魔法少女ユエ~異世界探険記~   作:遁甲法

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 このSSは夕映が主役なので夕映が居ないところは原作どおりに進むって事にしよう。なんて思ってたけど、すでに原作に無いところがたんまりあったりするので、スルーは出来なかったのだ。

そんな訳で履いてないルイズが何してるかってのを書いてみた。なんかやっつけっぽくなっちゃったけど、気にしないで下さい。

それではどうぞぉ~







ゼロの旅25

 

 

 

 

 

 あぁ、始祖ブリミル様。

 

私はこの地に生まれ出でて以来、ずっと貴方様の教示に従って生きてきました。

 

病める時も、健やかなる時も、常に貴方様のお言葉を胸に日々を過ごしてきました。

 

それは、他のどんな敬虔な教徒にも負けないと胸を張って言えるほどです。

 

私は貴方の忠実な使徒。私は貴方の敬虔な僕。これまでの人生の中で、何度と無く訪れた苦難も、貴方様が私の為に与えて下さった試練なのだと思って、どんな辛い日々にも耐えて来ました。

 

確かに、私は貴方が授けて下さったはずの魔法を扱う事が出来ません。ですが、それは私が未熟だから。貴方の期待に応える事の出来ない私が悪いのです。

 

だから、そのことについての罰は如何様にもして下さって結構です。私は喜んでその罰を受け、罪を償います。ですが………

 

私は初めて貴方様のお導きに異を唱えます。それがどれほど恐れ多い事かは分かっております。ただ、どうしても言わなければならないのです。

 

何故………

 

何故この様な試練をお与えになったのですか!?

 

 

 

「ルイズ! 急ぐんだっ! さぁ、僕が付いてる!」

 

「いや、ワルド!? 大丈夫だから! 手を引っ張らなくてもついていけるからっ!! 手を離してっ!」

 

「大丈夫だ、遠慮はするな。君は僕が守ってやる」

 

「い、いや、だから……」

 

 そうじゃなくて、手を掴まれたらスカートが押さえられないでしょーーーっ!?

 

なんで?なんで、私パ、パ、パンツを履いてないのよ!? 履き忘れた? いつ? 昨日はお風呂の時間が終わってて入れなかったから着替える時に忘れた訳じゃないし、お手洗いに行った時にはちゃんと履いてたわ! だから履き忘れて来たなんてあり得ないのっ! もしそうだったとしても、ここに来るまでに絶対気付くわ。パンツも履かずにグリフォンなんかに乗ったら、鞍は冷たいだろうし、風でめくれて見えちゃうだろうから絶対気付くもの!

 

私は『女神の杵』亭で賊に襲われてからサイトとワルドの2人に連れられてアルビオンに向かう船に乗るために桟橋まで走って来たわ。途中宿の方から凄い音がいっぱいして、残してきたタバサやギーシュ、それとまぁオマケでキュルケが心配になったけど、危険を承知で囮になってくれたみんなの為にも止まる訳にはいかないからと前だけ向いてここまで来たの。

 

私が持つユエの杖。黒くて先にクッキーを囓った様な形の月が付いているとても立派な物を両手で抱えながらだからとても大変だった。何度かワルドが持とうかと聞いてくれたけど、私の大事な友達の杖はやっぱり自分で持っていたい。杖だけ置いて居なくなったのは凄く心配だけど、あの子がとても強い事は良く知ってるからきっと大丈夫なんだって自分に言い聞かせて必死になって走って来た。

 

ようやく桟橋に到着して、アルビオン行きの船が停泊している所に行こうと階段を登り始めた時、強い風が吹いてきて私のスカートを捲ってきたの。ワルドは前を走ってるから見えないだろうけど後ろにはサイトがいるから、私はとっさに片手でお尻を押さえたわ。よく考えたら、使い魔に見られた所でなんともないじゃない? 何でそんな事をしたのかよく分からなくて、なんとなくお尻をさすったの。別に痒かった訳じゃないんだけど。

 

 そしたら何故かいつもは感じる布一枚分の感触が無かったのよ!

 

なんでよ!? ここに走ってくる間に脱げたとでも言うの!? またサイトが変なイタズラでもしてたの!? でももしかしたら勘違いかもしれないと思って、走りながらそーっと手をスカートの中に入れてみたら………

 

やっぱりないのよ! それなりに上質の布を使ったパンツのスベスベした感触がなくて、私の肌の感触があったの! ついでに触れられた感触もあったわ。つまり、私はパンツを履いてないって事なのよ!!

 

あぁ、ブリミル様! 私になんて試練をお与えになるのですか!? 今でなければまだマシだった。学院に居る時ならこそっと部屋に戻って履き直す事も出来たし、ラ・ロシェールでのんびりしてる間なら、街で適当なのを買ってくる事も出来たのに。ここからはアルビオンまで一直線で行く予定なのよ! 今さら「パンツ履いて無かったから、一回戻るわね」なんて言えないじゃないの。

 

しかも、しかもよ? 船の上ってものすごく風が強いのよ。学院の制服はスカートも短いし、布も上等だから軽いしで、ちょっとした風でも捲れちゃうのよ。それなのに、これから船に乗るのよ! パンツが見えるくらいならまだいいけど、今は履いてないの! 直接見えちゃうのよ。

 

 どうすればいいのよぉーーっ!!

 

「ルイズ!!」

 

 サイトに呼ばれて振り向いたら、いきなり誰かに抱き付かれたわ。そしてそのまま私ごと階段から飛び降りた。ちょ、ちょっと! そんな事してスカートの中が見えたらどうしてくれるのよ!?

 

私はポケットから杖を取り出して、呪文も唱えずそのまま私を抱えてる誰かの脇腹に杖の先を突き刺してやったわ。そいつは痛みで私を抱えていられなくなったみたいで、少し手が緩んだ所に、上から風の塊がそいつにぶつかって来たの。おかげで私は空中に放り出されたけど、間髪入れずにワルドが飛んできて、私を抱えて元の階段まで戻って来た。

 

 あーーっ、危なかった!

今の、ちょっと間違えたら中身全開になってたわよ!? まったくどこのどいつよ、危ない真似をしてくれる奴はっ!

 

 私がそいつが居る方を見ると、剣を構えたサイトに向かって杖を構えている仮面を付けた変人が居たわ。さっきのはおそらくあいつね!

 

私は素早くスカートの中に隠してあったミノタウロス製の鞭を引き抜いて、手首を捻るようにして振って一動作で相手の杖に鞭をぶち当ててやったわ。鞭なんてものが来るとは思ってなかったそいつは、私の一撃で杖を取り落としかけて呪文を完成させる事が出来なかったみたい。

 

むぅ、本当は杖を吹き飛ばすかへし折るかしたかったんだけど、スカートが必要以上に捲れないようにと加減したのがいけなかったみたいね。

 

サイトはその隙にボロ剣で斬りかかるけど、そいつはそれを素早く避けてもう一度呪文を唱えだした。かすかに聞こえる呪文の内容からなんの魔法が来るか分かった私は、急いでサイトにそれを教えてやる。

 

「サイト! 【ライトニング・クラウド】! 雷が飛んで来るわっ!」

 

「何っ!?」

 

 しまった。魔法の内容じゃなくてすぐ逃げる様に言うべきだったわ。サイトが次に来る魔法に動揺して動きが止まっちゃった。このままだと直撃する!

 

「相棒! 俺を掲げなっ!」

 

「デルフ? なんか分からんが分かった!」

 

 サイトがボロ剣に何か言われたみたいで、逃げようともせずにボロ剣を相手に向かって構え始めた。

 

「ちょっと、逃げなさい! 剣で雷をどうこう出来る訳ないでしょっ!?」

 

「任せとけ娘っ子。デルフリンガー様はちゃちな魔法は効かねぇんだ」

 

 そんな事を言ってるボロ剣に向かって、相手の呪文が炸裂したわ。

 

 バチンッ!!

 

「うおっ!?」

「へっ! 効きゃあしねーよっ!!」

 

 その時、確かに魔法は直撃したはずなのにサイトは全くの無傷で不思議そうにボロ剣を見てた。私が見たのが本当なら、ボロ剣にライトニング・クラウドが直撃した瞬間ボロ剣が光って、そのまま魔法が吸い込まれるように消えていったの。何よあれは。

 

「おいおいデルフ、どうなってるんだ?」

 

「へっ! 俺様はどんな魔法でも吸収する力があるのさ。これくらいの魔法屁でもないぜ」

 

「マジかよ、すげーじゃねーかデルフ!」

 

「わははははっ! そうだろ?そうだろ!? 何たって相棒の剣だからなっ! これくらい出来ねぇと相応しくないってもんさ! 金貨を千枚積んでも俺様は買えねぇぜ!」

 

「おぉ、いいぞデルフ! これならあんなの怖くないぜ!」

 

 えぇー………、値切りに値切ったボロ剣に、そんな能力があるなんてどれだけついてるのよ。と言うかあのボロ剣、まだ値切り倒された事根に持ってたのね。

 

サイトが構え直すと、賊も魔法を消された事の衝撃から回復したみたいでまた杖を構えてきたわ。次の魔法は………ブレイドね!

 

「ワルド、サイトに注意が行ってるうちに魔法で」

 

「うむ、任せろ」

 

 斬りかかるサイトを避けてブレイドを突きだしてくる賊に向かって、ワルドが素早くそして力強く呪文を唱える。

 

「サイト下がって!」

 

「お、おう!」

 

「ワルド、今っ!」

 

「よし! 【エア・ハンマー】!」

 

 ズン! って重い音と共に賊は吹き飛んで、そのまま下に向かって落ちていった。

 

「あれ放っといていいのか?」

 

「いや、あれを仕留めるより先に船に乗り込んだ方がいいだろう。船を押さえられない様に急いできたんだからな」

 

 ワルドはそう言うとまた私の手を取って走り始めた。確かにあれを倒す為にまた階段降りるのは大変だものね。それは分かるんだけど、手を繋ぐ必要はないのよワルド。むしろそれだとスカートがぁっ!

 

「ワルド、放して。階段じゃ手を繋いでると走りにくいわ」

 

「む、そうか。すまない」

 

 今度は素直に放してくれたわ。おかげで持っていた鞭をしまって空いた手でスカートを押さえていられるようになった。私は杖を正面から抱える様にして、長さを利用して足の間に杖の先がくるよう持つ事でスカートの前を押さえ、もう片方の手で後ろを押さえる形で階段を駆け上がった。杖を足で挟むようにしてるから擦れて少し変な感じだけど、贅沢は言ってられないわ。

 

なんとかスカートが捲れないように走ってたからいつもより足が遅くなっちゃったけど、なんとか上まで登り切る事が出来た。枝の先に1艘の船が停泊しているのを見て、ワルドは迷わず乗り込んでいく。私たちもそれに続くと、甲板で寝ていたらしい船員が起きてきてお酒を飲みながらこちらに向かって怒鳴り散らす。

 

「だ、だれだおめぇら!?」

 

「船長はいるか?」

 

「寝てるぜ。用があるんなら、明日の朝にでももう一度来るんだな」

 

 貴族になんて口の利き方をするのかしら。ワルドはスラリと杖を抜いてもう一度同じ質問をした。

 

「船長は、いるか?」

 

「き、貴族!?」

 

 酔っぱらい船員は慌てて甲板を駆けて行った。まったく、服装を見ればだいたい分かるでしょうに。私が船員の間抜け加減に苛立っていると、急に強い風が吹いてまたスカートを持ち上げようとした。

 

「っ!?」

 

「ん? どうしたんだ? ルイズ」

 

「な、なんでもないわよ!」

 

「……別にパンツくらい見えてもいいだろうに。いつも誰が用意してると思ってるんだ。お前が今日、どんなパンツ履いてるかなんて俺は全部知ってるんだぞ? 何せ毎日洗濯して、その日に履くパンツを選んでるのは俺なんだからな」

 

 私がスカートを押さえてることで、サイトはパンツが見えそうになって慌ててると思ったみたい。でも本当はもっと深刻なのよ! 確かにサイトは使い魔だし、見られたってどってことないけど。船員だってどうせ平民だし構わないわ。ただ、ここにはワルドが居るのよ。親が決めた婚約者とはいえ、一応あこがれてた相手に履いてない所を見られたら、私生きていけないわ。

 

………あ、まずい。これからウェールズ皇太子にも謁見しなきゃいけないんじゃないの! え? えぇ!? 私、パンツ履かずに謁見するの!? ラ・ヴァリエールの三女ともあろう私が、凛々しき王子様にパンツも履かずに謁見するの? あわわわわっ! そんな事知られたらお母様に殺される………

 

「野郎ども、出港だ! もやいを放て! 帆を上げろ!」

 

 あわわわわ。まずい、考えてる間に船が動き始めちゃったわ! でも、ここで飛び出して1人で残るなんてあり得ない。この任務は姫様直々に私が承ったんだもの。せっかくの機会を不意にする訳にはいかないわ。

 

あぁ、でも、その名誉な任務を履いてない状態でこなさないといけないなんて………

 

「ど、どうすれば………」

 

「ルイズ、大丈夫か? 高い所が苦手とか?」

 

「ん!? ううん、大丈夫よ!? そ、その……走ってきたから、疲れちゃったのよ」

 

「あぁ、そうか。そりゃああの距離をずっと走ってりゃ疲れるよな。俺は途中からデルフ握ってたおかげで、そこまで疲れてないけど」

 

 適当に言った割にはうまく誤魔化せたわね。サイトはそのまま遠ざかる桟橋を眺めているから、今のうちに作戦を考えなくちゃ。

 

まず、ワルド達の会話を聞くとアルビオンに到着するのが明日のお昼ごろらしいから、それまではこの船の中に居ればスカートを気にする必要はないわね。気を付けないといけないのはアルビオンに着いた後。反乱軍は私達の事を知ってる訳じゃないからそっちはどうとでもなると思う。ただ、そんな中で別行動出来るかどうかね。2人に「ちょっとパンツ履いてないからパンツ買ってくる」なんて言えないし、かと言って理由も無く別行動出来る状況じゃない。絶対2人とも危ないからとか言って着いてこようとするか、そもそもそんな暇はないって言って行かせてくれないかのどっちかじゃないかしら。

 

 えーと……つまり…………どうしようもないじゃない! この船の中で手に入ればいいんだけど…………うん、無理ね! 積荷は硫黄だけみたいだから荷物から分けて貰う事は出来ないし、船員の下着を分けて貰うなんて絶対イヤだし! か、覚悟を決めてこのまま行かないといけないのかしら……? 首尾よくウェールズ皇太子に謁見出来て姫様の手紙を渡す事が出来たとしてもよ? その時スカートが何かの拍子に捲れでもしたら、私の大事な所がその場にいた全員に見えちゃうじゃない。そんな事になったら末代までの恥よ! ヴァリエールの娘は、アルビオン王家の前で大事な所を曝け出した変態だと噂されちゃうっ! うわわわわわっ! 絶望の余りお腹の奥がキュンキュンして来たわ!!

 

私がこの絶望的な状況に頭を抱えていると、船長と話し終わったワルドが戻ってきた。

 

「2人とも、船長の話ではニューカッスル付近に陣を置いた王軍は、完全包囲されて苦戦中らしい」

 

 えー……どうやったら完全包囲なんて事になるのよ。よっぽど司令官が下手か戦力差がものすごーくあるかじゃないとそうはならないわよ?

 

「………あ、ウェールズ皇太子は?」

 

「わからん。生きてはいるようだが」

 

 むーん。パンツも気になるけど、そっちも結構深刻かも。

私はしばらくワルドとアルビオンに着いてからどうするかを話し合っていた。頭の半分はパンツをどうするかを考えていたせいなのか、結局いい案は出なかった。そして気付いたらサイトが呑気に寝てた。こっちはいろいろと大変なのに、なんて奴なのかしら。それでも使い魔? 私が八つ当たり気味に寝ているサイトを蹴飛ばしてやると、サイトは勢いよく甲板に頭をぶつけて思いっきり痛がっていた。私が蹴ったと気付かなかったみたいで、首を捻りながらまた寝る体勢に入るサイトを見て軽く笑うと船の一室を借りて寝る事にした。寝ている間にスカートが捲れないように体勢を整えてユエの杖を抱き抱えるようにして目を閉じた。

 

 

 

「アルビオンが見えたぞーっ!」

 

 んあ?

んーーっ!……っと、どうやら着いたっぽいわね。私は1度大きく伸びをしてから甲板に上がった。

 

「お、ルイズおはよう」

 

「んー、おはよう。さっきからキョロキョロして何してんのよ?」

 

「アルビオンが見えたって言うのに、どこにも見えないんだよ」

 

「どこ見てんのよ。あっちよ、あっち」

 

 微妙に下を見てるサイトにアルビオンのある方を教えてやると目を見開いて動きを止めた。相当驚いたみたいね。

 

「驚いたみたいね?」

 

「あぁ、こんなの見た事ねぇ」

 

「そう? 浮遊大陸アルビオン。あーやって空に浮かんで主に海の上を彷徨っているわ。通称『白の国』、だいたいトリステインと同じくらいの国土があるわ」

 

「なんで『白の国』?」

 

「あーやってアルビオンから流れて来た水が霧になって下を白く覆っているでしょ? 見た目白いから白の国」

 

「意外と単純な理由なんだな」

 

「単純とか言わない! 歴史ある国なんだから」

 

「へーい」

 

 こいつってば分かってるのかしら? まぁ、いいわ。それより問題はこれからどうするか、よね。今もさり気なく押さえているんだけど、結構際どい所まで捲れてるのよこのスカート。早く港に着いてくれないと気になって満足に歩く事も出来ないわ。

 

「右舷上方の雲中より船が接近してきやす!」

 

 その声の示す方を見ると、私達が乗っている船より一回り大きい船が近づいて来てた。舷側に空いた穴から沢山の大砲が突き出している。もしかして貴族派の軍艦かしら? い、いやだわ。こんな所であんなのに捕まってる暇はないのに。

 

そうこうしている内に私達が乗っている船の針路に大砲が撃ち込まれた。お腹に響く大きな音を立てて撃ち出された砲弾が、船先を掠めて雲の中に消えていくのを見てあの船が貴族派の軍艦じゃなく空賊だって事に気付いた。むーん………貴族派に捕まるのも面倒だけど空賊に捕まるのも同じくらい面倒だわ。なんでこんな時に来るのかしら? これも始祖ブリミルの試練だとでも言うの? くぅ……っ! 文句を言う訳じゃないけど、せめて学院に帰ってからにして欲しかったわ!

 

船にロープを渡して乗り移ってくる空賊達を見てとりあえず杖を抜こうとしたんだけど、今杖を持つ為に手を放すとお尻か前のどちらかが丸見えになっちゃう事に気付いて思わず手が止まっちゃった。ただでさえ風の強い空の上だから気を抜くとすぐ捲れちゃうって言うのに、これじゃあ満足に戦う事も出来やしないじゃない。

 

「船長はどこでぇ」

 

 他の空賊に比べて派手な格好をした一人の男が船長を呼びつけて話しを始めた。どうもあの男がこいつらの頭みたいね。どうにか出来ないかと周りを見るけど、連中はぐるりと私たちを囲んで武器を構えてるし、連中の船からも弓や銃でもってこちらを狙ってるから下手に動けない。まぁ、私はスカートを押さえてないといけないからどっちにしても動けないんだけどね。

 

ふと見ると、船長と話してた空賊の頭がこっちを見てきた。

 

「へぇ、こりゃあ別嬪だ。お前、俺の船で皿洗いをやらねぇか?」

 

 そう言って私の顎を手で持ち上げてニヤリと笑ってきた。むかっ……

 

 ヒュッパンッ!!

「っ!!!?」ドサッ

 

 私は思わず鞭を振りぬいていたわ。最低限の動きで鞭を抜いて、上に振り上げる動作を利用してぶち当ててやったわ。ざまぁみなさい。

 

え? 何にって? そんな事貴族の乙女に言わせないでよ。

 

「お、お頭ーーっ!?」

「だ、だいじょぶっすかお頭ーっ!?」

「ぐ、ぐおぉぉおおお……」

 

 あははははーーっ! この私に無礼にも汚い手で触るからそーなるのよっ!

 

 

「る、るるる、ルイズ!? ルイズさん!? ルイズ様!? ななな何してくれちゃってますんですか!?」

 

 なんだか物凄く慌ててるサイトが私に詰め寄ってきた。

 

「ふん。私の顔に汚い手で触るのが悪いのよ」

 

「うん、とてもお嬢様っぽい台詞で感激です! でも、今はやっちゃダメだろ!? 俺、今さっきワルドに冷静になれって言われてしぶしぶ大人しくしようかなって思ってた所なんだぞ!?」

 

「だって、触ってきたのよ? あの油とか煤とかいろいろ着いてる手で。無礼にも程があるわ」

 

「いや、言いたい事は分かるけど、俺ら今武器突きつけられてる所なんだよ!? なんでそんな平常運転なんだよ!」

 

 言いたい事は分かるけど、仕方ないのよ。だって汚かったんだもん。油の変な臭いもしたし。

 

 

「て、てめーら、よくも頭を!!」

「ただで済むと思うなよ!?」

 

 ガチャって音を立てながら武器を構えだした空賊達を見て、さすがにちょっとまずいかなぁとか思い始めた。

 

「ぐっ……やってくれるな、貴族のお嬢ちゃん。こ、こんな真似されたのは生まれて初めてだぜ……」

 

 空賊の頭がなんとかかっこつけようとしてるけど、手で打たれた所を押さえたまま脂汗を流してうずくまっている。まだ喋れたのね。やっぱしっかり振れなかったからそんなに効いてなかったみたい。

 

「頭ぁ! 無理しないでくだせぇ!」

「大丈夫っすか!? 今、腰を叩きやすねっ!?」

 

 部下に労われつつこっちをすごい形相で見てくる頭に、私は一度鞭を床に向かって振ってやる。

 

 シュパンッ!

 

 ビックゥッ!?

 

 鞭が床を打って鋭い音を立てると、サイトや船員も含めて船の上の男達全員が跳ね上がった。

 

あはっ。これはちょっと面白いわ。

 

「次は………誰の番なのかしら?」

 

 私がそう言うと空賊達は一斉に一歩後ろに下がった。ふふふふふ………あんた達、覚悟なさい。パンツが無くて余裕の無い私に妙な真似するのがわる………そこっ! 魔法は使わせないわよ!?

 

シュパンッ!! パンッ!   カララン……「ぎゃ!」

 

円を描くように飛んだ鞭が空賊の1人の杖を飛ばし、そのあと手首を跳ねさせて地面を這うように流した鞭の先がさっきの頭と同じ運命を辿らせる。

 

「トリステインの貴族を馬鹿にするんじゃないわよ空賊風情が。私はこれからアルビオン王家のウェールズ様の所まで行かなきゃならないんだから、あんた達に構ってる暇はないのよ! 邪魔だからさっさと他所行きなさい!!」

 

 睨み付けてやると全員青い顔をして未だに苦しんでいる頭の方を見る。多分どうすればいいか指示を仰いでるんだろうけど、頭は青い顔をしてうなるだけで指示なんて出せる状態じゃなさそう。

 

「さぁ、この狭い船の上なら、私は貴方達が魔法を使うより先にそこのお頭さんと同じ目に会わせる事が出来るわ。そうなりたくなかったら即刻立ち去るのね!」

 

 ヒュパンッ!

もう一度鞭を打ち鳴らして言ってやると、空賊の一人がなんとも言えない表情で手を上げてきた。

 

「あー、お嬢さん? 一ついいかい?」

 

「何よ?」

 

「あんたらは何で、その、ウェールズ王子のところに行こうとしてるんだ?」

 

「それを貴方に言う必要があるのかしら? まぁいいわ。私達は王党派への大使なのよ。トリステイン王家からアルビオン王家への正当な、ね。分かったならさっさとどっか行って頂戴。今ならまだ無かった事にしてあげるわ」

 

 そう言うと、その空賊は他の仲間と何か目配せしてから頭の方を見た。きっと何か企んでるのね。私も誰かが呪文を唱えないか警戒しておく方がいいわね。

 

私がスカートと空賊の呪文を気にしていると、頭を介抱していた子分の一人がなんか驚きだしてキョロキョロと辺りを見回し始めた。ふふん、やっぱり何かするつもりなのね? 分かってるんだから。私が鞭を握り直していつ動き始めてもいいように準備をしていると、子分に肩を借りて頭が立ち上がった。

 

もしかしてこのまま引いてくれるのかな。そう思っていると、さらにもう一人の子分が寄ってきて頭の髪を掴んで引っ張り始めた。

 

え? 何を始めるの? そう思って見ているとスルリと髪が抜けて下から鮮やかな金髪が現れた。

 

「「は?」」

 

 私達が驚いていると、さらに子分は眼帯を取り、ヒゲを端からビビビッと音を立てながら抜いて、いえ取っていく。そうしてすべて剥ぎ取られて出てきたのは、多少青い顔をしているけど、とても凛々しい顔立ちをした男性で……

 

「はぁはぁ……私に一体何のようがあってこんな所まで来たのか教えて貰えるかい?」

 

「え? え? あれ?」

 

「ル、ルイズ? どういう事だ、これ?」

 

「わ、私が分かる訳ないでしょ…?」

 

 私達が戸惑っていると、頭は自分だけで立って私に向かってこう言ったわ。

 

「………こんな情けない名乗りをするのは初めてだ。……私はアルビオン王立……いや、簡潔に行こう。私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。改めて聞こう勇ましきお嬢さん、私に一体なんの御用なんだい?」

 

 え、えぇ? この人がウェールズ皇太子? え、何で? 空賊の頭じゃ、え? 王子様なの? ちょ、だって、私………

 

 

「う、ウェールズ皇太子……なの? いえ、なのですか?」

 

「ああ。こう胸を張って名乗れないのが情けないが、ね。君が嵌めているその指輪は、アンリエッタが嵌めていた水のルビーだね?」

 

「は、はい。そうです。え?」

 

 ウェールズ皇太子って名乗った頭はヒョコヒョコと私に寄ってきて、私の手に嵌めている姫様から預かった指輪に自分が嵌めている指輪をかざした。そしたら指輪から虹色の光が溢れてきて辺りを淡く照らしだした。あれ?

 

 

「水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹色の橋だ。……っと、だいぶ楽になってきた。さて、大使殿。お名前を伺ってもよろしいかな?」

 

「あ、え、へ、えぇ……?」

 

 

 え? 本物、なの? ちょ、え、え?

 

ぎぎぎっと首を回してサイトとワルドの方を見ると、2人ともやっぱり驚いたように目を見開いていた。ぎぎぎっと元に戻して頭、いえウェールズ皇太子を見ると、まだ若干青い顔をしてるけど、私の戸惑った顔に苦笑していた。

 

「ほ、本物の……ウェールズ様?」

 

「あぁ、そうだ。始祖に誓おう」

 

 

 

 ブ………ブリミルゥゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

 







やっべー、やっちゃったよぅ。これからどうしようw


王女を脱がす夕映と、王子をヤっちゃったルイズ。この不敬コンビめっ!w

次は誰が誰に不敬な真似をするのかしら?かしら?

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