとか、いろいろ聞きたいけど残念ながら時間がないみたいでワルドに急かされる。

 

「……む、むぅ〜〜……。あ、あんた達! 怪我でもしたら承知しないわよ!!」

 

 素直に心配する事の出来ない自分の性格にヤキモキしながら、私はキュルケ達に怒鳴ってから一回頭を下げてから、ワルド達と一緒に酒場から厨房に向かう。スカートを翻し、隠れていたテーブルの影から出ようとすると、

 

「え!? ちょ! ルイズ!?」

 

「ふぇっ!? な、何よキュルケ? やっぱり怖い?」

 

「い、いや、そうじゃなくて……。その……あなたの部屋から出る時、何かなかった?」

 

 こんな時になにを言い出すのかしらキュルケは。

 

「別に何もなかったわよ。ああなた、変な事気にして、しし死んだりするんじゃないわよ!?」

 

 もう一度無事でいるよう注意してから、私は物陰から飛び出し、ワルドとサイトがいる厨房に滑り込む。そのまま3人で通用口まで来た時、酒場の方から大きな爆発音が聞こえてきた。

 

「………始まった、みたいね」

 

 ワルドがそれを確認したあと、ドアを少し開けて外を見渡す。

 

「うむ、上手く引き付けられているみたいだな。誰も居ない」

 

 私達はそのまま夜の街に飛び出した。

 

「桟橋はこっちだ。遅れるな」

 

 断続的に聞こえる爆発音を背に、私達は桟橋を目指して走る。手の中でズッシリとした重さを伝えて来るユエの大きな杖に勇気を貰って、私は力いっぱい足を動かした。

 

 

 

 

    <タバサ>

 

「…………今回はやり過ぎたかしら?」

 

「気付かないのもおかしい」

 

 キュルケが杖を構えながら言う反省の言葉に、私は少し擁護の言葉を並べる。さっき飛び出そうとしたルイズのスカートの中が見えた時、すっかり忘れていたお昼のイタズラを思い出した。

 

 キュルケがビックリさせる為に下着を脱がせてドアノブにかけた。合流した時、キュルケに怒らなかったからおかしいと思ったら、どうやら気付いて無かったみたい。さっきスカートが捲れた時に見えたルイズのお尻はとっても白かった。それは下着の白さじゃなくて、ルイズの透き通るような肌の色。そう、ルイズは下着を着けていなかった。

 

「ルイズ、あのまま行っちゃったわ。大丈夫かしら?」

 

「見られて減る物じゃない」

 

 私は大きな杖を振って、飛んで来る矢を吹き飛ばしながら簡潔に答える。そろそろルイズ達が裏口に辿り着く頃だろう。私は目でキュルケに作戦開始を伝える。いつも一緒に居るからか、喋らなくても大体の意思が伝わるから彼女と一緒にいるのは楽。まぁ、一緒に居るのはそれだけじゃなくて、近くにいるとなんだかあったかいからでもあるけど。

 

「まぁ、減りはしないでしょうけど……。まぁ、いいか。新しい扉が開けるかも知れないけど、あの子の場合、趣味が増えるだけだし」

 

 そう言ってキュルケは、気を取り直したような顔でギーシュに指示を出した。

 

「さって、ギーシュ! 厨房から油の入った鍋を取ってきて欲しいんだけど………ギーシュ?」

 

「………はっ!? あ、あぁ、揚げ物の鍋の事かい?」

 

「そうよ。ゴーレムを使えば安全に取ってこれるでしょ?」

 

 ギーシュはルイズが走って行った方向をボーっと見ていたけど、キュルケの呼び掛けに気付き、慌てて返事をして、指示通りにゴーレムを向かわせる。

 

 その間にキュルケは手鏡を覗き込んでお化粧をし始めた。いつ何時でも綺麗にしているキュルケだけど、こんな時にまでしなくてもいいのに。

 私がお化粧をしてるキュルケを眺めている間に、ギーシュのゴーレムが油入りの鍋を持って来た。

 

「こんな時に化粧かい? それよりこれをどうするか教えてくれないか?」

 

「これから歌劇の始まりなのよ? 主演女優達がすっぴんじゃ締まらないじゃない」

 

 そう言って自分の化粧が終わったキュルケは、今度は私の顔に手を添えて少し上を向かせてから化粧を始めた。

 

「ミス・タバサにもするのかい?」

 

「当然。ここにいる花は私とタバサよ? 連中も美女に倒される方が嬉しいでしょ」

 

 キュルケはスイスイ化粧をしていって、最後にチュっと私の頬にキスをしてから手を離した。

 

「さ! 準備完了。ギーシュ、その鍋を入り口に向かって投げて頂戴」

 

「なるほど……。了解だ。いくぞ?」

 

 ギーシュが一つ頷き、ゴーレムに指示を飛ばす。振りかぶるゴーレムに合わせてキュルケが呪文を唱えて、完成と同時にゴーレムが鍋を投げた。

 

 突撃しようとしている傭兵に[ウインド・ブレイク]や[エア・カッター]で牽制していた私は、一旦魔法を使うのをやめて、キュルケ達の作戦を見守る。油を撒き散らしながら飛ぶ鍋にキュルケの魔法が当たり、大きな炎を上げた。その炎にたたらを踏んだ傭兵達に向けて、立ち上がったキュルケは更に魔法を重ねて大きくした炎をぶつけていく。炎に巻かれた傭兵達が転げ回る。

 

 何本もキュルケに向かって矢が飛んで来るけど、それは私の魔法で逸らしたり、弾いたりしてキュルケに当たらないようにする。

 

「さぁ、名も無き傭兵の皆様方。あなた方がどうしてわたし達を襲うのか、まったく存じませんけど。この『微熱』のキュルケ、謹んでお相手致しますわ」

 

 嵐のように降りしきる矢を前に、キュルケは優雅に一礼して、杖を振り上げた。今も広がる炎がキュルケの魔法で更に広がり、転がって消そうとしていた傭兵達を包み込んだ。これであの傭兵達に気を配る必要はなくなる。

 

「おーーーっほっほっほっほっほっ! この『微熱』のキュルケに、これだけの人数で勝てると思っているのかしら!?」

 

 大きな胸を反らして、更に大きく見せながらテーブルの上でキュルケが高笑いをしてる。傭兵達がプルプル震える胸を鼻の下を伸ばしながら眺めているのに気付いて、腕で胸を挟んで谷間を強調しながら前屈みになる。私では絶対出来ないほど深い谷を作り出すと、矢と一緒に口笛も飛んで来た。引き付けるって言う目的は達成出来ているけど、なんか思ってたのと違う。

 

「よし、ここらで僕のゴーレムの出番だな! 行け、ワルキューレ! 体当たりだ!」

 

 一気に5体ほどのゴーレムを作り出し、キュルケの胸を凝視していた傭兵達に剣を向けたまま突進させる。スカートをスルスルと上げ始めたキュルケばかり見ていたせいで避けられず、数人の傭兵が青銅の剣に貫かれた。深く刺さった剣が抜けなくてアタフタしてるゴーレムを見て、傭兵達は体制を立て直して斬りかかる。

 

「あぁ! 僕のワルキューレがっ!」

 

「ちょっとギーシュ! 真面目にやりなさいよ!」

 

「やっている! 色気を振り撒いてるだけの君よりはね! もう少しスカートを上げたまえ!」

 

 ギーシュが目を皿のようにしてキュルケの太腿を凝視してる。帰ったらモンモランシーに教えてあげよう。

 

「何であなたに見せないといけないのよ!いいから、もう一回ゴーレムを突撃させなさいよ!」

 

「あと1体しか作れないけど……。まぁ、行け! ワルキューレ!」

 

 ギーシュが作り出したゴーレムが突撃して行くけど、傭兵達にはもう通用しないのか、スイっとよけられてしまう。そして、傭兵達に囲まれてギーシュがどうしようかと戸惑っている所に、ゴーレム目掛けて雷が落とされた。

 

 ズガァァンッ!!

「うわっ!?」

 

「何だ!?」

 

 予定外だったのか、傭兵達まで驚いてる。雷の直撃でゴーレムはボロボロと崩れ去り、土の山だけが残ったその場所に、スタっと仮面をつけたメイジが着地した。今の雷はあのメイジがやったみたい。

 

「あのメイジが今のをやったのかしら?」

 

「多分。腕利き」

 

「ギーシュ、精神力は残ってる?」

 

「もう剣1本作るくらいしか出来ないよ」

 

 肩で息をしながらギーシュがそう答えると、キュルケはふぅ……とため息をついて、今度は私に向かって同じ事を聞いてくる。

 

「タバサはどう?」

 

「あと少し」

 

「あれに勝てると思う?」

 

 私は傭兵達の真ん中で佇むメイジをしばらく眺めて観察してみる。いろいろ過酷な任務をこなして来たからか、相手の力量もそれなりに分か。今の精神力がなくなった私達では多分勝てない。

 

「多分無理」

 

「私もそう思うわ」

 

「ええい! 諸君行くぞ! 突撃だ! トリステイン貴族の意地を今こそ見せる時である! 父上、ギーシュはこれから男になります! 本音は違う意味でこの言葉を使いたかった!」

 

 馬鹿な事を言って飛び出したギーシュの足を杖で引っ掛けて転ばして、ついでに物陰に引きずってやる。

 

「何をするんだね!? 僕は姫殿下の名誉の為に薔薇のように散るんだ! 男になろうとするのを邪魔しないでくれ! それとも、君が違う意味で男にしてくれるのかい!?」

 

 ガシっと肩を掴んでくるギーシュの頭に杖を振り下ろし黙らせる。

 

「何を馬鹿言ってるのよあんた。タバサはわたしのよ。勝手に触らないでくれる?」

 

「違う」

 

 とりあえずキュルケにも杖を振り下ろしてから、私は仮面のメイジをもう一度見てみる。相手は傭兵達の真ん中から動いてなくて、杖を抜いてはいるけど呪文を唱えるそぶりは見せない。試しに[エア・カッター]を撃ってみたら、素早く杖を向けて、同じ[エア・カッター]で迎撃してきた。相殺じゃなく、撃ち抜いてこっちに飛んで来たのでキュルケを引っ張り込んで避ける。体格差のせいで下敷きになったけど、2人とも怪我しなくてすんだ。

 

「タバサ、ありがとう。最後になるかもだし、このままキスしていい?」

 

「ダメ」

 

 ニッコリと笑いながら言うキュルケを押し返して起き上がる。傭兵達は少しずつ詰め寄って来ていて、このままじゃやられるのも時間の問題かも。

 

「さ、逃げるわよ。十分時間は稼げたはずだしね」

 

「何!? 僕は逃げない! 逃げないぞ!? どうしてもって言うならその胸を揉ませたまえ!」

 

「お断りよ!」

 

 白い目でギーシュを見るキュルケ。これもあとでモンモランシーに教えてあげよう。

 

「2人は行って」

 

 私がそう言うと、キュルケがビックリした顔で私の振り向く。

 

「私がやる」

 

「あなた1人に任せて生き延びるくらいなら、一緒に死ぬわ」

 

 強い目で私を見るキュルケを見てると、どうしても助けたく思えてきた。全部捨てて、ただ目的の為だけに生きようとしてるのに、キュルケはいつも寄ってきて邪魔してくれる。それがイヤじゃないからまた困る。

 私はよくキュルケがするように、そっと彼女の頬にキスをしてから、ユエに教えて貰った身体強化の魔法を使って飛び出した。まだちゃんと出来なくて不完全だけど、平民の傭兵くらいならどうとでも出来る。進路上に居る傭兵を蹴散らして一気に仮面のメイジに肉迫して残り少ない精神力で[ジャベリン]を唱える。

 

 ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ……

 

 一瞬で詰められ驚いているメイジの前から、更に背後に廻って唱え終わった魔法を解き放つ。これは並のメイジでは対応出来ないはずの間合いだったのだけど、このメイジはギリギリで躱して私に[エア・ハンマー]を撃ち込んできた。

 

 一撃で致命傷になるような魔法じゃなかったおかげで、隣の建物に叩きつけられるだけで済んだ。身体強化してなかったら、これだけで全身の骨が折れて死んでいたかもしれないけど。

 

「タバサ!? くっ! このぉ……[ファイヤー・ボール]!!」

 

 物陰から飛び出したキュルケが、メイジに向かって[ファイヤー・ボール]を撃ち込む。まだ逃げて無かったの……。キュルケが撃った魔法は、メイジより前に居た傭兵に当たり爆発。大きな炎を撒き散らして周囲の傭兵を巻き込んだ。一瞬キュルケに目が行った隙に立ち上がって、今度は[エア・カッター]をばら撒きながらキュルケの所まで戻る。

 

「ちゃんと逃げて」

 

「タバサ、私は親友を見捨てて行けるほど冷えた女じゃないのよ? しかも、その親友から熱い口付けを貰ったばかりなら尚更ね」

 

 お別れの挨拶としてもよく本に出て来るからやったけど、相手によっては逆効果だと言う事が分かった。キュルケみたいな人は逆について来ちゃうみたい。

 

 ジャリっと足音を響かせて詰め寄る傭兵とメイジに、私達は手を繋いだ状態で杖を向ける。もう、精神力も残り少なくて、魔法1発分くらいしか残ってないと思う。けど、このままやられる訳にもいかない。ここを切り抜けてユエを探しに行かないといけないし。

 

「ぐぬぬぬぬ……。やっぱり死ぬのは怖いな……。男になるのは、もう一つの意味でだけでいいや」

 

「帰れたらモンモランシーに頼みなさいな」

 

「その前に謝って許して貰わないと……」

 

「あんた、また怒らせたの? いくらあの子でも愛想尽かされるわよ?」

 

 命の危機でもいつも通りのキュルケはとても心強い。私は最後の力を使って魔法を唱えようとした時、仮面のメイジが急に上を見上げた。

 

 ズンッ!!

「ガハッ!」

 

 メイジが上を見た瞬間、メイジの胸に大きな剣が突き刺さり、そのまま地面まで貫通した。あまりの事に、私達だけじゃなく、傭兵達も口を開けてその光景を見ていると、その剣に白い雷が落ちて来た。

 

 ズガアアアァァァァンッ!!

 

「「「うわぁぁっ!!」」」

「なんだぁっ!?」

 

 雷が落ちた衝撃で転がった傭兵達の前に、小さな影が上から降りてきて、地面に突き立った剣を抜き、そのまま地面を削るように振り回した。

 

 ドガァンッ!!

「「「ぎゃーっ!」」」

 

 その勢いで、剣を向けられた傭兵達が一気に吹き飛んで行く。もうここまで来ると、現れた人は誰かはすぐに分かる。私の知る限り、剣一本で人を吹き飛ばすなんて事が出来るのはユエだけ。

 

「ユエ!!」

 

 キュルケも気付いたみたいで大声で呼ぶと、ユエはこちらを見て1度頷き、呪文を唱え始めた。まだ衝撃から立ち直ってない傭兵達は、それを見てどうにか立ち上がろうとしているけど、ユエの呪文が完成する方が早い。

 

 風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)!!

 

 呪文の完成と共に傭兵達を襲った風は、何故か彼らの剣や鎧を全て花弁に変えて粉々にしてしまった。残ったのは、何も持っていない手を振り上げた状態や、魔法から逃げようとした状態で、裸になっている傭兵達だけだった。

 

「な、なーーっ!?」「ぅおいっ!俺の鎧はどこ行った!?」「うわっ!何で鎧が無くなるんだ!?」

 

「………あれって、ユエの魔法よね?」

「多分」

 

 強制的に武器防具を消してしまう魔法なんて、ハルケギニアにはない。系統先住どっちをみても。ユエは武器や防具が消し飛ばされてアタフタしてる傭兵達の真ん中で剣を空に掲げた。

 

  [拡散・白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)]!

 ズバアアアァァァンッ!!

「「「「ぎゃぁーーっ!!」」」」

 

 周辺くまなく雷が走り回って、傭兵達を襲う。どうやってか死なないように手加減した雷が傭兵達を痺れさせて気絶させていく。雷が治まった時、通りにいた傭兵で立てる者は誰も居なかった。

 

 

「ユエ! 無事だったのね!?」

 

「キュルケ達も無事で何よりです」

 

 剣を虚空に消して歩いて来るユエに、私とキュルケは駆け寄る。キュルケはそのままユエに抱き付いて頬にキスをして無事を喜んでいる。でも、私にもそれをやらせようとするのはやめて欲しい。ユエを持ち上げて私の方にグイグイと押して来るけど、私は首を振って断る。ユエがイヤと言う訳じゃない。単に恥ずかしいだけ。

 

「ユエ君は無事だったのか。杖だけが廊下に落ちていたと聞いたから、もしかしてやられてしまったのではと皆で心配したよ」

 

「………なんですそれ?」

 

 ユエが何故か意味が分からないと言う様に首を傾げるから、私達は代わる代わるこれまでの事を話して聞かせると、ユエはふむ……と唸って考え込む。

 

「……やってくれますね。杖はルイズが持っているですね?」

 

「えぇ、そうだけど……。どうしたの?」

 

 それから聞かされた話に、私達は大いに驚く事になった。

 

「そんな……ワルドが敵だったなんて」

 

「僕らは騙されていたのか」

 

 ユエの杖を持っていたのは、ワルドが襲って奪ったからだったらしい。その後、ワルドの[偏在]に追われて街を飛び回っていたせいで、戻って来るのに時間が掛かったとか。

 

「よく無事だったわね。[偏在]って、魔法も本人と同じように使えるんでしょ?」

 

「えぇ。ですが、杖を奪って油断してましたからね。隙を突けばどうとでも出来るです」

 

 ……多分ユエだけだと思う。

 

「とりあえず、私達も桟橋に行ってみましょう。合流出来るかもしれないですし」

 

 ユエがそう言って桟橋がある方を向く。薄く目を細めて遠くを見ようとしてる。

 

「そうだ! 何と言ってもこれは姫殿下の名誉が掛かっているからね! 一刻も早く合流して、裏切り者を倒し、任務を遂行しなくてはっ!!」

 

 ギーシュがそう息を巻いて今にも走り出そうとしているのを杖を使って押える。1人で飛び出しても、船で行っただろうルイズ達に追いつける訳が無い。

 

「名誉とかも大事だろうけど、ルイズにアレを届けて上げないといけないのよね。タバサ、シルフィードで飛んでくれる?」

 

 キュルケの頼みに私はすぐに頷いてシルフィードを呼ぶ為に口笛を吹いた。少し時間を空けて響いて来た羽音に空を見ると、暗い空から私の使い魔であるシルフィードが降りてきた。時折勝手に喋り出す困った使い魔だけど、こういう時には頼りになる。直接言うと調子に乗るから、絶対に言わないけど。

 

「あ、ちょっと待って! アレ取って来ないと!」

 

 そう言ってキュルケは2階に走って行った。

 

「アレってなんです?」

「パンツ」

「はい?」

 

 目を丸くするユエに事と次第を教える。全部を聴き終えたユエは、ハハハと乾いた笑い声を上げた。

 

「いいわ! みんな、出発よ!」

 

 そこにルイズの下着を取りに行ったキュルケが戻って来て出発する事になった。シルフィードに全員乗り込み、暗くなった空に飛び出した。

 

「まずは桟橋に行きましょう。まだ居れば儲け物です」

 

 私はユエの言葉に頷いてシルフィードに指示を出す。一際大きく羽ばたいたシルフィードが、グンと前に飛び出し、一気に桟橋に向けて飛んで行く。

 

 

 




ふぅ、年内にアルビオン編が終わらせられなかったのが心残りね。
瞬動とかが使えるようになったタバサが、こんなに苦戦する訳が無いとお思いの方、まだタバサは瞬動で移動しつつ魔法を使うという事に慣れていないので仕方ないのです。その前のグダグダをフォローしてる間に魔力使いまくってたしね。

今思ったけど、主役の夕映がちょっとしか出て来なかったなぁ。次は全編夕映になるからいいかー。

では、皆さん良いお年を〜〜っ!

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