魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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 前回の投稿から半年経ってる……?!? 俺はいつのまにタイムトラベルを実現したんだ!?

……なんてバカな事を思いつつ、みなさん大変お待たせしました。

第24話の投稿です。どぞー


ゼロの旅24

 

 

 

 ティファニアさんに連れられてやって来たその村は、森の中に作られたわずか十数軒の家が建つだけの小さな村でした。ティファニアさんと子供達は、その中の数軒を使って慎ましく暮らしているそうです。

 

「あの真ん中の家が私の家です。比較的自分でなんでも出来る子達はその左右にある家で寝起きしてるので、あの家に居るのは私とまだ小さい子達だけですね。あっ! 今はマチルダ姉さんも一緒でしたっ!」

 

 マチルダと言うのはティファニアさんが敬愛しているお姉さんの名前で、聞く所によると実際には血の繋がりはなく、子供の頃お世話してくれた親戚のお姉さんなんだそうです。

 

「ただいまぁー。さぁ、どうぞ」

 

「お邪魔するです」

 

 私達は招かれるままにティファニアさんの家に上がり込み、薦められるままに椅子に座りました。

 

「今姉さんを呼んで来ますから、ちょっと待ってて下さいね?」

 

 同年代の人を自分の家に招くのは初めてだと言って張り切っているティファニアさんは、私達を部屋に通した後、鼻歌を歌いながら家の奥に入って行きました。

 

「……さて、後は話を聞いて王党派がどこに居るか分かればすぐに動けるですが………ギーシュさん、いい加減起きるです」

 

「んあ…?」

 

 ティファニアさんに会ったばかりの時に瞬きもせずに凝視してたせいで目が乾き、痛くて開かなくなったとか言って動かないので仕方なく襟首を持って引きずってきたですが、この人自分で歩く必要が無いからといって引き摺られたまま寝てたです。起こすのも面倒だったのでそのまま連れて来たですが、人の家で眠りっぱなしは失礼ですし、お姉さんが来る前に起こしてちゃんと座らせなくては。

 

「ふわぁ~……、 まだ眠いんだが……」

 

「しっかりして下さい。人と会う時に寝てるなんて失礼ですよ」

 

 こちらも徹夜明けで眠いのを我慢してるというのに気楽な事です。ギーシュさんがすぐ追う事を主張したからこうなっているんですから、少しはしっかりして欲しいです。これなら途中の森に置いて来るべきでした。

 

「うぅ……、グラモン家の四男としてそんな無礼を働く訳にはいかない……んだが、この眠さは堪え切れないのだぁ……」

 

 礼儀を重んじる貴族の意地でどうにか目を覚まそうとしてるですが、その目は一向に開こうとしません。このままでも静かでいいですが、やっぱり初対面なのに寝てるのは失礼ですね。

 

私は椅子でグッタリしているギーシュさんの後ろに回り、グイッと顔を上に向かせます。

 

「ぅおっ!? 何するんだいユエ君?」

 

「まぁ、じっとしてるです」

 

 上に向かせたギーシュさんの目を指で押し開け、亜空間倉庫から取り出した目薬をささっと挿してやりました。

 

「わっ!? 何だ何だい何なんだい!?」

 

「目覚まし用の薬です。何度か瞬きして下さい」

 

「こ、こうかい? ……って、うわっ!! し、滲みる!!」

 

 疲れ目に良く効く強力な目薬です。目への刺激がとても強く、疲れた時に挿すとその刺激により一気に疲れが吹き飛ぶというお気に入りの一品です。ついでに眠気も吹き飛ぶので重宝しています。

 

「ユエ君!? なんか目が凄く痛いんだがっ!?」

 

「しばらくすれば治まるですよ」

 

 初めての刺激にパニックになりかけるギーシュさんを適当に相手にしつつ、これからの事を考えます。ここに来る前に地理を確認しなかったのが痛いですね。ルイズが知ってるから案内は任せろと言うので任せるつもりだったのですが、ワルドさんのおかげで完全に迷子です。森へ降りる時になんとなく見たのでアルビオンのどこに居るかくらいは分かるですが、ニューカッスルとやらがどこかまでは分かりません。せめて地図くらいは見ておくべきでした。

 

「ユエ君? ユエ君!? これ、目が溶けてたりしないだろうね!?」

 

「する訳がないです。そろそろ治まるので安心して下さい」

 

「いや、そうは言ってもっ……うわっ!!」

 

 ギーシュさんが痛みに慌て過ぎて椅子から転げ落ちたです。目薬一つで中々やりますね。日本に来ればリアクション芸人としてやって行けるかもしれないです。

 

「いたたたた……。目を溶かされ、椅子から転げ落ちて、もう散々だ」

 

「大袈裟ですね」

 

「ユエ君が冷たい……。……ん? おぉ、なんだか目がスッキリしてきたぞ?」

 

 転んだおかげでパニックが治まったらしいギーシュさんは、目の痛みが無くなった事に気付いて感嘆の声をあげました。目薬の効果でスッキリした視界に驚き転んだまま辺りを見回しています。

 

「皆さん、お待たせしまし「ヘブッ!!」……きゃっ!?」

 

 帰って来たティファニアさんが、寝転がっていたギーシュさんを思いっきり踏ん付けました。彼女は慌てて足をどけましたが、家の中で靴を脱ぐ習慣が無いおかげでギーシュさんの顔の真ん中にくっきりと足跡が着いたです。うぷぷっ、なんとも愉快な見た目になったです。

 

自分のした事に慌てるティファニアさんを余所にギーシュさんは彼女を見上げながら何やら嬉しげに頷いています。もしや踏まれたのが良かったのでしょうか? もしそうならモンモランシーにも付き合い方を考えるように言っておかないといけませんね。

 

「あ、あの? 大丈夫ですか?」

 

「あぁ、大丈夫さ。君の白さが痛みを和らげてくれブッ!?」

 

 全てを言い切る前にティファニアさんの後ろに居た女性がギーシュさんの顔を踏み付けました。寝転がった状態で見上げていたので、ティファニアさんのスカートの中がしっかり見えていたようです。せめて目を逸らすくらいしろです。

 

まぁ、ギーシュさんがスケベなのは今に始まった事ではないので捨て置きましょう。あとでモンモランシーに告げ口しておけばいいですし。問題は今ギーシュさんを踏み付けながら冷ややかな目で見下ろしている彼女です。

 

ティファニアさんがお待たせと言った事から、彼女がティファニアさんが言っていたお姉さんなのでしょう。よもやこんな所でこの人と再会するとは思わなかったです。巨大なゴーレムを操り、ハルケギニアの貴族達を嘲笑いながら窃盗を繰り返す怪盗、『土くれ』のフーケ。偶然道を聞いた人の身内が彼女とは、なんとも世間は狭いですね。

 

「ティファニア、私の後ろにいな」

 

「え? え?」

 

「こっちはピンぐわっ!!」

 

 私が思わぬ再会にボケっとしてる間に、ギーシュさんが更に何かを言おうとしてフーケに思い切り蹴り飛ばされてました。大方フーケの下着が見えて思わず色でも口走ったのでしょう。言わなければ良いものを、無駄に素直な性格が仇となったようです。

 

「ったく、ティファニアに言われて来てみれば、よもやあんたらだったとはねぇ」

 

 蹴り飛ばしたギーシュさんの事は全く気にせず、フーケは油断なく私達を睨み付けます。向こうからしたら、自分の正体を知っている私達が家まで押しかけて来た訳ですから警戒しない筈がないですね。さすがに自分の家の中で魔法を使う気はないようですが、利き手と思われる右手がいつでも動けるようにしている所を見ると、下手な動きをすればすぐに杖を抜いて来るでしょう。

 

「ピンク頭と使い魔君は居ないみたいね? まぁ、アンタが1番手強いんだけど……」

 

「私達は別に戦いに来た訳ではないのですが」

 

「ふん、ティファニアから聞いてるよ。王党派の陣がどこにあるか知りたいとか、一体何のつもりだい?」

 

「なんの、とは?」

 

「こんな時期に王家と接触しようなんて正気とは思えないからね。また何かやらかす気なのかとね」

 

「……またとはなんですか。所用で王党派のいる所に行かなくてはならなくなっただけです」

 

「ふぅん?」

 

 フーケを捕まえようと出張った事を言ってるのでしょうが、その原因が何を言ってるですか。ジトっとした目で見てくるフーケを私も見返します。そんな微かに緊張感が漂う中、今まで大人しかったキュルケがなんとも呑気な調子で声をかけて来ました。

 

「ユエッ、ユエッ!」

 

「なんです? キュルケ」

 

「見て見てっ! タバサが増えちゃったわ! 私はどのタバサを抱きしめればいいのかしら?」

 

「はい?」

 

 私が思わずキュルケの方を見ると、見た事のない少女を2人を両手で抱えているキュルケが居ました。どちらの少女も金髪で、背は多分私より数センチ程度低いでしょう。背丈的にはタバサに近いですが、どう見てもタバサには見えません。ついっと視線をずらすと呆れ気味な雰囲気でキュルケを見るタバサが普通に座ってます。キュルケは一体何を言ってるんで…………あ、……微妙に焦点が合ってないです。

 

つまりキュルケは寝ぼけて誰とも知らない少女をタバサと思ってる訳ですか。

 

「ねぇねぇ、ユエ! タバサがいっぱいいるわ! 私どうすればいいかしら!?」

 

「……とりあえず顔でも洗ってシャキッとして来るです」

 

 タバサと他人を間違えるとはどれだけ寝ぼけてるんですか、まったく。キュルケは未だに見知らぬ少女2人を抱えたままです。抱えてる2人の内、片方は割とはしゃいでますがもう片方の子はどうにか逃げようともがいてます。嫌がってるなら早めに離すですよ? 泣かれても知りませんからね。

 

この子達はおそらく、と言うか確実に国中からお姉さんが集めて来たとティファニアさんが言っていた戦争孤児の子達なのでしょう。気付けばキュルケが抱えている子達以外に何人もの子供達が部屋の中をウロウロしてました。

 

ある数人はタバサの大きな杖を興味津々で見てますし、またある数人は顔に靴跡を付けたまま堂々と寝てるギーシュさんを突ついて遊んでます。ざっと見ただけでも十数人いますがよく集めて来たと言うべきか、それだけ孤児が出てしまう戦争を憂うべきか、私には判断付きません。

 

私がそんな事を考えているとクイクイと服を引っ張られる感触がありました。そっとそちらを見ると年の頃は5,6歳くらいの女の子が私を見上げていました。

 

「お姉ちゃんは、マチルダおねーちゃんのお友達?」

 

「ブフッ!?」

 

 女の子の質問にフーケが思い切り吹き出しました。気持ちは分かるですが汚いですよ? そして咳き込むフーケに気付かぬまま女の子が更に質問をぶつけて来ます。

 

「それともテファおねーちゃんのお友達?」

 

「……うーん……、そのマチルダお姉さん……とはまだお友達になってないです。テファ……ティファニアお姉さんとは、是非お友達になりたいと思ってます。……が、どうでしょう?」

 

 その質問をする度に首を横に倒す仕草が可愛らしい女の子にそう言ってからクイっとティファニアさんの方を見ると、彼女は嬉しそうに頷いてくれました。

 

「はい! 喜んでっ!」

 

 何か何処かの居酒屋みたいな返事でしたが、これでまた異世界人の友人が出来ました。

 

「ではこれからよろしくです。……という事でティファニアさんとはお友達ですよ」

 

「マチルダおねーちゃんはー?」

 

 さて、どう答えましょう。

私は別になっても構わないとは思うです。泥棒だろうが私に実害が無ければただの人ですし、クラスメイトに吸血鬼な大魔王もいた身です。悪い事なのでやめるべきですが、それだけで友人関係お断りと言うほど心は狭くないつもりです。私が答えあぐねているとその子がヒョイと抱き上げられてしまいました。

 

「はいはい、あんたらは向こうでご飯だよ。ティファニア、この子らの飯作ってやりな。このままじゃ話も出来やしない」

 

「え? あぁ、うん」

 

「うーーっ、おねーちゃんはぁーっ!?」

 

 フーケは抱えられてパタパタと足をバタつかせる少女をティファニアさんに押し付けます。渡されたティファニアさんも危なげなく抱きかかえる所を見るに、相当手慣れているみたいです。少女は不満そうに顔を膨れさせますが、フーケはポンポンと頭を軽く叩いてあしらいます。

 

「はいはいお友達お友達。いいからあんたは向こうでテファにおっぱい貰ってな」

 

「えぇー? 出るかなぁ?」

「フィー、赤ちゃんじゃないーーっ」

 

「はいはい、だったら大人しく向こう行ってな。あたしはこれからお話があるからね」

 

 意外でしたが駄々っ子の扱いに慣れた様子を見ると、しっかり世話をしてるようですね。学院で秘書をしてる時もメイドさん達から慕われていたみたいですし、基本的に面倒見が良いんでしょう。子供達の為にも真っ当な職に就いた方がいいと思うですが、就職にも身分が関係してくるハルケギニアではいろいろと難しいんでしょうね。

 

 フーケは先ほどの女の子をティファニアさんに預けたまま部屋から追い出すと、パンパンと手を叩きながら部屋に居た他の子達も外、先ほどの会話から推測するにダイニングに相当する部屋へ誘導します。

 

「ほらほら、あんたらも行きな。食いっぱぐれるよ!」

 

「あーーっ! まってぇーっ!!」

「おねーさんバイバーイ!」

 

「あぁっ! タバサが行っちゃうわっ! 追い掛けないと!」

 

「タバサは横にいるですよキュルケ。いい加減起きるです」

 

 寝ぼけたまま追い掛けようとするキュルケを椅子に押し戻します。普段徹夜などそうはしないキュルケやギーシュさんは一晩でもつらいみたいです。ギーシュさんなんて蹴られて転がった後本格的に寝始めてますし。グラモン家がどうのとかはどうしたです。

 

「……ふぅ……、タバサ。すいませんがキュルケを……それとそこで堂々と寝てるギーシュさんを外にあった井戸で顔を洗わせて来てくれませんか?」

 

「わかった……… フル・ソル・ウィンデ……[レビテーション]」

 

 タバサは私の頼みを快く引き受けてくれました。魔法を使ってキュルケとギーシュさんを浮かせ、そのまま外へ向かって行きました。なんか風船を持って歩く子供のような愛らしさを醸し出しているです。

 

「あらら~、浮いてるわぁ」

 

「タバサ、私も話が終わったらそっちに行くのでしばらく休んでて下さい」

 

「ん。」

 

 あららーとか言っているキュルケ達が出て行くと、部屋はすっかり静かになりました。子供達が襲来してからの騒がしさに気付けば最初の緊張感がゴッソリ抜き取られ、私は思わずため息をついたです。

 

「はぁ……すっかりやる気がなくなったわ」

 

 フーケも同じような疲れを感じたようです。彼女は立ったままでいるのも億劫らしく、椅子にどっかりと腰を下ろし、先程までより随分とやる気の無くなった目を向けて来ます。

 

 

「……で? あんたら王家側に加担でもする気? もう連中はすっかり囲まれてるし、戦力差も馬鹿馬鹿しいほど開いてる。正直アンタら……いや、アンタがいくら強くても、アルビオン王家が潰れるのはもう変えられないよ?」

 

「いえ……私達は単なるお使いで行くだけなので、戦争を手伝ったりしませんよ? そんな義理もありませんし。ただ、すでにルイズが王党派の所に行ってる筈ですから、早目に迎えに行きたい所ではあるです」

 

 もともと私達の目的は王党派のウェールズ王子から手紙を受け取る事で、戦争に参加してどちらかの陣営を勝利させる事ではありませんし。それに、私が参加したからといって戦局が覆るはずもありませんし。まぁ、ネギ先生や刹那さん、楓さんやクーフェイさんが参加したら一気にそちらに傾くでしょうが、一般的な魔法使い程度の実力しかない私ではその他大勢が1人増えるだけです。

 

「お使いねぇ……。ただの……じゃないけど学生を戦場のど真ん中に送り込む必要があるお使いなんて碌なもんじゃなさそうだね。あたしやティファニアを巻き込まないでおくれよ?」

 

「ここで貴女に会ったのは偶然です。王党派の陣地を教えてもらえればさっさと出て行くですよ」

 

「そーしておくれ」

 

フーケは軽く息をつくと立ち上がり、隣の部屋から幾つかの紙束を持って来ました。

 

「これはアルビオンの全土を描いた地図だよ。以前没落した貴族が持っていたものでね、市販の物よりかなり細かく描かれている」

 

 そう言って広げられた地図は、現代の地図にも劣らない緻密さで描かれていました。山や川の形も丁寧に描いてあり、地図と言うより絵画と言ってもおかしくないほどの出来です。端の方に書かれているサウスゴーダというサインはこれを描いた人のものでしょうか? それともフーケが言っている前の持ち主のもの? 私がもっと良く見ようと身を乗り出したら、ヒョイと地図を取り上げられてしまいました。

 

「何不思議そうな顔してんのよ。アンタ私が誰だか忘れたのかい? 頼まれたからって親切にホイホイ教えるようじゃ怪盗とは言えないんだよ」

 

 そ、そう言うものでしょうか?

かなり疑問に感じましたが、フーケはフフンと得意げに笑うだけで自身の発言を撤回する気はなさそうです。

 

「さて、本来なら金貨を何十枚と要求する所なんだけどぉ~……」

 

 しばらく楽しげに地図の束を振りふり鼻歌を歌っていたフーケですが、私がどう反応すれば良いか考えている間に我に返ったようで、顔を赤くして咳払いをしました。ツッコミも待たずにやめるなら最初からやらなければいいですのに。

 

「んんっ!! ほ、本当なら金貨十枚は最低でも欲しい所なんだけど、ティファニアに頼まれちまったからね。特別にタダで答えてやるよ」

 

「………だったら最初から教えてくれれば余計な恥を掻かなくて済んだですのに」

 

「喧しいよ! イヤならいいんだよ!?」

 

 逆ギレされたです。

 

「分かりました、もう言いませんから教えて下さい」

 

「フンッ! もう知らないね。テキトーに歩いてれば見つかるんじゃないの?」

 

 ついでにヘソも曲げられたです。

 

 その後、ヘソを曲げてしまったフーケをどうにか宥めすかして話をしてもらおうとするですが、なかなか機嫌が治りません。

まったく、良い歳して拗ねないで欲しいです。拗ねる大人なんて可愛くもなんともないというのに。……おっと、睨まれたです。

 

「そうです、情報料代わりにこれを差し上げます。私の所で売られている魔法薬なんですが、食べるだけで年齢を変えられる代物なんです」

 

 言葉でダメなら物で釣る作戦です。場合によっては変装もするだろう怪盗ならきっと興味を持つはずです。

 

「………年齢を……? どういう事だい?」

 

 ……ヒットです。いえ、もしや乗せられたですかね? まぁ、どっちでも構いません。

 

「そのままの意味です。魔法薬の効果で食べた人に魔法が掛かり、大人の姿になったり子供の姿になったり出来るです。その名も『年齢詐称薬』、顔を知られている人やお尋ね者が、周りを誤魔化すのによく使われます。私の友人達も全世界指名手配をされていた時によく使っていたと言ってました」

 

 オスティアのお祭を堪能する為に使い、そのままあのナギラカン戦の観戦をしてたらしいです。あの時私はその上空で警備してたのですが、当時は記憶喪失だったですし、きっと会っても分からなかったでしょう。

 

「……今なんか指名手配がどうのとか聞こえたけど?」

 

「気にする事ありません。ちょっと世界転覆を図る秘密組織に嵌められて濡れ衣を着せられただけですから」

 

「いや、秘密組織って……」

 

 アレはフェイトさんがネギ先生達の動きを封じる為に行った作戦だったそうです。私はそんな事も知らずに呑気に学生やってたのでどれだけ大変だったかは分かりませんが、のどかは賞金稼ぎに剥かれて貞操の危機に陥ったとか言ってたです。いつかその賞金稼ぎに出会ったら一発殴ってやろうと思います。

 

「そんな事よりコレの説明ですが………、実際に使った方が分かり易いですね。一つ使ってみるです」

 

「どう使うのさ」

 

「食べるだけです。慣れてくると変化する年齢を変える事も出来るようになるですが、今は難しく考える必要はないですよ。ささっ、口を開けるです。あーーっと」

 

 詐称薬を一つ手に持ちフーケに差し出します。そして口を開けるよう示唆しますが、彼女は微妙な顔をして私の手を避けました。

 

「いや、食うだけなら自分で出来るから」

 

「遠慮する必要はありません。あーーー」

 

「ちょ、いいって言ってるでしょ!?」

 

 私が更に手を伸ばして食べさせようとすると、彼女はさっと立ち上がり逃げて行ったです。というか、何故逃げるですか。

 

「別に毒ではないですよ? さぁ、口を開けるです」

 

「だから自分で食えるってっ!? もががっ!」

 

 変に遠慮するフーケに食べさせる為、彼女の後ろに回り込んで詐称薬を突きつけます。なかなか口に入れないので少々強引にねじ込むと、ようやく観念して口に含みました。

 

数瞬後ポンという軽い音と共に煙りが上がり、それが晴れると中から緑色の髪を靡かせた12,3歳くらいの少女が現れました。うーむ、今も美人ですが子供の頃から美人だったんですね。吊り目気味で大きな目は猫のような愛嬌がありますし、細いながらも要所要所が豊かに膨らんでいるその肢体は、この歳にして既にある種の色香を漂わせているです。

……む、今の私より大きいです。いえ、これは世界が違うせいですきっと。なので悔しくありません。えぇ!

 

「この、無理矢理すんじゃないよっ!」

 

「素直に食べないのが悪いんです。それよりどうです? 感想は」

 

 私は手鏡を取り出して少女となったフーケの前に突き出します。突然出された鏡に驚く彼女は、そこに映る自分の顔を見てさらに驚きました。

 

「な、何よこれは……っ!? ガキの頃のまんまじゃない!!」

 

「10歳くらい若返ったようですね。大抵そのままでは一粒で5歳ほどしか変化しないんですが、薬との相性が良かったんでしょうか」

 

「はっ………はぁ~~、本当に子供になっちまったよ、ははっ」

 

 化粧乗りを確認するかのように丹念に鏡を見て、そこに映る子供の自分にフーケは微妙に引きつった笑顔を浮かべてます。

 

「体もちゃんと小さくなってる……。服はブカブカ、いつもは重いここも凄く軽いし……」

 

 そういって片手で胸を触るフーケ。フニフニと柔らかそうに形を変えるソレは私の倍近い質量を持ってました。ぐぬぬ……一体どこでこんなに差がつくのですか。食事? 生活環境? この謎をどうにか解明できないものでしょうか。

 

「………フーケ、半脱ぎ状態で胸を揉みしだくのはどうかと思うです。ヤルなら夜1人でやって下さい」

 

「なっ!? そ、そーゆーんじゃないよ!! ちょっと確かめてただけだろう!?」

 

 ブカブカのシャツと完全にずれ落ちたスカートをそのままに、座り込んで熱心に胸を弄る姿は側から見れば人様には見せられない一人遊びのようです。ちょっと目のやり場に困るので指摘すると、フーケも自分の行動の危うさに気付き顔を真っ赤にして誤魔化すように怒鳴りました。

 

「さて、それは良いとして。この薬の効果は今体験した通りです。これを赤青それぞれ3つずつ情報料として差し上げます」

 

「色の違いはなにさ?」

 

「赤で大人に、青で子供になれるです。あまりかけ離れた年齢にはなれませんので、歳を重ねすぎた人は使っても効果が実感出来ないという欠点があるですが、使い道は多いと思うですよ?」

 

 そういう意味ではフーケはギリギリだったかもですね。まだ変化が分かり易い年齢でしたから。この手の幻術を専門に習って詐称薬なしでも使えるようになれば老人から幼児まで変化出来るでしょうが、市販品の薬なので多少の年齢制限があるです。

 

「……ふぅむ……。顔を変える魔法はあるけど、歳を変える魔法なんて聴いたこともないね。しかも食べるだけでなんて、便利すぎるわ。アンタんとこは犯罪者に優しい国なんだねぇ」

 

「そんな訳ないです。買う時にまず身分証明書が必要になりますし、これを使って犯罪を犯せば刑罰が倍増するです。まぁ、首都以外の所では必要な手続きをせずに買える違法店があって、犯罪者はそう言う所で買うので余り意味をなさない制度ではあるですが」

 

 マホネットのサイトでも簡単に手に入るので、基本ザル制度なんですよね。

 

「まぁいいわ。もともと知ってる情報でこんな物を貰えるなら儲けだよ。じゃあ、早速話そうかね。……よっと」

 

 先程までヘソを曲げていた筈のフーケは上機嫌で立ち上がり椅子へと戻ります。そんな彼女を見るとやはり乗せられてたかもしれません。少し思慮が足りなかったですね。私がそんな感じで反省しながら椅子に戻るフーケを見ていると、彼女はずり落ちたパンツに足を取られて盛大にずっこけました。

 

「ヘブッ!?」

 

 転ぶとは一切思ってなかったようで、受け身も取らずに顔から行きましたよ。い、痛そうです。

 

「い、いたたたた。なんなのよ、もう!」

 

「下着がずり落ちてるのに気付かずに足を引っ掛けたんですよ。……おぉ、なかなか刺激的なのを履いてますね」

 

 転んだ拍子に飛んで来たパンツを顔の前で広げるとフーケは慌てて取り返そうと飛び掛かって来ました。

 

「こら、返しな! わざわざ広げるんじゃないよっ!!」

 

「おっとっと。そんなに慌てなくても盗りはしませんよ」

 

 ピンクのスケスケ、しかも局部を隠す所までもうっすら透けているパンツなど欲しくありません。サイズ合いませんし。

 

「ったく。このままじゃ落ち着かないし、そろそろこの魔法解いてくれるかい?」

 

 私の手からパンツをひったくったフーケは、悪態を付きながら脱げた服を体に巻きつけて肌を隠し、次いで取り返したパンツを履こうとしましたが体が小さくなったせいですぐ落ちてくる事が分かると、忌々しそうに睨みつけてからポケットにしまいました。

 

「急がなくても数時間ほど放っておけば解けるですよ? 別に困りはしないでしょうし、しばらく束の間の子供時代を楽しむといいです」

 

「冗談じゃない、こんな格好いつまでもやってられるかい」

 

「おや、気に入りませんでしたか?」

 

「いや、薬自体はいいんだよ。使い方は簡単だし、効果も普通のメイジには出来ないものだ。ただここではマズイ。もしティファニアに見つかったら……」

 

「ティファニアさん?」

 

 彼女に見つかったからと言って何があるのでしょう?

知り合って数時間しか経ってませんが、彼女が乱暴な事をするようには見えませんでしたし、子供達もかなり懐いているようでした。そんな彼女を何故警戒するのでしょう。

 

「彼女に何かあるんですか?」

 

「うぅ……、いいから早くしなっ! 見つからない内に戻らないと殺されちまうっ!!」

 

 こ、殺されるとは穏やかではないですね。事情はよく分かりませんがここまで言うのですから何かあるのでしょう。目の前で殺人事件が起こるのも困りますし、とりあえず解いてから話を聞くとしますか。

 

「分かったです。本当は良く分かってませんが、とりあえず早く元に戻らないとマズイと言うのは分かりました」

 

「あぁ、それだけ分かれば十分だよ。さぁ、早く戻してくれ。……ティファニアが来る前に」

 

「は、はい。では早速……」

「あのー……ユエさん達も一緒にお昼ご飯食べませんか? その……せっかくお友達になったんだし、もっとお話ししたいなって……あれ?」

 

 今まさに魔法を解こうとした所で件のティファニアさんがやって来ました。どうやら昼食のお誘いをするつもりだったようです。

 

「お、遅かった………。いや、今ならまだ逃げられる」

 

 咄嗟に私の背に隠れたフーケが何かブツブツ言ってるです。あの人数の食事を用意するのだけでも大変でしょうに、急に来た私達の分まで用意してくれるほど人の良いティファニアさんのどこにそこまで危険視する必要があるのでしょう?

 

「あの、姉さんは? それに……」

「くっ!?」

 

 ダッと走り出すフーケですが、子供の足ではそれほど速度も出ず、てててっという擬音がピッタリな感じになってます。

 

「あだっ!?」

 

 ついでにコケたです。無理に巻きつけていたスカートの裾を踏んづけたみたいですね。

 

「あらあら、大丈夫?」

 

 転んだフーケを心配してティファニアさんが駆け寄りますが、それより早くフーケは起き上がり再度逃走を図ります。

 

「い、いやっ! 大丈夫だから来るんじゃないっ!」

 

「……っ!」

 

 その言葉に固まるティファニアさんを置き去りにして、フーケは部屋を飛び出し………

 

「へぶっ!!」

 

 飛び出そうとして、今度は先ほど踏んだスカートがずれ落ちて足に絡まったみたいです。見事なコンビネーションズッコケです。コケ芸レベルが高いですね、フーケ。きっと彼女なら伝説のコケ芸、バナナ式を成功させてくれるに違いないです。手元にバナナが無いのが悔やまれます。

 

私がそんな事を考えている間にティファニアさんが転んだミニフーケに近付き、逃げ出さないようにしっかりと抱き付きます。

 

「げっ!? しまっ!」

 

「大丈夫よ。ここにあなたを虐める人はいないわ」

 

「へっ?」

 

「きっとまたマチルダ姉さんが連れてきたのね? 大変だったでしょうけどもう大丈夫よ」

 

「いや、違うかムグ!?」

 

「いいの。何も言わなくて大丈夫だから。だから安心してね?」

 

「むー! ムーッ!!」

 

 何やら感極まっているティファニアさんがミニフーケを抱き締め、安心させるように頭を撫でています。当のフーケはティファニアさんが持つ巨大な胸に顔を埋められそれどころではなさそうです。

 

息が出来ずにもがくフーケを、ティファニアさんは怖がっていると判断したようで抱き締める力を更に強くしました。平均サイズなら上か下を向ければ顔を出す事も出来たのですが、不幸にもティファニアさんの胸は小さくなったフーケの顔よりもずっと大きく、上を向いても下を向いても、もちろん左右に首を振っても顔を出す事が出来ません。どうにか逃れようと暴れますが、体格差もあってビクともせず、次第にフーケの動きが鈍くなっていきました。

 

「……あら? 安心して寝ちゃったみたいです」

 

 動かなくなったフーケを見て優し気に微笑むティファニアさんに、私は乾いた笑みを返す事しか出来ませんでした。フーケが恐れていたのはこういう事でしたか。なんだか悪い事をしました。詐称薬以外にも何かオマケを付けて上げる事にします……。

 

 

 

 







第24話でしたぁ。仕事が忙しくてなかなか書く時間が無い中、チマチマ書いては書き直すを繰り返していたら半年も経ってるとは………。おかげで展開が二転三転したりしてまるで収集つかなくなって全部消したりなんかもしちゃいました。時間掛かり過ぎるとダメですねぇ。忙しい状況に慣れ始めたので、また少しずつ投稿して行きますのでどうぞよろしくです。



展開が強引なのは時間があきすぎた訳じゃなく自分の力量の所為です。なんでスムーズにいかないんかねぇ……

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